獣篇Ⅲ
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39 夢か現(うつつ)か
辺りは真っ暗である。だが遠くの方に、幽かな灯りが見える。それは段々近づいてきて、輪郭がはっきりしてきた。それは、…赤ん坊を抱えた私の姿だ。だがよく見ると、瞳の色が違う。…群青色である。それはつまり、私である。
私が抱いている赤ん坊は、同い年くらいの女の子と男の子である。女の子の方は群青色がかった銀髪に、深翠色の瞳。男の子の方は、紫がかった黒髪に、碧翠色の瞳。
どうやら双子は両親の特徴を半分ずつ譲り受けたらしい。
何か言おうと口を開くも、なぜか声が出ることはなかった。ただ口をパクパクさせているだけである。
私もまた、沈黙を貫いたままである。ただ、その瞳には悲しみの色が映っている。
_「 」
彼女が何か言ったが、何も聞こえなかった。私は私に近づいて来たので、私は手を双子に伸ばしたがそれを掴もうとすると、するりと宙を掴むのみ。双子まで一緒になって瞳に悲しみの色を浮かべていた。彼らはまだ赤ん坊なのに、なぜそんな表情をするのだろう。
_「 」
またもや何か、私は言う。そこで目が覚めた。
目を開けると、目の前に晋助の顔があった。大丈夫か?と優しく私に尋ねる。大丈夫、きっと。と言って、起き上がった。
_「今日は、…処刑日?」
暫くの沈黙の後、晋助は渋々と言うように口を開く。
_「あァ、そうだ。だが…こんな状況のお前を、あんな…ところに行かせるわけにはいかない。」
なぜ? と尋ねる。
_「そりゃァおめェ…」
私の手を取って、言葉を続ける。
_「子を宿したお前を、わざわざ死ににいかせるわけにはいかねェさ。」
だからお前は部屋にいろ。とだけ残し、晋助は部屋を去った。晋助が居なくなったのを確認してから、おもむろに起き上がり、机を布団まで持ってきて、その上で書類を整理することにした。ついでなので、トランシーバーで状況も確認しておこう。
***
_「者共、よく見ておけェ!これな謀反人の末路だ!我に仇なすは元老に、元老に仇なすは春雨に仇なすことと同じ。これなる掟を軽んずれば、鉄の軍団も烏合の衆と成り果てる。…神威よ、何か言い残すことはあるか?」
_「それじゃあ、1つだけいいですか?」
_「うんむ。」
_「アホ提督ぅ~」
_「殺れェェッ!ぶっ殺せェェッ!」
_「まァ待てよォ。阿保提督。ソイツァ、オレに殺らせてくれねェかァ?」
_「ん?」
_「残念ながら、サシの勝負とやらはしてやれなかったが、介錯くらいは務めてやらねェとなァ。」
_「オレがアイツにしたら、ヤツも殺れ。」
トランシーバーで、晋助が狙われていることを告げる。なんだ、聞いてたのか。と言われたので、当たり前だ、スパイをなめんな、と言うとふと笑う声がした。
_「こんなおんぼろ船に乗り合わせちまったのが運の尽きだったなァ。お互い。」
_「アンタもオレの行く先が一緒だと?地球の喧嘩師さん?」
_「さァな?少なくとも観光目的じゃねェのは一緒だ。」
_「観光ダヨ。地獄巡りだけど。」
_「ククク)違いねェ。」
金具が斬られた。
_「せめてェ、地獄で眠りなァ…おんぼろ船の船員共よ。」
_「な、何ィィッ!?」
_「だから言っただろ?あれは呪いの博打だ、って。どっちが先に死ぬかなんて言ったけどケド、二人一緒に死ぬつもりかい?」
_「どうせ踊るなら、アホとよりとんでもねェアホと踊った方が面白れェだろうよォ。」
_「ククク)やっぱり面白いねぇ、侍って。」
_「高杉ィッ!貴様らはすでに用済みの道具。宇宙の塵にしてくれるわァァッ!」
_「用済みなのは、テメェらだよォ。言っただろォ?介錯はオレが務めるってよォ。この刑場においてェ、処刑執行人はオレただ1人。ここは、テメェら全員の首斬り台だァッ!」
あちゃー、こりゃ大変なことになったぞ。だが私は、真選組宛のレポートを書かなくてはならないので、プリントを引っ張り出して、下書きを始めた。
***
三時間後、船が騒がしくなり始めたので、そろそろ鬼兵隊のご帰還だろう。
レポートは先ほど書き終えたので、今は、これから三ヶ月以内に鬼兵隊が起こすテロの⅔ の詳細について、まとめている。そうこうするうちに、晋助が帰って来た。
_「よォ。具合はどうだ?零杏。」
視線を、晋助に合わせる。
_「ええ、大分。ところで。お疲れ様、晋助。神威の具合はどうだった?」
_「…まァ、無事だ。」
_「そう。良かったわ。結局阿保提督はどうなったの?」
彼が、畳の上に腰かけて答える。
_「あァ。…死んだよ。逃げようとしたところを爆破されてなァ。ククク)哀れなもんだぜ?」
_「そう。あ、お茶いる?」
_「あァ。すまねェ。」
_「冷たいのがいいかしら?」
_「あァ。頼む。」
冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注ぐ。はいどうぞ、と渡すと、美味しそうに飲んでいた。
_「で、お前は何してたんだァ?」
手元のレポートを見られる。
_「え?仕事。」
_「仕事?」
_「ええ。真選組監察方としての、だけど。」
_「…テロのやつか?」
_「まァ、そういうことになるわね。だって私、これでも一応真選組隊士だから。一応仕事はしないと。だからあなたたちの邪魔にはならない程度に、テロを防止してるのよ。なんて国民思いなんでしょ。」
ニヤニヤして晋助を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ちょっとせいせいする。
_「…子どもを産むまではこの船から出してやらねェ。覚悟しろ。」
だろうな、とは思ってたけど。
_「ハイハイ。どうせこの状況では逃げられないでしょうよ。それくらい無駄なことだって分かってるわ。私、そこまでバカじゃないもの。」
_「わかってんならいい。」
と、不貞腐れた顔をしていたので、ついニヤニヤしてしまった。
_「大変ですねぇ、総督様?www
あ、そうだ。お風呂入る?入るならお風呂沸かすけど。」
_「いや、オレが沸かそう。」
おお!やるじゃない。www
よっ、アマチュア家事職人!www
_「え?してくれるの?」
_「…あァ。やってやらァ。」
_「ありがとう。では、お言葉に甘えて。お願いします。(*´・ω・`)b」
と言うと、晋助はお風呂場に消えていった。
***
所々特ダネを盛り込みながらしばらく手元のレポートを書き進めていると、30分後くらいしてから晋助が上がってきた。
_「オイ、零杏。お前、風呂いいぜ?入れるか?」
あらまー、なんか素敵な殿様が目の前に。
_「切りの良いところまでやったら入るわ。ありがとう、晋助。」
優しく微笑むと、晋助は煙管に刻み煙草を詰め始めた。
そういえば、と晋助が口を開く。
_「お前、レポート書いてるとか言ってただろォ?ちょっと見せてみろや。」
え?
_「…いやいや、多分あなたが見ても何も分からないと思うけど、一応見せてあげるわ。」
私の肩に腕を回して、私を抱き締めながらそのレポート見ていた。
オイ、結構特ダネが多いじゃねェか。と隣でブツクサ言うので、軽く頭突きしてやった。痛ェ、何しやがる。と、彼はこちらを睨み付けた。仕方ない。ここは上手くあやしてやろうではないか。
_「晋助、レディのプライバシーをそんなに覗いちゃいけないわ。私だから許してあげるけど、他の女性にはしちゃだめよ。」
_「大丈夫だ、オレはお前のしか見ねェ。特に、他人のプライバシーなんぞ興味ねェ。」
心のなかで黄色い歓声をあげる。
_「…そう。ま、いいけどね。」
あ、そうだ。と話を変える。
_「土曜日に、江戸に用があるんだけど、誰か付き添いで来てくれないかしら?」
晋助の眉毛が、ピクリと動く。どうやら、ご機嫌が麗しくないようだ。
_「ああ゛ァ?江戸に用だァ?」
_「ええ。今度真選組に顔を出さなきゃいけなくなって。あと、ついでに買うものがあるから。そして、私が外に出る時は、付き添いをつけた方がいいのかな?って思ったのよ。独りで行ったら怒られるでしょう?」
暫く難しい顔をして黙りこんでいたが、ふと顔を上げていいぜェ。と言った。付き添いは?と聞くと、当たり前ェだ。と付け加えられた。
_「その日は確か、オレは空いてたから、オレがついていく。」
_「ならば安心ね。こんな立派な殿様が側に付いてくださるのですもの。」
でもね、と話を続ける。
_「あなたには、変装をしてもらうわ。連れがテロリストってバレたときが怖いもの。いいでしょう?」
苦虫を噛み潰したような顔をした。
_「…いいぜェ。乗ってやらァ。」
ありがとう、旦那様?と言うと、むっつりしながらも鼻の下が伸びていた。よほど旦那様が嬉しかったらしい。
_「そうだ。私晩御飯の前にお風呂に入ってきていいかしら?」
_「あァ。」
じゃあ後でね、と言って支度がすんでから、私はお風呂に向かった。
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