令嬢の好物
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第二章
「あの、サチさんの故郷ではですね」
「皆さん飴がお好きですの」
「そうですの」
「いや、飴は何処でもあるじゃろ」
サチは友人達の問いに目を瞬かせて返した。
「それこそのう」
「まあそう言われますと」
「飴は何処でもありますわね」
「実際に」
「そうですわね」
「だから別にじゃ」
サチは友人達とは全く違う口調でさらに言った。
「わしの故郷だけの話でもないんじゃないかのう」
「ううん、では飴がお好きなのは」
「それはどうしてですの?」
「とかく毎日の様に舐めておられますけれど」
「それは」
「実はじゃ」
ここでだ、こう話したサチだった。
「子供の頃魔法の先生に魔法教えてもらった時にな」
「その時にですの」
「何かありましたの」
「そうじゃ、魔法が上手に使えたらな」
その時にとだ、サチは友人達に話した。
「先生いつもご褒美に飴くれたんじゃ。それでその時の飴がいつもじゃ」
「美味しかった」
「そうでしたの」
「それで、ですのね」
「サチさんは飴がお好きになりましたのね」
「そうなんじゃ、飴を舐めるといつも思い出すんじゃ」
笑顔で言うサチだった。
「魔法が上手に出来た時を。それでじゃ」
「今もですのね」
「飴を舐めますのね」
「それでお好きですのね」
「そうじゃ。それでその先生もじゃ」
にこりと笑って優雅に言うサチだった。
「この喋り方だったんじゃ」
「そうですの」
「喋り方は同じですのね」
「そうですのね」
「敬語は使っちょらんかった」
サチと同じくそうだというのだ。
「わしが敬語使えんのは先生の影響かものう」
「そこは違うのでは」
「あの、何といいますか」
「どうもその喋り方は」
「一歩間違えると危ないですわよ」
「わしもわかってるがのう」
所謂ヤクザ者の様な言葉であることはだ、サチもわかっているのだ。だがそれでも身に着いてしまっているもので。
「ちょっとやそっとではじゃ」
「変えられませんのね」
「そうですのね」
「そうじゃ。それでじゃが」
サチは話題を変えた、今度の話題はというと。
自分の席にかけている鞄から袋に包んだ飴を幾つも出してだ、そのうえで友人達にこう誘いをかけた。
「皆も舐めるかのう」
「その飴ですのね」
「それですのね」
「やっぱり飴はええもんじゃ」
その飴を見てにこりとして言うのだった。
「甘いしのう」
「魔法が成功した時を思い出す」
「だからですのね」
「ええわ、何か失敗した記憶はあまりないが」
サチは一回聞いたことは覚える、そして全ての属性の魔法への適性がある。そうした魔術師としての類稀なる才能があるからだ。魔法が失敗したことはほぼないのだ。
「しかしじゃ」
「それでもですのね」
「成功した時はいつも飴を頂いていたので」
「そのことも思い出すので」
「舐めたいのですわね」
「成功した時を思い出してあの時みたいにまたしようとする」
友人達の手に一個ずつ飴を手渡しつつ言うのだった。
「それが成功する秘訣かのう」
「そうした意味でもいいですのね」
「サチさんにとって飴は」
「そうですのね」
「そうかも知れんのう」
笑顔で言ってだ、今も飴を舐めるのだった。サチにとって飴は今日もただ甘いだけでなく成功の味もする実に美味いものだった。
令嬢の好物 完
2018・7・16
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