僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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USJ事件 終幕
「上鳴君! どうして君が!?」
緋奈達を脳無から助け出した上鳴に叫んだ。それに対し、
「決まってんだろ。 ダチを救ける為だ!」
上鳴はそう言って、両手の間で電気をバチバチさせ、臨戦態勢をとる。まだ、終わっていないと、気づいているのだ。
「おいおい。 またガキが増えやがった」
「どうします? 死柄木弔」
「決まってんだろ。 皆殺しだ」
「わかりました」
死柄木の言葉に頷き、黒霧が個性を発動し、爆豪達を呑み込むために襲いかかる。 そして、そちらに気を取られているうちに死柄木は、耳郎へと手を伸ばした。
「えっ!?」
「警戒が足りないなぁ。 ヒーロー」
伸ばされた手は耳郎の首を鷲掴みにした。
(やばっ! 絞められ・・・)
耳郎はそう予想したが、違った。 首を絞められた時の痛みの倍以上の痛みが、突如、首を襲ってきた。じわりじわりと浸透していく痛み。
「かぁ・・・!」
「ははは、痛い?苦しい?」
掌が貼り付いた顔を狂笑に変えながら、死柄木は個性を発動し続ける。
「耳郎さん!今助けますわ!!」
黒霧の靄の範囲から脱した八百万が死柄木と耳郎の元に駆け出す。手には個性によって作り出された、イレイザーヘッドの捕縛武器(劣化版)。
「黒霧!!」
「わかっています、死柄木弔」
黒霧は即座に狙いを八百万に切り替えるが、
「無視してんじゃねえぞ! モヤモブ!!」
「目を離すなんて余裕だな、敵」
「が、頑張れー! 二人ともー!!」
爆豪と轟に妨害される。因みに葉隠は、二人の邪魔にならないよう離れた位置で応援していた。
「お二人共、助かりましたわ!」
八百万は爆豪と轟にお礼を言い、死柄木の腕に捕縛布を放ち、耳郎の首をつかむ方の腕を引っ張った。
「おいおい、その程度でどうにかできるとで--」
刹那、死柄木の身体が噴水まで吹き飛んだ。それをやってのけたのは、耳郎だ。ただし、一人でできた訳では無い。脳無によって戦闘不能に陥られた相澤が【抹消】を発動し、死柄木の個性が消えたタイミングで、スピーカー内蔵の靴のプラグに耳たぶのイヤフォンを挿し、音の塊をぶつけたのだ。
「脳無ぅ!そいつの目を潰せ!!」
死柄木が大声でそう指示を仰ぐ。しかし、
「おい! 聞いてんのか、脳無! そいつの目を--」
声に反応のない脳無の方へと視線を移すと、
「なんで埋まってんだ、脳無!!」
地面に上半身をめり込ませた脳無の藻掻く姿に叫んだ。と、その疑問に答える声が死柄木の耳に入ってきた。
「お・・・しえて・・・あげ・・る。あの・・・敵は・・私の個性で・・・埋めたんだ」
蛙吹に担がれた状態で両手(左腕は緑谷に支えてもらい)を脳無にかざす緋奈が意識が朦朧とする中で言葉を紡ぐ。
「なんだよそれ」
ガリガリと首筋を掻きむしりながら、死柄木はイライラしげに言葉を漏らす。
「まぁ、いいや。 お前から殺せば--」
と、頭を切り替えて緋奈に狙いを変更した死柄木。 その瞬間、入口の方から爆音にも似た轟音が響き、厚い鉄製の扉が砂塵を巻き上げながら吹き飛んだ。
「もう大丈夫」
USJ全域にハッキリと響き渡る声。それは生徒達にとっては憧れの存在。敵と緋奈にとっては嫌悪の存在。
平和の象徴と呼ばれ、敵から人々を笑顔で守るNo.1ヒーロー、
「--私が来た!!」
オールマイトが、そう言い放った。
❶
威風堂々とした佇まい。 人々は歓喜に打ち震え、敵は恐怖に支配される。それが平和の象徴と呼ばれるオールマイト。
緋奈がこの世で三番目に嫌いなヒーロー。一番と二番は父親と母親。
ヒーローに救われる事が緋奈にとっては嫌で嫌で仕方がなかった。まるで自分は一人じゃ何も守ることの出来ない惨めな人間に思えてきて、それがとても悔しくて嫌だった。
オールマイトに助けられたのはこれで二度目。
一度目は中学生の時だ。あの時の事は思い出したくもない。語りたくもない。
あの時、オールマイトが救けに来なければ--■■■は死なずにすんだ。
唯一、緋奈に優しくしてくれたヒーロー。
唯一、緋奈を見てくれたヒーロー。
唯一、緋奈を愛してくれたヒーロー。
そして、認めてくれた最高のヒーロー。
だから、緋奈は、ヒーローも、オールマイトも嫌いになった。
「・・・また・・・僕は・・・」
救けられた、という言葉を残し、緋奈の意識は闇の底へと沈んでいった。
❷
「ん・・・」
眩い陽の光が、窓から差し込んでいる。 薬品独特の匂いが充満する広い部屋。天井は真っ白で、緋奈は、自分がいま病院のベッドに横たわっていることに気づく。寝た姿勢のまま、周囲を見渡すと、左側のテーブルに大量のフルーツが入ったバスケットと、手紙が1枚添えられていた。
「誰からだろう?」
手紙を取ろうと手を伸ばそうとする。 しかし、固定されているのか、腕が上がらない。チラッと視線を下に向けると、
「そういうこと」
と呟いた。視界に映る、左肩を固定している器具。それがどういう理由でつけられたのかも理解している。
「おや、起きたみたいだね」
と、女性の声が聞こえた。緋奈は視線を声のした方に向けると、そこには、白衣を着た小柄な婆さんが杖で体を支えながら、立っていた。
「あー、えーと、あなたは?」
見覚えのない婆さんに名前を尋ねる。
「そうえば、こうやって面と向かって会うのは初めてだったね。私は怪我をした生徒達の治癒を任されている修善寺 治与。 ヒーロー名はリカバリーガールと言えば、君も分かるかい?」
「・・・リカバリーガール」
聞いたことのあるヒーロー名。 確か、対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒させる個性を持つプロヒーローだ。
「それで、もう痛い所や気持ち悪い所はないかい?」
「あ、はい。 もう大丈夫です」
緋奈は頷き、身体を起こす。どうやら、先程まで病院と思っていたが、仮眠室だったらしい。
「あの、今何時ですか?」
「朝の7時だよ。 それがどうかしたのかい?」
「・・・って事は、一日経ったってことですか!?」
「まぁ、そういう事になるねぇ」
のんびりとした口調で、リカバリーガールは答える。ただ、緋奈にとっては一大事だ。7時ということは、もうそろ学校の時間だ。準備も昨日のままだし、弁当箱も洗っていない。それに洗濯物や食器を洗わなくてはならない。慌てて、鞄から携帯を取り出し、画面をつけると、予想通り、
『お母さん:洗濯物と食器洗いお願い』
という内容のメールが入っていた。
「ありがとうございました。リカバリーガール」
「もう行くのかい?」
「ええ、やることがあるので」
緋奈はベッドから降り、鞄に携帯を押し込み、テーブルに置かれた手紙とフルーツの盛られたバスケットを手に仮眠室を出ようとする。その時に、
「そうえば、今日は学校休みだから、家で安静にしてるんだよ」
背中にかけられた声に、扉に触れていた手を離し、振り返る。
「・・・休み?」
「昨日、授業中に敵に襲われた件があるからねぇ。他の生徒達も今頃は家で安静にしてる頃だろうねぇ」
「僕みたいに怪我した人いました?」
「両腕骨折の子と、指の怪我をした子、後は首を個性で傷つけられた子がいたけど、治癒した後すぐに帰っていったよ。
話を聞く限り、切島と緑谷、耳郎の三人だと気づく。ただ全員無事ということもあり、緋奈は安堵のため息を吐いた。
「これで失礼します」
「これからは怪我しないよう気をつけるんだよ」
「善処します」
と言葉を返し、緋奈は仮眠室を出る。
「さて、帰ろ」
大きく欠伸をして、帰路へとついた。
❸
自宅について、すぐに洗濯物を干し、食器を洗い終えた緋奈は、制服を洗濯機にぶち込み、ダボッとしたシャツに短パンという部屋着スタイルでソファに仰向けで寝転がっていた。左手は未だ固定されており、右手で携帯の画面をつけ、未読のメッセージがたくさん送られてきている事に気づき、トークアプリを開く。そして、新着順に上から一人一人に、お礼の言葉と安否を伝えていく。 そして、手紙を取り、中の紙を取り出す。そこにはオールマイトからのメッセージが記されていた。
『桜兎少年。 君が脳無を足止めしてくれていたと緑谷少年達から聞いた。屋内対人戦の時、君には『人を助ける意志』が足りないと思っていたが私の勘違いみたいだった。本当にすまない。これからも精進するといい』
緋奈は読み終わった後、迷うことなくゴミ箱に捨てた。そして、不機嫌な表情でリモコンを操り、テレビをつける。大半のチャンネルが、USJ事件のニュースばかりで、唯一やっていたのは再放送のバラエティ番組。
「・・・退屈」
そう呟き、携帯を再びいじる為に画面をつけると、そのタイミングで麗日からメッセージが送られてきた。緋奈は、お餅のアイコンである麗日のトーク画面をタップし、メッセージを確認する。
『おはよう、緋奈ちゃん。今、大丈夫?』
『うん、大丈夫だよ。 どうしたの? 麗日さん』
そうメッセージを返すと、数秒後にピコンと音がなり、
『ほんと!! いまから家に行ってもいい?』
というメッセージと、『ガッツポーズを取る女の子』のスタンプが送られてきた。
『大したもんとかないよ? 僕の家』
『ううん、大丈夫! それじゃいまから行くね!!』
『うん、待ってるね』
そう返信して、緋奈は携帯を横の机に置く。
「部屋着じゃなんだし、着替えてこよ」
ソファから起き上がり、二階の自室に入る。クローゼットからシャツとズボンを引っ張りだし、着替える。
「よし、麗日さんが来る前に選択機に入れた制服干しておこう」
階段を降り、選択機の中から制服を出して、階段を上がり、ベランダの物干し竿に、ハンガーを通した制服をかける。
「あとは、外出分の所持金があるかを確認して、髪を整えてっと」
ブツブツ呟きながら、鞄から財布を取り出し、十分にお金があるのを確認し、洗面所で寝癖を直し、髪を整える。後は歯を磨いて、顔を洗う。そして、リビングに戻るタイミングでインターホンが鳴った。
「麗日さんだ」
緋奈は顔をタオルで拭き、玄関に向かう。靴を履いて、扉を開ける。と、予想通り、
「おはよう!緋奈ちゃん!」
満面な笑顔で挨拶する麗日が鞄を手に立っていた。
「うん、おはよう。 麗日さん」
と、扉を完全に開けて、挨拶する。その時、必然的に、固定されている左肩が見え、麗日の表情が曇る。
「その怪我、大丈夫?」
「これぐらいなんてことないって。それよりも珍しいね、麗日さんが僕の家に来るなんて」
「うん。 今日は学校休みだから、デク君達と遊びに行こうかなって思って」
「それで僕も誘おうかなって?」
表情を曇らせた状態で両指を絡めたり解いたりする麗日に、緋奈がそう尋ねる。それに対し、小さく頷く。
「・・・そっか。 じゃあちょっと待ってて」
「・・・え?」
「ちょうど、退屈だったから僕も行くよ」
緋奈はそう声をかけて、一度部屋に戻る。そして、リビングの電気を消し、財布と携帯、家の鍵をカバンに突っ込み、玄関に戻る。
「それじゃあ、行こっか。麗日さん」
「え、へ!?」
表情を暗くしていた麗日の手を掴み、緋奈は、集合場所の駅前に走り始めた。
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