魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第166話「逢魔時退魔学園」
前書き
ぶっちゃけさすがにくどいかも(おい
主人公補正が働く(5章の)ラスボスってこんな感じですかね?
途中から補正同士のぶつかり合いみたいになってる気がする……。
大門の守護者(とこよ)はFateで言えばグランドサーヴァントor人類悪レベルでヤベー奴扱いできちゃう程(の設定)なので、こうなってもおかしくはないんですけどね。
=out side=
大門の守護者と優輝達が戦う中、離れた場所で……。
「……っ、ぁ……」
緋雪が、夥しい量の血を地面に流しながら、近くの木にもたれて居た。
『ひ、緋雪ちゃん……』
「っ、エイミィ、さん。あまり、見ない方がいいですよ……」
今の緋雪はそこら中に斬られたり霊術で焼かれた痕などがある。
その姿はあまりにも酷く、耐性がない人が見れば吐き気を催していただろう。
通信を繋げているエイミィも例外ではなく、顔色が非常に悪くなっていた。
「……嘘だと、信じたいんですけど……」
『……京都がサーチャーで観測できなくなってる。多分、瘴気が集まってるから……』
「……あ、はは……ホント、どこまでも用意周到な……!」
身動きのできない緋雪は、乾いた笑いを浮かべながらも、悔しさを滲ませる。
「……通信は……?」
『……ダメ。一切通じないよ。転移魔法の座標も定まらない……。現に、まだ瘴気が残っているからか、この通信もノイズ混じりだし……』
「やっぱり……」
いくら幽世の身で、再生する体と言っても、血は足りなくなる。
緋雪の再生は遅くなり、戦闘力も落ちていた。
「っ……」
『緋雪ちゃん!?ダメだよ!そんな体で……!』
「わかっ、てる……!」
しかし、それでも、行かなければならない。
言外にそう示しながら、緋雪は体を引きずるように京都を目指す。
「お兄ちゃんたちが、危ないのに……!じっとなんて、していられない……!」
瀕死の体になってなお、強い跳躍で飛び立つ。
皆が危ないという焦りが、彼女の胸中を占めていた。
「死に物狂いで結界を破壊したのに、それで守護者が回復するなんて……!」
「……っ……!?」
一方、京都では。
致命打を与え、さらにバインドで拘束した守護者に、変化が訪れる。
それは、優輝達が油断なくトドメを刺す前に起き……。
「くっ……!」
優輝、鈴、司がすぐさまトドメを刺そうと動く。
しかし、守護者に集束する瘴気に、その攻撃は阻まれてしまう。
「何が……!?」
「瘴気が、集まって……」
「嘘……!?」
瘴気の集束に、誰もが危機感を抱いた。
瘴気ごと薙ぎ払うために、司がジュエルシードの魔力を溜める
そして、結界内を更地に変えた砲撃を司が放つ。
「っ、躱された……!?」
「あの傷とバインドで動けるのか!?」
しかし、手応えから避けられたと司は悟る。
「……瘴気だ」
「悪路王?」
「……あの集束する瘴気。あれによって守護者は傷を治したようだ。……それだけではないな。もしや、追い詰められるのを予期していたのか?」
「……だとしたら、笑えないな……」
悪路王の言葉に、優輝は顔を引き攣らせ。冷や汗を流す。
もしその通りなら、せっかく追い詰めた分が無駄になったも同然だからだ。
「う……く……!」
「く、苦し……!?」
「……霊術も扱えぬ娘にこの瘴気はきつかろう」
「なのはちゃん!帝君!」
集束する瘴気の影響を受けてか、霊術を扱えないなのはと帝が苦しむ。
すぐさま司が応急処置をし、戦闘不能に陥っていた澄姫を治療した織姫が対処する。
「……簡易的な護符よ。これで、この空気に耐える事自体は出来るけど……」
「……問題は、この後の戦闘に対処できるか、という事だな?」
「ええ。……嫌な予感がするわ」
「同感だ」
周囲を警戒する優輝達。
守護者は再び木々に隠れるように気配を隠し、何か仕掛けようとしていた。
魔法による結界は瘴気の影響で蝕まれるため、張ろうにも張れない。
霊力による結界では、張る際に隙が出来る。それを逃す守護者ではない。
そのため、再び更地にするには、相応の被害を出す必要がある。
時と場合によっては、それも辞さないと優輝は考えているが……。
「っ、来る……!」
その前に、守護者が動いた。
「これ、は……この、術式は……!?」
「結界の類……?でも、こんな規模は……!」
集束する瘴気、そして組み上げられた術式。
それは結界を構成するもので、しかし鈴には見たことがない規模だった。
「……こんな規模、護法霧散でも祓いきれないわよ……!」
「っ……!」
復帰した澄姫の言葉に、優輝が咄嗟に守護者に攻撃を仕掛ける。
だが、一歩遅かった。
―――“我が愛しき魂の故郷”
「ッッ……!?」
世界が塗り替えられる。
戦闘で荒れていた木々などは消え、江戸時代辺りの木造建築が現れる。
「な、に……?」
「嘘、ここって……!?」
その光景に、悪路王と澄姫は見覚えがあるのか、驚きの声を漏らす。
二人だけではない、織姫と蓮も、驚いていた。
「まさか……!」
「逢魔時、退魔学園……!」
そう。その光景は、彼女たちがかつて力を研鑽していた地にそっくりだったのだ。
「それって、陰陽師を育成する……」
「学び舎のようなものです。……同時に、ご主人様の家でもありました」
「……なるほど……」
優輝は蓮の言葉を聞いて何となく納得する。
この類の結界術は、術者の心を映し出す場合が多い。
今回の場合は、守護者にとっての魂の故郷が映し出されたのだろうと、優輝は推測する。
「どの道、ピンチって事には変わりないよね……」
「ああ。多分、守護者の切り札の一つだ。何を仕掛けてくるか、わかったものじゃない」
「………!」
さらに言えば、展開された結界全体に瘴気が込められている。
対策しているため、優輝達の体に害はないが、それを利用されれば話は別だ。
「……来て、私の式姫達……!」
「なっ……!?」
守護者のその言葉と共に展開されたいくつもの陣に、優輝達は言葉を失う。
特に、悪路王、鈴、澄姫、織姫、蓮の当時を知る者達は驚きが大きかった。
「嘘、だろ……」
「まさか、あれ全部……」
「……式姫、なのか……!?」
なぜなら、陣から出てきたのは何人もの人型の存在。
帝、司、優輝が呟いたように、それらは全て式姫だったからだ。
「っ、自我はないようね……でも……」
「散れ!!」
悪路王が鋭く警告する。
その瞬間、召喚された式姫達から霊術が放たれた。
優輝達はすぐさま散り散りに避ける。
「……強さは、そのままって事ね」
「幸い、見た所生き残っていた式姫は向こう側にはいないようです」
「だから、どうした。ってぐらいに多勢に無勢だけどね」
澄姫、蓮、鈴と、冷静に状況を分析して呟く。
そう。椿を初めとした、現代に生き残っていた式姫は向こう側には存在していなかった。
しかし、それでも相手の方が数は上だ。
その上、守護者本人もいる。
「どうする!?この数に加えて守護者の対処とか……!」
「……やるしか、ないだろう……!帝!手数の数はお前が一番多い!踏ん張れよ!」
「くそっ……!やってやらぁ!!」
空へと浮かび上がった帝が、大量の式姫に向けて武器を射出する。
王の財宝と無限の剣製。帝の持つ二つの特典をフル活用し、手数で攻める。
「(幸い、後衛はこれを避け切る事も凌ぎきる事もできない。術や矢で相殺しているみたいだけど、前衛の一部がフォローに入らないと対処できないみたいだな。でも、問題は……!)」
「来るわよ!」
「ッ!!」
ギィイイイン!!
優輝が状況を分析した通り、帝の攻撃で後衛のほとんどが動きを封じられていた。
しかし、その攻撃を駆け抜けるように、前衛の式姫の一人が駆け抜けてきた。
その式姫を止めようと、鈴の声と共に蓮が飛び出す。
「くっ……!」
「(速い!?この動き……まさか、剣の腕だと蓮さんを軽く凌ぐ……!?)」
「悪趣味よ、とこよ……!」
「ぬぅ……!」
抜けてきた式姫は、他にもいる。
澄姫、悪路王、鈴も対処に動くが、数も質も揃っている相手に長く持つはずがない。
「貴女、は……!?」
「天羽々斬……!?蓮!下がりなさい!」
「くっ……!」
蓮の相手は、蓮一人では凌ぎきれないと鈴が判断して、そう指示を飛ばす。
それは蓮にも分かっていたようで、すぐに後退した。
「はぁっ!」
ギィイン!
「ふっ……!」
鈴が割って入り、そこからは二対一で戦った。
しかし、他にも式姫はいる。帝の牽制も長くは保たない。
「吾の力、侮るなよ……!」
だが、そこで悪路王が動く。
相手が瘴気を扱うならと、悪路王も周囲の瘴気を利用した。
“鬼産みの力”を使い、多数の鬼の妖を生み出して式姫達に嗾けた。
「っ……!」
「なのはと司は上空から援護!矢と術には気をつけろよ!……奏、行けるか?」
「っ……うん……!」
「(式姫の対処は、式姫に詳しい人達がいるから数以外は何とかなるかもしれない。だけど、こんなに大量の式姫がいたら、守護者の相手が……!)」
砲撃魔法が得意ななのはと司が上空から、近接戦ができる奏と優輝は蓮達と同じように地上で相手取る事にする。
優輝に至っては、近接戦をこなしつつ上空に剣やレイピアを創造し、帝のように射出して後衛の式姫に対して牽制もしていた。
ギギィイン!ギギギギィイン!!
「く、ぐっ……!」
「くっ……!」
―――“Delay-Orchestra-”
奏がさらに加速し、優輝も導王流をフル活用する。
だが、それでも対処しきれない。
一人に梃子摺れば後から来た式姫が加勢し、さらに劣勢になる。
「ッ!」
即座に奏は動きを切り替える。
真正面から対処してはすぐにやられると判断し、加速を利用して攻撃を避ける。
そのまま加速度を維持し、式姫達の合間を縫うように攻撃する。
「(一人で足止めするよりも、他の足止めに協力して倒した方が、効率がいい……!)」
悪路王が生み出した鬼と式姫達がぶつかり合う場所へ奏は向かう。
そのまま、鬼の相手をしている式姫の背後を取り、一撃を繰り出す。
「(ヒット&アウェイ!魔力弾をばら撒きながら、一か所に留まらない!)」
「(ナイスだ奏……!僕も……!)」
一撃を繰り出し、反撃を受ける前に次の式姫に攻撃。
飽くまで足止めを目的とした立ち回りに、召喚された式姫達も攻めきれずにいる。
そこへ、優輝が加勢し、可能であれば攻撃を与える戦法を取る。
「(僕と奏で引っ掻き回し、遠距離魔法が使える司達で援護。蓮さん達も上手く凌いでいるみたいだし、これで……!)」
「全力よ……!」
―――“慈愛星光-真髄-”
「(織姫さんによる一撃で、式姫を減らせる……!)」
後方に隠れていた織姫が、足止めを食らった式姫に対して極光を降らせた。
守護者だからこそ防げていた極光に、さすがの式姫も対処できないのか、何人かの式姫が消し飛ばされる。
「(本物だったらもっと上手く対処したのかもしれないな)」
召喚された式姫は、その式姫本人という訳ではなく、容姿と能力を再現しただけの人形のようなものだ。そのため、思考による判断が出来ずに極光を食らって倒された。
僅かではあるものの、これによって式姫を減らす事は出来た。
……しかし。
「ッ……!」
ィイン!!ドスッ……!
「っ、ぁ……!?」
「しまっ……!?」
極光を放った隙を突いたのか、織姫は守護者の刀によって貫かれてしまう。
そう。忘れてはならない。この場には式姫だけでなく守護者もいるのだと。
「ちぃっ……!」
「ッ……奏、頼む!」
「ええ……!」
すぐさま悪路王が割って入り、優輝が転移で駆けつけて守護者の相手を務める。
織姫は、咄嗟に慈愛の力を防御力に変換させたおかげか、致命傷は避けていた。
しかし、重傷を負っているため、戦闘は続行できないだろう。
回復役を先に倒すというのは、集団戦では常套手段だろう。
だが、実際にそれをやられるのは堪ったものではなかった。
「っ、ぉおおっ!!」
「………」
ギィイン!!ギギィイイン!!
優輝はレイピアを生成して打ち出しながら、神降しの時から残している神刀・導標と創造した刀の二刀で斬りかかる。
「ッッ……!」
ギィイン!!
「転移!」
奏に足止めを任せ、優輝は範囲指定の転移魔法を使う。
もちろん、普通に魔法を使っても避けられるので、受け流した瞬間に行使した。
範囲内を丸ごと転移する魔法は、さすがに守護者も避けきれなかったようだ。
「(指定した条件は“空中”。アドバンテージはこちらにある。何とかして、僕だけで戦わないとな……!)」
範囲指定をほぼノータイムで行使するとなれば、どれかの機能を削らなければならない。
そこで、優輝は転移先を空中な事以外ランダムにする事で術を行使した。
ギィイン!!
「っつ……!」
空中とはいえ、守護者は霊力を足場に跳躍してくる。
しかし、空を飛べるのと、跳ぶのはやはり違う。
空中なため、導王流の受け流しも容易になっていたため、優輝は攻撃を受け流した。
「ッ……!」
「くっ……!」
―――“弓技・火焔の矢-真髄-”
―――“弓技・氷血の矢”
―――“弓技・氷血の矢-真髄-”
―――“弓技・火焔の矢”
ギィイン!ギギィイン!
炎には氷、氷には炎と、守護者の放つ矢を対称の属性を宿した矢で相殺する。
否、相殺ではなく、威力を削いでいるだけだった。
展開速度こそ追いついているものの、威力は椿の力を得た今でも負けている。
「(このまま地面まで……くそっ!)」
矢と矢の撃ち合いは続く。
矢同士での相殺は出来ていないので、レイピアで残りの威力を落とす。
しかし、その間にも守護者は霊力の足場を蹴り、地面へと向かっていた。
それを止める事も出来ず、優輝は式姫達がいるど真ん中まで誘い込まれる。
「『……巻き添え、食らうなよ?』」
「『えっ……?』」
念話で忠告し、優輝は魔力を練った。
優輝の戦闘スタイルはオールラウンダーではある。
しかし、それ以前に“ベルカの騎士”でもある。
つまり、“一対一に強い”という性質を持つ。
……裏を返せば、“巻き込んでしまうから集団戦ができない”と言える。
「一対一……または一対多……散々やってきた事だ。ただで倒せると思うなよ……!」
神降しは、戦闘スタイルと感覚が違ったから。
それ以外の時は、誰か味方がいたから、本来の戦い方ができなかった。
だが、憑依で力が底上げされた程度なら、本来の戦い方ができる。
巻き添えなど考慮している状況でない今、優輝は導王としての力を完全に発揮する。
「ッッ……!!」
ギギギギィイン!!
守護者から、そして周りの式姫から繰り出される刀の攻撃。
それを、僅かに軌道を逸らすだけで回避する。
一対一であれば、その先の動きもしなければならないが、相手が複数で一斉に襲ってきた場合は、その限りではない。
「ッ……!?」
「ふっ……!」
―――“火炎”
―――“氷柱”
―――導王流壱ノ型“流水”
飛んでくる霊術も、霊力を纏わせた拳で逸らす。
追撃や反撃をしようとする式姫を抑えつつ、優輝は逸らした反動で体を浮かせる。
「せぁっ!!」
そして、その瞬間。上空から大量の剣を降らせた。
守護者はあっさり切り抜けるも、式姫達は無傷といかないようだ。
「(守護者の攻撃を凌ぎつつ、それに巻き込んで式姫を倒す……!)」
反撃に出ることは出来なくとも、耐える事は出来る。
そう考え、優輝はそのまま攻撃を凌ぎ続けた。
ギィイン!!ギギギギィイン!!
「くっ……!」
「一人を悠長に相手してたら負けるわ!ここは……!」
―――“弓技・閃矢”
「合流が先よ!」
天羽々斬を相手にしていた蓮達だが、鈴の言葉に一度下がる事に決める。
澄姫の援護で撤退し、すぐさま悪路王の方へ合流する。
「シッ……!」
式姫達の合間を駆け抜けるように、奏は加速を保ちながら牽制をし続ける。
……だが。
「ッ……!?」
それに追いついてくる式姫も存在した。
「速い……!!」
ギィイン!!
「っ……!(それに、強い!)」
追いついてきた式姫は、二人。
桃色の髪と羽をもつ少女と、槍を持ち金髪を束ねて下ろしているボーイッシュな少女。
“おつの”と“建御雷”と呼ばれる式姫だ。
特に、建御雷は椿と同じく分霊とはいえ神が式姫になった存在。
その槍捌きに、奏は思わず後退する。
「くっ……!」
―――“火焔旋風”
「ッ……!」
奏の速度に追いつき、おつのから霊術が放たれる。
それを即座に躱すも、そこへ建御雷が槍で攻撃してきた。
ギギギィイン!!
「っつ……!」
これ以上の加速を奏は出来ない。
以前の戦いで使っていた瞬間的な加速は出来るものの、これ以上は負荷が大きい。
ましてや、ここまで加速した奏に追いつく式姫を相手に面食らったのもある。
「『奏ちゃん!』」
「『なのは、助かったわ……!』」
間一髪の所で、なのはの援護砲撃が割り込む。
躱されはしたものの、その隙に悪路王たちと合流が出来た。
「ふっ……!」
ギィイン!!
鈴に襲い掛かっていた式姫を背後から斬りかかり、それを受け止めた所に鈴が一閃。
その式姫を倒す事に成功し、すぐに状況を確認する。
「……悪路王の鬼産み程度では抑えきれないわ。それに、貴女も戦ったみたいだけど、一際強い式姫達が残っているわ」
「一部の能力においては守護者に匹敵する者もいる」
鈴と悪路王の言葉に、奏は冷や汗を流す。
同時に奏が念話で上空の面子にも伝えていたが、それを聞いた司達も戦慄していた。
「(彼を助けに行く事もできないし、回復が得意な織姫は戦闘不能にされた。悪路王の鬼産みも、限りがある。……もう少し、味方がいれば……!)」
一丸となって式姫達の猛攻を凌ぎ続ける鈴達だが、それでも押されていく。
特に、織姫が戦闘不能となり、その守りをしているため余計に身動きが取れない。
「(まだ70人以上残っている!あの牽制も、そろそろ突破……)」
「くっ……!」
「(された……!まずい……!)」
帝の連続射撃に式姫達も対処してきたのか、徐々に帝に向けて霊術や矢が飛ぶ。
王の財宝から取り出した宝具で身を固めているため、傷は負っていないものの、それも時間の問題と思えた。
「っ……憑依を解く時間も、ないっ!!」
―――“刀奥義・一閃”
「はぁっ!」
ギギィイイン!!
襲い掛かる式姫達の攻撃を、必死で凌ぐ。
数は多いが、一斉に襲い掛かる事はない。
お互いを邪魔しないように、近接系の式姫は最低限の人数でしか襲ってこなかった。
それが、唯一の救いとも言えた。尤も、ジリ貧でしかないが。
「“チェーンバインド”!!」
「ッ……!?」
その時、鈴達の後方から大きな声と共に大量の魔法陣が展開された。
「ユーノ……!?」
「アリシア、今だよ!」
「オッケー……!しっかり守ってよね……!」
そこには、魔法を行使するユーノと、炎と冷気のような霊力を纏ったアリシアいた。
奏達がそのことに驚いている間に、アリシアが矢を放つ。
「司!!帝!!」
「っ、はぁっ!!」
「そこだぁっ!!」
アリシアの呼びかけに、司と帝は反応する。
拘束されている式姫に向けて、三人の攻撃が直撃した。
何人かが障壁を張っていたが、一斉攻撃の前には無駄だったようだ。
「(アリシアとユーノだけじゃない……!フェイトも……!)」
「奏……!」
「ッ……!」
思考よりも先に、フェイトのその呼びかけに奏は反応する。
そこへおつのと建御雷が猛スピードで迫る。
「ふっ……!」
ギィイイイン!!
刹那、ザンバーフォームのバルディッシュと建御雷の槍がぶつかり合う。
拮抗はなく、力負けしたフェイトが後退する。
「はぁっ!!」
そこへ割り込むように奏が攻撃。建御雷の槍を上に弾く。
―――“火焔旋風”
「想定、済み……!」
―――“霊閃”
おつのの霊術が飛んでくるが、それは奏が続けざまに放った一閃に相殺される。
「はぁぁあっ!!」
間髪入れずにフェイトが建御雷に肉薄。
ギィイン!!
「ッッ……!」
〈“Plasma Smasher”〉
再び槍とぶつかり合い、吹き飛ばされる。
しかし、意地で放った砲撃魔法が建御雷に直撃。倒す事に成功する。
「逃がさない……!」
―――“Delay”
奏はおつのを追いかけ、一度だけさらに加速を重ね掛けする。
一瞬とはいえ負荷が大きかったが、それでおつのに追いつき、霊術で妨害される前に切り裂く。
「ッ……」
今更だが、人型の存在を斬り殺す経験が奏にはない。
犯罪者には非殺傷を、今までの妖は人型でも異形だとわかる者ばかりだった。
故にほとんど人間と変わらない見た目の式姫を切り裂いた事に少し動揺してしまう。
……が、それは守護者との戦いの時点で覚悟していた事。
優輝達にも力を持つことはこういう可能性があると教えられていた事もあり、すぐさま奏は気を取り直す。
「『……どうしてここに?』」
素早い式姫を二人倒し、すぐさま奏はフェイトに念話で聞く。
「『ダメージの大きくない人は目を覚ましたから、半分が妖の足止め。もう半分がこっちの援護にってクロノが』」
「『……よく結界内に入ってこられたわね』」
守護者の結界がある今、外部にいたフェイトたちは簡単には侵入できないはず。
それを奏は指摘し、尋ねる。
「『結界そのものは幽世の神が一時的に穴を開けて、そのタイミングで侵入したんだ。でも、さすがに幽世の神も長期戦で疲弊してて、足止めに人員を割いたのもそれで……』」
「『……そういうこと。……アリシアの状態に心当たりは?』」
アリシアの纏う二つの霊気は、アリシアのものではない。
誰の霊力なのかは、位置が離れている奏にはわからないが、違う事はわかっていた。
「『……アリサとすずかが、何かやっていたぐらいしか……』」
「『その情報で十分よ』」
詳細は分からなくとも、奏には三人が協力したのだろうということは分かった。
事実、今のアリシアは憑依の術式を参考にアリサとすずかの霊力を譲渡。
その霊力によってパワーアップをするという、“疑似憑依”のような事をしていた。
「(たった三人。されど三人。……少しでも、可能性は増える……!)」
魔導師でしかないユーノとフェイト。そして実戦経験が浅いアリシア。
戦力としては心許ないように思えるが、それでも援軍はありがたかった。
「ユーノ、バインドの援護と防御をお願い!」
「アリシアは!?」
「私は出来る限り矢と術で援護してみる。どの道、固まって連携を取らないとあの人数は優輝か司じゃないと相手にできないよ!」
遠距離にいたユーノとアリシアも、細心の注意を払いながら奏達のいる所へ合流する。
依然、戦力差は絶望的。
しかし、それでも優輝達は諦める事なく足掻き続ける。
後書き
我が愛しき魂の故郷…ぶっちゃけFateの固有結界。守護者(とこよ)の心に刻まれた魂の故郷を映し出す。式姫も無制限に召喚出来るが、常世で生きている式姫は召喚出来ない。Fateで言う王の軍勢に近い。
天羽々斬…名前の通り、天羽々斬の付喪神の式姫。子供好きで、よく可愛がったりしている(偶に度が過ぎる事も)。式姫の白兎が特にお気に入り。刀の腕は蓮を軽く凌ぎ、とこよとも同等以上の腕前を持つ。ちなみに、第二次世界大戦で子供たちを守るために散っていった(102、132話参照)。
Delay-Orchestra-…ディレイの重奏の最終形態。段階を飛ばさずにしっかり踏んで加速した場合のみ使用可能。爆発的な加速だけでなく、衝撃を徹したり、速度以外の身体強化も伸びていたりと、効果が豊富。
流水…導王流で多対一に向いた技。流れる水の如き動きで、周囲からの攻撃を受け流す。また、受け流した攻撃で周りの敵に攻撃する。
おつの…名前の由来は飛鳥時代の呪術者。かくりよの門では激レア扱いで、術を得意とする式姫。色々と速く、特にマシンガントークがやばい。音速以上のスピードで動ける。容姿については式姫大全で。
建御雷…言わずもがな神様。かくりよの門でも最上級のレア度に位置し、そのレア度に違わぬ強さを持つ。おつののように速く動く事が出来るが、音の壁のせいで動きながらの会話は出来ないらしい。槍を扱う式姫でもある。容姿については式姫大全で。
霊閃…霊力を込めた一閃。刀奥義の一閃の下位互換。一撃の威力としては十分。
疑似憑依…憑依と名がついているが、実際は霊力を譲渡する事によるブースト。術式が憑依を参考にしているため、この名がついた。
導王流の弱点は多対一と言ったな。……あれは嘘だ()。……いえ、確かに弱点ではあります。受け流しの際に生じる隙を突くような連携を取られればすぐに負けてしまいます。……尤も、優輝が強くなればなるほど、その隙がなくなるため、実質克服できていますが。
今回、結界内で一斉召喚された式姫は個々の強さが大体そのままですが、唯一耐久力だけは相当低くなっています。そうでなければさすがに勝てませんので……。設定としては召喚数が多い程耐久が減る感じです。緋雪の時は四人だけだったので十分タフでした。
追記:なぜか書いてなかった我が愛しき魂の故郷の解説を追加。
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