エティン
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第一章
エティン
昔々のノルウェーでのお話です。この時この国ではとても悪い巨人が暴れ回っていました。
その巨人はエティンといってとても大きな身体を持っていて極めて凶暴な性格をしていました。
身体の大きさの分だけ力が強くどうしようもない山も川も壊してしまう位です。そしてそれだけではなく。
頭が二つあってその二つの頭であらゆる方向を見渡すので倒そうとしても上手くいきません。それで、です。
戦士達も非常に困っていました、エティンを退治出来なくて。
それでどうしようかとです、皆で砦の中でお話をしていました。
「頭が二つだからな」
「その分周りを見回せてな」
「攻めようとしてもすぐに気付かれる」
「しかもだ」
ただ周りがよく見えるだけではなかったのです、エティンという巨人は。
「夜に寝ている時もな」
「片方の頭は絶対に起きている」
「だから中々攻められないぞ」
「寝込みを襲うことも出来ない」
「だから普通の巨人より厄介だ」
「身体は巨人だしな」
大きくて強いのです。
「それで頭が二つだからな」
「本当に厄介な奴だ」
「どうしたものか」
「退治しないとどうしようもないしな」
「これ以上家畜や家を襲われたら困る」
「わし等も襲われるしな」
こうお話していますが具体的にどうしていいのかわかりません、それでその彼等を虹の向こうの神々の世界から見てでした。
雷神で巨人達を倒して回っているトールは眉を顰めて言いました。
「こうなっては俺が出るか」
「エティンを倒しにかい?」
トールの横にいた炎の神ロキがトールの言葉に突っ込みを入れました。
「今から行くのかい?」
「人間達が困っている、ならだ」
トールはその髭だらけのお顔で言うのでした。
「人間を護る神である俺がな」
「出向いてそしてかい」
「その二つ頭の巨人を倒すか」
「まああんたが行けばな」
ロキはトールのその言葉を聞いて彼に答えました。
「どんな巨人でもそれこそな」
「造作もなく倒せるな」
「相手の頭が二つあってもな」
「ではミョッルニルを持って行く」
トールの武器であるその鎚をというのです。
「今からな」
「いや、待ってくれ」
「待て?どうしてだ」
「ここはちょっと人間に期待してみたらどうだ」
ロキは相談を続ける人間達を見つつトールに言いました。
「そうしたらどうだ」
「人間に期待か」
「ああ、自分達で巨人を倒せるかどうかな」
「それを見ようというのか」
「そうしたらどうだい?」
「相手はかなり厄介な巨人だぞ」
「厄介でもだよ」
ロキはトールに軽く笑って言いました。
「ここはあえてな」
「まずは人間がどうするのかを見るか」
「そうしたらどうだ、人間もあれで捨てたものじゃないだろ」
「うむ、存外賢く立ち回る」
「だからな、ここはな」
「人間があの巨人をどうするかをか」
「見てみないか」
「また妙な悪戯心を起こしたのか」
トールはロキがとても悪戯好きであることを知っています、それで今回もかと思いつつ問い返しました。
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