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カラミティ・ハーツ 心の魔物

作者:流沢藍蓮
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第二章 訣別の果てに
  Ep7 ひとりのみちゆき

〈Ep7 ひとりのみちゆき〉

 ひとりに、なった。
 あれから一週間。リクシアはずっと「魔物を元に戻す方法」を模索しているが、いまだに何の手がかりもない。当然だ、彼女はアーヴェイたちの言う「花の都フロイライン」以外、何も知らないのだから。北へ行くとしても、どこへ行けばいいというのだろう。世界は広い。「北へ」だけではあまりに漠然としすぎている。
 そして今、フロイラインに行くという選択肢も潰えた。案内してくれるはずの二人と、訣別のような別れ方をしてしまったから。
 リクシアの心に無力感が忍び寄る。
――もぅ、どうでもいいかぁ。
 あれだけリクシアを駆り立てた炎も、いつの間にか消えていた。そんなに弱い決意だったのだろうか。「夢物語なんかじゃない。この思いは、この怒りは、すべて本物だったんだから」二人に対してそんな啖呵を切ったのに、初めての仲間と訣別しただけでこんなになるなんて、とリクシアの心はさらに沈んでいき、無力感を加速させる。
 リクシアはフィオルのくれた白い羽根を、見るともなしに眺めた。悔恨の白い羽根、フィオルのくれた、二人のいた証。それをリクシアはぽいと投げ捨てた。羽根はひらりひらりと宙を舞い、リクシアの抱えた膝の上に音も無く着地する。
「どーでもいい……」
 憂鬱に日々が過ぎていった。

 リクシアはとりあえず歩くことにした。先に何があるのかわからないけれど、何もせずに無気力に時を過ごすよりはよいと思って。花の都なんて名前と方角しかわからない。だから彼女はぼんやりと、北を目指すことにした。
 そして気が付いたら彼女は、あの、消え去ったウィンチェバル王国の廃墟に立っていた。
 それに気がつき、彼女は自分に呆れたような声を出した。
「……私ったら」
 もう二度と復活しない国だ。それなのにまだ、忘れられないのだろうか。
「…………」
 リクシアは唇を噛んで首を振る。こんな幻想にとらわれていてはいけないと、自分を叱咤し歩き出す。
 ひとりきりのみちゆきは、まだ始まったばかりだ。
 リクシアはその地を後にした。

  ◆

「フェロンが……生きてる……!?」
 いつぞやの宿に買ってきたリクシアは、情報を一つ入手した。
 それは、彼女の幼馴染フェロンの、生存の噂。リクシアとリュクシオンとフェロン、三人でよく一緒に遊んでいた日々が、彼女の頭の中に去来する。それはとても懐かしく、遠く、もう二度と戻らない眩しい記憶。
 リクシアとフェロンは生きていても。
 リュクシオンは魔物になってしまったから。
 宿の主は言う。
「確か、片手剣使ってたみたいッスよー。茶色の髪で、緑の瞳で……。とても印象的な顔立ちの剣士さんだったって。あ、その反応、もしかしたら知りあいだったりします?」
 例の店主の問いに、リクシアは強くうなずいた。思わず身を乗り出して質問する。
「幼馴染なんです! 彼は今、どこに?」
 さぁねぇ、と主は首をかしげた。
「こっちはまた聞きしただけなんで……。よかったら、その情報仕入れてきた商人にまた訊くっすけど、どうすか?」
「お願いします!」
 リクシアの心は大いに高鳴った。
 フェロンに会えれば、フェロンに会えれば!
――ようやく、一人じゃなくなる。

  ◆

「リアがいるって聞いたけど……どこかな」
 その日、町を訪れる人影があった。
「まったく。今までどこ行ってたんだよ。さんざん探したんだからな。ここで見つからなかったらいい加減怒るぞ?」
 彼の外見は茶髪に緑の瞳、右の腰には片手剣。左利きのようだ。茶色の上着に緑のシャツ、足には灰色のズボンと茶色のブーツ。
 しかしその端正な顔の半分は、醜い傷跡で覆われていた。
「あの子なら、兄さんを戻すとか無謀なこと、言いそうだしなぁ……」
 歩くその身体は、今にも倒れそうなくらいボロボロだった。彼は数歩歩くと痛みに顔をゆがめ、呼吸を少し乱れさせた。
「……ッ! ……まずは休息を取らなきゃ、死ぬな」
 そして、とある宿を訪れる。
 そこには彼のよく見知った、懐かしい顔があった。 
 
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