来客
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第二章
「思いも寄らなかったからな」
「そうか」
「それでも来たんだな、俺のことなんてな」
「俺は覚えている」
カップは注文した酒を一口飲んでからジャクソンに答えた。
「御前が凄いバッターだったということはな」
「そのことはか」
「そのことだけは覚えているさ、ただな」
「ただ?」
「それ以外は忘れた」
そうなったというのだ。
「俺はな」
「そうか」
「ああ、そしてその御前を見てだ」
優れたバッターだったジャクソンをというのだ。
「俺はいつも自分のバッティングについて考えていた」
「そうだったのか」
「ああ、自惚れてると思っていたらな」
自分がそう感じたらというのだ。
「御前を見ていたんだ」
「俺をか」
「一歩下がってな、そうするとわかったんだ」
そのわかったこともだ、カップはジャクソンに話した。
「まだなおさないといけないところが沢山あるとわかったんだ」
「それで俺を見ていたのか」
「そうだ、そしてな」
「バッティングをなおしていったか」
「いつもな、御前のスイングより完璧なスイングは見たことがない」
カップは自分の前に立っているジャクソンを真剣な目で見据えつつ彼に話した。
「御前以前にも御前以後にもな」
「そうか」
「ああ、本当にな」
「そう言ってくれるなんてな」
「事実を言っただけだ、御前は守備もよかった」
カップはジャクソンのこのことも話した。
「スリーベースを許さなかった、その肩でな」
「肩にも自身があったのは確かだな」
「最高のレフトでもあった」
「守備のことも話してくれるなんてな」
「走塁もな、御前は本当にいい選手だった」
「そうか」
「その御前を知っている、覚えているだけだ」
ジャクソンのその目を見てだ、カップは話した。
「それだけだ、そしてだ」
「この店に来たのか」
「それだけだ、じゃあな」
ここでカップは酒を飲み終えた、そうしてだった。
コインを置いて席を立ってだ、ジャクソンに静かに言った。
「つりはチップだ」
「それを置いていくか」
「それじゃあな」
この言葉を残してだった、カップは店を後にしようとした。だが店の扉を歩く時に不意にだ。ジャクソンの方を振り向いて言った。
「一ついいか」
「どうしたんだ?」
「御前は裁判の時子供に言ったそうだな」
「あの話か?」
「裁判を聞いていた子供に嘘と言ってよと言われたそうだな」
「そして俺が本当のことらしいと言ったってことだな」
「そう言ったと聞いているどうなんだ」
ジャクソンを鋭い目で見つつ問うたのだった。
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