東方刑務所の人狼ゲーム
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真実と嘘と死のゲーム~一条聖月side~
パチリと目を開けると、そこに広がるのは東方刑務所の看守寮の一室にある私の部屋の天井では無く、雲一つない真っ青な空が広がっていた。
驚いてガバッと体を起こすと、そこに広がるのは真っ青な空と緑の芝生。ところどころに赤や黄色の花が咲いていて、一言で言えば綺麗だ。
私の部屋にあるのはベッドと机と箪笥と花瓶くらいだったような気がする。人を部屋に呼ぶたびに「シンプルだね~」と言われるのだが、シンプルイズベストなのだから仕方ない。
昨晩はしっかりと部屋のベッドに体を潜らせて、静かに寝たはずだ。いくら寝相が悪い人でも、ベランダや外に出るための鍵を開けて、東方刑務所の周りを囲む海を越え、都会の街を越え、山を越えるのは無理がある。というか、そんなことできる人は居ないはずだ。
だが実際私はどこかの海に浮かぶ刑務所の看守寮の一室から、綺麗な空と芝生が広がる場所まで来てしまっているのだ―――――だけど私、そんなに寝相悪くないから。
数秒に一回の頻度で春に訪れるような風が頬を撫でて消えてゆく。今は熱い太陽がジリジリと体力を削り取り、最終的には「熱中症」という症状まで起こしかねない「夏」という季節なのだが、ここの季節は絶対に春だ。咲良も咲いているし、暑いと言うか心地よい。
だからこの状況、異世界にでも吹っ飛ばされてしまったと考えるのが良いだろうか。まぁ異世界に飛ばされたと仮定して、これからは現実を前にいた世界として行こう。
一年は普通十二か月。そして春夏秋冬四つの季節がある。
前にいた世界では確か七月で、季節は夏だった。だけど、この世界は四月か五月くらいだろうか。季節は春。
月は一月、二月、三月、四月と巡り、十二月が終わるとまた一月に戻るという、観測できる人が居る限り無限に繰り返される。季節も同様で、春、夏、秋、冬と巡り、また春、夏、秋、冬となる。
だから、普通なら七月から四月に、夏から春になるにはならない。
やはり異世界に飛ばされた、又は迷い込んでしまったと考えるべきだろう。だが、残念なことに私は異世界に迷い込んだことは過去一度もない。つまり、ここが本当に異世界だったら私は九十パーセントの確立で死ぬ。人生が終わる―――――だが、もしかしたら行けるのではないだろうか。
私が毎日相手をしているのは異世界の住民達。つまり、私は異世界の住民にも勝てる―――――いや、そんなはずがない。まず全力の戦闘なんてしたことが無いだろう。後で零あたりと本気で殺りあってみるかな。
せめて他にも誰かが居る事を願い辺りを見回すと―――――そこには私の他に十一人の人が倒れこんでいた。
思わず、「よしっ!」と言いながら小さくガッツポーズをしてしまったが、その十一人が倒れている時点で嬉しくなんてない。しかもその全員は知っている顔だ。レン、達也、ダイヤ、沙耶香、セブン、零、陽、雷、一鶴、猿也、輝にぃ。これが倒れていた十一人の名前。
知っている人が居ることはとても心強い。だけど――――――
「何故起きない……‼」
全く彼らが起きる気配がしない。これなら結局いないのと同じだ。
急に訪れる孤独感を感じるのは久しぶりだ。先程は全く感じなかったのだが、一度他人の存在を思い出してしまったので孤独感が倍増したのだろう。
「……っつ~……ってあれ?どこ、ここ?」
暫くしてから後頭部を摩りながら体を起こす一鶴。私はあまりにもそのことが嬉しかったのか、無意識に彼に跳び付いていた。
「一鶴……‼」
少し驚いたような表情を浮かべても、しっかりと受け止めてくれる一鶴。顔を上げると、すぐそこにサングラスをかけていない一鶴の整った顔がある。何故かは分からないのだが、一鶴のその顔にキュンとしている自分がいる。
暫くその状態で硬直していると、突き刺さる視線に気づき再度辺りを見回す。
「聖月ぃ?」
が、少し顔を動かしたところで、先程より近い位置に零の顔があり、反射的に「ひゃあっ!?」と叫びつつ一鶴の後ろに隠れる。
この場所に来てからテンションがおかしいのか、又は意識が狂ってしまったらしい私は、火照る顔を手で覆いながらチラリとその向こうを見る。そこにはしっかりと目を覚まし、広がる草むらに座る十一人が居て、安心してパタリと横に倒れる。
先程まではこの世界が異世界であると思っていたが、この世界が異世界であるとは限らない。というか、異世界であるわけがない。きっと誰かが寝ている間に運んだのだろう。そう信じることにする。
でも、そうだとした場合何をすれば―――――――
『おはよう、囚人や看守の皆』
急に聞こえてくる鋭司さんの声に皆は肩を大きく震わせ、空を見上げる。頭上から声が聞こえてきたのだ。だが、ここにはスピーカーもなければ人の気配も私と他の十一人のものしかない。
私は再度体を起こして立ち上がり、上を向いて叫ぶ。
「看守長!どこにいらっしゃるのですか!?」
だが、その声は空しく空に響き渡るだけで、どこかに居るであろう鋭司さんに伝わった気がしない。
『残念ながら、会うことは出来ないよ。君達には、これから「人狼ゲーム」をやってもらうよ。さぁ、後ろにある家で自分の役職とルールを確認するのだ。早くしないと、君達はゲームオーバー。つまり、死ぬことになる』
いつもとは違って冷ややかな声色。鋭司さんであるはずなのに、鋭司さんではないような変な感覚。
心の中で何度も何度も「鋭司さんはそんな『デスゲーム』のような事をして遊ぶような人では無い」と唱えるが、不安は消えない。
『健闘を祈っているよ』
それからは全くと言っていいほど鋭司さんのアナウンスが流れる事は無かった。きっと、アナウンスのための装置の電源でも切ったのだろう。全くと言っていいほど物音も聞こえないし、人の話し声も聞こえない。
訳が分からず放心状態になる人は多かった。まぁ、普通放心状態に入るしかないだろう。この状況になる事を知らなければ、きっと誰でも硬直状態プラス放心状態になるはずだ。
だが、これからもずっとアナウンスを待ち続け、この世界から脱出するのを待つわけにはいかない。先程のアナウンスが本当ならば、このまま待ち続けていたら私達は死ぬ。
だけどどうやって―――――
「聖月、大丈夫?」
小さな声で私に向かって囁く輝にぃ。きっと兄妹として心配してくれたのだろうが―――――素直にその気持ちを受け取ることは出来なかった。
これから始まるのは人狼ゲーム。真実と嘘が紛れたゲーム。だから、いくら兄妹だからといっても、兄の言葉を素直に受け入れ、言葉を返すことは出来ない。その言葉だって嘘かもしれないから。
「……大丈夫。早くゲームを始めよう」
用意された家はとても広かった。私達に個別に用意された十二個の部屋にお風呂、さらにベランダにリビング的な空間。どこかの豪邸かとも思えるそこは非常に精巧な作りになっていて、現実と同じような質感でもある。
やはりここが異世界であることを疑うことはやめよう。きっと寝ている間に誘拐されたのだ。
皆が部屋に入るためのドアにかかる名前が彫ってあるプレートを一つ一つ確認し、自分の名前を見つけてそこに入っていく。
私も「一条聖月」というプレートの掛かったドアを開け、その中に入る。
「広い……」
第一印象はそれだった。中に置いてある物がベッドと机、椅子とパソコンだけだったので、恐らく看守寮と同じくらいの広さの部屋でも広いと感じる。
パソコンの電源を入ると、パソコンの画面に映るのは「貴方の役職は占い師です。誰を占いますか?」という白い文字と黒い画面だけだった。
「占い師……?」
取り敢えず、今回の人狼ゲームでの私の役職が占い師であることは分かった。その次の「誰を占いますか?」という文だ。下に▼レン ▼達也 ▼ダイヤ ▼沙耶香 ▼セブン ▼零 ▼陽 ▼雷 ▼一鶴 ▼猿也 ▼輝 という選択肢の表示があるのだが、どうすればいいのかサッパリわからない。
だけど、占い師は人狼ゲームの中でかなり重要な役職だ。それに、このゲームに参加している囚人も、ウチの囚人。それに私は主任看守部長。私はしっかりしなければいけない。
「今日は一鶴を占おう」
▼一鶴 と書かれた選択肢の横にカーソルをセットし、選択。すると、画面が変わり「三風一鶴は村人です」と表示された。
ホッと胸を撫で下ろしながらその画面を消して、見つけたノートとペンでそこに「一鶴は村人」とメモする。これなら何日か経っても忘れないし、一鶴をまた占ってしまう事がない。
パソコンの画面は再度「貴方の役職は占い師です。誰を占いますか?」と書かれたところに戻った。だが、今度は選択肢が並んでいるのではなく、「今日の占いは終わりました。次の占いは夜の二十二時に行うことができます」と書かれている。
その画面を隅から隅まで見ていると、画面の本当に端っこの方に「ルール説明」という文字を見つけ、そこをクリックしてみる。
『人狼ゲームは、村人陣営と人狼陣営に分かれて、会話をしながら相手の正体を見抜いていく嘘つきのゲームです。プレイヤーは、他の人がどんな役職であるかは知ることができません。ですが、「人狼」の役職を引いた人達だけは、自分の仲間を知ることができます。今、皆さんの中に、最恐級の人狼が二人紛れ込んでいます。最恐級の人狼は、毎晩プレイヤー一人を殺します。皆さんは毎晩二十時に人狼だと思う人に投票してください。そして、最多票の人を処刑してください。投票は一日一回のみです。この投票は、村人陣営・人狼陣営のどちらかが全滅するまで続けていただきます。皆さんは常に監視されています。ルール違反をした者や、ゲームを放棄した者はその時点でゲームオーバーです』
『次は役職についての説明を致します。
■村人陣営
・共有者 二名
共有者は二名一組の役職で、もう一人の共有者が誰かを把握しています。それ以外能力はありませんが、お互いが人間だと確実に知っている二人として、ゲーム進行に大きな影響を与えます。
・占い師 一名
毎晩生存者の中から一名を指定して人間か人狼か調べることができます。占い師の方はパソコンを使って夜二十二時に占いを行ってください。
・霊媒師 一名
処刑された者が、人間なのか人狼なのか調べることができます。人狼があと何匹残っているのかを知ることができます。
・狩人 一名
夜に一人を指定して、その人を人狼の襲撃から守ることができます。
・村人 四名
■人狼陣営
・人狼 二名
毎晩、一人を選んで殺すことができます。殺す対象が狩人に守られていた場合は、襲撃失敗ということで殺すことができません。
・狂人 一名
狂人は人狼陣営に属する特殊な村人です。狂人は人狼の数には含まれておらず、村人の数として扱われます。そのため、占い師や霊媒師の能力では村人と判定されます。』
『村人の勝利条件 人狼を全員処刑すること
人狼の勝利条件 人狼の数が村人の数と同数になること
以上。検討を祈ります』
これでルール説明は終わりだった。先に占いを行ってしまったことを半分くらい後悔している。あと半分は恐怖に怯えている。
私の役職は占い師なので、私は村人陣営。勝つには人狼を全員処刑する必要がある。つまり、嘘と勘を巧みに利用して人狼の正体を見破り、そして殺す。または勘を頼りに占いを行い、人狼を見つける。私達が勝つにはこの二つを行う必要があると言うのだ。
私は嘘を吐くのがあまり好きではない。だが、嘘を吐くのは得意だ。誰かを騙して利益を得るのは結構得意なのである。
だが、このデスゲームでそんなことが出来るのだろうか。否、出来るはずがない。
滲むパソコンに表示された文字。そして、頬をつたう熱い物。
私は死への恐怖を未だに克服できない。普通なら克服出来る訳がないのだが、何度も何度も死と生の淵に立たされてきた身としては、そろそろ克服しても良い頃。だが出来ていない。
つまり、「死」が分かると途端に反応が鈍くなってしまう。その状態で嘘なんて吐ける気がしない。
すると、コンコンと後ろから扉をノックする音が聞こえ、私はパソコンの画面を閉じて、何かから逃げるようにすぐに部屋を出る。
「っと!……聖月?」
扉をノックしたのはやはり一鶴だった。一鶴は私がこのような「命を掛けた遊び」がとても嫌いだという事、死ぬことを恐れている事を知っている。
だからだろう。きっとルール説明を読んで恐怖に怯えている私が心配になって来てくれたんだ。
「一鶴……‼」
これからのことが怖くて、怖くて、怖くて、一鶴の背中に腕を回して抱きしめる。
「聖月、落ち着いて。大丈夫だよ。……俺が守るから」
良く考えるとこの言葉でわかることがある。先程の占いで一鶴が村人であることがわかっている。そして、「守る」という言葉から―――――
「一鶴は……狩人なの?」
そう考えた。すると、一鶴は一度目を見開いてから、静かに微笑んで私の耳元で囁いた。
「そうだよ。絶対に守るから、安心して」
一鶴は私が人狼陣営である可能性を考えているのだろうか。私は占い師だが、もし人狼陣営だったら、一鶴は今日の時点で終わり。
それも覚悟してのことなの?一鶴。
「一鶴っ……私!」
これなら私も一鶴に「自分は占い師である」と言ってしてしまった方が良い。一鶴も教えてくれたのだから、私も教えないといけない―――――のだが、一鶴は私が占い師だと言う前に、私の唇にそっと指を当て、言葉を止めさせる。
「だーめ。早く行こう」
そして、一鶴はそう言って会議をするために用意されたのであろうリビングらしき場所に移動した。私もすぐに続こうとするが、これですぐに着いて行ったら一緒に話していたことがばれてしまうかもしれない。だから、一度部屋に入ってノートに「一鶴は狩人」と書き加える。
一条聖月 役職・占い師
三風一鶴 役職・狩人
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