レーヴァティン
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第六十三話 天津神の場所でその九
「それでな」
「船を出せないか」
「そうなんだよ」
「どんな魔物だ」
「あやかしだよ、知ってるか?」
「あやかし。いくちか」
英雄はこの呼び名で応えた。
「あの魔物か」
「ああ、知ってるよな」
「やたら長くて油の多い妖怪だな」
「それで船の上を通り過ぎる習性があるんだけれどな」
猟師は英雄に応えあやかしの習性を話した。
「そこから油が落ちるんだけれどな」
「油があまりに多くてな」
「船がその重みで沈められるんだよ」
「そのあやかしが出たからか」
「今は船を出せないんだよ」
「そうか」
「あやかしを何とかしないとな」
猟師は溜息混じりに言った。
「幸い漁の場には出ないけれどな」
「志摩にはか」
「丁度出て来てるんだよ」
その航路にというのだ。
「あやかしがな」
「それでか」
「ああ、志摩に行くのは今は無理だ」
そうした状況だというのだ。
「あやかしがいなくなるまでな」
「そちらに行くには陸か」
「それで行くしかないんだよ」
今現在はというのだ。
「残念だけれどな」
「わかった、しかしな」
「しかし。何だい?」
「あやかしを倒しはしないのか」
英雄はその目をやや鋭くさせて漁師に問うた。
「去るのを待っているだけの様に見えるが」
「ああ、だからあやかしは油出すだろ」
「船を沈める位多くな」
「その油を摂ってもいるんだよ」
「油をか」
「この油が色々と使えるからな」
生活用の油、それになるというのだ。
「だからな」
「それでか」
「倒さずにな」
「油を受けてか」
「こっちまで運ぶこともしているんだよ」
「そうしているか」
「ああ、だからな」
あやかしは倒さずにというのだ。
「油も貰ってるんだよ」
「成程な」
「これも知恵だよ」
猟師は笑ってこうも言った。
「船が沈むだけの油が出るならな」
「その油を手に入れてか」
「使ってやらないと損だよ」
「魚の油も色々と使えますからね」
謙二が漁師の言葉に頷いて言ってきた。
「暮らしに」
「そうそう、お坊さんもわかってるな」
「はい、夜の灯りにもです」
これにもというのだ。
「使えますので」
「だからだな」
「はい」
わかるとだ、謙二は漁師に答えた。
「ではあやかしが出る間は」
「油取りに専念だ」
「だからか」
「あやかしが消えるまでな」
何処かに行ってしまうまではというのだ。
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