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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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<フラクシナス>に再来訪


第二の精霊《ハーミット》による空間震と、DEMからの派遣社員リンレイのCRユニットによる被害で悲惨な姿と化したデパートとその他のビル群。

「結局、間に合わなかった上に、後始末やらされるとわ」

「仕方ない。 遅れた私達が悪い」

暁夜と折紙は災害復興部隊と共に壊れたデパートとビル群の修理を行っていた。

「んな事言ってもよー。 ってか、その手に持ってる変な人形(パペット)なに?」

「落ちてるのを見つけて、気に入ったから拾った」

「成程成程。汚いから捨てよーな、折紙ちゃん」

()だ。 この人形(パペット)は持って帰る」

「ダメです! 早く捨ててきなさい!例え、明日から俺の服が全て女性物になろうと、童貞を散らされようと、襲われようとも、お兄さんは許しません!」

白い生地で兎という事は分かるが、なぜか右目が黒いボタンらしき物で隠れていて、まるで眼帯をしているようになっている人形(パペット)を胸に抱き寄せて、折紙は首を横に振った。

「それの何が良いの!? もっと可愛い人形(パペット)買ってあげるからそれはやめよ!?」

「この良さが分からないなんて、貴方の感性はとても残念」

「お前にだけは言われたくないよ!?」

と、兎型人形(パペット)を捨てる捨てないで言い合っていると、

「そこの二人! 遊んでないでテキパキ動く!」

上空から崩壊したビルを修復する災害復興部隊隊員、瀬戸(せと) 李衣菜(りいな)が怒声を上げる。

「暁夜、怒られた」

「俺が悪いみたいな言い方やめて!? 半分以上お前が原因だからね!?」

少しムスッとした表情で暁夜にジト目を向ける折紙に、暁夜は大声を張り上げた。

「まだ遊んでんの!! アンタらの隊長に全然役に立たなかったって伝えるわよ!!」

「それだけは勘弁!」

「それは困る」

暁夜と折紙は、李衣菜の脅迫に逃げるように修理を再開する。ただ、CRユニットを纏う折紙と違って暁夜の方は随意結界(テリトリー)展開を数分ほどしかできないため、修理ではなく、瓦礫などの撤去作業しか出来ることが無い。よって、暁夜は折紙が修理する箇所の瓦礫を撤去していくしかないので、中々修理は進まない。

「暁夜、遅い」

「これでも頑張ってる方なの!焦らさないで!!」

思わず女みたいな言葉遣いでキレる暁夜。

「もう少し速度を上げて」

「注文の多い同居人様ですこと!」

パッパっと瓦礫を掴んでは投げ掴んでは投げを先程より速い動きで繰り返す。その度にストレスが溜まっていく事は折紙に内緒である。

それから数時間後。

「はぁ〜、つっかれた〜!」

復興作業を終えた災害復興部隊と暁夜は天宮駐屯地の格納庫に各々武装を格納し終え、ロッカー室で疲れをとるために、ひんやりしたタオルを顔に当て、休憩をしていた。

因みに、災害復興部隊の方々と折紙はシャワーに行き、暁夜はシャワー待ち。AST隊員だけが使用できるシャワー室は計三部屋。 その中の一部屋は暁夜専用のはずなのだが、使用中になっていた。微かに漏れてきた鼻歌から恐らく女性だろうと推測し、暁夜はロッカー室に戻ったのだ。

(あのままあそこにいたら、覗きと勘違いされるしな)

暁夜はベンチから立ち上がり、壁に備え付けられた自販機にお金を入れる。そして、三段ある内の1番上の左から二列目のスポーツ飲料水のボタンを押し、下から受け取り、ベンチに再び腰掛けた。

「ふぅ。 気持ちよかったぁ〜」

と、裸身にバスタオルというスタイルの茶髪に褐色肌の約20代ほどの女性がロッカー室に現れた。

(・・・誰だ、あの人?)

暁夜は下心とかそういう感情ではなく、見知らぬ人が誰なのかという純粋な疑問の感情を抱きながら、スポーツ飲料水のペットボトルに口をつける。その視線に気づいたのか、茶髪褐色肌にバスタオルと不可思議スタイルの女性がこちらを見た。

「すみません。 やっぱ男に見られるのは誰だって嫌ですよね」

暁夜は即座に頭を下げて謝罪する。 が、

「いえ、気にしなくて結構です。崇宮 暁夜二曹」

恥ずかしがることもなく、平然とした態度で大人の対応を見せるバスタオル女性。

「あの、どうして俺の名前を?」

「ああ、すみません。 あなたの事はアイザック社長から聞いておりましたので」

「って事は、DEMの人ですか?」

「ええ、はい。 そうえば、自己紹介してませんでしたね」

バスタオル女性はゴホンと軽く咳払いした後、

「私は、シス・D(ダーナ)・ハート。 リンレイ・S・モーガンのオペレーターとCRユニットの管理及び整備を担っているDEM派遣社員の一人よ。 これからよろしく、崇宮二曹」

そう名乗った。

「こちらこそよろしくお願いします。 シス・・・さん?」

「シスでいいわ。 私、さん付けされるの苦手なのよね」

「それじゃあ、俺も呼び捨てにしてくださいよ。 堅苦しいの嫌いなんで」

「ええ、分かったわ。 暁夜」

シスはそう言って握手を求めてきた。暁夜はその手を握り、

「これからよろしく、シス」

微笑みを浮かべた。

「それじゃあ、またね」

「あ、その前に聞きたいんですけど。 一番左のシャワー室空いてましたか?」

「ええ、私がさっきまで使用してたから、空いてるよ。それがどうかしたの?」

「あ、いえ。なんでもないです」

暁夜は、シスから視線を逸らす。それは無理もないこと。自分の使用しているシャワー室に先程まで女性が入っていたのだ。男ならドキドキしないわけが無い。例え、折紙に対する免疫を持つ暁夜であろうと、それは折紙限定だ。世界中の女性に対する免疫を持っている訳がない。

(それに、今からシャワー浴びるなんて言えない)

シスが使用していた時点で、『今からシャワー浴びるんだ』という言葉は変態に思われる可能性がある。確か、DEMにいた頃に、既婚者の男性上司(あだ名は兄貴)が『女性がトイレやシャワーに入った後、五分ほど経ってから男性は入らなくてはならないんだ。理由は匂いが消えるまで待ってほしいからなんだ』とうんざりした顔で語っているのを聞いたことがある。だから、すぐに入るのはダメだ。五分後に入らなくては。

(ありがとうございます、兄貴)

暁夜は胸中で感謝の言葉を述べる。

「連絡先渡しておくわ」

「あ、ありがとうございます」

暁夜は携帯を取り出し、シスが連絡先を言葉で伝える。

「それじゃ、今度こそまたね」

「はい、また」

シスは暁夜にそう言って、更衣室へと消えていった。 暁夜はその背が消えたのを確認して、大きくため息をついた。

「 はぁ〜。 シャワー浴びるか」

グッと伸びをして、着替えをロッカーから取り出し、シャワー室へと向かった。



天宮駐屯地第二格納庫。 巨大な白銀色の機械鎧(オートメイル)と、刃部分がない剣の柄が幾重の特殊な透明ケースに覆われている。 他にも、幾つもの透明ケースがあり、そのどれにも形や色は違うものの機械鎧(オートメイル)と武器が納められていた。

それ以外は格納庫と言うより家のリビングに近い。

巨大なソファーとドでかいテレビ。透明の机の上には、テレビリモコンとペットボトルのコーラ2本にお皿に大量に盛られたフライドポテトが置かれていた。

そんな格納庫とは思えないこの部屋の利用者は、先日、DEM社から派遣された二人の社員、リンレイとシスだ。ただし、ここに住んでいる訳ではなく、わかりやすく言えば別荘に近い。

「あ〜、おふァひぇり〜」

英語のロゴが胸元に刺繍されているダボッとしたシャツに白いパンツ一枚の姿で、口の中にポテトを沢山入れ、ソファーの上で足をパタパタさせながらリンレイは手を振った。

「はぁー。 下もちゃんと履きなさいよ。ここに私以外来ないからって、不用心すぎ」

グレーのシャツにデニムを履いているシスは、小脇に挟んだ書類を机に置いて、まだ飲まれていない方のコーラのペットボトルのキャップを外し、口をつける。シュワッとした刺激と甘み、冷たさが喉を通っていく。

「んなこと、気にしにゃい気にしにゃい」

口の中一杯に含んだポテトを飲み込み、手についた塩を舐めとる。

「それより今日、貴女が壊した建造物の修理代は給料から引いておくからね」

「ちょ、それはないでしょー。 私は精霊を殺すためにがんばっただけじゃんかー! ていうか、アレはほぼ《ハーミット》のせいじゃんよ〜!」

シスの報告にリンレイはソファの上で駄々をこねる。 だが、シスにとっては日常茶飯事の光景のため放置して、話を先に進める。

「んで、二つ目は、崇宮暁夜の件の確認よ」

机に置かれた幾つもの書類の中から、ホッチキスで留められた六枚分ほどの紙束を手に取る。

「まず今回、私達がアイザック社長から日本に行くように命じられた理由は覚えてる?」

「暁夜君の監視でしょ〜」

「まぁ、多少はあってるけど。 正しくは、崇宮暁夜がまだ私達の味方かどうかの監視。 万が一、敵対するなら--」

「処分、でしょ?」

先程まで、ダラダラしていたリンレイが、酷く冷めきった声音で答える。

「ええ、そうよ。 ただ、元部下だからって殺すのを躊躇ったりしないわよね? リンレイ」

「 当たり前でしょ。アイクの命令なら、暁夜君と仲良くなるし、殺せというなら暁夜君を殺すし、死ねと言われたら私は快く死ぬ。それほどまでに私はアイクを敬愛してる。とても好き」

「ほんと、病んでるわね。 アンタ」

「ははは。それほどでもないかな」

酷く冷めきった声音から普段の明るい声音で答え、リンレイは携帯ゲームをし始める。シスは書類を手に、第二格納庫から外に出る。

数時間前まで降っていた雨は止み、満点な青空になっていた。シスはそんな青空を見上げて、

「【明星堕天(ルシフェル)】が暁夜の中に眠っているなんて・・・残念だわ」

手に持っていた『崇宮暁夜に関する情報』が記されている書類の束をグシャリと握りつぶした。



翌日の早朝。暁夜と折紙が暮らすマンションの部屋の前に黒いスーツを着た怪しい男性二名がいた。 周囲からイタイ視線が刺さる中、その男性二名は耳に取り付けられているインカムで通信を繋げる。

「こちら、D2。司令、標的の家の前に到着しました」

『そう。 今の時間帯は二人ともいないとの事だからちゃっちゃっと奪ってきなさい』

「了解」

男性二名は通信を切り、扉を開ける。ガチャっと呆気なく開き、

「鍵、空い--」

「いらっしゃーい!ラタトスクの構成員さぁぁあん!!」

一人がそう呟いた瞬間、バケツを手にした暁夜がいたずらっ子の様な笑顔を浮かべて男性の頭に被せた。そして、急な事に呆然としているもう一人の男性の方を見やり、

「あなたもいらっしゃーい!!」

「へっ? まっ・・・むぎゃ!?」

二個目のバケツを頭に被せた。

「くっ、周りが見えない!」

「おい、どうなってんだよ!? 誰もいないんじゃなかったのかよ!」

バケツを被り周りが見えない暗闇状態のラタトスク構成員二名が悲鳴と怒声を上げる。と、そんな2人の耳に、

「あ、そこ危ないよ」

暁夜の忠告が聞こえた。ただし、時すでに遅し。 声に気づいた瞬間に、ラタトスク構成員二名の全身を感電死まではいかないが病院送りにされるほどの電流が流れた。

「ギィャャヤヤアアア!?」

「あばばばばばばばば!?」

ラタトスク構成員二名はそんな苦鳴を上げ、倒れ伏す。

「うっし。ご報告と行きましょーか!!」

暁夜は両手に持ったスタンガンを棚においてからインカムを取り、自身の耳につけて、通信を繋げる。

「やぁ、おはよう!!いい朝だね! 琴里ちゃん!!」

『・・・・』

「あれあれあれ〜? もしかして聞こえてなぁい? それともスルーかなぁ? まぁ、繋いであってもなくても、これだけはいいます。えー、琴里ちゃんは、士道君の下着を毎夜クンカクンカしてます!」

『--んなこと、してないわよ!? このバカ!!』

「あ、間違えた。 士道君の下着で毎夜いかがわしいことしてま--」

『あんた、ほんとにぶっ殺すわよ!?』

「無視するのが悪いんです」

暁夜は悪びれることも反省する気もない声音で答える。それに対し、琴里はとてつもないほどにお怒りモードだ。

『当たり前でしょう! ノコノコ敵さんに挨拶すると思ってんの!?』

「現に俺がしてるじゃん」

『アンタは単に馬鹿なだけでしょ!!』

インカム越しから何かを蹴る音が聞こえた。相当ご立腹のようだ。

「へいへい。俺、こう見えて学年順位毎回3位の秀才ですよ? そんな秀才が馬鹿ってことは、君のお兄さんは大馬鹿者って事になるけど、そこん所どうよ?」

『さっきから揚げ足とるのやめてくれないかしら!?』

「は〜い、司令官の仰せのままに〜!」

暁夜がそう返事を返すと、『絶対殴ってやる』という琴里の恐ろしい脅迫が聞こえたが華麗にスルーして、本題に入る。

「とまぁ、悪ふざけはこんぐらいにしてっと。 何しに来たん? 俺たちの部屋に」

『ふん、教えるわけないでしょ』

「琴里ちゃんが○○○してるって言うよ?」

『もう言ってるじゃない!! てか、そ、そんなことしてないわよ!! ば、バカ! 変態!!』

インカム越しの為、様子が見えないが、恐らく顔をトマトみたいに紅くして叫んでいるであろう琴里に、暁夜は満足気な笑顔を浮かべる。

(琴里をからかうのは楽しいなぁ)

と、謎の気持ちよさに浸っていると、

『申し訳ありません。司令の代わりに、この神無月が説明します』

「あー、うん。 帰れ」

琴里の声に変わり、神無月の声が聞こえた為、暁夜は最大限まで声のトーンを落として言い放つ。

『さ、暁夜君!? あ、当たりが強くないですか!?』

「お前をからかっても楽しくないんだよ!帰れ、ド変態パツキン!!」

『ド変態パツ・・・っ!? でも司令にそう罵られるのはさいこ--ぎゃうん!?』

暁夜の罵倒を、脳内で琴里の声に捏造してハァハァと悶え始めた神無月が、物でもぶつけられたのか苦鳴を上げ、そして声が途絶えた。

暫くの沈黙。

『すまないね。 二人の代わりに私が説明しよう』

「あ、どうもです。 令音先生」

今度はインカム越しから令音の声が聞こえてきた。

『ああ、おはよう。 さ、さとる?』

「暁夜ですよ。 さ・と・や!」

『ああ、すまないね。暁夜』

「まぁ、いいですけど。 それで? 俺の家に何か用っすか?」

『その事なんだがね--』

暁夜の質問に令音が要件を話し始めた。

内容は--


『折紙が拾ってきた兎型人形(パペット)の回収』

との事だった。

「あー、あれの事ですね。今、折紙いないんで渡しますよ。 ってことで転送お願いします」

『それは助かる。 準備が出来たら呼んでくれ』

暁夜は一度部屋に戻り、兎型人形(パペット)を棚の上から取り、

「転送お願いします」

『ああ、了解した』

令音が転送装置を操作し、<フラクシナス>へと転送された。 
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