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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第4章 Fate/What I was stronger Seriously?
  第1話 それぞれの休日

 
前書き
 最初から飛ばします。あっ、飛ばすって日数をと言う意味じゃありませんよ? 

 
 義経達の生誕祭が終わった翌日、葵ファミリー+シーマとレオとリザ(α)のメンバーでレオとリザの為に半ば観光同然の周囲の案内が計画されてあり、その予定で行く様だ。

 「それじゃあス・・・アルバさん!行って来るね~♪」
 「ああ、言って来い。それと、この面子なら本名でも構わぬぞ?」
 「ダメなんすよ。ユキは慣れるとそっちで呼んでしまう可能性が高いっすから」
 「左様か」

 当の小雪は今はもう、レオと楽しく喋り始めていた。
 その影に隠れるように士郎にアイコンタクトをする。
 気を引き締めろと言うモノだ。

 理由は昨夜にまで遡る。
 周期などは不明だが、最後のガイアの使徒出現から一月以上間が空いている為、何時現れるか分からないから覚悟しておくようにと言う内容だった。
 つまり今のは念押しだ。

 「では行ってきます師匠」
 「ああ。せいぜい楽しませて来い」

 スカサハに別れを告げて外出する士郎達。
 因みに今日もエジソンは仕事(留守番)だ。


 -Interlude-


 百代は朝から――――正確には夕方から不機嫌だった。

 原因は勿論士郎が他の女といちゃついているのを見ての事だ。
 だが自分は別に士郎と―――――つ、付き合ってる訳では無い。
 だからリザさんからの指摘に言い返せなかった。
 だから生誕祭の後にぶちのめすのも中止した。何せ私は士郎のこ、恋人でも何でもないんだから!
 だと言うのにこの無性な腹立たしさは一体なんだ?

 「あ゛ぁああ!むしゃくしゃするッ!!」

 失礼だと判ってはいるが、外部からの義経挑戦者の選別でストレス発散しようとしても誰も彼も手を抜いた上での一撃で沈んでいくと言う外ればかりだ。
 今日は朝からとことんついてない!

 その様に苛ついている百代に、次の――――52人目の――――本日最後の挑戦者が現れる。

 「ふむ。世界に名を轟かせる武神の乙女は怪力乱神・鬼神の如くと聞いたが、この手の話は幾つもの尾びれが付いて噂されるものだ・・・が、百聞は一見に如かず。実は的を得ていたと言う事かの」
 「あ゛ぁああ!?」

 不愉快際回り無い言い様に、礼儀など知った事か位の感情のまま振り返ると、そこに居たのは挑戦者――――否、強者だった。
 赤い長髪に、それを雑に糸で纏めている中華の武術家の服装に身を包んだ男。
 間違いなくマスタークラスの拳士だ。

 「武神の称号を持つ娘よ如何した?」
 「あっ、いや」
 「先程までの猛々しき剣呑さの方が闘う上では好みだったのだが、如何ともしがたいな」
 「美少女に対して何て言い草だ」

 不満を露わにする言葉とは裏腹に、百代は楽しそうに笑っていた。

 「あれだけの鬼気を剥き出しにしておいて容姿を褒めろとわの。それにしても言葉遣いも態度もまるで別人のようなのだが?」
 「ちょっとイラついていただけですよ。それとも謝罪しますか?」
 「構わん。その代わり噂に尾ひれが付いただけの無様は晒してくれるなよ?」
 「直接確かめてみては?」

 挑発に対して挑発で返す百代。先程までの苛つきが嘘のように構えを取りながら楽しく笑う。
 対する拳士も一切の隙が見えない構えを取りながら不敵に笑っている。

 その向かい合う強者のプレッシャーに審判役の九鬼家の従者は、顔を青ざめながらもなんとか耐えている。

 「で、では――――始、めっ!」

 開始と同時に瞬間的に地を蹴る2人。

 「(川神流端折)――――無双正拳突きっ!」
 「せいっ!」

 速度、重さ、気が練り込まれた威力申し分ない互角の力が真正面からぶつかり合い、その衝撃で風圧が周囲を襲い本人たちも――――否、百代だけが吹き飛ぶ。

 「クッ」
 「甘いッ!」

 百代が宙で立て直す前に拳士が回し蹴りを浴びせる。
 それを瞬時の判断で空に気を籠めた正拳突きを放つことでさらに後方に飛ぶことで躱す。

 「ほお!」
 「っと!川神流――――」

 百代は着地と同時に地を蹴って自分の肩からの態勢で拳士に突っ込んで行く。
 
 「フッ、受けて立つ」

 拳士も呼応するように百代と同じ体勢のまま地を蹴る。

 「鉄山靠!」
 「ハァッ!」

 激突して一瞬だけ拮抗するも、態勢が態勢だけに今度はお互いに軽く吹き飛んで着地する。
 今の勢いならもっと距離が開くほど吹き飛んでもおかしくない筈だが、そこはこの2人の技量の高さ故だろう。
 2人は――――否、百代は今自分だけの世界に居る。
 煩わしい理屈や事情、面倒事や規則から逃れて、今まさに百代は嘗て望んでいた“戦いだけの世界”に立っていた。
 向かい合うは望んだ強敵。
 この世界に不満などある筈が無い。この世界が楽しくない訳がない。
 こうなれば自然と笑みを作っても仕方がないだろう。

 「呵呵っ」

 事実、自分の望んだ世界の答え合わせをしてくれる様に、強敵は自分と同じように嗤った。
 これが嬉しくない訳が無いのだと示す様に。

 「ハハハハハハッ!!」

 両者はまたも地を蹴り激突していく。
 勿論、一般人では視認できない速度のままで。

 それを見ているギャラリーの中で2人ほど異質な目で見ている少女がいた。
 1人は九鬼からの依頼で百代を倒す仕事を受けている燕だ。
 ギャラリーの中で目立たない様に気配を消してみている。
 勿論理由は百代攻略の為の観察だ。

 「ウフフ」

 燕は最初は嗤っていた。理由は百代の苛つき具合にだ。
 恐らく士郎と喧嘩でもしているのだろう。
 士郎を1人の男――――異性として本気で惚れている燕としては嬉しくない訳がない。
 それに百代の精神が不安定ならつけ入る隙も多くなる。
 例え()に走ってもそちらの方が攻略しやすいと燕は感じている。
 だが今は果たしてそんな隙が本当に出来るのかと不安を感じていた。

 『っ!』

 拳士に殴り飛ばされた百代は何故か着地する前に背を向ける。
 それに訝しんだ拳士は一瞬だけ排撃かと疑ったが、それでは今の自分には対抗できないと打ち消した。その上で百代が技を出す前に、

 『ディメンションチェンジ』
 『?』

 何が起きたのかと刹那の時間訝しむ拳士。
 何せ景色が変わっている。
 自分の視界が変化しているのだ。
 だが川神流の技は奇想天外と言う噂を事前に聞いていた拳士は、自分の置かれた状況を瞬時に把握。着地と同時に後ろから迫って来ていた極太ビームを振り向かないまま肘打ちで天へ打ち上げた。

 『なっ!?』
 『驚いている暇があるなら次の対処をせぬ、かっ!』

 何時の間にか自分の頭上に跳躍していた拳士は、そこから強烈な踵落とし。

 『ぐっ!』
 
 それを百代は済んでの所で躱して転がるように距離を取る。
 そうしてまた技がぶつかっていく。

 これほどの激闘ぶりを見せつけられては不安になるなと言うのが無理と言うモノだ。
 あくまでも燕の私見だが、九鬼財閥から渡されたデータより格段に強くなっている事が解った。
 勿論まだまだ技も荒く隙も多いが明らかに変化している部分があった。
 百代は戦闘を長く楽しむ為、昔に比べてスロースターターだった。
 しかし今ではほぼ最初から全力で出せる姿勢の様だ。
 これでは尻上がりの武神対策も全て無駄だ。
 こうなれば戦う時に大きな油断を誘う作戦しかない。
 その為のプランはある。まだ予定でしかないが、ある。
 確信に近い勝算ありの仕込みは既に済んでいるものの、ともあれ連絡を待つしかない。
 今は兎も角情報収集に努めるしかないと、自分を納得させた。

 一方、もう1人は川神一子だ。
 一子は非常に悔しそうに唇を噛みしめている。
 昨夜から原因不明の姉の不機嫌さを自分では晴らせなかったと言うのもある。
 そもそも自分が心配から声を掛けた時、偽りの笑顔を作って誤魔化されたのもある。
 だが今の憧れの権化は如何だ。

 『ハァアアアァアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアッッ!!』
 『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っっ!!』

 百代から繰り出される幾多の気弾や極太ビームを、拳士は全て弾く逸らすの連続だ。
 これほどの激闘の中、2人は獰猛に嗤っている。笑っている。実に楽しそうだ、心の底から。
  
 そんな歪でありながら純粋な笑顔にさせているのが自分では無く、赤の他人である事が心底悔しがる一子。
 自分の憧れとあそこまでの戦いを繰り広げられる挑戦者に、嫉妬するなと言う方が無理らしからなことだろう。
 アルバ師の下で、徐々に確実に強くなってきている事が最近意識出来てきた。
 だからいずれはステージに上がれるだろう。
 だがそれは何時だ(・・・・・・・・)
 故に一子の焦燥感は致し方ないモノなのだろう。


 -Interlude-


 義経は現在九鬼財閥極東本部内にあるトレーニングルームにて、ヒュームとの鍛錬をしている。

 「っ!くっ!ふっ!ハッ!!」
 「いいぞいいぞ、その調子だ」

 義経は縦横無尽に切り込んでいくのに対して、ヒュームは手で掴んだり腕に当てると同時に捌くなどしている。
 実のところ義経の今日の鍛錬メニューは既に終えているのだが、彼女のたっての希望でさらに増やして今もこうしていた。
 理由は勿論火曜日の帰宅途中にテロリストに襲われた時に、あまりにも自分が不甲斐無かったからに他ならない。
 少し鍛錬量を増やしたからと言って一日で大した変化が起きない事も解っている。けれども今は動かずにはいられないのだ。

 「義経様。そろそろ休憩を入れられては如何ですか?」

 そこへクラウディオが現れた。

 「も、もう少し駄目ですか?」
 「そうだぞクラウディオ、良い所で水を刺しおって」

 無茶しすぎは体に毒であると考えての諫めの言葉だったのだが、旧知の友人にそれを止められる。
 これに溜息を零してから、良くも悪くもの事実を言う。

 「これはあくまでもレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ様のご案内の様なのですが・・・」
 「唐突になんだ?」
 「その案内役として此処にも立ち寄られたの様なのです。衛宮士郎御一行様方が。勿論シ」

 クラウディオが説明しきる前に、義経が彼女にしては珍しいくらいに行儀悪く、鍛錬相手のヒュームに断り無くその場を駆けだしてトレーニングルームから出て行ってしまった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 予想外過ぎる義経の反応に面喰らう2人。
 特にクラウディオ。少しぐらい嬉しそうな反応をする程度だとの予想だったのだが、想像の遥か上をいく結果だった。

 「フン」

 義経のリアクションが自分の想像の埒外だったからか、ヒュームは存外嬉しそうに鼻を鳴らした。

 「士郎の小僧が来ていると言っていたな?」
 「はい。偶然居合わせた帝様の御誘い合ってです」
 「なら俺も顔を出しておくか」

 義経がいなくなったため、ヒュームはあっさり闘気を治めてクラウディオと共に部屋を後にした。


 -Interlude-


 遡ること十分前。
 士郎一行は此処、九鬼財閥極東本部前に足を運んで来ていた。

 「此処が英雄も住んでいる九鬼財閥極東本部です・・・が、レオ君は既に来たことがあるのでしたか?」
 「ええ、以前九鬼財閥の総裁殿からのパーティに招待を受けたんです」
 「ふにゅ~」

 レオは冬馬の質問に正直に答える。ただし小雪に軽くヘッドロックをかけながら。
 小雪は如何やらレオがなかなか気に入ったようで、まるで今日から飼う赤ちゃん猫よろしくしつこくじゃれて行ったので、お仕置としてヘッドロックを極められている最中だった。
 王子様風の金髪美少年が銀髪の美少女にヘッドロックを極めると言う光景は非常にシュールである。
 それでも敢えて誰も突っ込まないのは、小雪の奔放さと無邪気さは何時もの事だからだ。
 そこへ、後から誰かが近づいて来る気配を感じる。

 「この気配はあずみさんに、以前お会いしたステイシー・コナーさんと李静初さんですか」

 後ろを振り返れば士郎の指摘通り、メイド服の3人が近づいて来た。

 「どんな化け物が来てるのかと思えば衛宮達か。ついでにハゲ」
 「ついでは余計だ」
 「なにより御越しいただけたのは幸いですが、一報下されば準備いたしましたのに。レオナルド・ビスタリオ・ハー・・・ウェ・・・イさ・・・ま・・・・・・」
 「お構いなく――――如何かしました?」

 レオの問いかけにあずみたちは視線を落とす。

 「あの・・・それは・・・?」
 「ああ――――かくかくしかじかと言う事で、しつこくじゃれて来たのでお仕置中です」
 「たすけてあずみー!レオが解放してくれないの!もうしないって言ってるのに」
 「その台詞で既に僕としては二回騙されている訳ですから仕方がないでしょう?」
 「えー、良いじゃん!ケチ!」

 その態度にそろそろおいたが過ぎると判断されたため、士郎が動く。

 「わるいレオ。小雪を解放してくれないか?」
 「む――――まあ、士郎さんが言うんでしたら」
 「わーい!ありがとうシロ兄!」

 解放されるが、未だ小雪の位置からでは士郎の顔は見えていない。

 「よーし、じゃあ早速また――――」
 「小雪」
 「なー?――――ッッ!!?」

 振り返った所で小雪は自分がやり過ぎた事を瞬時に自覚した。
 士郎の笑顔は二種類あり、一つは誰であろうと慈しむものだ。
 そしてもう一つが、

 「小雪」
 「は、はひっ!」

 魔・王・顕・現。
 相手が誰であろうと絶対的な恐怖を与える圧力100%の笑顔だ。

 小雪の首根っこを掴み耳元でぼそぼそと呟くと、

 ガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルガクガクブルブルと、恐怖に振るえて全身を震わし出す小雪。
 そんな小雪を士郎が準に預ける。

 「暫く俺に近寄れないだろうから、悪いがケアを頼むぞ準」
 「りょ、了解です・・・!」

 士郎は普段から基本的には優しいが、極稀に怒る時があり、それはもう魔王が如しと言うのは衛宮邸では周知の事実。
 なんと、その怒気に触れると、あの(・・)スカサハですら僅かに冷や汗をかいて少し後ずさりする程だ。
 兎も角小雪はそれえの懸念を忘れ失態を犯した。今後は良い反省材料になる事だろう。

 「それで、何の御用なんですか?」

 小雪の件が終わったので、すぐさま怒気を掻き消して平常時通りの顔に戻ってからあずみへ振り返る士郎。

 「あ、いや、とくに様があった訳じゃないんだが・・・」

 だがそこに相応の従者を引き連れて思わぬ人物がやって来た。

 「おっ!士郎にレオ君(・・・)じゃねぇか!」

 現れたのは何時もの服装に変な髪留めで止めて変な髪形の九鬼財閥の総裁、九鬼帝その人だった。彼を護衛しているのは九鬼家従者部隊序列第四位、基本的には南米を中心として動いているゾズマ・ベルフェゴールだ。

 「これは帝さん(・・・)。お久しぶりです」

 両者の関係を考えるなら、その二人称はよろしくないのだが、帝からの言葉にその当たりは今は(・・)大丈夫なのだと察し、九鬼帝殿などとでは無く呼称を合わせて来た。
 となれば士郎も、

 「こんな処でって言うのもアレですが、帝さんと再び会える場所がこんな昼間の――――しかも青空の下とは思いませんでした」
 「そうか?」
 「俺は兎も角、帝さんは一年中多忙な身でしょう?ならこの日本の昼間から出会えるなんて軌跡じゃないですか?」
 「大げさすぎる解釈だと思うが――――俺を出現率が非常に少ないレアなポ〇モンのと同じように言わないでくれよ」

 まだ会って二回目だと言うのに、何と言う軽口のたたき合いに近い会話か。
 まあ、それは士郎よりも帝の器の大きさゆえだろう。

 「そういや、お前も挨拶しとけよゾズマ」
 「はい――――九鬼家従者部隊序列第四位を預かります、ゾズマ・ベルフェゴールです。レオナルド様、衛宮士郎殿並びに英雄様のご友人の皆様方も如何か宜しくお願い致します」
 「肩っ苦しい挨拶だな。もうちょっとひねりを出せなかったのか?」
 「どれだけ序列が上であろうと私は所詮従者でしかありません。その程度の身分でしかない私めが帝様のような振る舞いなど許される筈が無いではありませんか」

 ゾズマの答えがそれなりに不満だったのか、士郎達に眼を向けた。何とか言ってやってくれと言う意味を込めて。
 しかし、

 「いや、如何考えてもゾズマ・ベル」
 「お好きな様にお呼び下さい」
 「――――ゾズマさんが正論だと思うんですが」

 士郎の言葉にまるで子供が軽く拗ねる様に舌打ちをする帝。

 「まあ、いっか。俺が強制するより本人たちで親交を深めていく方が面白そうだし」

 帝の本音ともはんべう出来ない言葉に、最初に来ていたメイドの3人は苦笑する。他も似たようなものだ。

 「ところで士郎やレオ君達は昼飯食ったか?まだなら飯食っていくか?」

 突然の帝からの提案にレオは皆に振り返る。

 「良いんじゃないか?」
 「――――そうですね。ではご馳走になります」
 「よし、決まりだな。じゃ、食堂と厨房(・・)に案内するぜ」

 帝を先頭に案内される士郎やレオ達。
 しかし彼らの頭の中では少し遅れてほぼ同時に疑問視する言葉が浮かんだ。

 (((((((ん?厨房?)))))))

 よく解らなかったが取りあえず案内に従ってビルの中に入っていく。
 そんな彼らを屋上から見ていた四つの目――――2人分の視線があった。与一とジャンヌだ。

 「マスター、まさか未だに彼らを怪しく見ているんですか?」
 「いや、寧ろ俺の誤解だったんじゃねぇかと改め始めてるぜ?」
 「マスター・・・!」

 漸く頑な態度と考えを解いたかと感心するジャンヌ。
 だがそれは違う。

 (特異点は俺1人だけかと思い込んでたが違った。まさか大和まで俺と同じ特異点だったなんてな)

 あまりに認めがたい現実だと考えているのに、すとんと理解も納得する事も出来ている自分に苦笑する。

 (もしかしたら衛宮士郎――――衛宮先輩も特異点なのかもしれない)

 そう考えればつじつまが合う。あの衛宮士郎と言う人間の異常性にも。
 だが考察ばかりに専念して座視してばかりにもいられない状況だ。

 (あの“魔導書”によれば、特異点とはつまり異端なる力の塊だ。一度選ばれちまえば強大な力を与えられるが、自ら辞める事も出来ないし、力を欲する奴らのせいで周囲を撒き込んじまう)

 此処は一度特異点同士揃って、周囲を守るためにもその対策が必要だ。
 幸い今、衛宮先輩がビルの中に入って来たし、以前の謝罪も含めて腹を割った話をしよう。

 未だ自分の妄想の中でその様に納得した与一は、決心したような貌でジャンヌを連れて屋内に戻って行った。


 -Interlude-


 「いやー、美味かったぜ。ご馳走さんだ、士郎」
 「お粗末様でした」

 此処には居ない冬馬達とレオ達に、英雄や義経達は、唯一此処に居る帝と共に満足いくまで昼食を味わい楽しんだ―――――士郎が作った(・・・・・・)料理を。

 先の提案は士郎の料理を食べたくなった帝の思惑だったらしい。
 食堂と厨房は使って構わないから自分を含めて人数分の料理を作って欲しいと言う意味だった様だ。

 「申し訳ありません、衛宮士郎様。帝様が無理を言った様で」
 「大丈夫です。俺も好きでやったまでなので」

 士郎の言葉からは建前や嘘は感じられない。如何やら本音の様で、帝は満足そうだ。

 「やっぱりうち来ないか?なんなら今年の夏限定でうちで働いて見」

 そこで唐突に帝の携帯が鳴る。断りを取ってから画面を開くとメールが来ているので開くと――――。

 『士郎を儂の知らんところで盗み取ろうとは好い度胸しておるのぉ?』

 雷画からのそんなメールだった。

 「は?なんで?」

 らしくもない間の抜けた言葉が帝の口から出たものだから、従者の3人から訝しまられる。

 「如何なさいました?」
 「これ」

 雷画から送られてきたメールを見せた。

 「なるほど。雷画の奴は昔から地獄耳でしたから気づけないとも言い切れません」
 「ですが解せません。帝様は何時の間に雷画殿にアドレスの交換をしていたのですか?」
 「いや、してねぇーし。こっちが理由を知り」

 又もや着信。
 このタイミングなので、差出人が誰かと分かった上で開く。

 『親族愛に勝る愛情なぞこの世には存在せぬ』
 「答えになってねぇーぞ?」
 「取りあえず今日の所は衛宮士郎様のスカウトの件は止しておきましょう」

 そこへドアへのノック音が響き、帝の了解があってから入って来たのはミス・マープルに那須与一、そして霊体化状態を解いたジャンヌダルクだ。

 「!」
 「大丈夫です衛宮士郎。私の事は此処に居る全員に説明が終えてますので」
 「ついでにお前もサーヴァント持ちで、肝心のセイバーは真名が思い出せないんだって事も聞いてるぜ?」
 「・・・・・・もしかしてジャンヌ、シーマにカマ掛けたんじゃないか?」

 意外と冷静に受け止められた上に的確な質問をされた事に逆に驚かされるジャンヌ。

 「聞くと言う事はセイバーからは何も言われていないのですね。――――はい、そうです。大変恐縮かつ忍びなかったのですが、確認を取っておきたかったので貴方の言う通りです」

 すみませんと一言いうのも忘れない。

 「おいおい、士郎よ?ならあの時の言葉は嘘だって事か?」
 「全部俺だけで(・・・・・)解決させたなんて一言たりとも口にした覚えはありませんが?それとも未だ信頼しきっていいかも不明な業務提携先に自社の内情を容易に明かすのが九鬼財閥総裁の意向ですか?」

 意外にも、弁明では無く挑発で返してきた事に楽しそうに笑う帝。

 「いやー、ホントお前面白れぇな」
 「お話し中申し訳ありません帝様。そろそろ宜しいでしょうか?」
 「んん?あー、那須与一から話したい事があるんだったか?いいぜいいぜ、若い2人で青春話でも何でもしてくれて」
 「青春て、そんなんじゃねぇんだけど。衛宮先輩、アンタに話があるんだ?」
 「ん?」

 以前の様な刺々しい態度では無く、実に真面目そうな顔だった。

 「前にアンタに言いがかりで食って掛かった事を謝罪させて欲しいんだ。本当にすまな――――すみませんした!」

 士郎は与一の謝罪に正直驚いている。
 あれほどの敵意を向けられては、仲が前向きに進展するのは時間を要すると考えていたので尚更驚くと言うモノだ。
 そんな大真面目に頭を下げられては士郎としては許さない訳にはいかない。

 「いや、俺もあの時は言い過ぎだったと考えていたんだ。俺の方こそ大人げなかったし、謝ってくれて本当に嬉しい」

 と言うか、あまり気にしていなかった。
 その士郎の素直な受け入れに、逆に与一の方が僅かに照れを見せている位だ。

 「えっと、まだ用があるんだ」
 「他に?」
 「ああ――――衛宮先輩!アンタも俺や直江大和と同じ“特異点”何だろ?」
 「・・・・・・・は?」
 「此処に居るのは全員関係者だらけなんだから誤魔化さなくていい!衛宮先輩も特異点たる異端の力を持ってるんだろ?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 彼は一体何を言ってるんだ?そもそもどうして直江の名前がそこで出て来るんだ?
 そんな風に考えた所で、

 (ああ、そうか。自らの行いの非を認めて謝罪する事と、中二病から抜け出せることは別の話かぁ)

 今も自分に対して熱弁をふるってくる与一に対して、士郎は周囲に眼を向けるとほぼ全員呆れかえっていて、マープル至っては、

 「よりにもよってどうして与一に魔術回路が備わったんだか」

 と言う、恐らく既に何度目かの愚痴を小声で呟いているのを確認できた。
 そこでふと、帝の面白そうに与一を見ている顔が目に入る。そして僅かに笑みを浮かべた。まるで子供が悪戯を考え着いた様に。

 「――――強い特異点はより強い特異点に引かれる傾向がある。この地に3人もの特異点が集まってるのも何か関連性がある筈なんだ!」
 「その考察と考えは概ね当たってるぜ?那須与一」
 「総裁?」
 「「「「帝様?」」」」

 唐突に口を挟んできた帝に一同訝しむ。

 「お前も士郎も、その友人も此処に集ってきたのは運命なんだ。この地に俺がいるからさ」
 「何・・・?ま、まさか・・・・・・・・・総裁、アンタも特異点なのか?」
 「ご名答だ。正確には特異点の中の特異点、幾つもの特異点を自然と引き寄せちまう“大特異点”だからな!」

 帝のわざとらしいドヤ顔に、与一は驚愕と感動を一緒くたに混ぜ合わせたような顔をしている。

 「後これはお前が知ってるかは知らないが、特異点の力にはそれぞれ名前があるんだ。那須与一、お前の力の名が絶対命中(フランコッチラロール)だろ?」
 「な、なんでその事を!」
 「お前の友人だって言う直江大和は恐らく戦乙女の絶妙管理(ゲッティン・クリーク・ハルモ二―)だろう。それに士郎のは永久機関・象徴蒐集(エターニア・ソードザスミス)じゃねぇかな?」
 「っ」
 「「「「「?」」」」」

 何故か僅かに反応した士郎に帝と与一以外が軽く怪訝さを示した。
 周囲から怪訝さを集めた当の士郎は複雑だった。
 まさかこんなふざけた様な話にて、自分の秘奥であり切り札の一つの名にかすってくるとは。
 恐るべし、九鬼帝の直感力。
 だがそれも、今では些末事だった。

 「如何してそこまで言い当てることが出来るんだ?」
 「俺の力に関係がある事位推測できねぇか?俺の力――――万能の王(キングオブキングス)は生まれ持って何でも出来ちまうんだよ?まあ、そのせいで若い時は周囲が誰も自分に追いついて来ないってつー孤独感にふて腐れて家も両親も悲しませたが、やる気に満ちた今じゃほら、世界の九鬼財閥なんて呼ばれるほど巨大に出来てるだろ?」
 「マ、マジだ・・・!」
 「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 プロの詐欺師は虚実入り混ぜて話をすると言うが、今の帝がそれである。こんなくだらない話で素晴らしい才能の無駄遣いだ。
 しかし彼らは何故か盛り上がる一方。

 「今言い当てたのも万能の王(キングオブキングス)の力の一端で、直感力が冴え渡ってしょうがねぇんだなぁ?」
 「そうだったのか。薄々感じていたが、まさか本当に事実だったなんて・・・!」

 愕然とした直後に感動も覚える与一。
 その憧れるような視線を受けて帝は実に楽しそうだ。
 ただ、周囲は全員呆れていて。

 ((((((何この空気))))))

 この状況と会話何時まで続くんだと思っていた。
 そんな時、突如強大な魔力の奔流を感じた。

 「これは・・・!?」
 「まさか・・・!」
 「皆さんすみませんけど俺は今日これにて失礼します!あの魔力の発生地点に出向かわなきゃならないので!」

 周囲の返答も聞かずにその部屋から飛び出す士郎。
 そのまま入り口に向かって階段を下りていると、冬馬達や英雄達と一緒に居たシーマも丁度飛び出して来た。

 「シロウ・・・!」
 「シーマ!お前は此処に残って小雪たちの護衛していてくれ!」
 「は・・・はぁあああ!!?」
 「俺は様子を見て来るから頼んだぞ!」
 「いや、そうではなくてだな・・・!?」

 しかし士郎はまたも返答を聞かずに出入り口に降りて行ってしまった。
 それをシーマは憤慨する。

 「あー!もう!何故マスター自身が斥候しに行くんだ!サーヴァント()を置いて!ふつう逆であろうがッッ!!?」

 だがシーマの叫びは士郎に届かず。
 本人は出入り口に到着して走り抜けるところだった。
 そこに空からジャンヌが降りて来た。

 「衛宮士郎。私も行きます!」
 「いいのか?いや、大丈夫なのか?一応ルーラーだし、何処かの陣営に肩入れしすぎるのは不味いんじゃないのか?」
 「本来であればそうでしょう。しかし此度の聖杯戦争では私は聖杯自体では無く人に呼び出されたマスター持ちです。加えてこの聖杯戦争は不明瞭な部分が多すぎます。それ聖杯戦争の火種から一般人を守るのはルーラーとしての責務であり、私個人の望みでもありますから」

 そこまで言われては士郎はもう何も言わない。

 「分かった。協力感謝する」
 「ええ!ところで・・・」
 「ああ。――――如何してヒュームさんまで居るんですか?」

 士郎の指摘通り、いつの間にかにヒュームも来ていた。

 「フン、九鬼財閥への脅威を取り除くのは従者部隊永久欠番の俺の責務だ。ならば何も可笑しいことなぞあるまい?」
 「まあ、俺達にヒュームさんを押しとどめる権利なんて有りませんから、ついて来るのはいいですけど・・・」
 「魔力の奔流の発生地点に何があるかは分かりませんので、最悪援護は出来ませんよ?」

 士郎とジャンヌから心配されるヒューム。
 それを殺戮執事は余計なお世話だと取る。

 「小童共に心配されるほど俺は落ちぶれてはいない。寧ろ護衛してやろうか?」

 挑発で返してきたヒュームに苦笑する2人。
 取りあえず確認をし終えたので、改めて向かう先へ振り返る。

 「自分の身くらいは自分で守れると。では急ぎましょう。何が起きるか分かりませんから、慎重かつ迅速に」
 「ええ!」
 「フン」

 それぞれの考えで向かうとは言え、魔術使いに不死殺しに英霊――――と言う異色の急造スリーマンセルが出来上がった。
 これほどの面子であれば早々遅れは取る事は無いと言い切っても良い。
 だがしかし、急いで到着したにも拘らず、現地には全く魔力痕が無くなっていた。
 あったモノを上げるなら、九鬼家従者部隊の序列下位が幾人かほぼ無傷で気絶させられて倒れている位だった。


 -Interlude-


 もうすぐで夜と呼んでも差し支えないくらいの夕方。
 何時もの様にナンパに悉く失敗したガクトに、モロの代理として今回だけ付き添っていた大和が歩いていた。

 「チックショウ!今日も全敗だぜ・・・!」
 「前から言ってる様に、ガクトは努力の方向性を見直せばモテると思うんだけど・・・」
 
 などと何時もの予定調和的な会話をしながら歩いていた時にもう少しで分岐点。
 ガクトはその足のまま帰宅する道を取るが、大和は独自のコネクション関係の件で用事を済ませてから帰るらしい。

 「てか、松永先輩のご友人の中から紹介してもらう件はどうなったんだよ!?」
 「まだ調査中だってさ」
 「むむ、まだそこら辺かよ」
 「焦るなよ・・・・・・と、松永先輩からだ」

 燕からの着信で携帯を取ろうとする。
 そして、そこで丁度分かれ道。

 「おい、まさか俺様との友情よりも女を取るのか!?」
 「え?当然じゃね?」

 そこで躊躇なくガクトが行く道とは別の道へ歩いて行く大和。
 それをガクトは大和の背中に向かって、

 「ですよね~?ドーゾドーゾ、俺様でもそうします」

 一拍置いてから、息をもの凄く吸って空に向かって叫ぶ。

 「聞こえてるかぁああああああああ!!」
 「かぁああみ様ぁあああああああああああ!!」
 「ア!ン!タ!は不!公!平!だっ、ゾォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 モテナイ男の魂の咆哮であった。
 だが勿論返事など帰ってくるわけもない。
 残ったのは何時ものナンパ全敗後の悔しさだけだった。

 「チクショウ・・・」

 項垂れて帰途に就こうと、歩みを再開するガクト。
 後この土手をもう少し伝っていけば自分の家である事も無意識的に解っているので下を向きながらも歩いて行く。
 そこでふと、近くの橋の下に眼を向けると誰かが倒れている事に気付いた。

 「だ、大丈夫すか?」

 基本的には人の良いガクト。倒れている人がいると言う事で躊躇なく近寄ると、倒れているのが女性だと分かった。
 しかもただの女性では無い。
 親不孝通りからでも来たのか、その女性は黒いボディコンスーツに身に纏った紫色の長髪で長身だと思われる――――美女だった。 
 

 
後書き
 与一の絶対命中の読み方、私が聞いた限りはこの様に聞こえたのですが、正しい読み方知ってる方がいるなら教えてください。
 お願いしますm(__)m 
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