魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第168話「その身が至るは―――」
前書き
今回の戦闘シーンはDB超の身勝手の極意覚醒時の曲をイメージしてます(ぶっちゃけ言えばずっとこのBGMにあった展開を書きたかった)。
なお、ちゃんと表現できてるかは保証しかねます(´・ω・`)
=優輝side=
「―――――」
目の前に、守護者が迫る。
僕の体は、動かそうとしても動かない。
例え動いても、反応が遅すぎる。
「ッ―――」
まるで世界がスローモーションになったかのように遅くなる。
それは、死の寸前で見る走馬燈のようなものだろうか?
どの道、スローに見えるだけで、それでどうにかなる訳ではなかった。
「………」
守護者が刀を振るおうとしてくる。
……もう、助からないだろう。
体は動かせない。少し動かせても、それだけでどうにかなる訳でもない。
誰かが助けてくれる訳でもない。司たちは何とかしようとしたみたいだけど、司と奏がすぐに動けなかった時点でもう無理だろう。
「……ぁ……」
……その時、僕の脳裏を様々なものが過った。
それこそ走馬燈のような、今までの事の全て。
どこか俯瞰したような、現状の分析。
そして、未だに諦められないと、足掻き続ける意志が。
「ッッ……!!」
その瞬間、動かない体に喝が入る。
心の中で雄叫びを上げながら、死ぬ訳にはいかないと、体を動かそうとする。
……そして。
ピキ……パリィン……!
―――“ナニカ”が割れた音が聞こえたような気がして、“変わった”。
=out side=
優輝に向けて守護者が刀を振るう。
それは、タイミングからして回避は不可能だった。
「っ!?」
だが、結果としてそれは優輝には当たらなかった。
なぜなら、刀の軌道が当たる前に逸らされたからだ。
最小限。例えるならば、指で弾く。その程度の干渉。
刀身に対し、そのような感覚で拳を当てただけ。それだけで攻撃を受け流した。
「ッ……!」
「………」
守護者はその事に驚きはしたものの、すぐさま追撃を放つ。
その様を、優輝は“無機質な”目で見据え……。
ヒュッ、パァンッ!!
その連撃の全てを、同じように受け流した。
空気を切り裂く斬撃の音だけが響き、優輝は一切の無傷だった。
「くっ……!」
「っ!」
さらに繰り出される斬撃。
今度は、それを受け流すだけでなく、反撃に出た。
「っぁ!?」
まるで突き飛ばされる程度。
しかし、確かに守護者はカウンターによる反撃を食らった。
まるで、そこまでの一連の流れが、時間が進むかのように当たり前に見えた。
「……嘘、あれって……」
その様子を、ようやく現場に辿り着いた緋雪が見ていた。
相変わらず体には傷が残り、常人ならば戦闘は不可能な傷を負っていた。
それでも戦おうとして、優輝が戦闘しているのを見つけたのだ。
「まさか、あれが……?」
緋雪の脳裏に過るのは、在りし日の記憶。
互いにシュネーとムートであった時の、懐かしき記憶。
―――「……聞けば聞くほど、導王流って凄いね」
―――「まぁ、ね。……でも、まだ完璧じゃない」
―――「完璧じゃない?」
―――「ああ。……導王流は、まだ“極意”に至れていない」
「……導王流の、“極意”。終ぞ極める事のなかった、“全ての攻撃を導く”業」
呆然と、だが、何かが沸き上がるような面持ちで緋雪は戦闘を見続ける。
「……凄い。凄いよお兄ちゃん!!それが……それが導王流の本気なんだね!?」
緋雪の心中は、驚きよりも歓喜が占めていた。
まるで我が事のように。恋する乙女のように。
「見届けなきゃ、この戦いを……!」
だからこそ、緋雪はこの戦いを一瞬たりとも見逃さないと、目を離さなかった。
「ふっ……!」
「っ、っ……!」
キキキィイン!!
斬撃が悉く受け流されるのを理解し、守護者は霊術も織り交ぜる。
だが、それすら優輝は逸らし、受け流す。
リヒトが使えなくなっている今、そんな事をすれば拳がタダでは済まない。
しかし、優輝の拳は確かに傷は負っていたものの、明らかに反動が軽かった。
〈(導標の神力を負担がかからない程度に拳に纏わせる……なるほど、こうすれば私を使った時よりも防御力が高いですね……)〉
その理由を、リヒトは冷静に分析していた。
緋雪と同じく、リヒトも付き合いが長いため、優輝が“極意”に至った事を理解していた。そのため、不用意に自身がサポートするのは危険だと判断し、分析に徹していたのだ。
「ッ……!?」
ボッ……!
先ほどまでと違い、凌ぐだけの攻防ではない。
そのため、優輝は自ら守護者へと間合いを詰める。
それに対し振るわれる守護者の攻撃だが、その悉くが受け流される。
咄嗟に守護者が身を捻ると、寸前まで胴があった場所を優輝のカウンターである掌底が穿っていた。
「な、なんて動きなの……!?まるで木の葉……いえ、羽毛を相手にしているかのよう……!それでいて、的確に反撃を……!?」
その様子を、緋雪だけでなく鈴達も見ていた。
そして、優輝の動きを見て武術に通じている面子が戦慄していた。
「……あ、れ……?」
「……司?どうしたの?」
「……見間違いかな……?優輝君の目が……」
そこでふと、司は気づく。
その司の言葉にアリシアも視力を強化して確認する。
「っ……え?ど、どういう事……」
「おい……俺、あいつのあんな目、見たことねぇぞ……?」
「わ、私もだよ……」
それは、まるで“感情が欠落している”ようだった。
無感情に、無表情に、守護者の攻撃を捌き続けている。
「感情を削ぎ落し、動きに無駄をなくす……訳ではなさそうだな」
「……ええ。あれは明らかに感情がなくなっている」
関わりの薄い悪路王たちも、その異常に訝しむ。
まるで、何かのために代償にしたかのような、その状態に。
「―――あれは、“可能性”の代償」
「えっ……?」
「ッ……!?」
聞こえたその無感情な言葉に、フェイトが驚く。
そして、声の主を見た帝は、驚愕と同時に体を震わせた。
「―――一つの“可能性”を掴み、別の“可能性”を潰した」
「な、一体……」
「ど、どういう事……なの……?」
もう一人、同じように言葉を発する。
それを見た司とアリシアも驚く。
そのまま、その二人は言葉を発し続ける。
「此度は、“感情”」
「やはり、人の身では代償が生じる……」
「その代わり、私たちが表に出られた」
「あと一つ、大きなきっかけがあれば―――……」
そこまで言って、言葉が途切れる。
「ど、どういうことなの……?」
言葉が途切れたため、思わず司が尋ねる。
「―――ねぇ、なのはちゃん、奏ちゃん……!」
……自分たちが良く知る、その二人に。
「ッ……!」
キキィイイン!!
両手の甲を使い、優輝は守護者の二連撃を逸らす。
「くっ!」
反撃の貫手を体を逸らす事で守護者は躱す。
そのまま距離を離し、霊術が放たれる。
「シッ!」
直後に拳から衝撃波が放たれる。
まるで針のように鋭く放たれたその衝撃波は、霊術に僅かな穴を穿つ。
その穿った穴を広げるかのように貫手を放ち、その穴に身を潜らせる。
無闇に回避や防御を試みるより、ダメージを最低限に抑える。
さらに、そのまま反撃に映るという行為を、流れるようにやってのけたのだ。
―――“斧技・瞬歩-真髄-”
「………」
霊術を破った瞬間に眼前に迫る矢。
そして、背後へと一瞬にして移動する気配。
それを、優輝は一瞬で見極める。
「(眼前、背後。挟み撃ちか)」
飽くまでも無感情に、行動を起こす。
まるで水が流れ出すかのように滑らかに動いた体は矢を紙一重で躱す。
「ッ……!」
「甘い」
「くっ!」
さらに、背後からの斧の一撃も軽く受け流し、追撃の刀も逸らした。
そして、放たれる反撃の一撃。
それに対し、守護者は霊力を放出する事で弾き飛ばす。
「……」
吹き飛ばされた優輝は、霊力の足場を作り、それを何度も介する事で衝撃を殺し、地面に着地する。
「ッ!!」
そこへ槍を持って突貫してくる守護者。
しかし、やはりその一撃も弧を描くように力の軌道を逸らされ、受け流される。
「ふっ……!」
「……」
だが、守護者も対策を練っていない訳ではない。
手に、二刀が握られる。
その内一刀は、悪路王が封印していたものだが、守護者と優輝の瘴気と極光のぶつかり合いの余波を防ぐ際に力をほとんど使い果たしたため、封印は解けていた。
「はぁぁあああっ!!!」
「ッ……!」
二刀が振るわれる。その度に、優輝の手がぶれるように動く。
先ほどまでと違い、守護者の手数は倍になった。
そして、力が形を成しているだけあって、口数が少なかったはずの守護者から雄叫びが発せられる。
「っ、ぁああっ!」
「ふっ……!」
……実力は拮抗していた。
守護者は連戦に次ぐ連戦によって疲弊しており、優輝も“極意”に目覚めているとはいえ、魔力はほぼ全て使い果たし、体もボロボロだった。
故に、実力は拮抗しているのだ。
キキィイイン!!
「ッ……!」
―――“弓技・矢の雨-真髄-”
いくつかの斬撃が逸らされ、霊術も背後へと受け流される。
すると、すぐさま守護者は距離を取り、矢の雨を降らす。
「シッ」
「ッ!」
ギィイン!!
「くっ……!」
だが、優輝は当たりそうになる矢のみを逸らし、まるで雨の中をただ急いで帰るかの様子で守護者へと接近する。全くもって矢を物ともしていなかった。
そして、突き出された拳を障壁で防ぎ、反撃に刀を振るう。
しかし、それはあっさりと逸らされ、またもや反撃に拳が振るわれる。
守護者はそれを身を捻って躱す。
「っぁ!」
「………」
―――“弓技・螺旋-真髄-”
―――“弓技・閃矢-真髄-”
―――“弓技・瞬矢-真髄-”
守護者が衝撃波を放った間合いを取り、距離を取りながら矢を放つ。
さすがのその鋭さに距離を詰める事は止め、少しの軌道の誘導と、自らの回避だけで全てを紙一重で躱す。……さながら、最適化された動きのように。
「………その動き」
「……」
一度攻撃が止む。
お互いにある程度距離が離れた状態で、守護者が口を開いた。
「まさに“武”の極み……だね」
「……案外、流暢に喋れるんだな。力が形を成しているだけなのに」
「人格は本物を模倣しているよ。というより、私は“大門の守護者”としての側面なだけ。私も、本物も、どちらも“有城とこよ”だよ」
本来ならば守護者の方が無感情に近い口調だった。
しかし、今では優輝の方が感情が感じられない程だった。
「それが導王流の極意……」
「……ああ。これが―――」
―――導王流奥義之極“極導神域”
「―――と、いう訳だ。……さっきまでと同じように行くと思うな」
「なるほど……ねっ!!」
―――“紅焔-真髄-”
準備していたのか、守護者は即座に術を放つ。
その炎の霊術に対し、優輝も動く。
「(纏い、固定。滑り、受け流す)」
体に導標の神力を纏い、一種の鎧とする。
そして、実体がないはずの炎の表面を滑るように受け流す。
ギィイイイン!!
「っ、はぁああっ!!」
―――“風車-真髄-”
―――“呪黒剣-真髄-”
そのまま守護者へと突貫。貫手が放たれる。
その手を切るように守護者も刀を振るうが、間合いに入る前に手が引っ込められる。
後に残るのはその際に生じた衝撃波のみ。
顔を傾ける事で守護者はそれを躱し、二刀を振るうと同時に霊術も仕掛ける。
パァアアンッ!
「ッ……!?術式干渉……!」
「研鑽し、経験を積み、自己流で昇華させた。そのどれもが上手く練られた術式だ。故に、その術式の効果は強い。……だが―――」
風の刃、黒い剣はまるで優輝から逸れるように外れる。
それどころか、優輝は受け流しに使った手にその霊術の霊力を纏わせ……。
「―――もう、見慣れた」
―――“風車-反-”
―――“呪黒剣-反-”
同じ霊術を返した。
「ッッ……!」
「させない」
さらに、いくつかの剣を創造。
それを、地面のある箇所に突き刺す。
「一度見た術式だ。見破れない訳がない」
「くっ……!」
守護者が用意していた術式は、“偽・焦熱地獄”。
準備がかかるため、会話と時間稼ぎを行ったが、優輝はあっさりと見破った。
「……ふっ……!」
―――導王流弐ノ型“瞬連”
空を蹴る。蹴り抜き、一気に距離を詰める。
それに守護者は反応して見せる。
目は適格に優輝の姿を捉え、それに合わせて刀も軌道を描く。
「ッ!」
だが、優輝はさらに加速する。
階段を駆け上がるかのように加速し、刀の間合いに入った瞬間に方向転換をする。
振るわれた刀に手を添え、体に掛かる負荷を受け流しと同時に軽減する。
「ッ……!?」
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
それは、刹那の如き判断だった。
後ろに回り込まれたと悟った守護者は背後に障壁を張る。
……そう。守護者は障壁を張るしか行動が起こせなかった程、その動きは水が流れるかのように滑らかで一瞬だったのだ。
ギギギギギギギィイン!!
「くっ……!」
そして放たれる衝撃波の連打。
障壁に直接触れる事なく拳を振るう事で、衝撃波の連打を繰り出していた。
それに対し対策を行わない守護者ではない。
すぐさま矢を構え、射ようとして……。
ドンッ!!
「ッッ……!」
障壁越しに届いた衝撃波により、弓が弾かれる。
優輝は、ただ障壁を破ろうとしていただけでなく、障壁の術式を読み、それを徹せるように術式を練っていたのだ。
「はっ!」
「ッ!」
弓が弾かれた事で障壁の術式が乱れ、障壁が破られる。
同時に放たれる掌底に対し、守護者も掌底で反撃する。
しかし、それがぶつかり合う瞬間に優輝は手を横へ振り抜き、守護者の攻撃を弾く。
即座に守護者は刀を取り出し、下からの切り上げを放つ。
それも優輝は受け流す。だが、その際に後ろへと後退させられる。
「ふっ!」
「……」
間髪入れずに叩き込まれるのは連続して放たれる矢。
質より量ではあるその攻撃だが、一発一発が十分な威力を持つ。
だが、まるで球状のバリアに弾かれるように、矢は優輝の素手の間合いに入った瞬間に逸れていく。
「ッッ……!」
―――“火焔旋風-真髄-”
―――“氷血旋風-真髄-”
―――“極鎌鼬-真髄-”
それを時間稼ぎとし、守護者は次々と術を放つ。
実体を持たない術による攻撃。素手である優輝相手には有利ではある。
「ッ!」
―――“穿撃”
……だが、それを優輝は物ともしない。
「近接戦ではなく術による遠距離攻撃……ああ、確かに有効だ。今の僕にも通じやすくはあるだろう。……だけど、足りないな」
「ッ!?」
放たれた拳の衝撃波により、術に穴が出来る。
そこへ、加速魔法を使う事で突入。術を突破する。
同時に跳躍を重ね、一気に守護者へと間合いを詰める。
「なら……!」
―――“速鳥-真髄-”
―――“扇技・神速-真髄-”
―――“斧技・瞬歩-真髄-”
―――“剛力神輿-真髄-”
即座に守護者は自身に身体強化を重ね掛けする。
そして、二刀を構えて迎え撃つ。
霊術を放っても大して通用しないのなら、霊術は最低限で構わないと判断したのだ。
「はぁああっ!!」
「ッ……!」
パパパパパパパンッ!!
振るわれる二刀が、悉く優輝の手によって逸らされる。
逸らされた刀からは空気を切り裂く斬撃が飛び、音を鳴らす。
「(袈裟と薙ぎ、フェイントと共に切り上げ、振り降しに逆袈裟)」
優輝の思考は澄み渡り、守護者が振るう刀の腹を的確に拳で捉える。
刀が折れる程の衝撃はない。飽くまで軌道を逸らすだけに留まり、だからこそ守護者の攻撃が優輝を捉える事なく空ぶる。
―――“風車-真髄-”
「無駄だ」
「シッ!」
霊術が放たれる。
優輝は葵の力でレイピアを作り出し、振るう。
一撃目で風の刃と同じ斬撃を放ち、返す刀でレイピアを飛ばす。
レイピアの霊力を爆発させ、使い捨てる事で霊術を相殺する。
その隙に放たれる守護者の追撃だが、当然のように受け流される。
「っつぅ……!」
「ふっ……!」
受け流しが続き、ふとした瞬間に優輝の蹴りが繰り出される。
それを掠らせるに留める守護者だが、その際に距離を取り、隙を晒してしまう。
「っ……!」
そこへ追撃の掌底を当てようとする優輝。
守護者は障壁を張ってやり過ごそうとして……。
「転移……!」
優輝の転移魔法によって後ろに回り込まれる。
だが、守護者もそれに即座に対応する。
転移魔法を使用したと認識したのと同時に、刀を後ろに振るう。
ギィイン!
「ッ……!?」
その一撃によって掌底は打ち消される。
それでも刀の一撃を受け流され……再び転移魔法で回り込まれる。
「くっ……!」
―――“風車-真髄-”
「遅い」
「っつぁっ!?」
周囲に風の刃を繰り出す事で妨害を試みる守護者。
だが、優輝はいつの間にか上空で剣を創っていたのか、降り注ぐ剣によって術式ごとズタズタにされて風の刃は相殺される。
同時に、守護者へと障壁を張る間もなく掌底が叩き込まれた。
「……浅いか」
“タンッ”と、まるで軽く地面を蹴るかのように、先ほどの剣を足場に跳ぶ。
本来なら大して加速はしないはずだが、今の状態の優輝はそれでも爆発的に加速する。
「ッ……!」
―――“戦技・隠れ身-真髄-”
「……隠れたか」
守護者もまた、先ほどの一撃を無防備に食らった訳じゃない。
直前で後ろに跳び、威力を軽減していたのだ。
そして、すぐさま木々に隠れていた。
極光と瘴気がぶつかり合った場所の木々は枯れ果てている。
だが、そこも瘴気の残りが身を隠す場所となっていた。
「…………」
気配を周囲と同化させ、身を隠した守護者に対し、優輝は目を瞑る。
そして……。
「そこか」
「ッ……!?」
矢と、それに伴う五つの創造された剣が射出される。
それらは的確に守護者がいる場所を射貫く。
だが、肝心の守護者は矢を躱し、剣を弾いて無傷だった。
「……気配の同化。確かに身を隠す事に関してはこれ以上の方法はないだろう。だが、今の僕には通用しない」
「なっ……!?」
再び剣が守護者を狙う。
当たりはしないものの、身を隠しているにも関わらずに的確な射撃に守護者は動揺を隠せないようだ。
「……いくら気配を同化させても、空気の動きだけは隠せないぞ」
―――“呪黒剣”
ギギギィイン!
「ッ……!」
そう言って、優輝は黒い剣を守護者の足元に生やす。
同時に剣も射出し、守護者を炙り出す。
呪黒剣は跳躍で、射出した剣は刀に弾かれて無効化される。
「シッ!」
「っぁ!!」
そこへ、優輝が肉薄。
転移で背後に回り込むが、守護者も二度目は見切る。
―――導王流弐ノ型“瞬蓮”
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
「ッ……!」
ギィイイイン!!
守護者の全方位から優輝の拳が迫る。
脱力した上での衝撃を徹す重く鋭い拳。
一切の無駄がないその連撃に、守護者は障壁で対抗する。
刀で対処しようとした瞬間、その刀は逸らされ、手痛い反撃が繰り出される。
「ッ――――――!」
「はっ……!」
刀が振るわれ、それが受け流されて反撃が繰り出される。
それを障壁で受け止め、同時に術式を組み立て、霊術で攻撃する。
……が、それすら優輝は受け流す、または発動前に創造した剣で潰す。
さらには、その霊術の霊力を使い、同じ霊術で反撃する。
障壁はすぐに破られ、またもや刀の受け流しでの反撃が迫る。
守護者はそれを刀の腹で受け、同時に間合いを取った。
「瘴気を使おうとしているのなら、無駄だ」
「ッ……!」
守護者の持つ手札には、まだ瘴気があった。
だが、その瘴気が思ったように集まらない。
なぜなら、優輝が導標の神力を周囲に散布させ、瘴気を相殺していたからだ。
ギィイイイン!!!
「ッ……!」
「……」
即座に転移で背後に回り、貫手が繰り出される。
僅かな動揺を突かれたため、守護者は刀で防御するしかなかった。
「ふっ!」
キィインッ!
「はっ!!」
「ッッ!!」
もう一刀で守護者は優輝を切ろうとする。
だが、それは受け流しと跳躍によって躱される。
同時に、僅かに刀を弾く事で、振った刀を戻すのに時間をかけさせる。
そして、踵落としを優輝は放ち、それを守護者は腕で受け止める。
ギギギギィイイン!!
「ッッ……!」
「甘い」
―――“霊撃”
二刀が受け流され、自爆覚悟で守護者は霊術を放とうとする。
だが、その瞬間に一手早く優輝が手を打つ。
袖から落ちる一枚の御札から、衝撃波が迸る。
それにより、守護者が練っていた術式が瓦解する。
「ふっ!」
「っづ、ぁあっ!?」
そして、容赦なく、術式が瓦解した事で無防備になった胴へと、優輝の拳による衝撃波が叩き込まれる。
「っぐ……!」
吹き飛ばされ、地面を擦りながらも体勢を整えて着地する守護者。
「ッッ!」
ギィイイイン!!
間髪入れずに間合いを詰めた優輝の拳が、守護者の刀を捉える。
まるで今までの立場が逆転したように、守護者は追い詰められていく。
―――導王流弐ノ型“瞬連”
「ッ!」
ギィイン!
「遅い」
「っ、この……!」
ギィイン!
「真上ががら空きだ」
「ッッ―――!」
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
背後に回り一撃。刀に防がれる。
直後に正面に回り攻撃。これも、もう一刀で防がれた。
そして、さらに真上からの攻撃。……障壁で対処される。
「ふっ!」
「なっ……!?」
だが、それは“誘い”だった。
真上に意識が向き、障壁を張った瞬間。優輝はさらに転移魔法を使用。
再び正面に回り込み、掌底を放つ。
「ッ、ァ――――――!?」
そしてそれは、守護者の無防備な胴を捉えた。
―――決着は、目前だ。
後書き
極導神域…導王流の極意。ありとあらゆる攻撃を導き、受け流し、反撃に繋げる。技というよりは、形態のようなもの。弱点はなく、これを破るには動きに適応して上回るしかない。イメージとしてはDB超の身勝手の極意。
-反-…極導神域の時のみに出来る、魔法、霊術に対するカウンター技。今回の場合、霊術を受け流すと同時にその霊術の霊力を掠めとる。そして、その霊力で同じ術式を返す。使用するエネルギーの分、威力は落ちる。
瞬連…縮地などの距離を詰める動作、技などを連続で使用する。並の者が見ればあたかも瞬間移動を繰り返しているように見える。なお、転移魔法でこれを行う事も可能。
穿撃…拳を振るった際の衝撃波で対称を穿つ技。導王流弐ノ型の技を開発中、その傍らで習得した技。シンプル且つそれほど威力は高くないが、今回の状況では十分な威力を誇る。
今までのご都合主義が割と伏線になっています。
「なんでこの土壇場でこんな事ができるんだ」っていうのは、今回の伏線に繋がってきます。
尤も、その伏線の完全な回収は最終章になりますけど。
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