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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第119話 魔人は到達するようです


Side 愁磨

「と……う、さん、かあ、さん……?」

「よぉネギ、6、7年ぶりってとこか。馬鹿みてぇに強くなりやがって。」

「………私とは物心ついてからは初めて会うのに、よく分かってくれたわね。頑張った

甲斐があるってものよ。」


魔法も技術も、自分の持てる全てを悉く破られ茫然自失となったネギだが、それでもナギと

エルザには反応を見せた。

最後のピースが揃った今、親子の再会を水入らずでもう少しだけ・・・と行きたい所では

あるが、どうしても言ってやらなければならない。


「技術と努力に関しては認めてもいいが、実力と言うには他人の助けが入り過ぎだな?

お前らよくも人の魔力を横流ししてくれやがって。そこの馬鹿は終ぞ気付いていないぞ。」

「え……なん、の、話ですか?」


自分の事だと察する頭は残っているらしいが、俺の言わんとしている所を察する頭は残って

いないようだ。と言うよりは、エルザの術式が素晴らしいと言うべきか。

この世界で今のネギに完全に作用するレベルの認識阻害系と思考操作系を扱うのは、俺や

ツェラメルですら・・・と言うよりは俺達だから邪魔が入って無理なんだが。


「まぁ、そりゃ分からないだろうな。ツェラメルが何をしていたのかは知らんが、そのせいで

こいつらがシステムに入り込んで、管理者と同等の魔法使ったんだ。

だが、本当に少しも疑問に思わなかったのか?『闇の魔法』を習得した程度の、修業し始めて

一年も経たない小僧が、"大賢者"の魔法を使った後で"太陽神猪の牙"を全力行使して、数時間

休んだ程度で自分の数十倍以上も魔力を使い俺達と戦っているのを?本当に?本当に……?」

「そ、れは……!でも……ぐっ!」


ネギにかかっている魔法に該当するであろう事柄を問うと、流石の抵抗力を見せるが、

それでも尚、解呪には至らないようだ。

・・・全く、どれだけ強力な呪いを自分の息子にかけたのやら。


「それ以上茶々入れんのは止めろ、よォ!!」
ババババババババ!
「……その程度の力で挑む相手ではありませんよ。」


かけられた魔法を軽減されまいと無詠唱で『千の雷』を撃つナギだが、残していたジャンヌが

旗槍で全て受け切ってくれた。予定通りナギの相手をして貰い、ツェラメルにエルザの相手を

して貰えばチェックメイト―――


「『待て、創造主。中にいる妙な反応はなんだ?』」

「中に……?イレギュラーになられても困る、行くか。」

「は?あ、あなた達がいなくなったら誰が相手をするのですか!?」

「ジル・ド・レエが居るだろ、うるさく無いのとうるさいのが。んじゃちょっと頼んだ。」

「き、貴様らぁあああああああ!!」


あと一歩と言う所で、ツェラメルがいらん反応を検知した。

何かあってからでは遅いし、把握できていない危機程ここ一番で気持ち悪いものはない。

と言う事でジャンヌに全てを押し付け、中に揃って転移する。


「む。何事じゃ、愁磨?」

「うげっ!?」

「いやさ、ツェラメルが妙な事言うもんでさ。」


俺達が揃って現れたのは、アリカと千雨が戦っていた所。

片方は訝しみ、片方は固まり、俺の相方はと言うと―――


「『ふむ、まさか、いや、だがこれは………?』」


千雨に興味津々と言った様子で張り付き、答えを出した。


「『貴様、まさか、"全と無を関さぬ者(オームニア・エトリィ)"か?』」

「「「おーむ……は?」」」


全く意味が分からない、謎の名前を言われ、三人の声が揃った。


「『……"全と無を関さぬ者"。我であり人であり、龍であり虫であり、全であり無である。

私が"龍王"以前に創った、全ての雛型であり、完全な失敗作。

言ってしまえば、権限を一切持たない私の完全劣化版だ。』」

「……初耳だぞ、それ。」


降って湧いたような話だったが、それで説明がつくと思ってしまった自分が居た。

認識阻害が『効き難い』のも、全属性が使える『だけ』なのも、明日菜同様血縁の情報が全く

無かったのも。しかし疑問の方が多く残る。


「寿命の設定は?創造時に蓄積させた魔力とかけた魔法は?何故旧世界にいた?」

「『いや、それで分からなかったのだ。不老不死にした筈が成長しているし、私が旧世界の

世界樹都市にかけた内部に効果を発揮する認識阻害と同じ効果を外に発動させている。

魔法は元よりかけていないし、魔力も大魔法一発で空になる程度だ。

ああ、そして最も妙なのがだ。ケルベラス渓谷の最奥に封印しておいたのだが……?』」

「む?あそこの最奥は一番古い転移ゲートじゃろう?」

「『………何だと?』」


ツェラメルの説明で創造後の行方やらなんやらが分かったと思えば、最後の最後で、今度は

全てを知っている筈の管理者が首を傾げた。

だが、それで全て理解した。


「成程、つまり主神様は自由な手札として使う為に、最初期の最も警戒の薄い所で認識阻害を

ツェラメルにぶっかけて封印を転移ゲートに置き換え、旧世界で生き残らせる為に『都合の良く

なる術式』を千雨にかけたって訳か。」


勿論、この『都合の良い術式』は内外、周囲へ効果を発揮する物と千雨自身に発揮する物に

分かれる。千雨に約四百年もの記憶が無いのが証拠だ。

しかし――随分都合の良い事だ、吐き気がする。とは言え、それを気にしている時ではない。


「これ以上の異常の可能性は?」

「『………いや、有り得ん。魂こそ嘗ての私と同数の16億9375万214を持つが、それで漸く

超人程度になり得る強度だ。条件を満たす特殊能力は『闇の魔法』を越えん。』」

「そうか、それならアリカ、もう少し頼むぞ。」

「既に大分参っとるように見えるんじゃがのう……。」


普通と信じて来た自分が、まさかラスボスの関係者だったとは、衝撃が強すぎたんだろう。

唖然とし動かなくなっている千雨に、少し罪悪感を覚えながら置き去りにしたジャンヌの所へ

戻る。


「なんだ、文句言う割に普通に圧倒してるじゃん。」

「や、やっと戻ってきましたね!?契約外です、後で追加料金ですよ、残業です!」


ズレた事を言いながらも、しっかり完封しているジャンヌとダブルジル。

術式兵装さえしていないネギを庇いながらでは、余計に勝負にならなかったようだ。


「分かった分かった、後で何でも聞くから……。ツェラメル、油断するなよ。」

「『ああ、互いに抜かりない様にな。そら来い、元王女。』」
ガキンッ!
「しまっ―――!」

「エルzごぶぁっ!!」

「おぉおおやおやおや、我々三人を相手に余所見とは随分余裕なようですねぇ!!」


頑張ってくっ付いて戦っていたエルザを引き剥がされると、まんまと隙を見せたナギも二人の

ジル・ド・レエに吹き飛ばされる。

・・・後は俺がネギを追い詰めるまでの時間を稼いでくれるのを信じるしかない。

普通ならば可能だ。選択肢は全て潰している。


「『雷神の鎚(オ・ゼオス・ヴローティ・サイファ)』!!」
ズドンッッッッ!!!
「お前も諦めが悪い………。」


『天拳』を武装しての、不得意であろう『氷神の戦鎚』を『千の雷』で成形・強化した、

"ゼウスの雷"と言うよりは"ミョルニル"だ――を叩き付けて来るが、それごと蹴り飛ばす。

想定では諦めてもいい頃合いなのだが、何故こんなに元気なのか―――


「ああ、しまった。リンクを切るのを忘れていた。」


ナギ達が作った、魔力を集めて送り出す術式の"道"を、三人分纏めて握り潰す。

効果値を上げる為に隠蔽のみに特化した術式だ。強度自体は脆弱の一言に尽きる為、態々

権限を使って潰すまでもない。使ったら使ったで、ウィルスでも送られては困る。

そして、ほぼ無限に沸く魔力頼みに強化していたナギとエルザは明らかに動きが鈍り、ネギも

魔力の限界を感じたのだろう、追加詠唱しかけていた『千の雷』を破棄する。


「どうした、死ぬまで魔力を絞り出してみろ。或いはこの身に掠るくらいはするかもだぞ?」

「ネギ坊主ーー!諦めたらそこで試合終了だゾ!!時間を稼げ!」


圧倒されながらもネギを慮り、活を入れる超。

美しい事だが残念。未来からのパスは来ないわけで。


「お前にしては浅慮に過ぎる。俺が、お前の登場を予期していながら、お前が未来から援軍を

連れて来るのを予想していなかったとでも?」

「貴方こそな!もう既に駒は尽きているだろウ!!私と同じ方法なら、障壁をいくら強化

しようとも通過可能ダ。あと五分もしない内に―――」

「駒が尽きた?いや、流石に耄碌したか?一人足りないだろう?」


どうやらマジで頭から選択肢(戦力)として完全に抜けていたようで、珍しく懸命に記憶から

掘り起こす素振りを見せる。


「…………………………あ!!茶々がいない!!」

「おい、素が出てるぞ、素が。」

『全く、ひどい話ですね。』


ヴン、とディスプレイが浮き、別室にいる茶々丸が映し出される。

体から伸びた無数の線が、周囲を囲む様々な形の機械群に繋がれている。

恐らく俺やツェラメルの次か同等に頑張っているのが茶々丸だろう。自分の創造主に歯向かい

ながら、未来から来ようとする軍勢の処理を一人で熟しているのだ。

しかも自分だけ裏方なのだ。他の全員が表舞台で派手に戦っているのに。


「戦いが終われば一番手柄だ、頑張ってくれ。」

『は、はい!愁磨さんの為に頑張ります!!』

「………何と言うか、我ながら素晴らしい"子"だと誇らしい気持ちだヨ。」

「うんうん、全く、凄く良い子だよ。」

「「あのー………。」」


茶々丸の健気可愛さに超とほっこりしていたら、所在なさげにしていたネギとトルメリアが

揃って情けない声をかけて来た。たく、少しくらい息抜きさせろってんだ。


「はいはい、真面目にね。」
キュンッ
「ぐ!?」

「避けてるだけじゃ終わるぞ。"≪Alucard≫結合、宿れ炎帝(カーラー)"!」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパチン!
ズドドドドドドドドドドドドォオオドゴォン!
「うわあぁああああぁあ!?」


初めの光拳は何故か辛くも避けられ、続く疑似賢者の石付加+追加強化された指パッチンに

よる絨毯爆撃もすんでの所で全て躱される。

ここまで強化して漸く一発が『燃える天空』の威力の三倍と、範囲が元の最大火力の五倍。

とは言え『術式兵装』無しのネギに躱しうるような代物では無い。つーかラカンでさえ三秒で

消し炭に出来るコレで死なないのか。


「『グロリアス・ヘブンズアーム』起動、『天位』永劫及び『地位』刹那装備。"剣聖(アルデヒャルト)憑依"

来い『物干し竿』『レーヴァンティン』奥義連携―――!!」


上半身だけの浮遊する人型に、永遠神剣を統べ、超える剣を二振り装備させ、あらゆる剣の

奥義を継承させた十三騎士に操作を委譲し、それぞれ速度・威力・効果・理論上で最強の

四技を同時に放つ。


「"天翔龍閃"・"千変万化・百花繚乱"!!」『"黄龍剣"・"アバンストラッシュ"!!』
ボボボボッ!!

太刀で放たれた人に見える程度の神速は、長刀で放った事で全てを巻き込む神速となり、

神の炎は剣となり世界を焼き滅ぼす一振りを百度重ね、『最強の剣技』は天を貫き、勇者の

必殺は地を裂く一撃となり、四つの巨大な剣閃は重なり、回転しながらネギに襲い掛かる。


「く、『絶対防護(クラティステー・アイギス)』!っ、うぁあああ!!!」


瞬間発動型としては最硬の防御で俺の二撃(102回攻撃だが)を防ぐが、アルデヒャルトの方の

攻撃は完全に防げず地面を転がる。


「ふむ、アルデヒャルトのだけ一応当たったな。汎用最強防御程度で防げる筈無いんだが、

方向性は分かった。」

『あれで当たったとする評価は、剣聖としては屈辱の極みなのですが……。』

「あんな紙切れ防御に防ぎ切られた俺の気持ちも察してくれ。」


当惑する剣聖を諌め、他の十三騎士用の素体――これが超の素体の元となるのかそのものかは

分からないが、構造を真似て創った物だ――を呼び出し憑依させ、Aランクの宝具の中から

適当に武器を装備させる。


「これだけ用意すればいくら何でも二、三発は当たるだろう?」

「ぐ……っ。"ラステル・マスキル・マギステル!!"」
ギュァッ!
『『『『『『神をも貫く我らが一撃!!!!』』』』』』
ドンッッッッッッッ!!!

暫時とは言え籠められた魔力量・出力は数倍、装備性能は比べるべくもない差。

彼我の実力差を理解出来ない訳じゃないだろうに、それでもなけなしの魔力で、信じて来た

魔法を撃とうとしている。

普通ならば相対しただけで諦めるだろう。その証拠に、仲間はネギを見て必死に叫んでいる。

だが、この場で動ける者は―――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

Side ―――

あたまのなかがまざっている わたしだったものとわたしで

どっちがわたしなのか わからないけれど


「ぐ……っ。"ラステル・マスキル・マギステル!!"」


めのまえで しんじゃいそうなやつがいる

もう だれにもしんでほしくない シューマと ガトウみたいに

だけど ふたりはいきてる

なんでだろう しんだのにいきてる わからないけれど

もう だれにもしんでほしくない


「もう、だれも、しなせない―――!!」
 ド ン ッ ッ ! !

あのころのわたしとは ちがう!

Side out

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ド ン ッ ッ ! !

「これは……?」


十三騎士の必殺技とネギの魔法が放たれる数瞬前、懐かしい感覚の力が覚醒する。

ノワールが見張っていた明日菜が咸卦法を使いながら更に無効化能力"黄昏"を纏い、

首から下げた、俺が贈ったペンダントを握り、覚醒した"神剣 桜神楽"を抜き放つ。

そして『雷天大壮』より少し劣るだけの速度で一足、こちらに『踏み出せた』。


「あら、ビックリ。けど許すのはそこまでよ。」
ギン ドッ!
「きゃぅっ!」


ノワールに一対一で付かれていたにも拘らず、一歩だろうと前に進めたのは称賛に値するが、

それ以上は許されずアッサリと拘束された。

ふむ、明日菜が起きたしもう無いだろう。なら最後のダメ押しだ。


「全員、全能力のリミッター解除。神気も魔素も使用を許可する。備えろ。」

「し、使用を、許……!?」


何か勘違いしていたネギ達が驚くが、それを無視して魔力で代替していた強化を使い慣れた

神気や魔素(魔王級以上は獄素とでも呼ぶべき練度だが)に切り替える。

追加し、覚醒化(ノワールの≪暗逆併明≫やアリアの≪翼獣霊王≫の総称だ)、異種解放すると、

既に気圧されつつも姥貝ていた奴らの動きは完全に止まった。これで―――


「十三騎士、行くぞ。『アトロポスの剣』、合わせ。」

「"『千の「放て!!!」」
ドギャゥッ!!

こちらも覚醒状態になり底上げされた十三の必殺が、抗う『千の雷』がか細く見える程の

規模を持って魔法を轢殺し、ネギを飲み込んだ。そのまま力なく仰向けに倒れたネギに近づき

俺達二人を十重の"黒水晶の棺"で覆い、剣を掲げる。


「さぁ、始めよう―――!!!」


ネギは当然、動く気配を見せず、剣はそのまま首に吸い込まれる。



【―――見事、私を舞台に上げるとは―――】



そして、誰も干渉出来ない空間にそれは現れ、俺は剣を掲げた状態に"戻され"ていた。


「ああ、お前の為だけにここまでやって来たんだ。相手して貰うぞ、『創造主神』!」


絶対の神を相手に、遂に最後の戦いが始まる。

Side out
 
 

 
後書き
最近めっきり暑くなりましたね。
私は既に夏風邪・熱中症・夏バテ三連コンボしてしまいました。
仕事でもお出かけでも、外に出る時は気を付けましょう。 
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