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オーストラリアの狼

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第五章

 このことでヘンリーもマリーも一躍有名人になった、しかし。
 ヘンリーはマリーに研究室でこう言った。
「批判する人達もいるね」
「はい、違うという人達も」
「あれはフクロオオカミじゃないとね」
「動画を見た一般の人達だけでなく」
「学者の人達でもね」
「いますね、否定する人達は」
 マリーもヘンリーにその通りだと返した。
「科学的にはっきりと出したのですが」
「そうだね、しかし」
「しかし?」
「こうした人達が出ることもわかっていたよ」
 ヘンリーはマリーに淡々とした調子で答えた。
「絶対にとね」
「最初からですか」
「わかっていたよ」
「そうですか、もう最初から」
「科学的に検証して公表してもね」
 根拠を出してもというのだ。
「それでも違うのではということは言えるから」
「では実物を出しても」
 フクロオオカミ、生きているこの生きものをというのだ。
「それでもですか」
「うん、まだ言う人がいるよ」
「違うと」
「そうしたものだよ、それが学問というものだ」
「生物学も然りですか」
「絶対と言えるものを出してもね」
 科学的な検証を行ったうえでだ、ヘンリー達が実際にそうした様に。
「それでもだよ」
「疑う人は出ますか」
「そうさ、逆に疑う人が誰もいないと」
「それならば」
「私達にとっては望ましいかも知れないけれど」
「生物学としては」
「学問としてはね」 
 確かな検証、それに対してだ。
「それもまたよくないんだよ」
「違うのでは、そう思うことがですね」
「それ自体がね」
「学問ですか」
「そのはじまりでもあるから」
 だからこそというのだ。
「いいんだよ」
「そうなりますか」
「うん、そうした意味で異論はね」
 彼等が出したこのことに対してのそれもというのだ。
「いいんだよ」
「そうですか、では」
「我々はこれからもだよ」
「科学的な検証を行い発表して」
「慎重にね、そしてね」
「異論にもですね」
「正面から向かい合うことだよ」
 それを受け止めてというのだ。
「そうすべきだよ」
「それが学者ですね」
「そうだよ、まさにね」
 こう言ってだ、ヘンリーはマリーと共にコーヒーを飲んだ。そのおコーヒーには知性の味がした。
 その知性を感じつつだ、彼はさらに言った。
「じゃあ学問以外のことも話そうか」
「私達のことね」
「そろそろいいかな」
「そうね、じゃあね」
「うん、二人でこれからどうしようか」
「お話していきましょう」
 笑顔で言ってだ、そうして二人は今度は自分達のことを話した。二人が夫婦になったのはこの時から少し後のことだった。


オーストラリアの狼   完


                2018・4・14 
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