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とある3年4組の卑怯者

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167 今後(これから)

 
前書き
 160話の前書きで言及した「ある設定」とは、みどりちゃんと城ヶ崎さんは交友があるという設定です。ただし、それを証拠づけるエピソードが、「ちびまる子ちゃん」アニメ2期54話「美人は得か?」の巻くらいしかなく(しかも間接描写)、なぜ二人が知り合いかが不明な為、「みどりちゃんと城ヶ崎さんは同じ幼稚園で友達となったが、別々の小学校に行ってしまった」という設定にしました。またまた勝手な設定を作ってすみません。 

 
とある幼稚園。吉川みどりはすぐに泣いてしまう女子だった。同じ幼稚園児の者は彼女が些細な事ですぐに泣いてしまうので一緒に遊ぶのを敬遠するようになっていた。みどりは一人で遊んでいた。ある時、一人の可愛らしい女子に声をかけられた。
「ねえねえ、みどりちゃんも一緒に遊ぼうよっ!」
「え?」
 みどりにとってこんな自分に声をかけてくれる子は彼女が唯一だった。
「貴女はええと、姫子さんでしたよね?」
「そうよ」
「えー、やめようよ、みどりちゃんなんか誘うの。すぐ泣くんだもん。疲れちゃうよ」
「だからって一人にするなんてよくないわよっ!!」
 その姫子という子は反論した。みどりは彼女に支えられて幼稚園生活を過ごしたようなものだった。泣き虫だと虐められた時も姫子という子が庇い、ゲームで負けて泣いてしまった時も彼女が慰めていた。
 しかし、卒園後は学校が別々となり、みどりは再び一人ぼっちになってしまった。一人のとある女子が転校してくるまでは・・・。


「ええと、城ヶ崎さんだったね。ごめんね、迷惑かけて」
「いいのよ、あいつらが悪いんだから」
「う、うん・・・」
「それにしても君の家凄いね、暖炉があるなんて!まるでヨーロッパだよ!」
 みきえは城ヶ崎の家に目を光らせていた。
「えへへっ、ヨーロッパ風の家にしてあるのよっ!」
 堀はまだ体をバスタオルでくるんでいる状態だったが、城ヶ崎に藤木とたかしが入る事を許可させた。藤木とたかしは半裸の状態の堀の姿を見る事に申し訳なさそうに入った。
「う、やっぱり男の僕達は先に帰った方がよかったかな?」
「そんな事ないわ。まだ喋りたい事があるからね」
「喋りたい事?」
「貴方達の犬、とっても可愛いね」
「えっ?あ、ありがとう・・・」
「私も前は犬を飼ってたのよ」
「え?そうだったんですか!?」
 みどりも驚いた。彼女は前に堀が住んでいた笛吹の家に行った事はあったが、犬を飼っている様子はなく、今の彼女の家にも犬はいない。
「そうよ、でも年取ってたし、去年病気で死んじゃったの・・・」
「そうだったんだ・・・。でも本当に僕の犬を助けてくれてありがとう」
 たかしは改めて堀に礼をした。
「うん、貴方はいい飼い主ね。犬の気持ちを凄く分かってるみたいだし・・・」
 たかしは今の堀の台詞とほぼ同じ事をみぎわも行っていた事を思い出した。確かに客観的にはいい飼い主かもしれないが、たかしにはある罪悪感があった。
「うん、僕は犬が好きなんだ。このタロは知り合いのおばさんの犬の子供を貰ったんだよ。大事に育てるって決めたから死なせる訳にいかなかったんだ。でも君に代わりにこんな目に遭わせて僕は最低な男だよ・・・」
 たかしの目に涙が溢れた。本来ならば自分が川に飛び込んでまで助けるべきだったのにその役目を堀に担わせたような責任感でいっぱいだった。そして自分が好きになっている城ヶ崎もこんな自分を見て失望するのではないかと思った。もしかしたら城ヶ崎も自分も他の男子と同様に冷ややかな目で見るようになるのかもしれないという不安までも感じた。
「西村君、大丈夫よっ、落ち込まないでっ!!」
「そうですよ、助かったんですから!」
「西村君はタロの気持ちを一番に理解しているよ!僕なんて卑怯だから絶対に西村君や堀さんのような事はできないよ!」
「う、うん・・・」
 たかしは皆から慰められて少しは落ち着いた。
「貴方のタロ、また見てもいいかしら?」
「え?う、うん、タロ。この人が君を助けてくれたんだよ」
「ワン!」
 タロは堀を見て嬉しそうな顔だった。
「触ってみるかい?」
「いいの?」
 堀はたかしからタロを受け取り、触らせてもらった。タロは堀にすぐになついたようで彼女の頬を舐めた。
「西村君、また貴方の犬に会ってもいいかしら?」
「え?う、うん、よかったら今度僕の家に招待するよ!今度僕達と一緒に遊ぼうよ!」
「ありがとう、そうだ、私藤木君と文通してるから藤木君、西村君にも私の住所教えてあげて」
「あ、うん・・・」
 藤木は後でたかしに堀の住所を教える事にした。藤木はもしかして堀がたかしを好きになったのではないかと思った。
(もしかして堀さん、西村君が好きになったのかな・・・?確かに僕はリリィと笹山さんが好きという事になってはいるけど、もし二人から嫌われたら堀さんを選ぶつもりなんだ・・・。もし二人から嫌われて堀さんも西村君と一緒になったら僕はどうすればいいんだろう・・・?)
 藤木は勝手な不安を感じてしまった。
「西村君、城ヶ崎さんから聞いたけど、貴方は自分のタロや城ケ崎さんのベスの為に私の学校の人と戦ってたんでしょ?タロだって有難く思ってるわ。そうでしょ、タロ?」
 タロは堀の言葉が分かったのか、「ワン!」と返事した。
「最低なんかじゃないわよ」
「うん、ありがとう、堀さん・・・」

 やがて堀の服も乾き、堀は服をまた着て、遅くなった事情を母に説明するために自分の家に電話した。藤木はたかし、みどり、堀、そしてみきえと共に城ヶ崎家を出ることにした。
「それじゃ、さようなら」
「ええ。みどりちゃん、また遊びに来てね」
「姫子さん・・・。はい、ありがとうございます!」
 みどりは礼をした。
「藤木。スケート、頑張ってね」
「うん・・・」
「城ヶ崎さん、貴女のベスも可愛かったわ」
「堀さん、う、うんっ、ありがとうっ!」
「下着は洗ったらすぐ返すわ」
「大丈夫よっ、慌てなくていいわ」
 皆は城ヶ崎家を後にした。
「私もそろそろ帰んないと。遅くなって明日学校に遅れるなんてみっともないからね」
「そうですね」
「みきえちゃん、僕も見送りに行くよ」
「ありがとう、藤木君!」
「それじゃ僕はタロを休ませるよ」
「うん、さようなら、西村君、また会おうね」
「う、うん、そうだね・・・」
 たかしとタロは皆と別れた。たかしはこの時、自分の犬を必死で助けてくれ、自分をいい飼い主だと褒めた堀にも謝意と共に好意を抱いた。城ヶ崎も好きではあるのだが。とにかく、ある事をやり遂げなければならない。それは城ヶ崎のベスを預かるという使命を果たす事・・・。

 藤木は一旦みどり達と別れ、スケートウェアからいつもの服装に着替えた。清水駅で待ち合わせる約束だったので、清水駅へと向かった。まだ早かったようで藤木は駅前でみどり達を待った。
 みどり、堀、みきえが堀の父が運転する車で訪れた。
「藤木君!」
「みきえちゃん、今日は楽しかったよ」
「こっちこそありがとう。美葡ちゃんにも宜しく言っとくよ。世界大会頑張ってね。じゃあね!」
「みきえさん、さようなら」
「また会おうね」
 みきえは改札を通って皆と別れた。藤木達は帰る事にした。
「あの、藤木さん」
「何だい、みどりちゃん?」
「いつご出発なされるのでしょうか?」
「ああ、次の日曜だよ」
「分かりました。それでは私達もお見送りします!」
「うん、それいいわね!」
「ありがとう、二人とも。それじゃ、僕は失礼するよ」
「うん、さようなら」
 藤木は二人と別れて帰っていった。みどりは自分が恋する藤木にどうしてもメダルを獲らせて欲しいと神や仏に祈っていた。なぜなら自分が藤木を好きになった理由は彼のスケートの上手さなのだから。そしてその栄光を掴みとって日本に戻ってくると信じて・・・。


 世界大会への日は迫り来る。先ずは東京のスケート場での合宿に参加して今以上に鍛えなければならない。
(リリィ、笹山さん、絶対に約束を果たすよ・・・)
 藤木には好きな女子二名と約束した事が二つあった。一つはスケートで世界一になる、すなわち世界大会で金賞を獲る事、そしてもう一つは卑怯を治す事・・・。 
 

 
後書き
次回:「出発(たびだち)
 カナダで行われるスケート大会に向けて、藤木が出発する日が訪れた。自分の学校の同じ学年の者やさらにみどりと堀、そして入院中の笹山、そして街の人々も駆け付け・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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