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空に星が輝く様に

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314部分:第二十三話 嫉妬と憤怒その八


第二十三話 嫉妬と憤怒その八

「人が人食う話か」
「はい、ですから」
「何かそういう話って多いんだな」
 陽太郎は月美の話を聞いて腕を組んで考える顔になった。
「純文学に見えても」
「そうですね。純文学でも怖い作品は怖いですし」
「何か芥川の歯車あるじゃない」
「あの作品ですか」
「あれこの前読んだけれどさ」
 月美に顔を向けて話す。月美も彼に顔を向けているので向かい合った形になった。
「あれもさ」
「あの作品は確かに怖いですよね」
「ドッペルゲンガー出てるし」
 作者である芥川自身のだ。もう一人の自分である。
「作品の雰囲気全体が何か」
「芥川が自殺する直前ですから」
「だからああした作品になってるんだ」
「そうなんです」
「あれはホラーに入るのかな」
「どうでしょうか。難しいかも」
「だよなあ、どうなのかな」
 陽太郎がこう言うとだった。月美が話してきた。
「分類しにくい作品ですよね」
「確かにな。それでだけれど」
「はい、それで」
「そろそろ出口かな」
 歩いている時間が結構長くなっているのを感じ取っての言葉だった。
「それは」
「はい、そろそろだと思います」
「何か思ったより長かったな」
「教室の中をわざと曲がりくねって作りましたから」
「椎名の独り言通りにしてか」
「それでなんです」
「成程な。ああ、見えてきたよ」
 出口がである。光が見えてきたのだ。
 陽太郎はその光を見てだ。笑顔になった。
 それで外に出ようとする。しかしだった。
「わっ!!」
「!!!」
 何とだ。出口の前でいきなりあるものが出て来た。それは標本模型だった。
 人体のものである。右半分が肉や内臓になっていて左半分が皮になっている。よく理科の教室に置いてある、あれが出て来たのである。
 それを見てだ。陽太郎は月美を咄嗟に自分の後ろに庇ってだ。それから声をあげた。
「な、何だよ急に!」
「あっ、成功したよ」
「やったな」
「やっぱりこれって効くよな」
「最後の最後だしな」
 そしてだ。その出口からこんな声が聞こえてきたのだった。見ればだ。  
 四組の面々だった。彼等が笑いながら出て来て言っていた。
 そしてだ。陽太郎の後ろにいる月美に気付いてだ。
「あっ、西堀さんだったんだ」
「これが有名な彼氏?」
「成程ねえ」
「お化け屋敷でのデートだったのね」
「妬けるわねえ」
「全く」
「そんな問題じゃないだろ」
 月美を見てそれぞれ言う彼等にだ。陽太郎が少し怒った顔で返した。
「全く。最後の最後でこれかよ」
「そうだよ、油断した時にね」
「こうして攻める」
「どう?効くでしょ」
「驚いたでしょ」
「心臓が止まるかと思ったよ」
 陽太郎はこう言って抗議する。
「本当にな」
「うんうん、その言葉こそがね」
「お化け屋敷やってる醍醐味っていうかね」
「それでいいのよ」
「くそっ、じゃあ俺は引っ掛かったのかよ」
 それがわかってだ。陽太郎は今度は口を尖らせた。
 
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