真田十勇士
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巻ノ百四十六 薩摩入りその七
「そしてそのうえで」
「我等ともですな」
「こうしてお話をして頂けますな」
「何かと」
「そのつもりです」
こう話した、だが。
ここでだ、幸村はこうも言った。
「ですが暫しです」
「暫し?」
「暫しといいますと」
「少しですが」
それでもと言うのだった。
「薩摩から出ることになります」
「それは何故」
「何処に行かれるのですか」
「薩摩を出られるとは」
「それでは」
「それは言えませんが」
しかしというのだった。
「それでもです」
「暫しですか」
「薩摩を出られ」
「そしてですか」
「そのうえで」
「はい、やるべきことを果たしてきます」
まさにというのだ。
「そうしてきます」
「左様ですか」
「そうされるのですか」
「はい、しかし必ずです」
幸村は島津家の者達に強い声でこうも言った。
「それがしは帰ります、薩摩に」
「左様ですか、それでは」
「その時はまた飲みましょう」
「そしてそのうえで」
「楽しく過ごしましょうぞ」
「では」
幸村もこう応えた、そしてだった。
幸村は今は島津家の者達とも酒を楽しんだ、そうして秀頼は家久の下に辿り着いた。ここでだった。
家久は秀頼にこう言ったのだった。
「ではこれからは」
「この薩摩でな」
「お暮し下され、しかし」
「余の名はじゃな」
「はい、何か適当な名を名乗られて」
「豊臣の名はじゃな」
「隠して下され、酒も食いものも常に用意しますし」
家久は秀頼にさらに話した。
「銭もです」
「それもか」
「どの店にもお入り下され」
「店にもか」
「はい、何を買われて食されても銭はこちらで払っておきますので」
そうするからだというのだ。
「ですから」
「そうしたこともか」
「世のことは何も」
それこそ一切というのだ。
「気に病まれずに」
「暮らせばよいか」
「はい、何の憂いも悩みもなく」
「この薩摩でじゃな」
「お過ごし頂ければ」
「わかった、余は死んだことになっておる」
秀頼は家久に全てを理解し受け入れた顔と声で答えた。
「ならばな」
「その様にですな」
「生きよう、この薩摩でな」
「後のことは何のご心配もなく」
「過ごすとする、死ぬまでな」
「それでは」
「それは国松もじゃな」
「いえ、国松様はどうも」
秀頼の子である彼についてはだ、家久は小声になり話した。
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