インフィニット・ゲスエロス
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21話→家族(前編)
前書き
リクエストは執筆中です。
とりあえず本編をば。
「ここまで、だな」
肩で息をする一夏にそう言って、太郎はISの領域と呼ばれる場所に刀を仕舞う。
「あり…………がとう、ござ…………いました」
その言葉に、肩で大きく息をしながら一夏は礼を返す。
その礼儀正しさに苦笑しながら、太郎は一夏に『あるもの』を投げた。
「ほらよ、お前は冷えてない方が好きだったな」
そう言って投げたスポーツドリンクを、即座に開けて空にする一夏を見て、太郎は苦笑する。
相も変わらず、限界まで突っ走るやつだな。
限界まで体力を使いきる戦い方に、微笑ましさと危うさを、太郎は感じた。
そのため、太郎は一夏に再度忠告のために口を開こうとしたが…………
パチ、パチ、パチ。
控えめな拍手に、それを中断する。
「疲れている所ごめんなさいね、二人とも。ただ、こちらも急ぎの用事なの」
そう言って現れたのは、先程まで観戦していた一人の初老の女性。
「いえ、構いません…………兄弟共々お世話になります。理事長」
その姿に見覚えのない一夏はどう反応を返せば良いかまごつくものの、太郎のその言葉を聞いてすぐに太郎同様頭を下げた。
同時に、まるで手品のように、兄の服が先程までのISから、スーツに変わる。
(ふぁっ!?)
一夏、混乱する。
簡潔に今太郎が行った事を言うと、ISの鎧部分を収納→スーツ一式を体に被せる→中のISスーツを消して下着を復元するを高速で行っただけなのだが。
端から見ていると万国びっくりショーである。
「あらあら、そんな畏まらなくても。お飾りの理事長よ」
だが、この程度ではこの女性にとって驚くには値しないらしい。
完全にスルーして、上品に笑う老婦人に対し、一夏は戦慄するが、太郎は全く気にしない。
「ご冗談を。そんな人間にここの理事長は勤まりませんよ」
同じく笑顔で、そつなく答える兄。
「それで今回の受け入れの件の対価なのだけど…………」
「いえ、理事長『二人』を指揮下に置くことのメリットを勘案戴けると…………」
そのまま、互いに丁寧ながらも、遠慮がないやりとりを行う。
一夏、今目にした早着替えとは別の意味でびっくり。
さっき確かに、学校推薦とは言っていたが、まさかの理事長への直談判である。
そりゃあ、メディアで兄の特異な立場は理解していたが…………。
実際にIS学園の理事長という、世界でもトップクラスの立場の人間と対等に話しているのをみると、素直にこう思う。
兄貴、ナニモンだよ、と。
だが、同時に思う。
学生時代から、兄や姉は少し、いやかなり特殊な立場にいた。
ならば、しょうがないか、と。
ある意味、悟りの境地である。
だが、流石にこのやりとりを眺め続けるのはバンピーである一夏の精神衛生上悪い。
何か他の場所にでも目線をずらすか。
そうして、少し目線をずらすと…………
柱の影から、気配を消してこちらを眺めている不審者がいた。
というか、姉だった。
(また何かしら、兄貴にやらかしたな)
姉は時たま、気まずい時、特に兄貴と喧嘩した時にこのような態度をとる。
(これ、俺が間に入った方が良いかな?)
そう思い、兄の方を再度眺めると、ちょうど兄は理事長との会話を終えて、帰る理事長を見送っていた。
「あにっ…………」
全部言い切る前に、不幸にも、兄のスーツから着信音が響く。
どうやら、電話らしい。
流石にこんなこと(姉の事)で中断させることではないので、
「ん?麻耶か…………いや、これから一夏俺んちにつれてくから、引き続き他の先生方がこちらにこれないようにしてくれれば大丈夫。……いつも千冬が迷惑かけてすまないな。うん、ああ、よろしく」
(千冬ねぇ…………)
断片的な会話だけで分かる。今回も気まずい千冬ねぇが、麻耶姉さんを巻き込んだのだ。
用はもう済んだらしく、兄は理事長と別れ、いつのまにかスーツに着替えていた。
「とりあえず、今日は俺んちに帰るぞ、あのアホもつれてな」
そう姉を指しながら言う兄の言葉に、一夏はコクりと頷いた。
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職員用の購買で、簡単な着替えを買い(泊まり込み等があるため、用意されているらしい)、校舎のとある角にあるエレベーターに乗る。
「兄貴、家に行くんじゃ…………」
ないの?と言う前に、エレベーターのボタン下にある鍵穴に鍵を差しこみ、引き下げる。
そのスライドした扉内にデカデカと書かれている『自宅』というボタンに、一夏は吹き出した。
「っ、何……コレ……」
不意打ちのネタに半笑いになりながら問いかけると、ニヤリと笑いながら、太郎は一夏に言葉を返した。
「その文句は、この先にいる、兎に言えば良い。」
そうして、エレベーターは向かう。
今の兄の自宅へと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
広い、部屋多い。
兄の家を一言で言うなら、その言葉が当てはまる。
兄の話によると、面倒だからマンションの一フロアを可能な限りぶち抜きにしたという家は、下手すると迷子になるクラスである。
「っと、俺は『テレポート部屋』まで束を迎えに行くから、千冬は『子ども部屋』まで案内してやれ。さっき篠ノ之の義母さんが、寝かしつけたって言ってたから」
入り口のドアを開けた兄貴は、そう言ってすたすたと廊下の奥に一人で行ってしまった。
いや、とりあえず色々突っ込み所ありすぎて、突っ込みきれない。
テレポート部屋?
何処でも○アみたいなもん?
子ども部屋?
俺の部屋?でもそれなら『弟の部屋』って言うよな?
寝かしつけた?
俺、生き別れの弟や妹がいたの?
頭の中で疑問符や青い狸型ロボが踊りはじめた。
んー、んー、んー…………。
分からん!
分からないので、とりあえず姉について行くことにしました。
一方その頃、太郎は『てれぽーとへや』と大きなマル文字で書かれた部屋の前で、兎の帰還を待っていた。
チーン
電子レンジの終了音と共に、扉が開くといつものウサミミ、エプロンドレスの束が太郎の胸に飛び込む。
もう子持ちなのに、突然飛び出したり、突っ込んでくるのはどうだろうか。
と、太郎は思ったが、それをおくびにも出さない。
飛び込んでくる柔らかい体を受けとめ、いつも通り、束と軽いキスを交わす。
その挨拶に笑顔を浮かべながら、束は太郎と近況報告を交わす。
「相変わらずイイ身体してるねえ!」
「おまえもな。で、今は何処に?」
「潜水艦?オーストラリア南方かなあ」
七年前に、どさくさ紛れにIS領域内に接収した戦艦等の残骸が、立派になったもんだ。
材料費ほぼタダという素敵な巨大潜水艦を思い返し、笑みを浮かべる。
いや、リサイクルだよ、リサイクル。
「そうか。ふふ、七年前に基礎理論は出来ていたとはいえ、よくまあ長距離を自由に行き来できるもんだ」
ワープゲートなんて、フィクションの中だけの存在だったものが現実化するなんて、流石天災である(誤字にあらず)
「ふふ、天才ですから」
そう互いに笑い合うと、現状報告をしながら、『子ども部屋』へと急ぐ。
「クロエは来ないのか」
「うん、私とタローちゃん以外に会いたくないって」
その返答に歩みを続けながらも、太郎は眼鏡を弄りながら困惑の笑みを浮かべた。
「あの子の生まれから、気持ちは分かるんだがな。強さを求め過ぎる真似や、孤独を好む真似は余り頂けないな。今度また会って話さないと…………なんだその顔?」
「ナンデモナイヨ」
強さを~の下りから変な顔をする束に、太郎は困惑する。
あれやぞ、確かに余りに身を捨てて攻撃に走るので、『捨て身過ぎる!』とか、『少しは防御を覚えろ!』とか、言ったよ。
変に癖がつくと命が危ないから、叩いて指導したのは確かだよ。
だが、ちゃんとフォローもしてるから、クロエとの関係は良好な筈なんだが…………
なんかカクカクになっている束を見て、少々心配になってくるが、すぐにクロエの元に行ける訳じゃないし、心を読める訳でもない。
仕方ない。今度また確認しよう。
そうやって、心の中での葛藤を終らせると、既に目の前にリビングに通じるドアがあった。
このドアを開ければ、子ども部屋は直ぐだ。
その状況で、別の事に時間をとられる訳にはいかない。
(千冬のやらかしに、俺からもフォロー必要だしな)
そう思い、リビングへのドアを開けた。
立ち上る強者のオーラ!身から溢れ出さんばかりの闘気!
そこで仁王立ちしているのは!
世紀末覇王、一夏だった。
ガチャ、バタン。
直ぐにドアを閉め、束と顔を見合わせる。
今、目にした光景が間違いであるよう祈りながら、もう一度、ドアを開けた。
やはり、顔が劇画調になった一夏がいる。
一夏が、その顔を変えずに、俺たちに振り向き、言う。
「うぬら、そこに正座」
とりあえず、従っておいた。
後書き
子どもを紹介した直後の一夏。
「来いよ…………(赤ちゃんを)起こしたくない」
千冬は一夏の後ろに、モリモリマッチョマンの姿を幻視した。
「こっちだ、ついてこい」
リビングを指す一夏を見て、ちょっぴり命の危機を感じた千冬であった。
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