提督はBarにいる・外伝
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提督、里帰りする編
提督、里帰りする。その1
「うっし、お前ら忘れ物は無いな?」
「ノープロブレムネー!」
「問題ありません」
「機材もバッチリですよ!」
「大丈夫よ」
「パパの故郷……楽しみ!」
「や~良いのかなぁ、すげぇ場違い感……」
俺の最終確認の問いに、それぞれ返事を返してくる6人。お袋にせっつかれて里帰りするのに同行する6人だ。メンバーは金剛・加賀・青葉・陸奥・山風・秋雲の6人。公私共にパートナーである金剛は確定として、写真係として青葉が立候補。残る4枠を300人以上が争う事になった。最初は演習という名の血みどろの争いになるかと思ったが、意外や意外解決法はクジ。俺の護衛も考えて、戦艦・空母・重巡の大型艦から2人、軽巡・駆逐・潜水艦・その他の艦種から2人と中々バランスを考えてクジを引いたらしい。
「お酒がぁ~……」
「海の幸がぁ~……」
「宴会がぁ~……」
…………まぁ、中には俺との里帰りよりも道中の飲食を期待してた奴等が一定数居る辺り流石と言うか、なんと言うか。
「土産は買ってきてやる、安心しろ」
俺がそう言うと、途端に大喜びを始めるんだから、現金と言うか子供っぽいというか……まぁ、解りやすくていいか。
「んじゃ、後は任せたぜ大淀」
「はい。たまの休暇なんですから、しっかり骨休めしてきて下さい」
普段からオーバーワーク気味だとは言われ続けて来たが、お袋からの電話を口実に強制的に休ませようというのがこいつらの魂胆らしい。俺の護衛とか言ってるが、どっちかというと監視役だろコレ。
「さてと、んじゃ向かうとすっか?」
「ねぇ、それでどういうスケジュールで移動するのかしら?」
やはりというか、こういう所でお姉さん的な力を発揮する陸奥。こういう場合金剛が仕切るべきだと思うのだが、数日後には俺の両親に会うのだと自覚してからガチガチに緊張してたりする。そんなタマじゃねぇだろう、と思いつつも親父とお袋には手紙で結婚した事を報告した位なので、実際に顔を合わせれば緊張するのも無理はない……のか?
「もしかしてぇ~、軍用機をチャーターしてたりして~?」
「アホか秋雲。今回はプライベートな旅行だぞ?私用に軍用機を使える訳ねぇだろが」
ブルネイから飛行機で成田へ飛び、そこから新幹線で青森の八戸駅まで。そこからローカル線に乗り換えて、一時間もすれば俺の地元に到着する。
「ブルネイから成田へ直行便があるんですか?」
「いや、一度シンガポールを経由していく。本当は香港経由の方が早いんだが……今あそこはなぁ」
「あ~……避けた方が良いですよねぇ」
シナ……というか中国は今深海棲艦との繋がりが噂され、世界からも孤立しかけている。今の情勢で海軍の大将である俺とその艦娘が立ち寄るべきではないだろう。君子危うきに近寄らず、という奴だ。
「乗り換え含めて9時間のフライトの予定だ。今日一日はほぼ移動だけで終わるからな、はしゃぎすぎるなよ?」
俺が釘を刺すと、はーいと返事が返ってくる。俺は引率の先生かよ。そんなこんなで執務も終わった午後9時、俺達はブルネイの空港を発った。
乗り換え時間もあって、成田に着いたのが翌朝の午前7時。朝も早いというのに人でごった返している。
「……というか、軍人が多すぎねぇか?」
これから国賓でも迎えるのか、それともテロの予告でもあったのか?という位に物々しい雰囲気に包まれている。簡単な入国審査をこなしてゲートを潜ると、こちらに気付いた若い将校らしき軍人を筆頭にわらわらと駆け寄ってくる。
「金城大将、お迎えにあがりました!」
やっぱりか。何となく嫌な予感はしたがこの物々しい警備は俺の出迎え用か。さっきまで周囲に散らばっていた陸軍の兵士らしき小銃を担いだ男達がズラリと並んで、こっちに向かって敬礼している。周りにいた空港の利用客はこちらを見てヒソヒソしている。これじゃあプライベートな旅行どころの話じゃない。警備してもらうにしても悪目立ち過ぎる。
「出迎えご苦労。しかし、今回の帰国はプライベートな物であり、軍務に属する物ではない。よって警護は不用!」
要するに、とっとと帰れと言っている訳だ。
「いや、しかし……」
言い澱む将校に、睨みを効かせる。
「それとも何か?ここに居るウチの連中よりも強い兵士が居るのか?この中に」
艦娘達も見た目はこんなに可憐な女ばかりだが、一皮剥けば最前線に立つ一端の兵士だ。こう言っちゃあナンだが平和な内地でぬくぬく育った陸軍兵に遅れを取るような愚図はウチには居ない。そもそも、護衛対象より弱い護衛とか何に使えと?弾除け?
「陸軍は本土防衛という大事な任務が在るだろう。こんなオヤジに構ってないで、も少し鍛えるんだな」
将校の肩をポンと叩いてやり、その場を後にする。後ろの方では悔しげに佇む将校の姿が見える。ああいう悔しさをバネに出来るタイプは伸びる。若さ故の跳ねっ返りの強さも個人的には好ましいがねぇ?
「相変わらずdarlingは手厳しいネー」
苦笑いを浮かべる金剛。
「そうでしょうか?事実を的確に指摘しただけかと」
どこまでもクールな加賀。
「あらあら♪」
そんな状況を傍観して楽しんでいる陸奥。
「パパ格好いい!」
目をキラキラさせている山風。珍しく黙り込んでいる青葉と秋雲は、今のやり取りをそれぞれ写真とイラストに収めるのに忙しいらしかった。
「お前らも大分良い性格してるけどな……」
「それは提督の教えの賜物では?」
加賀よ、ツッコミがキツいぞ……orz少し落ち込んだ気分のまま、俺達は東京駅へと向かい、そこから東北新幹線へと乗車。一路俺の故郷である町に一番近い新幹線の停車駅である八戸を目指す。東京~八戸まで約3時間の旅路だ。途中、東京駅で買った駅弁を肴にこれまた東京駅で買った酒を飲む。これに乗ったのも30年ぶり位になるか……少ししんみりとしてしまう。
『間もなく、八戸駅に到着します』
車内アナウンスが流れる。フライトの疲れもあったのか、全員ぐっすりと寝込んでいる。
「お前ら起きろ!降り過ごすと北海道まで行っちまうぞ!」
少し乱暴に揺さぶって、全員を起こす。バタバタと荷物とゴミを抱えて降車口から降りると、
「さぶっ!」
全員の口を突いて出たのはこれだった。流石に東北とブルネイの夏を比べたら寒いに決まってるか。まぁ、涼しいのは有り難い。
「う~っし、こっからローカル線に乗り換えて、一時間もすりゃあ俺の故郷だ。実家に顔出して、じいちゃんの墓参りしたら残りは観光だからお前ら気ぃ抜くなよ?」
は~い、とここでも良い返事。そういう所の団結力はあるんだよな、こいつら。八戸駅の新幹線ホームからエスカレーターで一旦メイン通路に上がり、複数あるローカル線から俺の実家の最寄り駅まで走る八戸線に乗り換える。昔は紅白の地味な感じだったが、今はシルバーにブルーのラインが入った車体になっている。導入された当時は
『京〇東北線かな?』
なんてツッコミを入れられてたらしいが。
「ありゃ、パンタグラフが無い」
「当たり前だろ秋雲。こりゃ電車じゃなくてディーゼル機関車だぞ?そもそも雪国で電線張ってたら冬場は鉄道全部イカれるぞ」
「へ~、そうなんだぁ」
興味深そうにスケッチする秋雲。実際、東京等の都心で積雪があると鉄道がストップする、なんてニュースをよく見るが、あれは電車に電気を供給する架線やパンタグラフが積雪で上手く動かなくなるせいだ。
「さぁ、ごちゃごちゃ言ってねぇで乗り込め。そろそろ出るぞ」
俺達が乗り込んで座席に座ると、列車はガタンゴトンと走り出した。窓を開ければ、海沿いを走る八戸線らしく潮風が吹き込んでくる。南洋のブルネイとは少し違う潮風の懐かしい香りが、帰ってきた事を強烈に意識させる。さぁ、実家までもうすぐだ。
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