英雄伝説~西風の絶剣~
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第51話 行動開始
side:リィン
武術大会が終わった後、俺はフィーとラウラを連れてグランアリーナ入り口の広場でエステルさんたちを待っていた。
姉弟子たちは打ち上げの場所を探しに向かいドロシーさんも写真を現像するために工房に向かった為一緒にはいない、アルバ教授は知らないうちに姿を消してしまっていたのでどこに行ったのかは分からない。一言声をかけてくれても良かったんじゃないのかとは思ったがフィーが怖がるのでまあいいかと自己完結した。
「あ、リートくーん、皆ー」
グランアリーナ入り口からエステルさんたちが出てきた、俺たちを見つけたエステルさんは手を上にあげて振りながらこちらに向かってきた。
「エステルさん、優勝おめでとうございます」
「ん、すっごくかっこよかったよ」
「うむ、手に汗握る白熱の戦いだった、この試合を見れただけでもリベール王国に来た甲斐があったというものだ」
「えへへ……きっと優勝できたのは皆があたしたちの勝利を信じてくれたからよ。だからあたしからもお礼を言わせて頂戴、ありがとう」
エステルさんからお礼を言われて俺は彼女たちに協力して良かったと思った。
「やあリート君、僕の活躍はどうだったかな?」
「オリビエさん、見直しましたよ。まさか自分を囮にしてロランス少尉の動きを鈍らせるなんて行動を取るとは思いませんでした」
「あはは、流石に痛かったけどね。なんだったらリート君が慰めてくれてもいいんだよ?」
「謹んでお断りさせていただきます」
オリビエさんの誘いを笑顔で断った俺は次にジンさんに話しかけた。
「ジンさんもお疲れさまでした、泰斗流の数々の技を見せてもらいましたがどれも素晴らしい技でした」
「……気に入らんな」
「ジンさん?」
ジンさんが何かボソッと呟いた気がするが俺には聞こえなかった。
「ん?ああ、すまないな。少し考え事をしていたもんでな」
「いえ、俺は気にしていませんが何か思う事があるんですか?」
「いやそんな大したことじゃないさ。それよりも晩餐会ってのは今夜あるみたいだな、けっこう遅くまでやるらしいから部屋も用意してもらえるらしいぞ」
「お城に泊まれるんだ、なんか羨ましいかも」
ジンさんは話を切り替えて晩餐会に付いて話し出した、少し気になるが本人が話をしないという事は話したくないことなのだろうから気にしない事にした。
それにしても晩餐会か、猟兵である俺には一生縁の無い話だな。精々お偉い貴族の護衛で付き添える可能性がある位だが行きたいと思う訳でもないしな。フィーはグランセル城の内部が気になるのかちょっと羨ましそうだ。
「しかし晩餐会ね~……そういう席に行った事ないからちょっと緊張してしまうわね。テーブルマナーとかあたし分かんないんだけど大丈夫かしら?」
「大丈夫さ、エステル君。食事という物はまず楽しむことが基本だからね、あまりそういう事を意識しすぎてしまうと折角の宮廷料理の味も楽しめなくなってしまうよ?」
テーブルマナーを気にするエステルさんを以外にもオリビエさんがフォローした。まあ前に一緒に食事したときに勝手に貴重なワインを飲んだ人が言うと説得力があるな、その後捕まったけど。
「あんたからすればプレッシャーもあって無いようなものよね」
「ハッハッハッ。それでは行こうじゃないか、僕たちをもてなしてくれる愛と希望のパラダイスにっ!」
オリビエさんが高笑いしながらグランセル城に向かおうとした、だがその前方から凄まじい怒気を纏った男性がこちらに向かって歩いて来ていた。
「オリビエ、ようやく見つけたぞ。貴様という奴は本当に俺を怒らせる天才だな……」
「ハッ、君は……!」
その男性とはグランセルに来た一日目に出会ったミュラーさんだった。彼はオリビエさんの昔からの知り合いのようでオリビエさんの奇行に巻き込まれ続けている苦労人でもある。
「毎日毎日、ふらりと出かけて何をしているのかと思えばまさか立場も弁えずに武術大会に参加していたとは……」
「や、やだなぁ、ミュラー君。そんなに怖い顔をするものじゃないよ、笑う門には福来るって東方の言葉もある位だしね、ほら、スマイルスマイル♡」
「誰が怖い顔をさせているかッ!!」
いつもの調子でのらりくらりとしているオリビエさんをミュラーさんが凄まじい表情を浮かべながら一喝した。その光景を見てエステルさん、ヨシュアさん、ジンさんはポカーンとしていた。
「……おっと、初対面の方々もいたな。お初にお目にかかる、自分の名はミュラー。先日、エレボニア大使館の駐在武官として赴任した者だ、そこのお調子者とは昔からの知り合いでな」
「いわゆる幼馴染というヤツでね、いつも厳めしい顔だがこれで可愛い所もあるのだよ」
「い・い・か・ら・だ・ま・れ!」
「ハイ……」
茶々を入れてきたオリビエさんをミュラーさんは再び黙らせた。何というかオリビエさんと昔から一緒にいると思うと可哀想に思えてきたな、多分ずっとこんな調子なんだろう。
「コホン、失礼した。どうやらこのお調子者が迷惑をかけてしまったようだな、帝国大使館を代表してお詫びする」
「あ、ううん……迷惑って程じゃないわ。試合ではオリビエの銃と魔法にはずいぶん助けられちゃったし……」
まさか謝罪されるとは思っていなかったらしくエステルさんも困惑していた。だって普段はオリビエさんにツッコミを入れるエステルさんがフォローしているくらいだからだ。
「というかオリビエさん、武術大会に出ることを大使館に隠していたんですか?」
「ハッハッハッ。別に隠してはいないさ、言わなかっただけだよ♪」
ヨシュアさんの質問にオリビエさんは悪びれる事なく言い切った。いや、それは隠していたと言うんですが……
「ぐっ、まあいい……過ぎた事を言っても仕方ない、とっとと大使館に戻るぞ」
「へ……?ちょ、ちょっと待ちたまえ。僕たちはこれからステキでゴージャスな晩餐会に招待されているんですけど……」
「ステキでゴージャスだから猶更出られると困るのだ、お前にはしばらくの間大使館で謹慎してもらうぞ」
「……マジで?」
「俺は冗談など言わん、それはお前が一番よく知っているだろう?」
「そ、そんな殺生な~……晩餐会だけを心の支えにここまで頑張ってきたのに……」
オリビエさんはミュラーさんの足にしがみ付いて必死に悲願する、だがミュラーさんは知った事かと言わんばかりに無視を決め込んでいた。
「さ、流石にちょっと可哀想じゃない?」
「晩餐会に出席するくらいは構わないんじゃないのか?」
「何か理由でもあるんですか?」
流石に見ていられないと思ったのかエステルさんとジンさんがフォローしてヨシュアさんが晩餐会に出させない理由をミュラーさんに尋ねた。
「君たちもコレとそれなりに接しているのならこいつがどんな奴かは分かっているだろう?想像してみたまえ、王族が主催する各地の有力者が集まる晩餐会……そこに立場も弁えず傍若無人に振舞うお調子者が出席してみろ、それが帝国人だと分かった日には……くっ、想像もしたくない」
「それは………」
「確かに………」
「大問題になるな……」
ミュラーさんの言葉にエステルさんたちは安易に想像できたのか言葉を失ってしまっていた。
「ちょ、ちょっと皆さん?どうして「あ、確かに」みたいな納得した表情を浮かべているんですか?」
「……ごめん、オリビエ。ミュラーさんの心配はもっともだわ」
「流石にリベール王国の有力者が集まる晩餐会でいつものノリは拙いですよね」
「うーむ、国際問題にも発展しかねんなぁ」
「うわ、掌を返すようにっ!?」
さっきまでフォローしてくれていたエステルさんたちのまさかの裏切りにオリビエさんが驚愕していた。
「リ、リート君!フィル君!ラウラ君!君たちは僕の味方だよね!?」
「すみません、俺は全くフォロー出来ません。なにせあなたのせいで一回牢屋に入れられていますから」
「ごめん、オリビエ、流石にフォローのしようがない。寧ろこの状況をひっくり返せる人間がいるなら会ってみたい」
「オリビエ殿、私も帝国出身の者ですので出来れば大人しくしていてもらいたいのですが……」
俺たちの容赦ない言葉にオリビエさんは悲しそうに地面に倒れてしまった。
「終戦から10年……ただでさえ微妙な時期なのだ。我慢してもらうぞ、オリビエ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。黙っていたことは謝るからさ……」
「問答無用」
「僕の晩餐会~~~!!」
オリビエさんはミュラーさんに引きづられて去っていった。
「えっと……いいのかなぁ?」
「構わないでしょう、実際にミュラーさんのいう事は間違っていませんから。それよりもエステルさん……」
俺はこっそりエステルさんに近寄って小声で話しかけた。
「晩餐会に出席したらリシャール大佐に気を付けてください、もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれませんので……」
「ええ、分かったわ。リート君も気を付けてね」
エステルさんに助言した後、彼女たちはグランセル城に向かった。
「さて、俺たちは姉弟子たちが待ってる酒場に向かうとしようか」
「オッケー、それじゃいこっか」
俺はフィーとラウラを連れてサニーベル・インに向かった。
「それでは無事に武術大会が終わったことを記念して……乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
オリビエさんの号令と共に全員がグラスを上げてお酒を飲み始めた。俺たちは現在サニーベル・インで武術大会の打ち上げをしている所だ。ここにいるメンバーは俺とフィー、ラウラに姉弟子、グラッツさん、カルナさん、クルツさん、そして先ほど去っていったミュラーさんとオリビエさんも何故かここにいた。
「オリビエさん、あなたは確か謹慎されていたんじゃなかったんですか?」
「いや~、ミュラー君に「せめて打ち上げだけでも行かせてください!」って土下座してね、何とか許しを得たんだよ」
「このバカは公衆の面前で裸になろうとしたからな、これ以上騒ぎを大きくしないために仕方なく許したという訳だ」
「嫌だなぁ、誠意を見せるには土下座が一番でしょ?更に裸になれば武器を隠し持てない、つまり無抵抗で必死に悲願しているという意味になるじゃないか」
「なる訳ないだろうが、このバカ者が!!」
呆れた表情を浮かべるミュラーさんをまたいつものノリでからかうオリビエさんにミュラーさんがキレた、何回やるんだよ、このやり取り……
「ミュラーも大変だね、わたしだったらツッコミを放棄しちゃうな」
「まあ根が真面目だから苦労しているんだろうな」
ミュラーさんとオリビエさんのやり取りを見て改めてミュラーさんの苦労が理解できたような気がした。
「しかしオリビエ殿があのミュラー・ヴァンダール殿と知り合いだったとは思わなかったぞ」
「やっぱりラウラはミュラーさんの名を知っていたのか」
「無論だ、帝国で武術を嗜む者ならその名は知っていると言っても過言ではないほどの有名人だからな。それに彼はアルゼイド流と対をなすヴァンダール流の名を持つ者、私とよく似た境遇故少し興味があったのだ」
そうか、ラウラもアルゼイド流の関係者だもんな。そう言われるとミュラーさんとは似たような境遇なのか、彼もまたヴァンダール流の名を直接持った人物だからな。
「ふむ、ラウラ・S・アルゼイドだったか。君の御父上であるアルゼイド子爵には何度か剣の手合わせをして頂いたことがあったがこうして会うのは初めてだったな」
「はい、かの名高きミュラー殿にこうして会えて光栄に思います」
「君は若いのに真面目なのだな、このバカにもほんの少しは君のような良心があれば俺も苦労しないんだがな……」
ミュラーさんはラウラの礼儀正しい態度に感心しながらオリビエさんを見てため息をついた。
「おーい、弟弟子君!飲んでるかーい?」
そこにグラスを持った姉弟子が現れて俺の背中から手を首に回してくっついてきた。色々と柔らかいものが当たっているんですが……
「……リート。デレデレしない」
「そなたは相変わらず女子に弱いのだな」
フィーに足を抓られてラウラからは呆れられた視線を送られてしまった。
「あはは、フィルちゃんってば焼きもち焼いてるんだ~。お兄ちゃんっ子で可愛い~」
「アネラス、暑苦しい……」
姉弟子は俺から離れて今度はフィルを抱きしめた。フィーは鬱陶しいといった表情を浮かべているが姉弟子を離そうとはしない、フィーは本当に嫌でなければ逃げたりしないので姉弟子の事をそれなりに信用しているのだろう。
「それにしてもエステルちゃんたちは今頃お城で晩餐会かー、羨ましいな」
「姉弟子も惜しい所まで行ったんですがね……」
「でも大丈夫かな?エステルちゃんたちって何かの依頼で女王陛下に会わなくちゃいけないんだったっけ、最近の王国軍の動きも何だか変だしちょっと心配だな」
おいおい、そんな機密情報をこんなところで暴露するなよ……
「姉弟子、それってこういう所では言ってはいけない事なんじゃないですか?」
「えっ?あ、これは言っちゃいけないことだった……どうしよう……」
「まあ大丈夫ですよ、幸い他に客はいないし姉弟子が話したことは誰にも聞かれていないはずです。でもヘタをすれば他の人に迷惑はかけてしまいますから気を付けてくださいね」
「うぅ……ごめんね」
「分かってくれたならいいんですよ」
「えっと、流石に頭を撫でられるのは恥ずかしいよ……」
「えっ……?あっ、すみません!」
しまった、シュンと項垂れてしまった姉弟子を見てうっかり頭を撫でてしまった。年上の人に何てことをしてしまったんだ。
「ごめんなさい、姉弟子。嫌でしたよね」
「えっ?嫌って事じゃないよ!すっごく気持ちよかったしただ驚いちゃっただけだから!」
「そうですか?姉弟子に嫌な思いをさせてしまったんじゃないかと思いましたが違ったようで良かったです」
「あはは、弟弟子君って結構女たらしなのかな?なんか手馴れているようにも感じたけど……」
「いやいや、そんなことはないですよ。よくフィルの頭を撫でているくらいです」
「え~、本当に?あれは沢山の女の子の頭を撫で慣れている手つきだったような気がするけどなー」
「勘弁してくださいよ……」
クスクスと笑いながらからかってくる姉弟子に思わず苦笑してしまった。大体そんなに女の子の頭を撫でたことは無いと思うけどな、フィー以外といえばシャーリィやレン、クロエ、シンディ、セリカ、後ラウラも偶に撫でてほしいと言って来ることがあったな。妹分たちが羨ましかったのかな?
そんな事を考えていたら背後から誰かが俺の背中によじ登ってきた。
「ん?フィルじゃないか、何をしているんだ?」
「リート、アネラスにばっかり構ってズルい。私の相手もして」
俺の頬をツンツンと指で押しながらフィーは不満そうな表情を浮かべる。しかし珍しいな、こういう大胆な行動は2人きりの時くらいしかしないはずなんだけど……あれ、ちょっと顔が赤くないか?
「フィル、お前何だか顔が赤くないか?」
「そうかな……?オリビエから貰ったジュースを飲んでからちょっと体が熱いかも……」
「ジュース?……オリビエさん、何処に行くつもりですか?」
フィーがオリビエさんからジュースを貰ったと聞いて俺は直にオリビエさんを探した、するとコソコソと逃げ出そうとしていたので彼の腕を掴んだ。
「あはは、ちょっと飲みすぎちゃってね。気分転換に外の空気でも吸いに行こうかと……」
「フィルに何を飲ませたんですか?」
「えっと、その……」
「な・に・を・飲・ま・せ・た・ん・で・す・か?」
「……カクテルです」
笑顔で怒りを醸し出しながらオリビエさんを問い詰めると彼はフィーにお酒を飲ませたと白状した。この男は……
「フィルはまだ未成年ですよ!何を考えているんですか!」
「いやぁ、酔ったフィル君がどんな反応をするのか気になっちゃってね」
「あなたと言う人は本当に……」
「リート」
ワナワナと怒りに震えているとフィーがクイクイッと俺の服の袖を引っ張ってきた。
「どうかしたのか、フィル?今俺はオリビエさんに説教を……」
「正座して」
「……えっ?」
「正座」
顔を赤くしたフィーが無表情で俺に正座をするように言ってきた。
「な、なにを言っているんだ?どうして俺が正座を……」
「いいから正座」
「いや、でも……」
「せ・い・ざ・し・て」
「……はい」
しまった、フィーはお酒を飲むとこうなるんだった……前にフィーがゼノの飲んでいたお酒をジュースと勘違いして飲んでしまった事があるのだがその時もこうなってしまったんだ。
こうなったフィーに逆らうと怖いのでここは素直に従っておこう。
「リィンってばいつも好き勝手に行動してるけどわたしたちのことも少しは考えてほしい」
「まあ、それは悪いとは思っているが……というか名前!それは駄目だろうが!」
俺の本名を話し出したので慌ててフィーを止めようとしたがギロッと睨まれてしまったので動けなくなった。いつものジト目と違って迫力があり過ぎるよ……
「あはは、フィルちゃんってば酔っちゃってリート君の名前間違えてるよ~」
幸いにも姉弟子や周りの人たちはフィーが酔っ払って名前を間違えていると思ってくれているようだ。
「リィン?人の話を聞くときはキチンと目を見て」
「は、はい……」
しかしどうもこのフィーには逆らえないな。まるで隠れて女遊びをしたことがバレた団長に笑顔で詰め寄るマリアナ姉さんみたいな迫力だ。
「あっちこっちにフラフラばかり……その癖直に女の子を口説いたりしてるしわたしがどれだけモヤモヤした気持ちになっているか分かっているの?」
「……すみません」
「ラウラと一緒に楽しそうに鍛錬したりクロエ、シンディ、セリカにもなんやかんやで親しまれてたりするし……見ていてモヤモヤする」
「……」
「大体前から思ってたんだけどシャーリィとはどういう関係なの?戦っている最中にも関わらず抱き着かれたり妙に懐かれているよね?」
「ん?シャーリィ?何処かで聞いたような……」
「あ、フィルが言っているのはシャニィって子の事ですよ!ヤダなぁ、フィルってば酔っ払い過ぎだよ!あはは!」
グラッツさんがシャーリィの名前に反応したので慌てて誤魔化した。
「それにリィンってば年上の女の人がタイプなんだよね?セシルに抱っこされたりサラにからかわれて抱き着かれたりすると嬉しそうだもん。リィンってば大きなおっぱいが大好きだもんね。アイナとかシェラザードにもデレデレしてるもんね」
「いや、それは誤解だ。俺はそんな胸なんて……」
「嘘付き、前に酔ったシェラザードが胸の谷間を見せつけてきた時にリィンは止めてと言いながらも凝視してた」
「……本当にすみません」
いやそれは仕方ないだろう、俺だって男だからつい気になってしまうんだって……
「大体リィンは……」
フィーの説教はその後も続き打ち上げが終わる頃まで俺は説教をされ続けていた。
―――――――――
――――――
―――
「ふぁ~、昨日は疲れたな……」
打ち上げを終えた俺は疲れて眠ってしまったフィーをおんぶしてホテルに戻り就寝した、そして翌朝になりベットから起きた俺は窓から差し込む朝日を浴びながら身体を伸ばした。
昨日はまさかフィーに説教され続けるとは思わなかったな、前もされたけど今回はその倍近く怒られてしまった。
フィーは昔より感情を出すようにはなったがため込んでしまう子なのでそれが昨日発散されたのかもしれないな。
「ふぁぁ……おはよう、リィン」
そんなことを思っているとフィーが目を覚ましたようだ、彼女は眠たそうに目を擦るとベットから起き上がる。
「おはよう、フィー。昨日は大変だったな?」
「ん、でもスッキリした。偶にはああいうのも必要だね」
「俺としては遠慮願いたいんだが……」
「だったら少しは自覚して。じゃないとまた不満が溜まる」
「善処します……」
「今戻ったぞ。おや、二人とも目覚めていたか」
そこに鍛錬にでも行っていたのか汗をかいたラウラが戻ってきた。
「おかえり、朝練にでも行っていたのか?」
「うむ、私の日課だからな。そうだ、途中で客人に出会ったんだが部屋に入ってもらってもいいか?」
「ああ、いいぞ。フィーは大丈夫か?」
「ん、顔だけ洗ってくる」
フィーは洗面所に向かい顔を見ずで洗ってくる、俺も身だしなみを整えて客人を向かい入れると入ってきたのはオリビエさんだった。
「やあ、リート君。昨日は楽しかったね」
「帰ってください」
「ちょ、いきなり辛辣過ぎないかい?」
「昨日何をしたのか忘れたんですか?性懲りもなくまた何か企んでいるんでしょう、面倒ごとはごめんです。帰ってください」
俺は昨日オリビエさんのイタズラのせいでフィーに説教され続けたんだ、今日もまた面倒ごとを持ってきたに違いないから帰ってもらおう。
「もー、そんなに怒らないでよ。今日はとってもいいものを持ってきたんだから♪」
「必要ありません、帰ってください」
「アレー、そんなことを言ってもいいのかな?……遊撃士協会が等々動き出そうとしている情報を持ってきたんだけどなー」
……今、この人は何ていった?
「……オリビエさん、どういう事ですか?」
「言葉通りの意味だよ、遊撃士協会はアリシア女王陛下に依頼を受けてリシャール大佐が捕らえている人質を救出するために動き出したのさ」
「……どうしてあなたがそれを?」
「僕が唯の旅行客じゃないって君はもう知っているだろう?色々調べるツテがあるって訳さ」
そうだった……この人は唯の旅行客じゃなかった。推測でしかないがエレボニア帝国の諜報員なのかもしれない。
「……それでオリビエさんは俺たちにそれを話してどうしたいんですか?」
「決まっているだろう、僕たちもこのパーティに参加しようじゃないか。どっちにしろ君たちもそのつもりだったんだろう?リート君……いやリィン・クラウゼル君」
「やはり俺たちの正体を知っていたんですね?」
「最初はまさかと思ったけどミュラー君に教えてもらった情報と一致してね、それで確信したよ」
「彼もグルだったという訳ですか……」
ミュラーさんもオリビエさんの知り合いだと言っていたから繋がりがあるとは思っていたが、やはり協力者だったか。
「ひとついいですか?」
「うん?なんだい?」
「あなたは一体何を企んでいるんですか?クーデターを利用してエレボニア帝国が攻め入るスキを与えるつもりですか?もしそうなら協力は出来ませんよ」
「おやおや、戦争を生業としている猟兵が言うセリフとは思えないね。君たちからすれば戦争が起きてくれた方が仕事が増えていいんじゃないのか?」
「確かに戦場は俺たちの稼ぎ場かも知れません、だから俺がしていることは猟兵としては間違った事なのでしょう。それでも俺はこの国の人たちに沢山お世話になりました、その人たちを危険な目には合わせたくない。なにより妹がそれを望んでいます、俺はフィーの悲しむ顔は見たくありません」
「リィン……」
「ふふ、そなたらしいな」
俺の言葉を聞いたフィーは右手を胸に当てて熱の籠った視線を俺に向け、ラウラは満足そうに頷いた。
「……なるほど、君は僕が期待していた以上の人物だったね。君に出会えただけでも態々リベール王国に来た甲斐があったと言えるね」
「……何を言っているんですか?」
「なに、気にしないでくれ。いい意味で予想を裏切られただけだからね」
いつもとは違う感じで笑うオリビエさんだが一体なのがおかしいのだろうか?
「リィン君、もし仮にこのクーデターが成功したとしたらこの国はどういった変化を迎えると思うかな?」
「唐突に一体何を……」
「答えてくれるかい?」
オリビエさんが急に話の流れを変えたので少し困惑したがオリビエさんの真剣な表情を見た俺は何かあると思い真面目に考えてみた。
「そうですね、リシャール大佐の目的が何かは分かりませんが仮にこの国の支配が目的なら自分の邪魔となる人間たちを排除しようとするんじゃないでしょうか?例えばモルガン将軍や女王陛下の親衛隊などが思い浮かびますね、実際に彼はモルガン将軍や親衛隊を排除しようと動いていますから」
モルガン将軍とは一回会った事があるが正に軍人と言う言葉を体現した人で女王陛下に絶対の忠誠を誓っていると思う、そんな彼がリシャール大佐の言う事などを聞くはずがないだろう。
「なるほど、しかし彼が一番邪魔に思っているのがアリシア女王陛下だとしたら彼はどうしたいと思う?」
「まさかこの国の王になろうとしていると言いたいんですか?そんなことは不可能です、リシャール大佐がどれだけ優秀でも王族の血をひいていない彼では王にはなれません」
「だが彼はデュナン侯爵を繋がっている可能性がある、それは君たちも考えたんじゃないのかい?」
「デュナンをトップにして陰から操ろうとしている……これならリシャールがこの国を思うがままに操るとこも出来なくはないね」
オリビエさんの言葉に俺はまさかと思ったがデュナン侯爵の名を言われてその可能性がありえないものではなくなった事に気が付いた。
実際に彼は王になりたがっていたし武術大会の時もリシャール大佐を傍に置いている事からあの時点で彼らにはかなり深いつながりがあると予想していた、だからフィーの言った事が現実に起きてもおかしくはない。
前に憶測でそう言ったが、これは現実味が帯びてきたな……
「でもオリビエさん、仮にそれが実際に行われたとしても結局は彼がこの国の支配者になりたいってことくらいしか思い浮かばないですよ」
「なら僕からリシャール大佐という人物について知っていることを話そうじゃないか、そこから彼の思想を考えてみてほしい」
「そういう事は最初に言ってくださいよ……」
オリビエさんはリシャール大佐についてある程度は調べていたらしくもったいぶった様に話し出した。
「リシャール大佐は元軍人であったカシウス殿の部下でもあった男だ、当時カシウス殿が率いていた独立機動部隊に配属されたリシャール大佐はかの百日戦役もカシウス殿の部下として共に戦ったそうだ」
「リシャール大佐がカシウスさんの?」
「ああ、調べた話では公私共に世話になったそうでリシャール大佐はカシウス殿を強く慕っていたそうだ。最早信仰していると言ってもいいくらいカシウス殿に共感しているらしい」
俺はそれを聞いてリシャール大佐という人物がどういう人なのか分からなくなってきた。
今までは権力などを目的にして動いていたのかと思っていた、だがカシウスさんの教えを受けたというリシャール大佐がそんな俗物な人物だと思えなくなったからだ。
「話を続けようか、リシャール大佐はカシウス殿が軍を退役された頃から軍事力の強化を提案していたらしい。だがこの国の女王であるアリシア女王陛下はその意見を中々受け取ろうとしなかった」
「意見の食い違いでもあったの?」
「アリシア女王陛下はどちらかと言えば他国との協調や交流といった外交を大事にされていた方だからね、リシャール大佐がこの国を思ってそう言っているとはいえ直には受けいられなかったんじゃないかな」
まあそれは仕方ない事だろう、リシャール大佐が言う軍事力を強化して国を強くすることもアリシア女王陛下が言う他国との協調や繋がりを大事にすることも間違っていない。ただその二人の考えが合わなかっただけだ。
「さて、ここまでリシャール大佐という人物を話してみたけどそろそろ彼が何をしたいのか見えてきたんじゃないのかい?
「……!?ッまさかリシャール大佐はこの国を軍事国家にすることが目的なんですか?」
「過去にエリベール王国はエレボニア帝国に攻め込まれている、そう考える人間がいてもおかしくはない」
俺の言葉にラウラが続いた、確かにそレが目的ならリシャール大佐がクーデターを起こそうとしたのか説明が付く。
リシャール大佐の目的がリベール王国を強大な軍事国家にするという事なら、彼がクーデターを起こそうとしている理由になるかもしれない。
リシャール大佐はこの国を強くしたいがアリシア女王陛下とは考え方が合わない、なら彼女を女王の座から引きずりおろしてそこにデュナン侯爵を入れればリシャール大佐はこの国を陰で操ることが出来る。そうなれば彼が目指す強大な軍事国家を作ることが出来るかもしれないな。
「何てことだ、事態は思っていた以上にマズイ事になっているのかもしれないな……」
「ん、いろいろ巻き込まれたりしてきたけどその中でもトップクラスにヤバいね」
事態が思っていた以上に深刻なものかも知れないと知り、俺とフィーは頭を抱えた。
「偶然とはいえクーデターの事を知った僕は、帝国の未来を考えてこれを阻止するべきだと思ったんだ」
「つまりあなたはエステルさん達を利用して帝国に対する脅威を未然に防ごうとしているんですか?」
「否定はしないよ」
あっさりとエステルさん達を利用しようとすることを認めたオリビエさんに、俺は食えない人だと内心で評価する。そして一番聞いておかなければならないことを確認する事にした。
「一つだけだけ聞かせてください、どうしてあなたはクーデターを止めようとするんですか?もしあなたが帝国の諜報員ならこのままクーデターが起こりこの国が軍事国家になれば攻め入る隙を作ることができる。そっちのほうが都合がいいのではないですか?」
さっきもオリビエさんに話したが、俺は帝国の利益の為に協力する気は更々無い。この人が何を考えているのか確かめておきたかった。
「確かに君の言う通り、このまま事が進めば帝国がこの国を攻め入る口実が出来るかもしれない。でも僕はそれじゃ駄目だと思うんだ」
「駄目とは?」
「リィン君、君も戦場を生業とする猟兵なら理解しているだろう?国の思想や争いに巻き込まれ命を落とし大切なものを奪われていく人達を……」
「ええ、知っています」
オリビエさんの言葉に俺は肯定する、それは俺達猟兵にとっては見慣れた景色だったからだ。
「ギリアス・オズボーン……彼は非常に優秀な人物だ、エレボニア帝国が更なる発展を迎えられたのは間違いなく彼がいたからだろう。だが彼のやり方は少し強引なところもある、力で屈服させて涙を流した人間も多数いるはずだ」
「そういう話はよく聞くね」
オリビエさんの話にフィーが頷いた、確かにそういう黒い話も耳にする事はある。
「無論それが間違っているとは言わない。彼は国を守る立場にある、だから非情になることも必要とされるのは理解できる。でも力のみで人を抑え込もうとすればいつか必ずそれが爆発する」
「それは……確かに今は良くてもいずれ我慢の限界が来てしまう人もいます。現にテロリストも存在しますから」
カルバート共和国程ではないが、エレボニア帝国にも鉄血宰相を亡き者にしようとてテロ活動を行った人達はいる。西風の旅団も昔、帝国政府からの依頼で過激派テロリストが拠点の一つにしていた場所を襲撃したことがある。
「僕がこの国に来た本当の目的、それはカシウス・ブライトと接触する事だった」
「カシウスさんですか?」
ここでカシウスさんの名が出てきたか、あの人何処でも話に出てくるなと若干思ってしまった。
「オリビエはカシウスを知っているの?」
「直接会ったことは無いよ、だが彼は百日戦役にてエレボニア帝国の軍を退ける働きをした第一人者だ。その優れた観察眼と常人では思いつかないような作戦を生み出した戦略性を持つまさに英雄と言える人物だね」
「ふむ、それ程までに優れた人物なのか。カシウス・ブライトという御仁は……」
オリビエさんの言葉にラウラは感心するように頷いた。
「僕は力で全てを支配する道以外にも、人が人として手を取り合っていけるやり方もあるんじゃないかと思っていた。だから僕はカシウス殿に会って話を聞きたかったんだ」
「……甘い考えですね」
「ははっ、よく言われるよ」
猟兵の立場で考えればそんなことは不可能だろう。もしそんな方法があるのならばエレボニア帝国とカルバート共和国が争う事もないし二大国家に挟まれた小国が苦しい思いをすることもないだろう。
(でも、嫌いじゃないな。そう言う考えは……)
オリビエさんの考えを聞いた俺は、甘いと言いつつも少しの共感を感じていた。猟兵とはいえ争いばかりが起こる世の中など正直ごめんだ。
「結局カシウス殿と会えなかった僕は、偶然にもクーデターの事を知ってしまった。もしそれが現実になればエレボニア帝国やカルバート共和国が黙っているはずがない、そうなれば今度は百日戦役よりも酷い争いが起こってしまう。少なくともあの男は必ず動くはずだ」
「鉄血宰相、ギリアス・オズボーン……」
俺はオリビエさんが言う人物を頭に思い浮かべた、帝国の繁栄の為に多くの人たちから色々なものを奪ってきたと言われるくらいの男……オリビエさんの表情には恐れが浮かんでいた。
俺はギリアス・オズボーンに会ったことは無い、だがこの人がここまで警戒する程の人物だという事は理解した。
「これはあくまでも推測でしかない、だが実際にそうなってしまえば多くの命が失われることになる」
「戦争が起きれば沢山の人が死ぬからね、それも挙って民間人とか弱い存在ばかりが死んでいく」
万が一エレボニア帝国がリベール王国に戦争を仕掛けたら百日戦役以上の惨劇になりかねない状況に俺は危機感を感じた。俺とフィーは戦場でそういった光景を何度も見てきたから分かる、実際にそんなことになればもう誰も止められなくなるだろう。
「これ以上我が母国が、争いをまき散らしていくのを黙ってみていたくなかった……それが僕がクーデターを止めたいという理由さ」
「そうだったんですか……」
「それに僕はエステル君達を気に入っているからね、この国もいい所だった。だから今は純粋にこの国の未来を守りたいとも僕は思っている」
「……あなたにはまだ秘密がありそうにも思えますが、一応は納得しましょう」
俺は取りあえずオリビエさんを信じる事にした。
まだ何か隠し事をしているようにも思えるがこの人ともそれなりの付き合いになる、だからある程度どういう人なのか分かってきたからだ。
道化を装っていながらもどこか怪しい雰囲気を出すオリビエさん……でも根っこの部分は優しい人なんだと思う。この人は純粋にリベール王国やエレボニア帝国の未来を、そして何よりエステルさんたちが心配だから今回のクーデターを止めたいんだと俺は感じ取ったからだ。
「さて話は纏まったことだし僕たちも行こうか」
「行くってどこにですか?」
「アリシア女王陛下のお孫さんでありこの国の姫であるクローディア姫……彼女はリシャール大佐に捕らえられてしまっているんだ」
「そっか、エステル達はまずそのお姫様を助けに向かったんだね」
「その通りさ。エステル君達が向かった場所はエルベ離宮、そこにクローディア姫は幽閉されている」
「しかしよくもまあそこまで調べられましたね、一体どんな方法を使って情報を得ているんですか?」
「それはひ・み・つ・さ♪」
もったいぶった言い方をするオリビエさんに改めて油断ならない人だと思い俺は肩をすくめた。
「リィン、フィー。どうやらそなたたちはまた何か厄介ごとに巻き込まれているようだな、それも私が想像していた以上の事らしい」
「ああ、話を聞いていてなんとなく分かったかもしれないが俺たちはこの国を乗っ取ろうとするリシャール大佐とその一派とやり合うつもりだ。ラウラも巻き込まれないように早く帝国に戻った方がいい」
「何を水臭い事を言うのだ、ここまで話を聞いてしまったからには私も協力させてほしい」
「ラウラ!?何を言っているんだ!」
俺はラウラの申し出に驚いてしまった。
「いいじゃないか、ラウラ君の実力は知っているし戦力は多い方がいい。ここは彼女にも協力してもらおう」
「オリビエさん、ラウラは猟兵じゃありません!俺たちの都合に彼女は巻き込めませんよ!」
「でも考えてもみたまえ。いくら君たちが大陸でトップクラスの猟兵団に所属しているとはいえ国の精鋭部隊と戦うとなればかなり厳しい状況になるんじゃないか?特にあのロランス少尉はかなり強い、一人でも戦力は増やしておくべきだ」
「しかし……」
オリビエさんの意見も分かるがそれでもラウラを巻き込んでいいという理由にはならない、それこそロランス少尉のような本当にヤバい存在がいるんだ。
「いえ、やはり俺は反対です。この件に関してはラウラは何の関係もない、それなのに命の危機にさらすような真似はできません。それにラウラは俺達猟兵と違って帰るべき場所がある一般人だ、もし今回のクーデターでラウラに何かあったら俺はヴィクターさんに顔向けできません」
俺がそういうとオリビエさんも黙り込んでしまった。自分で戦う事を決めた俺やフィーはいい、でもラウラは違う。ラウラの性格上協力してくれるだろう、でもだからといって巻き込むのはお門違いだ。
「リィン」
「ラウラ……?」
ラウラは俺の手を自分の両手で包み込むように握ると、柔らかな笑みを浮かべて話し出した。
「リィン、そなたは私の身を案じてくれているのだな。その心遣い、嬉しく思うぞ。だがなリィン、私はそなたたちに何かあってしまった方が怖いんだ。あの時行動していればと後悔するのならば行動してから後悔した方が遥かにいいだろう」
「ラウラ……」
「ふふっ、これはそなたから学んだことだ。なら私もそなたと同じように後悔しない生き方をしたい、例えどんな結果になろうともな」
俺はラウラの言葉に、かつての自分も後悔しないように生きようと思ったことがあった事を思い出した。
「……バカだな、ラウラは……でもそんなことを言われたらもう反対は出来ないじゃないか」
「バカとは心外だな。そなただって逆の立場なら同じことを言っただろう?」
「分かった、俺の負けだ。そこまで言うのなら俺はもう止めないよ。ラウラ、一緒に戦ってくれるか?」
「無論だ、このアルゼイドの剣技をもってしてそなたたちの力になろう」
「ラウラが一緒に来てくれるなら百人力だね」
俺はラウラに手を差し出し彼女はその手を取り力強く頷いた、その様子にフィーも嬉しそうに微笑んだ。
「若者たちが手を取り合って軌跡を描いていく……いやぁ、いいものだね」
「オリビエ、オッサン臭い」
オリビエさんがうんうんと感慨深そうにしているとフィーがツッコミを入れた。
「よし、今度こそ話は纏まったようだしそろそろ僕たちもエルベ離宮に向かおうか」
「こうなったらとことんまでやってやりますよ、行きましょう!」
俺たちは武器を背負いエステルさん達が向かったというエルベ離宮を目指し歩きだした。
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