空に星が輝く様に
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306部分:第二十二話 文化祭その十一
第二十二話 文化祭その十一
「それなら」
「じゃあ月美、これ食ったらな」
「は、はい」
「行こうぜ」
こう月美にも言う。月美は戸惑いながら彼の言葉に応えた。
「わかりました。デートですね」
「ああ、二人で楽しもうな」
「わかりました。それでは」
「何かいい感じになってきた」
椎名は紅茶を啜りながら呟くようにして述べた。
「とてもいい感じ」
「何か御前に乗せられてる気がするけれどな」
「実際にそうしてる」
このことを隠さない。最初からその素振りさえ見せない。
「けれど気にしない気にしない」
「何か適当にも聞こえるな」
「私はつきぴーが幸せになることを願ってるから」
「俺は?」
「その次」
考えてはいるというのである。しかし優先順位ははっきりとさせている。
「その次に願ってる」
「そうなのか」
「私、ずっと友達いなかった」
椎名は過去の自分についての話もはじめた。
「けれどつきぴーと会ってそれができて」
「何か随分月美を大事にしてると思ったらそれでか」
「うん。つきぴーも私を大事にしてくれるし」
「私も」
月美もここで言ってきた。
「愛ちゃんと会うまでずっと友達なんていなかったから」
「はじめてできた友達。そして親友」
「うん、本当に」
「何よりも換え難いものだから」
「私も。やっぱり愛ちゃんのことは」
「二人共似てるんだな」
陽太郎は二人の話を聞いていてだ。このことに気付いたのだった。
「外見は全然違うけれど。中身はさ」
「似てる」
「そうですか?」
「芯強いし」
その芯の強さをそれぞれの言葉から感じ取ってだ。そうしての言葉であった。
「しっかりしてるしな」
「そうかも知れない」
椎名は陽太郎のその言葉を認めた。
「それは」
「そう思うんだな」
「だから親友になれた。けれど」
「けれど?」
「お互い持っていないものをそれぞれ持ってる」
これは椎名が気付いたことである。
「だから余計に」
「そうなってるか」
「多分。じゃあとにかく」
「ああ、そうだな」
「校内デート行って来て」
こう話してだった。二人は席を立ってだった。
そのうえでデートをはじめた。それは二人水いらずのもので同時に二人の仲を校内に知らしめるものだった。そしてそれはだ。星華の目にも入っていたのだった。彼女の心にも。
そしてだ。星華はいつもの三人とだ。お化け屋敷の裏方をしながら言うのだった。
「こうなったら」
「どうするの?」
「一体」
「見てらっしゃい」
怒りに満ちた言葉でまた話す。
「目にもの見せてやるから」
「目にものって」
「一体」
「あいつ、絶対に許さない」
無意識のうちに右の親指の爪を噛んでいる。そのうえでの言葉だった。目は血走り何か得体の知れないものもそこにはあった。
「もう、徹底的にやってやるから」
「あの、星華ちゃん」
「ちょっと」
三人はそんな彼女に気付いてだ。戸惑いながら声をかけた。
「ここはね」
「落ち着いてね」
「わかってるわよ」
言葉ではこう返しはした。しかしであった。
親指の爪を噛み目を血走らせたまままた言う。
「斉宮はね」
「そうよね、好きなのよね」
「だったら」
「何があっても言うから」
最早周りは何も見えていなかった。
「それで。絶対に」
「アタックしてね」
「何があっても」
「振り向かせてみせる」
強い決意だけはあった。
「何をしてでも」
「ううん、それはいいわ」
「そうね」
三人は今の星華に不吉なものを感じた。それで言葉が弱くなっていた。
しかしである。星華はまだ言うのだった。
「斉宮は私のものだから」
こう言ってであった。彼女は周りが完全に見えなくなっていた。そしてそれがだ。彼女自身を奈落に落としてしまうことになるのであった。
第二十二話 完
2010・9・24
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