| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

無抵抗タイム

五河琴里が司令官を務める戦艦《フラクシナス》から地上へと戻った暁夜は、携帯を取り出して、同居人の折紙に連絡を取るために液晶画面をつけた。 それと同時に、顔が引き攣る。 というのも、いざ、液晶画面を付けれみれば、折紙からの電話が百件。 メールが二百件以上。一瞬、呪いのメールかと思って焦ってしまう。

「やれやれ、これは無抵抗タイム決定かな」

暁夜は苦笑を零して、折紙に電話をかける。数秒ほど、着信メロディが鳴り、やがて--

『もしもし』

と、折紙の声が聞こえてくる。暁夜は一度軽く深呼吸をして、口を開く。

「折紙。 暁夜だけど、今から帰る」

『分かった。後でどこで何をしていたのか、問いただす』

「あぁ、了解だ。 じゃ、また後で」

『ええ、気をつけて。 暁夜』

その言葉を最後に電話は切れ、暁夜は液晶画面を消し、懐にしまい込む。 既に時刻は夕方も終わる頃で闇夜に星が瞬き出すだろう。家へと続く帰りの道を歩きながら、暁夜は、琴里から受け取ったインカムを手の平で弄びながら、大きく欠伸をする。

「・・・精霊を救う、ねぇ」

最後に握りしめた拳の親指の上にインカムを乗せ、上空に弾いた。クルクルと回って、重力によって落ちてくるインカムを再び掴み、

「--馬鹿馬鹿しい」

そう不機嫌に答えて、ポケットに押し込む。 恐らく、否、必ず《ラタトスク》とDEMは敵対する。それは暁夜と士道もだ。大切な存在だとしても精霊を救うというのであれば、それより先に精霊を殺す。士道を精霊に近づけてはならない。かつてのあの末路に再び遭うのは、もう耐えられない。だから、遠ざける。 士道が彼女(・・・)の事を何も覚えていないうちに。

「澪・・・お前だけは、絶対に士道に近づかせない」

胸ポケットから、写真を入れるネックレス(チェーン無し)を取り出し、カパッと開く。 そこには、一枚の集合写真が入っていた。

一人は暁夜。

その前に青髪に童顔の士道。

暁夜と士道によく似た雰囲気を持ち、後頭部で括った髪に利発そうな顔、左目の下の泣き黒子が特徴の少女。

その少女の後ろに、長い髪を風にたなびかせた端正な顔立ちながら、どこか物憂げで陰を帯びた表情の少女。

この写真は、暁夜達家族がまだ離れ離れになる前の、楽しかった最後の一日だ。

「そうえば--真那は元気にしてるかなぁ」

写真に写る、後頭部で括った髪に利発そうな顔、左目の下の泣き黒子が特徴の少女の太陽のような笑顔を見て、暁夜は星が瞬く闇色の空を見て呟いた。

暁夜が目覚めた時、その場には士道も真那も彼女もいなかった。あの時、士道が彼女を連れてきた時に、断ればよかった。嫌われても恨まれてもいいから、彼女を家から追い出していればよかった。後悔ばかりが、暁夜の心を占め、やがてその後悔は醜くドス黒い憎悪に変貌した。

『---』が、いるから--

『精霊』が、いるから--

いつからか、憎悪の対象が『--』という個体から、『精霊』と呼ばれる全体に向けられるようになった。 それがいつなのか今となってはどうでもいい事。結局、遅かれ早かれ暁夜の憎悪は『精霊』に向けられるからだ。そんな事を考えている間に、いつの間にか高級マンションのとある一室の扉前に辿り着いていた。

「・・・辛気臭いのはここまでだな」

暁夜はそう告げ、頭を切り替える。そして、正面に取り付けられた暗証番号を入れる機械に番号を入力する。 4桁の番号を入力し終えると、ピッ、と電子音がなり、扉の開く音が鳴った。ドアノブを回し、中に入ると、スリッパを履き、メイド服を身に纏った同居人の折紙が立っていた。少し怒っているように感じるのは、長く住んでいた事で身につけた賜物だろう。折紙はあまり表情を変えたりしない。無表情率が高い。その為、『ウ○ーリーを探せ』並みに難易度が高い。いや、それ以上かもしれない。

「ただいま、折紙」

「おかえりなさい、暁夜」

「夕飯ってもう出来てる?」

「ええ、とっくに。それよりも暁夜の服から別の女の匂いがする」

暁夜が靴を脱ぎながら尋ねると、メイド服姿の折紙が、スンスン、と鼻を鳴らして言った。ドラマでよく見る浮気疑惑の展開。男からしたら、女の嗅覚どうなってんの!?って度肝を抜かれる場面。 ただ、折紙の場合は確実に当てる。これは、暁夜の経験則だ。何度、仕事関係で異性と食事や会議をしているのがバレた事か。驚きを通り越して、恐ろしい。 その為、暁夜は彼女に対して嘘をついたり、はぐらかしたりはしないようにしている。ただ、多少は端折っているが。

「学校に忘れもん取りに行った帰りに、士道と妹の琴里に会ったんだ。 それで少し話してたら、遅れたって理由(わけ)

「そう。 五河士道の妹なら大丈夫。 でも、私からの電話に気づかないのはおかしい」

折紙は一瞬納得しかけたが、一番の疑問点に気づく。確かに、会話の際中でも、電話やメールに気づくことは出来る。どれだけ熱中に会話した所で、ポケットに入れた携帯が振動又はメロディが鳴れば気づくのが当たり前。 気づかない方が稀だろう。今回は後者だ。 ただ、その理由を言うことは出来ない。恐らくあの船の事や琴里の事、士道の事は極秘情報の筈だ。それに口外していいと許可も出ていない以上、他の人間に教えることは不可能。例え、同居人でも同じだ。

「結構、話が盛り上がってさぁ。 電話に気づかなかったんだ。 今度からは気をつけるから、許してくれ」

両手を合わせて懇願する。対して、折紙は少しだけ表情を緩ませ、

「分かった。 その代わりに、今日は無抵抗タイムを行使する」

「・・・・あぁ、了解」

暁夜は、やっぱりな。という顔で了承する。先程からあがっている『無抵抗タイム』とは、折紙が何をしてきても、暁夜は抵抗しないという時間だ。因みに、r18行為は無しと約束している。 今までに何十回も『無抵抗タイム』が行使された。例えば、添い寝、風呂、時には女装させられ、膝枕させられたり、抱きつかれたり。そんなことをされても、手を出さない暁夜はヘタレと思われるかもしれないが、仕方ない事だ。何故なら、恋愛事にうつつを抜かす暇がないからだ。だから、折紙がどれだけ好意を寄せ、誘ってきても、手を出すことはない。建前はそうだが、本音は、折紙の事を愛している。今すぐにでも恋人関係になりたいと思っている。その為にも、一刻も早く『精霊』全員を始末しなくてはならない。暁夜は再度、そう決意して、折紙と共に夕飯を取ることにする。

今日の夕飯のメニューは、白米と味噌汁、唐揚げだ。普通と思うかもしれないが、唐揚げは暁夜の大好物だ。大抵、唐揚げが夕飯に出る時は、暁夜が『精霊』を撃退した時だ。いわゆる、お祝い料理みたいなものだ。

「「いただきます」」

床に置かれた丸型の木造のテーブルの前に腰を下ろし、合掌し終え、夕飯が始まった。暁夜は、茶碗に沢山盛られた大盛りの白米を唐揚げと共に頬張る。その向かいで、折紙は、こちらを凝視しながら、白米を口に入れていく。ふと、折紙の箸が唐揚げに伸び、暁夜に突き出される。

「どうしたんだ? 折紙」

「・・・あーん」

「・・・あ、あーん」

折紙のやろうとしている事に気づき、それに応えるように口を開くと、唐揚げが口の中へと運ばれる。よくある彼女が彼氏に食べさせるあの恥ずかしシチュエーション。 実際にやるととんでもないほどの恥ずかしさが心を襲う。暁夜は仕返しと言わんばかりに、唐揚げを折紙に突き出すと、

「・・・手で、食べさせて」

とんでもない頼みをしてきた。箸で食べさせることよりも難易度が倍増している気がしてならない。ただ、『無抵抗タイム』実行中の暁夜に拒否権はない。

「はぁ、分かった。ほら、あーん」

箸を置き、手で唐揚げをひとつ摘んで、突き出す。 と、

「あーん」

折紙は唐揚げと共に暁夜の指をパクッと咥えた。 そして、暁夜の指に舌を這わせてくる。ペろ。 ぺろぺろ。 ぺろぺろぺろ。 じゅるじゅる。 ぴちゃぴちゃ。 ずずっ。

「あ、あのー、オリガミサン? 確かに、『無抵抗タイム』ではあるんだけど、さすがにやり過ぎでは?」

顔を微かに引き攣らせながら声を出すと、数秒以上舐め続け満足したらしい折紙は指から口を離した。暁夜の指と折紙の唇を繋ぐように、きらきらと光る唾液の線が伸びる。・・・なんとも言えない淫靡な光景。 思わず、ゴクリと唾を飲み込む。

「ごちそうさま」

と、折紙が口元を拭ってから手を合わせ、空になった茶碗と味噌汁のお椀を手に、洗面台に向かった。

「これから風呂に入る。暁夜も食べ終わったら、来て」

洗面台に茶碗やお椀を置き、メイド服を脱ぎながら、折紙がそう告げる。暁夜は、小さなため息と共に『分かった』と、返事をしてゆっくりと食事を取る。折紙が出る頃に食べ終わるように調整する。シャワーの音が響く。

家に取り付けられているテレビでは、バラエティ番組が放送されている。よく分からないおそらく知名度もそこまでないお笑いコンビの面白くないコントに目を通しながら、味噌汁を啜る。暫くして、風呂場の扉を開ける音がし、ペタペタと床を歩く音が部屋中に響き渡る。徐々に足音が近づいてくる。 やがて、その足音の主がリビングに現れた。

「どうして、来なかったの?」

裸身にバスタオルを巻き付けただけの姿で折紙が尋ねてきた。しかも全身に水分を帯びていたためか、タオル地がしっとりと張り付き、身体のラインを浮かび上がらせている。なんとも蠱惑的な美しさが漂っていた。

「・・・ちょうど、食べ終わったんだ」

何でもないように答え、暁夜は食器を洗面台に置く。そして、伸びをした後、脱衣所に向かう。扉を開け、鍵を締める。制服と下着を脱ぎ、風呂場に向かう。

ガチャ、

と扉を開け、中に入ると、むわっとした熱気が全身に吹きつけられる。思春期真っ只中の男子高校生であれば、美少女の後に入る事は緊張というより、どこか興奮するようなシチュエーションだろう。 残り湯でも飲もうか。美少女の匂いが立ち込める風呂場は最高だとか。そんな変態思考の残念男子ではない暁夜は気にすることもなく、湯に浸かる。微かに冷えきった身体の芯に熱が入り、温かくなったことで眠くなっていく。天井を見上げ、湯に浸かること数分。 湯から出て、身体と頭を洗い、風呂場を出て、脱衣所で、下着を履き寝間着を身につける。そして、歯磨きをし、脱衣所を出る。

リビングに戻ると、バスタオル姿からパジャマに着替えた折紙がいた。薄い水玉柄のワンピース型パジャマ。 暁夜以外の男性が見たら、ドキリとしてしまうほどの可愛さと美しさ。 バランスの整った貌はアイドルよりも可愛い。 これで笑顔を浮かべてくれたら、どの男子でもイチコロだろう。

「もう寝る?」

折紙が小首を傾げる。暁夜は蛇口を捻り、コップに水を入れながら、首肯する。グイッと一気に飲み干し、洗面台に置き、折紙と共に寝室に向かう。

幾つかある部屋のうち、奥の方にある六畳ぐらいのスペース。 そこが、折紙と暁夜の寝室だ。中央にダブルベッドが置かれ、その隣に洋服棚が二つ置かれている。いつも寝る位置は決まっており、左を折紙、右が暁夜。 背中合わせで寝るようにしているのだが、『無抵抗タイム』の時は、折紙が暁夜の背中に密着して寝る事に決まっている。二つの柔らかいアレがむにゅうと暁夜の背中で潰れる為、ヘタレ童貞ならお顔真っ赤になるだろう。 それに比べて、暁夜は慣れすぎたことで平然とした態度で寝ることに専念できる。

「明日も早いから寝るぞ、折紙」

「分かった」

電気を消し、布団に二人して潜り込み、先程挙げた通りに折紙に抱きつかれるような態勢のまま、暁夜は瞼を閉じた。



数時間前の《フラクシナス》。 五河琴里は、チ○ッパチ○プスを咥えながら、不機嫌そうに椅子の肘掛を指でトントンと叩く。彼女がここまで怒っているのは、先程までここに居た我が兄の知り合いのせいだ。あの見透かしたような、人を小馬鹿にしたような話し方と態度に苛立ちを覚えるなと言う方がどうかしている。あんな態度を取られれば誰だって怒り心頭だ。ただ、それ以外にも琴里が苛立っている理由がある。それは、崇宮暁夜が帰った後、彼の事について尽力を注いで情報を詮索したはいいものの、極一般的な個人情報しか載っておらず、琴里達が欲しい情報はひとつも見つからなかった。

「あぁ、もう! どうして、暁夜の情報が見つかんないのよ! なんなの、あの剣は! どうして、CRユニット無しで精霊と戦えるのよ!」

苛立ちが限界を突破した琴里は、変態金髪男、神無月に手招きする。

「どうしましたか? 司令」

「いいから、しゃがみなさい」

「はっ!」

琴里に指示されたとおり、神無月はしゃがむ。 それを確認した琴里は、神無月の目にチ○ッパチ○プスの棒を発射した。グサッと、失明しかねないほどの勢いで飛んだ棒が目に刺さり、神無月は悶える。頬を赤らめて。彼のことを知らない人が見たら、警察に通報するレベルだろう。

「はぁ。 本当に彼は何者なのよ」

神無月が目に刺さったチ○ッパチ○プスの棒を大事に保管するのを視界の端に捉えながら、モニターに映る『崇宮暁夜』の個人情報データを見て、そう呟いた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧