タルバガン
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第三章
「御免、エルヒーさんが今射るなんて」
「知らなかったのか」
「本当に御免なさい」
「いや、いい」
エルヒーは弓が得意なだけでなくとても心優しい人でした、ですから燕のことも許したのです。
「君が通ってもだ」
「矢はなんだ」
「当ててみせるのが本当の名人だからな」
こう言うのでした。
「だからいい、しかし誓いを破ったのは事実」
「それはもういいんじゃ」
「そうだ、今のは仕方ない」
「誰も悪くないじゃないか」
「あんたも燕を許したんだし」
「いや、誓いは守るものだ」
エルヒーの心は変わりませんでした。
そしてその誓い通りにです、彼は自分の親指を切ってしまいました。こうして指が四本になりそうして自分の姿を変えましたが。
それは地面に穴を掘ってその中で住む胴が長く丸い頭の生きものでした、彼はその姿になって自ら名乗りました。
「これからはタルバガンと名乗ろう」
「タルバガンか」
「それがあんたの名前か」
「これからのあんたの名前か」
「そうだ、この姿で生きる」
これからはというのです。
「そして最後に残った太陽を見よう」
「射落とせなかった太陽をか」
「最後の一つを」
「そうしよう、考えてみれば太陽も一つもないとな」
それならそれでというのです。
「世界はいつも夜だ」
「それじゃあ何も出来ないよな」
「暑過ぎるのも問題だけれど」
「夜ばかりでもな」
「やっぱり大変だよな」
「今までは夜は殆どなかった」
何しろ七つの太陽がお空にあって飛んでいたのですから。これでは夜の時間が少なくなってしまうのも当然です。
「しかしこれからはな」
「一つになったので」
「だからだな」
「夜の時間も増える」
「そうなるか」
「そして夜ばかりでもなくなる」
太陽は一つになりましたがまだお空にあるからです。
「それならいい、私はもう何もしない」
「そしてタルバガンとしてか」
「これからは生きるんだな」
「そうしよう」
こう言ってでした、エルヒーはタルバガンに姿を変えてでした。
その四本の爪で穴を掘ってその中で暮らす様になりました、そして一つだけ残った太陽は助かったにしても自分を射落とそうとしたタルバガンを心底恐れる様になり。
タルバガンが起きて穴から顔を出すとすぐにお空から身を隠す様になりました、こうして世界は昼と夜の区別がはっきりとしたものになり昼と夜の時間も均等になりました。タルバガンは夜に活動する様になりお昼は寝ている様になりました。これが今私達がモンゴルマーモットと呼んでいる生きものと昼と夜のはじまりです。
タルバガン 完
2018・4・19
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