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Fate/BBB ー血界戦線・英霊混交都市ー

作者:海戦型
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直死の魔眼と神々の義眼くっつけて最強っていう安直すぎるアイデアってどうかと思うの。と書きつつ直死出てこない短編

 
 ハロー、ミシェーラ。元気ですか?
 HLは相変わらずの喧騒でごった返していますが、兄ちゃんは元気です。

 元気なのですが……実は言いにくいことがありまして。

「……またっすか、マルガレータさん」
「ごめんなさいね?ちょっと仕事が遅くなっちゃって、家まで遠かったものだから泊めてもらいに来ちゃった!」
「と言いつつ合い鍵いつの間にか作ってるし、最近来ない日の方が珍しいですよね?」

 玄関を潜り抜けてリビングに辿り着いたとき、一番に目に入った太陽のように明るいその女性は、花のような笑顔で僕の部屋のソファに座っていた。これは最近よく見る光景で、ライブラの仕事やバイトが終わって帰ってきた夜に僕ことレオナルド・ウォッチの部屋で発生している事である。
 最近、一人暮らしの安く散らかった部屋によくこの女性がやってくる。最初は偶然かと思ったが、流石に数日に一回、或いはほぼ毎日のように来るとなれば狙ってやってきているのだろうと思わざるを得ないのである。

 この女性はマルガレータさん。僕より身長が高く、スタイルはモデルもかくやというほど抜群で、恐らくこの部屋に最も似つかわしくない人物である。いや、前にこの部屋には生首大統領が訪れたこともあるし、もしやこの部屋も英霊たちのいう特異点なのかもしれない。

 マルガレータさんと出会ったのは数か月前、英霊が突如出現した『英霊事件』の折である。別に意味のある出会いという訳ではなかったが、『神々の義眼』保有者と『英霊(サーヴァント)』の出会いという意味では特別だったのかもしれない。

 簡単に言うと、見えてしまったのだ。このデバガメ最強眼球は、一目見た瞬間にマルガレータさんのオーラが常人と全く違う事と、「クラス:アサシン」だの「耐久E」だの「真名:マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ」だのと言うことを見抜いてしまったのだ。

 ――後に知ったのだが、これは英霊召喚や契約のシステムの関係上、英霊を召喚し契約する「マスター」に見える類のものらしい。本来なら魔力パスを繋いだりして初めて可視化出来るものだが、可視化可能ということは「他人には見えないだけで存在はしている」訳であって、この目だと覗き見が可能だったようだ。
 この事実はライブラでは大きなアドバンテージとして受け止められ、ライブラに協力している善性の英霊たちからは「なんという反則権能」「サーヴァントの優位性を一側面から完全に潰す神の嫌がらせ」と散々な言われようだった。まぁそれと同時に、ライブラのトップであるクラウスさんのとある技も英霊たちを恐怖させたが。

 義眼での真名看破からのブレングリード流血闘術999式。相手は死ぬ。
 僕とクラウスさんが揃うだけでサーヴァントに絶対的な弱点が発生するという英霊泣かせのコンボは、しかしまだ数度しか振るわれていない。理由はまぁ、色々だ。そもそも対吸血鬼用の切り札みたいなものなので吸血鬼以外に振るわれることは殆どないし。セッショウインなんとかさんが暴れた時は流石に躊躇いなく使ってたけど。

 と、話が脱線したが、ともかくマルガレータさんにとって僕はHLの第一発見市民だったのだ。それをきっかけに町を案内してくれと頼まれたり、その間に騒動に巻き込まれて神性存在と戦ったり、その神性存在が偶然男の性別を有していたからマルガレータさんのスキルが炸裂して事なきを得たり、そんなことを繰り返しているうちに僕とマルガレータさんはすっかり友人になってしまったのだ。

 マルガレータさんはいい人だし、一緒にいると不思議な安心感を覚える。それはスキルという奴による効果であることは承知しているが、言ってしまえばそれは個性が能力化しただけのことであり、もともとマルガレータさんはそういう魅力にあふれた女性だったのだろう。正直ドキっとすることもそれなりにある。聞き上手の話し上手な美人さん。誰が見ても魅力的に見える太陽みたいな人だ。

 その太陽みたいな人の一つだけ理解に苦しむところが、頻繁にこの部屋に遊びに来て、しかもお泊りするという点なのである。

「またお部屋散らかってたから片付けておいたわよ?」
「ありがとうございます。……じゃなくて!俺のお母さんですか貴方は!?」
「買い出ししておいたから。プリン美味しいからデザートに食べましょ?」
「本当に助かります。……じゃなくて!通い妻かなんかですか貴方は!?」
「XSWXの新作ゲーム買っちゃったんだけどやっちゃっていい?」
「わっ、これ昨日出たばっかの新作じゃないすか!俺がやりたいくらいですよ!……じゃなくて!いやまぁ別にいいんですけどねっ!いいんですけどっ!」

 何度も言うが、マルガレーテさんは魅力的な女性だ。酒場にいれば男の10人中10人が振り向くほどモテるし、実際男だけでなく女性友達も沢山いる。本人もその辺のチンピラにどうにか出来るほど弱くないし、むしろ男相手なら簡単に悩殺できる。

 僕が彼女と一緒に遊ぶことは出来るだろう。
 だけど、僕よりもっと楽しく遊べる相手が彼女にいないとは思えない。
 僕が彼女に頼られることは出来るだろう。
 だけど、僕よりもっと頼れる友人が彼女に居ないとはどうしても思えない。
 じゃあ何で態々このもじゃもじゃヘアのイケてない独身男性の部屋に彼女はやってくるのだろう?気になるなら聞けばいいか、と思った僕は特に躊躇いもなく普通に聞いた。

「何でマルガレーテさんは態々僕の部屋に来るんですか?いや、正直色々やってもらってこっちが申し訳ないくらいなんですけど……他にも遊べるお友達いっぱいいるでしょ?」
「そうね。みんないい人だし、頼めば一晩と言わず泊めてもらえるし遊んでもらえるでしょうね。男の人は特に……でもレオ君は、なんでその大勢の男のなかで自分の所に、って思ってるんだね」
「はい。ぶっちゃけこの部屋、二人で過ごすにはちょい狭いですし」
「狭いからいいんじゃない?狭いと自然と距離が近づくでしょ?」

 テレビの電源を付けてゲームを起動させたマルガレータさんは、コントローラー片手に僕のベッドに腰かけ、横に座るようポンポンと叩いて促す。誘われるがままに横に座ると、彼女から甘い匂いがした。結構一緒に過ごしているのに、肩が触れ合うような距離になると未だにちょっとドキドキしてしまう。と――ベッドに置いた手の小指が、マルガレータさんの小指にぶつかった。

「あっ、すいません」
「別にもっと触れてもいいのよ?」
「恥ずかしいですっ」
「うふふ、初心なんだから。そういうところ、可愛いわ」

 そんな風にからかわれて恥ずかしくて、でも微笑むマルガレータさんの横顔が見惚れるほど綺麗で、僕はドギマギする男心に揺すられながら彼女と一緒に過ごした。途中からは二人で協力プレイして、ゲームを普通に楽しんでしまった。

 この距離感。もどかしさもあるけど、なんだか嫌いじゃない自分がいる。



 = =



 レオ君は気付いてるんだろうか。

 私のことをマタ・ハリではなくマルガレータと呼ぶのはこの街で自分だけだということを。

 知ったら多分、首を傾げて「え?マルガレータさんはマルガレータさんでしょ?」なんて普通のことのように言ってしまうのだろう。でも、常にマタ・ハリの名を名乗っている私の本当の名前を呼ぶのは、本当の名前を見えすぎる目で見てしまった彼だけなのだ。
 そのことを考えると、真実を知らせたときにどんな顔をするだろうとちょっとした悪戯心がうずいて楽しくなってしまう。

 ここ、HLは何もかもがハチャメチャな町だ。それは私の生前の人生より、或いは人理修復の旅よりある意味でハチャメチャだ。その喧騒が楽しくて飽きさせなくて、楽しんでいるという事を自分で否定する気はない。
 しかしその中にあって、私はレオくんに惹かれた。
 会うなり全部自分の事を知られるというスパイ泣かせの魔眼が最初の切っ掛けだったことは否定しない。でも一緒に過ごしながらHLを知るうちに、私はレオくんの凄さを段々と知っていくことになった。

 彼は、普通である。

 この喧騒を駆け抜ける住民で、秘密結社として神々の義眼を使うエージェント(レオ君は隠しているつもり)で、毎日のように世界を救う一助をしている身で、それでもレオくんは普通である。

 普通の感想。普通の行動。普通の頭脳。
 飛びぬけて欠けたものはなく、目以外に飛びぬけて秀でたものはない。
 ただ、普通の人間が選ぶ普通の選択を、異常が日常であるこの町でも普通に選択できる。

 それは裏返せば、どんな絶望が待つ場所でも自分を裏切らず前に進み続けられるということでもある。
 彼の友人の一人が言っていた。レオくんの普通とは、本人は無自覚だが「勇敢」とか「高潔」と言われることだ、と。レオくんにとってそれを通すことがあまりにも普通のことだから、それに立ちはだかる様々な障害を前に彼は折れる事を知らない。いや、人並みに打ちひしがれたりはするのだが、それでも最終的には目的地に辿り着いてしまう――そんなひたむきさのある少年だ。

 私は、普通じゃいられなかった。生前も死後も、自らにとってスパイが天職であることを疑ったことなどありはしない。だけど、自分を騙すことに慣れ過ぎた私は、普通なことを普通に貫き通したことなどない。だからスパイをしていない普通の女の幸せに、憧れてしまうことはある。

 普通に男を愛し、結婚し、子供を産んで育て、それで最後には孫にでも看取られながら天寿を全うする。たったそれだけのことが出来れば、きっと私は英霊の座から消えてしまうほど幸せだろう。でも実際には英霊として召喚され、いろんな仲間やいろんな敵を相手に騙し騙され、守り守られ、最終的にはハチャメチャな物語の一部になってしまっている。
 嫌ではない。何度も言うが、後悔してるとかウンザリしてるとか、そういうことじゃない。気の合う仲間と親しくなったり、愛しいマスターを得たり、良いことはたくさんある。それでも普通であることを幸せだろうと思っているのは、きっとそこに自分ではたどり着けないからこその羨望、或いは運命(フェイト)を感じ取っているんだろう。

 ――その憧れが、多分レオくんなのだ。

 彼はどんなにハチャメチャな状況でもNoと言えばNoで、どんな苦難に打ちのめされて立ち往生しても、決して足の向きを変えてしまわないのだろう。どこかカルデアのマスターにも似ているそれは、私を前にしてもそのまんまだ。だから私も、彼に特別着飾った自分を見せなくていい。

「マルガレーテさん右の敵やっちゃってください。俺正面やります!」
「りょーかい!さぁ、私の可愛いケルベロスちゃんが火を吹くわよ~!」

 肩が触れ合うには少し遠いけれど、時々ふっと触れ合ってしまうようなこの距離感を保てるこの部屋での時間が、今の私にとってはどうしようもなく嬉しい時間だ。レオくんの普通と同じ場所で同じようにいられる。
 例え部屋を出た先に普通なんて欠片もなくて、私がスパイとして演じ続けるうちに真実の在処なんてわからなくなってしまっても、きっとレオくんの部屋に戻ってくれば彼は普通のままでいてくれている。ちょっと情けなくて根性があるのかないのか分からなくて、何故か似たような性格の友達が多くて王子様には程遠い普通の彼の事が、私は――。

「ここが特異点なのなら、特異点を存続させたいと思った英霊たちの気持ちがちょっとわかっちゃうかも」
「はい?どういう事っすか?」
「ヘルサレムズ・ロットでしかできない生活があって、それがとっても楽しいってこと!」
「ははぁ、なんだか気持ちは分からないでもないですね。どうしようもなく理不尽だったり混沌としてたり滅茶苦茶な町なのに、僕も正直ここが嫌いになれないんですよ」

 そう言って、私たちは普通に笑い合った。
 ああ、こんな日々を何度でも繰り返していたい。

 受肉の方法とか、真剣に探してみようか。普通なら聖杯でもないと無理だけど、不可能が可能になるこの町ならもしかして――それでレオくんの妹さんの目を治す方法まで一緒に見つかっちゃったら、とっても素敵じゃないかしら。
  
 

 
後書き
レオ君の一人称僕と俺とどっちやねんと思った貴方。実は原作でも両方使ってます。とりゃーず基本は僕なので、テンション上がってるときに俺を出していく感じでやってます。

レオ君とマタ・ハリさんをくっつけたかったわけではなく、マタ・ハリさん書きたかっただけなのに……どうしてこうなった。 
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