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虹にのらなかった男

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P3

 
前書き
なおタイトリングの『P』はページのPです。 

 
『ホワイトベース入港!ホワイトベース入港!』

『総員位置につけ!』

『搬入準備急がせろ!』

「きたか」

周囲がいっそう慌ただしくなる。

「ガンキャノンとガンタンクの用意急げ!
ガンダムは後回しでいい!
ガンファイターの弾薬積み込みはどうか!」

レイ大尉の代理である俺はRXシリーズのホワイトベースへの搬入準備を進めていた。

「副所長!搬送準備終わったっす!
後は運び込むだけっすよ!」

格納庫の中にはパーツを纏めたトラック。

組上がったMSをのせたトレーラー。

「わかった…」

「それで、この後はどうされますか?」

さてと…原作どおりかどうかだ。

コロニー外壁にはファルメルの砲撃がくる。

コロニー内部にはザクが来る。

安全地帯などない。

あるとすればそれはコロニー内部ではなく…

「アオ」

「は、はいっす」

「アブルホールの宙戦機動テストは予定どおりホワイトベースの護衛を兼ねる。
ローザを連れて隔壁内からホワイトベースへ向かえ」

コロニー内部ではなく、隔壁の内側。

そこなら安全な筈だ。

「は、はぁ、隔壁っすか?」

「ルート384だ。ヴェルツも連れていけ。
命令だ」

「で、ですがヴェルツ大尉は指揮系統が…。
それに彼はガンダムの…」

「今の責任者は俺だ。イシカワ大佐は現在ドッキングベイだ」

大佐はホワイトベースに向かった。

だから俺が搬入の指揮を取っているというのもある。

「いいか。何があっても足を止めるな。
戻ってくるな。ホワイトベースに着いたら一歩も出るな。いいな?」

「ちゅ、中尉、何か起こるんっすか?」

「え?あー…その…」

なんと説明すべきか…

「連邦の最新鋭強襲揚陸艦。ジオンが放置しておくと思うか?
連邦にもジオンにもスパイはいるんだぞ」

「わ、わかったっす」

「よし。行け」

「ラジャー」

と言ってアオが格納庫を後にしようとする。

「ああ、待てアオ。コイツを持っていけ。あとヴェルツにはこの鍵を渡しておいてくれ」

アオに拳銃と鍵を渡しておく。

弾薬庫…武器庫の鍵だ。

「ふ、副所長…本当に何が起こるんっすか?」

「ホワイトベースに着く頃にはわかる」

「信じるっすよ。副所長」

「ありがとう」

今度こそアオが格納庫を出ていった。

「これで、いい」

MSの運び込みを初めて十数分。

ズガァン!という爆発音が辺りに響き渡った。

「きたっ…!」

side out










「こちらRX計画副長ルセーブル中尉!
ホワイトベース!スクランブル求む!」

アベルは秘密工場のモニター室兼指令室でWBとの直通通信を開いていた。

『不可能だ!現有戦力でどうにかしたまえ!』

「では好きにやらせてもらう!」

アベルは受話器を叩きつけた。

そしてインカムに対して怒鳴った。

「きいた通りだ!MSの搬入は一時中止!
技術士官は地下に避難!
戦闘要員の第一第二小隊は技術士官の避難を援護!
それ以外の者で応戦できる者は応戦!
しかし直ぐに引け!無駄死にはするな!
俺もアブルホールで出る!」

「副長!無茶ですよ!」

「MSにはMSだ!アブルホール出撃用意急げ!」

アベルにはアムロがガンダムに乗るタイミングがわからない。

アムロは主人公だ。きっとガンダムにたどり着くだろう、そんな確信がアベルにはある。

「でも、人死には減らさないとな…」

アベルは格納庫まで走った。

「アブルホールどうか!」

「出れます!ですが武装がバルカンとサーベルしか…」

「十分だ!」

現在アブルホールはファイター形態。

アベルはタラップを上り、コックピットに飛び込んだ。

「ここからは一人でやる!お前達は地下からホワイトベースに逃げろ!副長命令だ!」

周囲がラジャーと返し、御武運をと駆けていく。

アベルは周囲から人が居なくなった事を確認し、レバーを握る。

「アベル・ルセーブル!アブルホール出る!」

ペダルが踏み込まれ、バーニアが火を吹いた。

一拍置き、アブルホールは格納庫の屋根を突き破りその姿を表した。

「居たっ!」

アベルは直ぐ様二機のザクを目視。

低空飛行しながらバルカンをばらまいた。

だがそれでザクが落ちる事はなかった。

代わりにその体にはべったりと塗料が付着していた。

「くっそ!模擬弾じゃねぇか!間違えやがったなあいつら!?」

実際は宙戦機動テスト用の模擬弾を積み替えていないのだが、先の混乱では誰もが誰も責めようがない。

仕方なくアベルは機体を立て、垂直に飛び上がり一時離脱した。

そこをザクがマシンガンで狙って来るがアブルホールは二条の火線の間を縫うように距離を取った。

「ちぃっ!模擬弾でもできる事はある!」

変形せず弧を画くように旋回したアブルホールが再び二機のザクへ突撃した。

アベルがコックピット内で十字のレティクルをザクのモノアイに合わせる。

「そこっ!」

マズルフラッシュと共に吐き出された模擬弾が片方のザクのフェイスを直撃、モノアイ…メインカメラとその周辺機器を潰した。

「さて…これで離脱してくれりゃぁいいんだがなぁ…」

サブカメラは潰れてない。

まだ離脱できる筈だ。

とアベルがそこまで考えた所で動きがあった。

動いたのだ。ガンダムが。

「ったく…おせーよ主人公」

立ち上がったガンダムに対して、モノアイが無事な方のザクがマシンガンを勢射。

「ははっ!120ミリじゃ穴も開かないぜ…!」

ガンダムに気を取られている間に、無事な方のモノアイも潰そうとバルカンを撃つ。

怯んだザクへガンダムがバルカンを撃つ。

こちらは実弾だった。

後退する二機のザク。

それににじり寄るガンダム。

アベルはアブルホールを飛行させたままガンダムの隣に着けた。

「ガンダムのパイロット。聞こえるか」

通信回線が開かれ、アブルホールのモニターにアムロ・レイの顔が写し出される。

『は、はい聞こえます!』

「君は民間人だな? ああ、責める気はない。
アドバイスをしにきたんだ」

アベルは威圧しないよう心掛けて言った。

まぁ、13歳のアベルが凄んだ所で威圧感なぞたかが知れているのだが。

「ザクの主機はMY反応炉。核だ。
ザクを倒す時にはコックピットだけを狙え、でなければコロニーに穴が空くぞ」

『ぼ、僕にやれっていうんですか!』

「君は何故民間人でありながらそのガンダム乗った!
守りたい人がいるんだろう?」

アムロははっとした。

『そうだ…僕は…!』

覚悟を決めたようなアムロに、アベルは続けた。

「ビームサーベルを使え。それならザクを一撃で倒せる」

『わかりました!』

ガンダムがビームサーベルを抜いた。

ブゥン…という音と共にメガ粒子の刃が生成された。

その鋒をザクに向けたガンダムが走り出す。

『う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

アベルはアブルホールの中でアムロの雄叫びを聞いていた。

「英雄の誕生だ!」

対するザクはヒートホークを振り上げる。

だがアブルホールから放たれた模擬弾がヒートホークを握るザクの手を直撃。

熱戦斧を取り落とした。

そしてがら空きになった腹部に、ビームサーベルが突き刺さる。

爆発は………しなかった。

『やった…のか…?』

「ああ、君の手柄だ。英雄君」

そこでアベルの視界の端で光る物があった。

ザクのバーニアだ。

『逃がすか!』

ガンダムがジャンプしようとした。

「待て!アムロ君!
逃げる敵を無理に追う必要はない!」

だがそれをアベルが止めた。

『だけど…!』

「足元を見てごらん。MS戦の余波っていうのは人を簡単に巻き込んでしまう。
避難民がまだ居るなかでの戦闘は可能な限り避けた方がいい」

『すいません…僕…何にも考えてなくて…』

アムロは本当に申し訳なさそうだった。

それも当然だ。

幼馴染の家族が、まさにその戦闘の余波で命を落としたのだから。

「仕方無いよ。さ、避難のサポートをしよう。
道路や待避カプセル近くの岩を退かすんだ」

『了解しました』

これが後に語られる【連邦の白い悪魔】誕生の時だった。
 
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