虹にのらなかった男
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「あ、お前ら?聞こえてる?」
『お前ら、で私達って通じるのは私達だけっすよ副所長』
「あ、きこえてるね」
ホワイトベースに着艦して直ぐにアオ達に連絡を取る。
外はまだ気密チェックが終わっていないのでノーマルスーツを着ていない俺とアムロ君はコックピットから出られない。
普通ならコックピットに備え付けてある予備のノーマルスーツも載ってない。
「お前らちゃんとアムロ君に礼言えよ?
彼がシャアを追い払ったんだからな」
『わかってるっすよ。でも副所長だってムサイに一撃いれたんっすよね?』
「まぁ、な」
とは言え俺は命の危険なんて無かったし、どうなるかを知っていた。
だがアムロはそれを知らず、強敵と戦わされた。
どちらを功労者とするかは一目瞭然だろう。
「ガンダムの整備が最優先だ。
MS同士の格闘戦をやったんだからな。
データもちゃんと解析しとけよ」
『ええ、所長が興奮してたっすよ。
足折れてるのに杖ついてこっち来てたっす』
所長…?
「テムさん無事なのか!?」
『そうっすよ』
テムさんが…無事…!
ホワイトベース強化フラグきた!
と、そこで艦内放送が入る。
気密チェックが終わったとの事。
俺はコックピットから出て、ガンダムの方へ跳んだ。
ちょうどガンダムのコックピットが開いた所だ。
アブルホール以外は全てコアブロックシステムなので登場口がコックピットハッチとコアファイターのキャノピーで二重になっている。
「やぁ少年!よくがんばったね!」
と中を除き込んで言うと、アムロ君が首を傾げた。
「……ルセーブル中尉さんの弟君?」
は?何言ってるんだこいつ…?
「いや、俺がアベルだけど」
「…………………えぇ!?」
いやカメラで見てただろう。
「とりあえず降りるといい」
アムロ君がシートベルトをはずしてガンダムから出る。
「改めて自己紹介だ。俺はアベル・ルセーブル中尉。
連邦の技術士官で君のパパの部下だ」
「父さんの…?」
とアムロ君が呟く。
なのでちょっと下を指差す。
ソコにはノーマルスーツの上から添え木をしたのが一人。
「アレ、君のパパ」
「………………………………」
アムロ君がとても微妙な顔をしてテムさんを見ているのを横から眺める。
「どうする?テムさんと話す?
それともブリッジ行く?」
「………………ブリッジでお願いします」
「OK、案内しよう」
ガンダムのコックピットハッチを蹴り、艦内への通路へ飛ぶ。
アムロ君は無重力に慣れてないのか恐る恐るだった。
艦内通路をふよふよと浮きながら、ブリッジへ。
「アムロ君。お父さんとは不仲なのかい?」
「不仲っていうか…不仲にもなりようがないくらい、家に帰らない人でした」
「ふーん…アムロ君から見てテムさんはそんな人なのか…」
「中尉さん。僕の事呼び捨てでいいです。
貴方は僕より年下ですけど、偉い人なんですよね?」
「まぁ、それなり、かな?
連邦の試作MS開発計画のNo2さ」
「それって物凄くえらいですよね…」
「んじゃ、まぁ、改めて宜しく、アムロ」
手を差し出すと…
「宜しくお願いします」
と握り返してくれた。
「アムロ、君はテムさんがどうしてガンダムを作ったか知ってるか?」
「楽しいから、じゃないんですか?」
「それもあるだろう。でもテムさんがガンダムを作った理由には少なからず君への愛がある」
「愛…」
「テムさんは言っていたよ『ガンダムが量産されれば少年兵が戦う必要が無くなる』とね」
「は、はぁ…?」
ま、ずっと家に居なかった父親に関して愛だの何だのって言ってもわからないか。
「だが、テムさんの望みは断たれた。
奇しくも君は父親であるテムさんの作ったガンダムに乗り込み、才能を示してしまった。
今のホワイトベースは君を戦火に放り込まざるを得ない。
許せとは言わないし、軍を恨んでくれていい」
「………………」
「きっと同じ事を色々な人に言われるだろうけど、気にする事はない」
正面にエレベーターが見えた。
ブリッジへの直通だ。
「さぁ、ここを上ればブリッジだ。行こう」
「ガンダムでの戦いはもっと有効に行うべきだ。
プロトタイプには余分なパーツは用意されていないんだぞ。
無駄な消耗は許されない」
ノア少尉はアムロを見るなり言った。
面食らうアムロに続けて口撃。
「初めての操縦だとでも言いたいのか!
甘ったれるな!
ガンダムを任されたからには君がパイロットだ!
この船を護る義務がある!」
「……言ったな」
「こう言わざるを得ないのが我々の状況だ…
嫌なら、今からでもサイド7に帰れ!」
さて、そろそろだな。
「少尉。アムロ君に八つ当たりはやめたまえ」
「…!」
キッと睨まれる。
「子供に指示されるのが気に食わんのはわかるが、我々はアムロ君に助けられた。
その言い方はあんまりではないかね?
連邦軍人たるまえにまず人であれ、とね」
するとノア少尉はアムロに背を向けた。
「アムロと言ったか。私を憎んでくれていい。
それで君がホワイトベースを守ってくれるのであれば、安い物だ。
話は以上だ。いきたまえ」
俺はアムロの袖を引っ張り、ブリッジを後にした。
エレベーターに乗ったアムロは、浮かない顔だ。
その気持ちはよくわかる。
「一応、ノア少尉のフォローもしておくとしよう。
彼は軍歴たったの6ヶ月だ。
そんな彼が艦長を勤めるほど、この船は切迫している。
彼もかなり追い詰められているようだ。
あまり彼を責めないでやってくれ」
アムロからの返答は以外な物だった。
「…アベル中尉に先に言われてなかったら、僕もショックを受けてたと思います」
「そうかい?」
「はい」
あれ…? アムロってこんなに素直なキャラだっけ…?
まぁ、鬱ぎ込まれるよりいいかな。
「あ、アムロ。ガンダムの整備、参加するか?」
「いいんですか?最高機密ですよね?」
「機密もクソもあるか。責任はシャアに尻を狙われたまま入港したアホどもが死後の階級でとってくれる。
しかも君はカシアス中佐のお墨付きだ。
今さら君を整備に参加させた所で問題ない。
それにサイド7の技術士官は全員この艦に乗っている。君は少し手伝うだけでいい。
とにかく機体への理解を深めるんだ」
「わかりました」
MSデッキに行くと、テムさんに呼ばれた。
テムさんはガンダムの膝部関節のチェックをしている所だった。
「ご無事で何よりですテムさん」
「君こそよく無事で」
互いに握手をする。
「息子さん。素晴らしい腕ですね。
リミッター有りとはいえ、ガンダムをあそこまで…」
「私も驚いているよ」
テムさんが遠い目をする。
「ホワイトベースの中より、ガンダムの中の方が安全だとは思わんかね、アベル君」
ガンダムを見上げる。
「ええ、ルナチタニウム製の多重装甲と同じくルナチタニウム製の脱出ユニット。
RXシリーズのコックピット以上に安全な場所など戦場にはありますまい」
「…こんな筈ではなかったのだがなぁ」
子を持たない俺には、その悲痛な声は理解できない。
「整備には息子さんも参加させます。機体への理解を深めるべきだと判断しました」
「正しい判断だ。アレなら余計な事もしないだろう」
機械オタクだしな。
「では私はガンファイターの整備に行きますので」
「ああ、少し待ってくれアベル君」
「なんでしょうか?」
「タバラ軍曹達に指示を出してきてくれ」
「タバラ軍曹達に、でありますか?」
「ああ、どうやら私は邪魔者扱いらしくてね。
指示の通りが良くない上に医務室を薦められたよ」
いや、貴方が怪我人だからだと思います…
「怪我人だからでは? 今の貴方を見れば私だって医務室を薦めます。
足、折れてるんですよね?」
「なに、鎮痛剤を打ってある。たいした事はない」
「麻酔打って作業ってどうなんですか?」
するとテムさんがピタリと手を止めた。
「そのせいかっ…!」
どう考えてもソレだろうが。
「はいはい。後はタバラ軍曹に引き継ぐので医務室行きましょうね。
貴方にこんな所で体壊される訳にはいかないんですから」
テムさんのノーマルスーツのメット部分に指を引っ掻けて医務室へ。
「アベル君。もう少し優しく運んでくれないかね?」
「数少ない医療スタッフの制止を押しきってデッキまで行った人へのお仕置きです」
「なぜそれを…」
予想くらいつくっつーの。
医務室へ向かう通路、ある地点を境に臭いが強くなる。
薬品の臭い。
それと、鉄の臭い。
無重力故に、医務室周辺は地獄絵図だった。
血と包帯が浮いている。
怪我人が天井やら壁やらに寄り添うようにしており、ベッドから呻き声が上がる。
ふと端の方に袋が見えた。
人一人くらいなら入りそうな袋が幾つも幾つも…
見なかった、事にしよう。
「酷い物ですね…。これが戦争…ですか」
「『前線の後方』という物だよ。最前線と違って味方の死しかない、地獄さ。
アベル君。よく、目に焼き付けておくんだ」
「そう…ですね」
これが現実なのだと、本物の戦争なんだと、改めて実感した。
ゲームやアニメじゃない、本物の…。
この世界は現実だが、戦争という物にあまり実感がなかった。
でも…。
「アムロには…見せない方がいいだろうな…」
追い詰めてしまうだろうから。
「よう…英雄。生きてたか」
そう声をかけられた。
振り向いた先には…
「ヴェルツ!」
「わり、ドジった」
苦笑いを浮かべる俺の親友が居た。
後書き
そりゃぁ自分よりも小さい子が頑張ってたらアムロだってがんばるさ。
だって彼、『善人』だもの。
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