戦国異伝供書
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第三話 万石取りその七
「それは効かぬぞ」
「松永殿に関しては」
「そうじゃ、天下の大悪人じゃ」
これまでの所業を見れば間違いないというのだ。
「だからな」
「あの御仁は」
「必ずじゃ」
「大和攻めの時は」
「大和全土を織田家のものにするが」
「あの御仁は」
「何があってもな」
滅ぼすというのだ。
「信貴山城を奴の墓場にするわ」
「そうせよ、わしも牛助殿達と共に伊賀を攻める」
柴田がここでまた言ってきた。
「そうしてな」
「あの国をですな」
「織田家の領土にするがしかしな」
ここでこうも言った柴田だった。
「六角家はともかくのう」
「問題は大和のあの男じゃ」
「まあ一度お話をするのもいいのでは」
「だから言っておろう、あの者だけはならぬとな」
一度と言う羽柴にこう返す柴田だった。
「そう言って近寄ってきた者を背中から切る奴ぞ」
「そうでしょうか。果たして」
「とかくあの男だけはならん」
絶対に殺さなくてはならないと言うのだ、このことは織田家ば無事上洛しいよいよ四方に勢力を拡げようとする時も同じだった。滝川は大和に勇んで出陣する時に兵達に言っていた。
「よいか、これより大和攻めであるが」
「はい、降るものは迎え入れる」
「しかしですな」
「松永弾正だけは」
「あの者だけは」
「切れ、その首を取った者への褒美は思いのままぞ」
まさにというのだ。
「だからじゃ。よいな」
「はい、わかりました」
「それではです」
「我等は是非です」
「あの者の首を取ります」
「あの天下の大悪人の首を」
是非にと言ってだ、そうしてだった。
兵達も勇んで松永を討たんとしていた、そして松永も逃げられぬと見て戦うと思っていた。だが織田家が見事手に入れるつもりだった国々を全て手に入れて一旦都に戻ってからだった。
自分達と同じ青い服を着るその者にだ、彼等は剣呑な目を向けて問うていた。
「どういうおつもりか」
「当家に入られるなぞ」
「そのお考えは如何に」
「ははは、もうそれがしも大人しくしようと思いましてな」
その男松永久秀は自分に剣呑な目を向ける彼等に明るく笑って応えた。
「それで、です」
「当家に入られたか」
「はい」
林にもこう答えた。
「左様であります」
「貴殿のことは知っておる」
林は今松永の前にいる織田家家臣衆の中で第一の座にありその立場から松永に対して言った。
「公方様を弑逆し三好家に背き大仏殿を焼いた」
「そのことについてですか」
「全てな」
「領内での政も惨いと聞いておる」
今度は生駒が言ってきた。
「それだけの悪逆をしながらも織田家に入られるか」
「当家は民は大事にする」
信長の善政をだ、万見は言った。
「虐政を行うなぞもっての他ぞ」
「お主、ことと次第によってはじゃ」
前田は今にも腰の刀を抜かんとしている。
「この場で死んでもらうぞ」
「若し何かすれば」
前田と並んで織田家で血の気が多い者として知られている佐々も言ってきた。
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