空に星が輝く様に
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21部分:第二話 受験の場でその九
第二話 受験の場でその九
「これからだからね」
「そうだよな。しかしあれだけ頑張ったんだ」
父はかなり楽観的だった。その証拠に普段はコッテ牛の様な顔は思いきり綻んでいた。それが何よりも雄弁な証拠であった。
「きっとな。入ってからもな」
「頑張るっていうんだね」
「俺と御前の子供だぞ」
挙句にはこんなことを言う始末だった。
「頑張らない筈ないだろ」
「それにもう頑張る人間ってのは見たしね」
「ああ、期待して見ていようぜ」
「そうしようね」
二人でそんな話をしてお祝いの御馳走を買いに行くのだった。母は食べ物を買いに行き父は酒を買いに行った。何だかんだで彼も行ったのだ。
そしてだった。自分の部屋に戻った星華はだ。半ば放心状態になっていた。その彼女の部屋の扉をノックする音が後ろから聞こえてきた。
彼女はそれに応えて声をかけた。
「誰?」
「お姉、受かったんだって?」
星子だった。彼女の声だった。
「八条高校に」
「そうよ」
「おめでとう」
まずはこう告げる妹だった。
「まずはね」
「有り難う」
「それでだけれど」
そして一言言ってからだった。こう切り出してきたのである。
「中に入っていい?」
「中に?」
「そう、部屋の中にね」
そこにだというのだ。
「中に入っていいかな」
「いいわよ」
星華は特に迷うことなく彼女に答えた。
「どうぞ」
「有り難う。それじゃあ」
こうして中に入る星子だった。そのうえで自分の机に座ったままで背を向けている姉に対してだ。穏やかな口調で切り出してきたのである。
「あのさ」
「何よ」
「今少し、いや結構落ち込んでるでしょ」
こう問うてきたのだ。
「それで部屋から出ないんでしょ」
「別にそんなんじゃないわよ」
口ではそれを否定する彼女だった。
「別にそんな」
「本当に?」
「本当によ」
自分ではこう答えるのだった。
「何もなかったわよ」
「高校に合格したのにあまり嬉しそうじゃなくても?」
「ちょっと気が抜けてるのよ」
「嘘ばっかり」
ここで遂にこの言葉を出したのだった。
「そんな訳ないじゃない」
「何よ、じゃああんたわかるっていうの?」
ここで遂に椅子を回してきて妹に向き合ってきた。そのうえでの言葉だった。服は中学の制服のままだ。星子はジーンズとセーターに着替えていた。
「何がわかるっていうのよ」
「お姉が落ち込んでる理由がよ」
それがわかると返す星子だった。
「わかるわよ」
「じゃあ何で落ち込んでるっていうのよ」
「先輩にコクろうと思ってたんでしょ」
こう姉に言ったのだった。
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