僕のヒーローアカデミア〜言霊使いはヒーロー嫌い〜
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影に潜む悪意
屋内対人戦という初めての訓練を終えた翌日。相変わらず一人で朝食をとる緋奈。 テレビではプロヒーローの特集がやっている。ヒーローを目指す者なら憧れて当たり前のヒーローだが、緋奈にとっては嫌悪の対象だ。
「・・・どの番組も同じか」
チャンネルを転がしてみるが、どの番組も同じ内容のニュースや特集ばかり。仕方ない、と最初につけていた番組に戻すと、そこには自分が1番嫌う対象が映っていた。
黒い髪の毛に、空色の瞳。そして、口元をガスマスクのような形をしたスピーカーで覆っており、上下は黒地に白い線が走るウインドブレーカーを纏う細マッチョの美男性。
その隣には、
白いショートの髪に、緋色の瞳。同じく口元をガスマスクのような形をしたスピーカーで覆っており、下の方が少し破れたデザインの白シャツの上から裏地が青で表が白のジャージに、紺色のスポーツ系の長ズボンを履いた細身のスレンダー体型の美女。
その美男美女がインタビューを受けていた。
「オールマイトについてどう思いますか? 言霊ヒーローのアトノアさんとカグヤさん」
「彼は私達プロヒーローの憧れですよ。彼の活躍ぶりは凄いもので、高校時代は同級生だったので、尚更、頑張らなきゃって思いましたね」
緋奈の父親で『言霊』で具現化と対象操作を得意とするプロヒーロー『アトノア』こと、桜兎 霊帆。
彼は昔を思い出すかのようにインタビューに答える。緋奈には見せたことのない微笑で。
「言葉さんはどう思いますか?」
「何も言うことはありません。 オールマイトに興味ありませんので」
緋奈の母親で『言霊』で自然干渉と対象操作を得意とするプロヒーロー『カグヤ』こと、桜兎 言葉。
彼女は冷めきった絶対零度の瞳で、マイクを向けてきたリポーターに遠慮もクソもない心の底から思っている気持ちを吐き出した。相変わらず思ったことは口にする厄介な質だ。
「父さんは相変わらず外面いいし、母さんは家と全く変わらない。 なんでヒーローなんてやってんだか」
朝食を終え、汚れた食器を洗いながら呟く。
「そうえば、お二人の息子さんが雄英高校に入学したと聞いたのですが、本当でしょうか?」
「ええ、親として誇らしく思っています。あの子がヒーローを目指すと言ってくれた時は嬉しくて一日中号泣しましたからね」
「と霊帆さんは言っておりますが、言葉さんの方はどう思っていらっしゃるんですか?」
「あの子には5歳の頃からヒーローになる為の教育をしてきたので雄英入学は当然の結果。入学できないということはその程度の子だったというだけですから」
霊帆と違い、辛辣なことを言う言葉。 リポーターは若干、引きつった笑みを浮かべて、
「お、お忙しいところインタビューありがとうございました。 では、失礼します」
お礼を言い、立ち去った。 それと同時に、CMに入った。
「受かって・・・当然か」
緋奈は声のトーンを少し落として、呟いた。昔からテスト満点は当たり前、全スポーツで一位を取るのは当たり前だと、何度何度も言われてきた呪いの言葉。どんな事でもナンバー1になってもらわなければ納得しない母親と、人がいる所では緋奈を褒めているが、実際は緋奈に興味なんてない父親。 そんな二人の元に生まれたことを緋奈はずっと後悔していた。何故、自分はここに生まれてしまったのかと。無個性だったら、あんなに厳しい教育はされなかったのだろうか? 優しくしてくれるのだろうか?
「・・・なわけないよね」
万が一、自分が無個性だったら見捨てるに決まってる。勝手にしろ、と空気扱いが死ぬまで続くはずだ。
「早く着替えないと、八百万達を待たせる事になるし、準備しよ」
食器を洗い終え、いつものように自分の部屋にある制服に着替え、身だしなみを整えてと必要なことをすべて済ませて、ソファに座り込む。数分経ち、インターホンを押す音が聞こえ、覗いてみると予想通り、八百万達だった。
「今、行くから待ってて」
そう声をかけて、片手鞄と携帯、家の鍵を持って家を出る。もちろん、行ってきますとだけ言っておく。返ってくることは無いが。
「おはよう、みんな」
「おはようございます、緋奈さん」
「おはよぉー! 緋奈ちゃん」
「けろっ。 おはよう。桜兎ちゃん」
「朝からねむそーだねー! 緋奈ちゃん!」
「おはよーう! ひーなーちゃん!」
朝の挨拶を交わし、緋奈は女子グループと共に学校へと向かった。
❶
雄英高校の校門前に差し掛かると、緋奈達の視界に報道陣を捉える。校門をくぐっていく生徒を見つければ、誰これ構わず質問を投げかけている。人によっては断って振り切ることもできず、そのまま何分も絶え間ない質問で拘束されるなど、生徒からすれば良い迷惑だ。
「はてさて、なんなのやらこれは?」
緋奈は現状が理解出来ず首を傾げる。こうも報道陣が集まるほどのビッグニュースなんて雄英高校にあっただろうか?
「恐らく、オールマイト先生が講師として雄英にやってきたからじゃないでしょうか?」
いち早く現状を理解した八百万が、困惑する緋奈達に説明する。
「それにしても報道陣も馬鹿だね。 僕達がオールマイトの秘密なんて知ってるわけないのに」
「うんうん! 緋奈ちゃんの言う通り!」
緋奈の言葉に葉隠が同意する。ただこのまま校門を潜らずにここにいると遅刻になってしまう。それだけは避けたい。
「丁重に取材をお断りして校舎内に入りましょう」
「それが一番だね。報道陣は校舎内に許可なく入れない仕組みになっているからね」
八百万の言葉に緋奈達は同意して、報道陣が屯する校門に向かう。 その足音と気配に気づいた報道陣達が一斉に緋奈達の方に振り返り、マイクを手に声をかけてくる。
「すみません。雄英にオールマイトが教師として就いたことについて、少しお話を伺いたいでのすが……」
「あのー僕達急いでるんで、あなた達に構ってる暇は1秒もございません。ですので、さっさと荷物まとめてお帰りください」
緋奈は遠回しに、『お前らに構ってる暇ないから、さっさと帰れ』と丁重(?)にお断りして八百万達と校門を潜っていく。
「はぁー、ドキドキしたー」
「緋奈ちゃん凄いね! よくあんなふうに言えるよね!」
「ありがとね、桜兎ちゃん」
「おかげで助かりましたわ。 緋奈さん」
「あの報道陣達の顔みたー? すっごい間抜けな顔してたよ!」
下駄箱で室内シューズに履き替えながら、緋奈にお礼を言う八百万達。 それに対し、大したことのないような表情で、
「慣れてるからね。 報道陣を黙らせる方法も断る方法も」
そう答える。緋奈にとって、報道陣を退けることは赤子の手をひねるのに等しい。昔から両親のことを報道陣に聞かれる度に断ってきたから。長年の嫌な経験がこういう時に発揮されたのだから、案外捨てたもんではない。
「それよりも、みんなは英語の課題やってきた?」
教室に続く廊下を歩きながら、緋奈は尋ねる。その質問に、芦戸以外の全員が頷く。
「みんな、真面目だねー。 僕まだ白紙だよ。だから、八百万! み・せ・て?」
お願い!と顔の前で両手を合わせて言う。
「ええ、構いませんわ。ただ、今度からはしっかりと忘れずにやってきてくださいね」
「うん! 前向きに頑張ってみる!」
「・・・心配ですわ」
笑顔で不安なことを言う緋奈に、八百万は不安を抱きながらため息をついた。その後も、色々と談笑しながら廊下を歩き、やがて教室に辿り着く。
「みんな、おはよぉー!」
扉を開けると同時に大声で挨拶をする緋奈。 その声に既に教室に着いていたクラスメイト達の視線が緋奈に集まった。
「おう! おはよう! 緋奈!」
「今日も女子と一緒かよ! 羨ましいぜ、桜兎!」
と、緋奈の肩に腕を回しながら挨拶を返す切島と、冗談半分皮肉半分の言葉を投げかける上鳴。 切島とは小学校からの友達で、上鳴とは一昨日の個性把握テストの時に知り合った。二人共とは話しが合い、よく休み時間は共に過ごしている。
「よお、桜兎」
「ん? どうしたの、峰田君?」
クイクイと小柄というかかなりチビなブドウ頭の峰田が、緋奈のズボンを引っ張り声をかけてきた。
「お前、いつも女子達と登校したり帰ってるけど、もうヤッたのか?」
かがみ込んで耳を寄せた緋奈に耳打ちするように意味のわからない質問を小声で尋ねてきた峰田。
「ヤッた? なにを?」
「バッカ! 決まってんだろ。 S○Xだよ!S○X!!」
「・・・セッ・・・何言ってるんだよ!そんな事してないよ!峰田君は僕をどんな人だと思ってたの!?」
「ハーレムクソリア充だと思ってるよ!お前はオイラが持っていないイケてる要素の塊だ! イケメンなんて死ね!」
と、何ともひどい言葉を浴びせてくるブドウ頭の変態少年、峰田。 一昨日、連絡先を交換した際に軽く話してみたが、かなりというかとてつもないほどに性欲に飢えた変態だった。 見た目は可愛ほうだというのに性格がそれを台無しにしている為、昔から女子にモテたことがないという残念な人生を送っている。
それから数分間ほど、クラスメイト達と談笑していると、始業のチャイムが鳴り、担任の相澤が教室に入ってくる。緋奈達は急いで各々の席に腰を下ろした。それを確認したあとに、威圧的な雰囲気を纏わせて、
「今日はお前達に学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」
また個性把握テストのような抜き打ちテストがあるのかと思ったがあまりにも普通すぎる内容に安堵すると共に拍子抜けしてしまう。
普通の学校であれば、委員長何ていう雑務仕事をやりたがるような生徒はいない。ただ、ヒーロー科を目指す者達にとっては逆だ。集団を引っ張る係=トップヒーローの素質がある生徒という肩書きを手にすることが出来る。その為、ヒーロー科の生徒達にとても人気な役職だ。
「委員長!! やりたいです、ソレ俺!!」
「ウチもやりたいス」
「リーダー!! やるやるー!!」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」
皆、良い返事をして手を上げ主張する。
(みんな、真面目だねー)
緋奈はそんなクラスメイト達を眺めながら、興味無さそうに心の中で呟いた。
「静粛にしたまえ!! 多をけん引する責任重大な仕事だぞ…! やりたい者がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」
「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!!!」
そう発案する飯田の手はそびえ立っており、誰もが心の中でツッコミを入れていた。
「せんせー、僕、委員長なる気ないんで抜けていいですかー?」
寝袋に入り睡眠体勢に入っている相澤に、緋奈が尋ねる。
「好きにしろ」
「ありがとーございまーす!」
そうお礼を言い、
「みんな、互いに知ってることも少ないんだからさ、多数決で決めた方がいんじゃない?僕が黒板に書くから、みんな、メモ用紙にクラスメイトの名前を書いて教壇に持ってきてよ」
と提案する。
「まぁ、それなら皆、公平か」
騒いでいた生徒達はそう納得して、それぞれ配られたメモ用紙にクラスメイトの名前を書きはじめた。暫くして全員が提出し終わり、緋奈はその紙を一枚一枚確認して、黒板に名前と投票数を書いていく。
結果はこうだ。
桜兎 緋奈:4票
緑谷 出久:4票
八百万 百:3票
爆豪 勝己:1票
その他:1票
「・・・僕に入れた人、怒らないから素直に挙手」
緋奈は投票結果を黒板に書き写したあとに、クラスメイト達にそう声をかける。 と、その中の四名が視線を逸らした。そのメンバーというのが、切島・上鳴・芦戸・葉隠(視線が見えないので微かな制服の動きで判断)。
「キリ君とミーちゃんは委員長やりたいとか言ってたのに、なんで自分に入れなかったの!?」
「いや、その。よく良く考えたら、お前って小学校ん時、委員長やってたろ? だから、お前の方が向いてる気がしてよ」
「うんうん!緋奈ちゃん、とても頼もしかったからね!」
「昨日の戦闘訓練、凄く頼もしかったよ!」
「俺はお前になら任せられると思ってな」
切島達は意外と理由があって投票したらしい。ふざけた訳では無いということを理解した緋奈は溜息をつき、
「まぁ、僕の投票は無効になるから意味無いけど」
結果は委員長は出久、副委員長は八百万になった。
ちなみに出久に入れた生徒は飯田・麗日・蛙吹・尾白の四名。
八百万に入れた生徒は、緋奈・轟・八百万の3名。
結果を熟睡する相澤に伝え、HRが終わった。その数分後に、英語の課題をやっていないことを思い出し、プレゼントマイクに反省文を渡されたのだった。
❷
午前の授業が終わり、昼食の時間帯。 大半の生徒は食堂に向かった。いつもは弁当で済ます緋奈だが、今日はあのニュース番組のせいで弁当を作り忘れた為、出久・飯田・麗日の三名と食堂にいた。
「初めて来たけど、結構混んでるねー」
緋奈はクックヒーロー『ランチラッシュ』が取り仕切る『LUNCH RUSHのメシ処』の利用者の数を見て、素直な感想を告げる。
「そうえば、緋奈君は食堂の利用は初めてだったな」
「そうなんだよねー。だから注文とかどうすればいいのかわかんないんだよー」
飯田の言葉に頷いて、首を左右に振る。
「あぁ、それなら簡単さ。 この列の先頭にある食券売り場で食券を購入してランチラッシュに渡すんだ。その後は注文が出来次第、受け取っていく流れだ」
「ふむふむ。 定食屋さんと同じ感じってことだね」
「あぁ、そうだ」
「ありがとー、飯田君」
丁寧な説明をしてくれた飯田にお礼を言い、緋奈は順番を待つ。やがて自分達の番が来て、食券を買い、ランチラッシュに渡す。そしてその数分後に頼んだ料理が出てきて、それが載ったトレイを手に、空いている席に腰を下ろす。
緋奈が頼んだのは、ハヤシライス。 一番の大好物だ。
「・・・もぐもぐ」
ハヤシライスを口一杯に頬張る。 と、向かいに座る麗日が口を開いた。
「そうえば、みんな、兄弟とかいるん?」
若干、方言混じりだが、そこも可愛いなぁ。と心の中で思う出久と緋奈。
「うーん。 僕は一人っ子だよ。でも4歳ぐらいの頃は、血が繋がってない高校生のお義姉ちゃんが一人いたけど、もう結婚してるからここ11年ほど会ってないかな」
「・・・なんかごめん」
「ううん、別にいいよ。 それよりも飯田君は兄弟とかいるの?」
シュンと落ち込んだ麗日にそう声をかけ、飯田に尋ねる。
「あぁ。 ターボヒーロー『インゲニウム』を知ってるかい?」
「事務所に六十五人もの相棒を雇ってるとかいう『インゲニウム』?」
「それが、俺の兄さ!」
「ええ!? すごいよ、飯田君!!」
飯田の兄が『インゲニウム』だということを知り、ヒーローオタクの出久は興奮したように大声をあげた。
「なんかアレだね。前々から思ってたけど出久君ってヒーローオタクだよね〜」
緋奈はハヤシライスを平らげ、コップに注がれた水を1口含んで、告げた。
「う、うん。なんか自分でも分かってたけど、ほかの人に言われるとなんか恥ずかしい」
「そうかな? 私はデクくんすごいと思うよ」
「あぁ、麗日君の言う通りだ。 緑谷君」
「恥ずかしがることなんてないって。ほら、あそこ見てみなよ」
恥ずかしがる出久に、緋奈は背後の方を指さす。 そちらに出久達が視線を移すとそこには--
「うひょー!! 一・二・三年生の女子がいるとかよりどりみどりかよ!!」
「やべぇーって! こりゃナンパするしかないっしょ!!」
ヤバげな事を大声で恥ずかしげもなく叫ぶ峰田と、女子の多さに興奮する上鳴が居た。 周囲から絶対零度の視線を送られていることに気づかない辺りはある意味、才能だ。
「あ、あはは。確かにあれよりは恥ずかしくない、かな」
「あの二人は公衆の面前でなんという発言を!」
「まぁまぁ、落ち着こう、飯田君」
「あんなに痴態を晒しといて平気な顔をしてる二人を見た後だと、大抵の事が恥ずかしくなくなるよね」
そんな事を呟き、もう一度コップに口をつけた。と、そのタイミングで、けたたましい警報の音が鳴り始めた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ批難して下さい』
警報と共に流れる放送に、食堂は不穏な空気が波紋となって広がっていく。
緋奈達も意味がわからず狼狽する中、飯田は隣に座っていた3年生に事情を聞いていた。
「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ! 三年間でこんなの初めてだ!! 君らも早く!!」
そう言って避難を催促してくれた上級生の指示に従い、四人も非常口から出ようとするが、瞬く間に人混みに呑まれてしまった。
(・・・うーん、ヴィランにしては大胆すぎるよなぁ)
人にもみくちゃにされながら、緋奈はそんなことを考える。
(とりあえず、窓の方に)
んしょ、とゆっくりゆっくりと人と人との隙間を潜り抜けて窓に辿り着く。と、視界に映ったのは、校門をくぐり抜け進軍する報道陣の姿だ。
(・・・報道陣か。 でも、あのセキュリティを突破できるもんなのか? ただの報道陣が、わざわざそんな策を講じるか?)
緋奈は、おかしいと疑問を抱く。報道陣だって警察に捕まるようなことはしたくないはずだ。そう考えれば雄英のセキュリティを破壊したのは報道陣ではなく別の誰か。しかも強力な個性持ちの。
と、そんなことを考えていると、
「大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰に相応しい行動をとりましょう!!」
非常口の方から飯田の声が聞こえてきた。それと共に、混乱に陥っていた生徒達の動きが止まった。緋奈は声のした方に視線を移すと、非常口の上にある人型のシルエットと同じような体勢で壁に張り付いた飯田の姿があった。
「・・・・」
緋奈は訳の分からない表情で、非常口の上にいる飯田を眺める。と、下の方で個性を使っていたらしき麗日が飯田を地面に優しく下ろしていた。既にほかの生徒達は各々、昼放課を過ごすために食堂に戻ったり、教室に戻っていた。
それから数分後に昼放課も終わり。帰りのHRで、委員長の出久が、飯田に委員長の座を譲った。
(・・・報道陣をそそのかした誰かがいる)
そんな事を考えるが、
(・・・まぁ、そんなこと教師陣も把握してるし、任せよう)
雄英が誇るプロヒーローの教師達がその事に気づかないわけがないと、判断し、緋奈は考えるのをやめた。
この時彼等は知らなかった。 影に潜む悪意が自分達の懐まで忍び寄っていたことに。
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