歌集「冬寂月」
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四十九
戀しくも
人づてもなき
音なれば
聞くは野に吹く
風の虚しき
どれほど恋しく思おうが…もう会うことはない…。
此処ではあの人を知る者はなく、噂話さえ聞くことはないのだ…。
聞けるのは…まるで野に吹く風の音の様に…ただただ虚しいものばかりだ…。
偲ぶれば
数ふるだけの
思ひ出に
寂しく仰ぐ
夜半の月かな
ふと…あの人のことを思い出す…。
すると…思い出の少なさに寂しくなった…。
もっと思い出が欲しかった…そんな我儘な思いが込み上げ、そんな自分が哀れに思えた…。
月は優しく照らしているが…それが返って寂しさを際立たせた…。
お前には見えるだろうか…あの人が…。
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