| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百四十二 幸村の首その九

「もうもちませぬ」
「今のこの城ではな」
「どうにもなりませぬ」
 守りきれぬというのだった。
「残った兵も少ないですし」
「では明日でじゃな」
「何もかもがです」
「終わりか」
「はい、ですから」
「それではな」
「国松様は何としてもです」
 治房が秀頼に言ってきた。
「それがしが命に代えても」
「護ってくれるか」
「必ずや」
「既に加藤殿が受け入れを言われていてです」 
 大野がまた秀頼に話した。
「そしてです」
「国松もじゃな」
「お助け下さるとのことです」
「そうか、そしてじゃな」
「加藤殿のおられる肥後からです」
「さらにじゃな」
「島津殿の薩摩まで逃がして下さるとのことです」
「薩摩は天下の端、しかも国境は蟻一匹入ることは出来ませぬ」
 このことを話したのは治種だった。
「例え幕府といえどです」
「薩摩に入ればじゃな」
「安心出来ます」
「そうじゃな」
「ですから」
「わかった、では国松とは水盃を交えよう」
 秀頼は家臣達の言葉を受けて述べた。
「そうしよう」
「それでは」
「そして余は最後まで戦い」
「いえ、そこは何とかです」
 すぐにだ、大野が腹を切ろうという秀頼に申し出た。
「それがしが防ぎます」
「修理、お主がか」
「はい、それがしが腹を切り」
 そうしてというのだ。
「責を取りますので」
「余はか」
「何とか。千様と共にです」
「生きよと申すか」
「お願いします」
「しかし余も武士、だからじゃ」
 秀頼は己の前で話す大野に強い声で述べた。
「恥を知っておるつもりじゃ」
「そうはいきませぬ、どうか」
「ここはか」
「はい、何とぞです」
 生きてくれとだ、大野は秀頼に言うのだった。
「そうして下され」
「何としてもか」
「拙者が命に代えてお守りします」
「そう言ってくれるか」
「ですから」
「済まぬな」
「有り難きお言葉、では」
 大野は秀頼にあらためて促した。
「これより」
「うむ、国松とな」
「是非共」
 別れの水盃をとだ、こう言ってだった。
 秀頼に親子の今生の別れをさせた、そうしてから己の弟達に明石、長曾我部、毛利といった残った諸将達に述べた。
「今日までかたじけのうございました、しかしです」
「明日で、ですな」
「全ては終わりです、明日はです」
 毛利に応えて言うのだった。
「我等の別れの時、責はこの修理めが取りますので」
「我等はですな」
「生き延びて頂きたい」
 こう諸将に言うのだった。
「お願いします」
「わしは何としてもぜよ」
 長曾我部は意を決している顔だった、その顔での言葉だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧