イタコの好物
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第二章
「蟹の生クリームもあるわよ」
「本当に色々あるな」
「だからね」
「何を食べるかとなるとか」
「ちょっと考えてるの」
「じゃあお義母さんとよく話してみるんだな」
住職は杏子に穏やかな声で言った。
「そうしてな」
「ええ、決めればいいわね」
「そうすればな」
「わかったわ、じゃあ今からね」
「スパゲティ作ってくれるか」
「それとサラダもね」
こちらも出すというのだ、杏子は義理の父である住職にこう話してだった。そのうえで台所に入ってだった。
義母と二人で調理に入った、その間住職は寺の仕事をして過ごした。そして晩御飯の時になってだった。
ちゃぶ台の上に置かれたスパゲティ、それを見ると。
生クリームとスライスされたベーコン、卵黄が使われていて黒胡椒がかけられていた。勿論オリーブオイルが使われ大蒜の切れ端も見られる。
そのスパゲティを見てだ、住職はすぐに言った。
「カルボナーラか」
「ええ、それにしたの」
「この娘と話してね」
住職は杏子だけでなく自身の妻の話も聞いた、自分より五歳年下の中年の女性で少し肉がついてきているがまだまだ奇麗な外見だ。
「レトルトのパックでもあったし」
「これってなったの」
「成程な、カルボナーラか」
そのスパゲティをあらためて見て言う住職だった。
「そういえばこれもだったな」
「そうよ、イタリアのスパゲティよ」
「そうだったな」
「それでこれにしたの」
「イタリアだからか」
「そうなの、しかも美味しいしね」
杏子は住職ににこりと笑って言った。
「だからこれにしたの」
「この娘が大好きだから」
妻も夫に言う。
「これならって思ってね」
「そうか、しかしな」
「しかし?」
「いや、もう日本の仏教じゃ言わないけれどな」
こう前置きして笑って言う住職だった。
「卵にクリーム、ベーコンとな」
「あっ、生臭ものね」
「そればかりだな」
「そういえばそうね」
杏子もそこは笑って言った。
「江戸時代までは完全に駄目だったわね」
「ああ、今だからお寺でも食べられるけれどな」
それでもと言うのだった。
「昔は駄目だったな」
「そうよね、けれどそう言ったら」
ここで杏子も言った。
「お義父さんとお義母さんがね」
「ああ、結婚してるからな」
「真言宗だけれどね」
義母も笑って言ってきた。
「浄土真宗しか結婚出来なかったけれど」
「こうして結婚してるしな」
「あんたもいるし」
「そこも違うな」
「そうよね、けれど今だから」
それでと言う杏子だった。
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