真田十勇士
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巻ノ百四十四 脱出その六
「それは乱世では止むを得ぬが」
「泰平になればですな」
「いりませぬな」
「必要なものは王道であり」
「謀ではありませぬな」
「うむ、わしは謀は好かぬ」
この辺り律儀即ち人を騙したり嘘を言ったりすることを嫌う秀忠らしかった。
「だからな」
「やがてですか」
「時が来ればですか」
「上総介殿は遠ざけられますか」
「その様にされますか」
「民に謀なぞ使っては正しい政ではない」
間違ってもというのだ。
「民は敵ではない、泰平の世を楽しませる者達ではないか」
「その民達に謀を使うなぞ」
「お門違いもいいところですな」
「だからですか」
「上総介殿はやがて」
「そうする、このことを言っておく」
今の時点でというのだ。
「時が来れば頼むぞ」
「わかり申した」
「それではです」
「その時は我等上様の手足となり」
「働きます」
「その時だけなく常に頼むぞ」
王道、その政をする時にもと言うのだった。秀忠は泰平の世が訪れるならもう謀はいらぬと考えていた。
家康もそれは同じだった、それで大坂を陣払いし都から駿府に戻る時にこうしたことを言った。
「後は法を確かに定めてな」
「そうしてですな」
「天下を治める」
「まずは法を定める」
「そうしますか」
「武家、公家、禁中にも諸法度を定め」
そうしてというのだ。
「無論寺社や民にもな」
「全てですな」
「法を定め」
「その法から天下を治める」
「そうしていきますな」
「法によって治めるのじゃ」
天下をというのだ。
「無論将軍家もじゃ」
「武家だからですな」
「法の中にある」
「そうしていきますな」
「天下人が法を守らずしてどうする」
それこそという言葉だった。
「それでは天下に示しがつかぬであろう」
「ですな、確かに」
「だから余もだ」
将軍である秀忠自身もというのだ。
「諸法度は守る」
「武家のですな」
「それも」
「これは天下の法である」
「誰も例外ではないですな」
「天下人よりも法は上にある」
強い声で言う秀忠だった。
「むしろ天下人こそ法を守るべではないか」
「第一にですな」
「全ての武家に先駆けて」
「まず諸法度を守る」
「そうされますな」
「その所存だ、どうも諸法度は天下を縛ると言うものがいるやも知れぬが」
諸大名を抑え付ける、そうしたものだとだ。
「それは違う、天下に法を定めてな」
「秩序を作りですな」
「天下を泰平にしその天下も民も護る」
「そうしたものですな」
「法なくして天下は成らぬ」
決してという言葉だった。
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