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空に星が輝く様に

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381部分:第二十八話 見られたものその十二


第二十八話 見られたものその十二

(ただ)
(ただ。何だよ)
(今ので普通は気付くと思う)
 こう陽太郎に囁くのであった。
(気付かないんだ)
(だから何がだよ)
 やはりわからない陽太郎だった。怪訝な顔にさえなっている。
(俺が何に気付かないっていうんだよ)
(本当にわからないみたいだからいい)
(だからいいって言われてもよ)
(とにかく見る)
 また見るように話す椎名だった。
(そして時期が来れば)
(その時だな)
(そう、その時に)
(今にも行きたいんだけれどな)
(それでも我慢する)
 ここでも椎名は陽太郎を止める。何度もだった。
 そしてそのうえで二人で見る。するとであった。
「いい?」
「は、はい」
 星華が月美にすごんでだ。月美は明らかに戸惑っていた。
「あんたこのまま調子に乗ってたらね」
「そうよ。徹底的にやってやるから」
「学校来られなくしてやるわよ」
「それでもいいの?」
 三人も言ってだ。今にも掴みかからんばかりだった。
「それが嫌なら別れなさいよ」
「いいわね、斉宮とね」
「わかったわね」
「そんな・・・・・・」
「わからないっていうんならね」
 星華もエンジンがかかってきた。
「あんた、承知しないからね」
「承知しない」
「あんたのノートでも教科書でも何でも滅茶苦茶にして」
 実際にそうしようとして果たせなかったことである。椎名が邪魔をしてだ。椎名にとっては月美のものを護ったのだが彼女達にとってはそうなのだ。
「ロッカーでも何でもよ」
(やっぱり)
 椎名はここで呟いたのだった。
(そういう魂胆だったのね)
(何かあったのかよ)
(あの連中つきぴーの教科書とかノートとか荒らそうとしてた)
(それっていじめだろ)
(そう、いじめ)
 そのものだというのである。
(それをしようとしていた)
(佐藤がか!?)
 これはだ。陽太郎には信じられない話だった。それは星華をよく知っているからである。少なくとも中学の時の彼女をである。
(あいつがそんなことするかよ)
(斉宮、人間はね)
(人間は?)
(色んな一面がある)
 椎名が言うのはこのことだった。
(いい面もあれば悪い面も)
(悪いって。まさか)
(醜い面もある)
 椎名はさらにこう言い加えた。
(そう、誰にも)
(誰にもかよ)
(その通り。だからあの娘も)
(嘘だろ、それ)
(嘘じゃない」
 椎名は今度はこのことを否定したのだった。
(目の前で起こっていることが現実だから)
(くっ、じゃあここはよ)
(もう少し待つ)
 ここでも飛び出ようとする陽太郎をまたしても止めた。
(焦ったら成功するものも失敗する)
(あ、ああ。わかった)
(人が何度言っても焦る奴は馬鹿)
 椎名の言葉はここではきついものだった。
(それで失敗する奴に限って自分では責任を取らない)
(まあそういう奴いるよな)
(斉宮もそういう人間になりたくなかったら)
(落ち着けっていうんだな)
(そういうこと)
 椎名がここで言うのはこのことだった。
(いい。しっかりする)
(わかったよ。それじゃあな)
 陽太郎はまた踏み止まれた。そのうえで落ち着いて様子を見守るのだった。二人が囁き合っているその間にもだ。星華達は月美に言っていた。
「それでどうするのよ」
「別れるの?」
「それともどうするのよ」
 三人は顔を前にやって月美を問い詰めていた。
「別れるんでしょ」
「そうするわよね」
「若しそうしなかったら酷いわよ」
「いい?私だってね」
 星華の言葉はここでは一人称だった。
「何時までも言わないわよ」
「そうよ、どうしてもって言うんなら」
「今ここでね」
「思い知らせてやるわよ」
 実際に橋口が手をあげようとした。ここで、であった。
 椎名がだ。さっと陽太郎に囁いた。
(今よ)
(ああ、わかった)
(つきぴーを御願い)
 こう陽太郎に告げるとであった、 
 陽太郎は木陰から出た。そのうえでその橋口と月美の間に入ってであった。振り下ろされる彼女の右手を自分の左手で受けてみせたのだった。
「えっ!?」
「どういうこと!?」
「何で斉宮がなのよ」
 まず驚きの声をあげたのは三人だった。顔にもそれが出ている。
「何で出て来たのよ」
「どうしてなのよ」
「何処から?」
「そんなことはどうでもいい」
 椎名も出て来た。彼女もまた四人と月美の間に入る。そうして彼女を護るのであった。
 二人は星華達と対峙する。彼等にとって正念場のはじまりであった。


見られたもの   完


              2010・11・9
 
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