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真田十勇士

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巻ノ百四十六 薩摩入りその十

「拙者はこれ以上はないまでに幸せな者じゃ」
「大助様も立派になられた」
「だからですか」
「そう言われますか」
「その様に」
「うむ、お主達がいて武士道を歩めてじゃ」
 そしてというのだ。
「あの様な見事な息子までおる、だからな」
「今の様に言われましたか」
「これ以上はないまでに幸せ者だと」
「そうなのですな」
「そうじゃ、家臣であり友であり義兄弟であるお主達がいてな」 
 そしてというのだ。
「あの様な息子がおる、しかも武士道を歩めておる。約束も果たせたしな」
「関白様とのそれも」
「そのことも出来た」
「それ故に思われたのですか」
「今の様に」
「心からな、悔いはない。しかし死ぬつもりもない」
 幸村は十勇士達にこうも語った。
「それは何故かはわかるな」
「はい、我等十一人生きるも死ぬも同じ」
「義兄弟として友として」
「死ぬ時と場所は同じです」
「だからこそ」
「そうじゃ、右大臣様に勝って帰ると約束した」
 ほかならぬ幸村自身がだ。
「そうした、ならばな」
「次の戦でもですな」
「死なずにですな」
「駿府から勝って帰って」
「そうしてですな」
「そうじゃ、全員生きて帰ってじゃ」
 そうしてというのだ。
「右大臣様に勝ったと申し上げるぞ」
「では、ですな」
「駿府の戦が最後になろうとも」
「それでもですな」
「我等は死なぬ」
「決して」
「その通りじゃ、絶対に死んではならん」
 幸村の言葉は澄んでいた、何処までも。
「わかったな」
「承知しております」
「何があろうとも生きて帰りましょうぞ」
「それも笑って」
「勝ったと右大臣様に申し上げましょう」
「そういうことじゃ、我等が死ぬのは駿府ではない」
 主従十一人が共に死ぬ時と場所はというのだ。
「ではな」
「駿府で思う存分戦いましょうぞ」
「後藤殿、長曾我部殿、明石殿と共に」
「大助様も交えて」
「十五人か、一騎当千の者達が」
 ここでまた笑って話した幸村だった。
「これ以上はないまでの陣営じゃ、ではな」
 幸村はここまで行ってだった、今は話を止めて再び鍛錬をはじめた。薩摩での暮らしは平穏なものだった。
 だが夜空を見てだ、彼は十勇士達に苦い顔で述べた。
「よくない、そろそろな」
「まさか」
「まさかと思いまするが」
「大御所殿が」
「うむ、大きな将星が落ちようとしておる」
 幸村にはわかった、今その星が空から落ちようとしているのが。それで共に夜空を見ている十勇士達にも話すのだ。 
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