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ロボスの娘で行ってみよう!

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第59話  新たなる暗雲


勝利に暗雲が。
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第59話  新たなる暗雲

帝国暦485年 4月10日

■フェザーン自治領 自治領主オフィス アドリアン・ルビンスキー

「何!帝国軍が大敗したと言うのか?」
「はい、きたる3月から始まりましたヴァンフリート星系での戦闘で7万8000隻の艦隊が残存数僅か3000隻足らずとの報告が来ております」

「つまり、殆どの機動戦力を失ったと見て良いわけだな」
「そうなります。現在帝国は混乱の中にあり、まとも動かせる艦隊は4個艦隊だけとなった模様です」
「宇宙艦隊司令長官も交代というわけだな」

「ミュッケンベルガー元帥、オフレッサー上級大将両名とも戦死した模様です」
「うむ。そうなると後任人事で帝国軍はますます混乱するな」
「さようでございます」

考えるのだ、ルビンスキー。このまま帝国を混乱の渦にすれば内乱で崩壊する可能性もあるが、外圧がないと崩れないだろう。そうなるとイゼルローン要塞を同盟が奪取しなければならない、それ以外にはフェザーン回廊を通る手だが、それを行われるのははなはだまずい。どうしたらいいのであるろうか。

「ボルテック、引き続き情報を収集するのだ」
「はい」


ボルテックとの会話の後ルビンスキーは私邸の奥まった一室に座っていた。
窓のないその部屋は厚い鉛の壁に囲まれて密閉されており、空間そのものが極性化されている。
コンソールのピンクのスイッチを入れると、通信装置が作動した。

「私です。お答え下さい」
「私とはどの私だ?」
宇宙の彼方三千光年から送られて来た返答は、この上なく尊大だった。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下にはご機嫌麗しくあられましょうか」
ルビンスキーとは思えないほどの腰の低さである。
「機嫌の良い理由はあるまい・・・・・我が地球は未だ正当な地位を回復してはおらぬ。地球がすぐる昔のように、全ての人類に崇拝される日まで、我が心は晴れぬ」

「ルビンスキーよ、帝国軍が大敗を喫し、帝国全土は混乱のさなかだ」
「はっ、猊下」
「ここで帝国がつぶれるのは甚だまずい、帝国の混乱を納めるには敵が必要だ。そこでイゼルローン要塞に同盟軍が攻め寄せるように致せ、さすれば軍だけでも纏まろう」

「はっ」

ともかく今はまずいか、仕方ない総大主教の手に乗るしかあるまえ。



宇宙暦794年 4月11日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 高級住宅街

同盟でも総大主教の命令を受けている男がいた。
「はい、総大主教猊下にはご機嫌麗しくあられましょうか」
「機嫌の良い理由はあるまい・・・・・我が地球は未だ正当な地位を回復してはおらぬ。地球がすぐる昔のように、全ての人類に崇拝される日まで、我が心は晴れぬ」

「同盟軍の活躍で帝国軍は大敗北を喫した、しかし今帝国に滅んでもらっては困る、未だ信徒の数が足らんのでな。そこで帝国軍を立ち直らせるために、お前の力で今こそイゼルローン要塞を攻略せよと市民どもの世論を動かすのだ、憂国騎士団を使えばすぐであろう」

「はっ猊下」
「同盟は勝ちすぎた、バランスをとる必要がある」
「はっ」


総大主教との通信を終わった男は、世論の誘導と評議会の誘導を考え始めた、要塞攻撃はどうせ失敗するのであるなら、邪魔な国防委員長の首を取れるような失敗をするようにと。



宇宙暦794年5月5日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 

ヴァンフリート星系会戦で侵攻していた帝国軍7万8000隻を完膚無きまでに叩き潰し撃退した同盟軍宇宙艦隊はパトロールに残った第2艦隊以外ハイネセン軍事ステーションへと到着した。

ダゴン星域会戦、第二次ティアマト会戦を上回る戦果に同盟市民は勝利の甘美さに酔っていた。
巷では憂国騎士団が今回の勝利を更なる勝利にするべきだと、イゼルローン要塞への攻撃を主張しはじめていた。それに乗せられる評議会議員が多数居たのが、シトレ統合作戦本部長の頭痛の種と成っていた。

軍事宇宙港へ到着した各艦隊司令官達にマスコミが取材攻勢をかける姿が見受けられるが、一に負傷しているロボス、二にグリーンヒル、三にビュコック、四にウランフ、五にボロディンであり、みすみす敵を逃したアップルトンと機雷戦を仕掛けただけと称されたアル・サレムは余り取材を受ける事がなかった。

取材陣はロボス元帥の功績を称えて、統合作戦本部長に就任かと詰め寄ったが、ストレッチャーに寝かされたロボスからの声明が本人に代わり、娘のリーファから読まれた。

「今回の勝利は小官だけの戦果ではなく、多くの将兵、政府、同盟市民の皆さんの集大成なのです。この小官を統合作戦本部長へと言うお話もあるようですが、シトレ元帥と小官のコンビが今回の勝利の原動力と成りました。小官は現役の間は前線に出る気であります。重ねて言いますが、小官だけがヒーローではなく、皆が皆ヒーローなのです」

その声明に多くのマスコミが明日の朝刊や夕方のニュースの題名を考えるのであった。

ただ一部の人間は面白く無さそうにしていたのであるが。

その後、ロボスやグリーンヒルは直ぐさま軍病院へと直行し長期入院と言う事になった。
それ以外の艦隊司令官以下のスタッフは統合作戦本部へと向かいシトレ元帥に挨拶を行った。

「宇宙艦隊主席参謀コーネフ中将以下入ります」
「入りたまえ」
コーネフ中将、ビュコック中将、ウランフ中将、ボロディン中将、アップルトン中将、アル・サレム中将が呼ばれて、会談を行っている。

「今回早くやってくれた、此で最低でも1年は帝国は侵攻して来ないだろう」
「しかし。司令長官と総参謀長の負傷を防げなかった事をお詫びします」
コーネフ中将の言葉にシトレは神妙な顔をしながら答えた。
「いや、戦場では何が起こるか判らないから、仕方のない事だ」

「それにしても、敵は宇宙艦隊司令長官まで戦死したのですから、
相当な混乱になるのではありませんか?」
「そうなるだろう。情報部の調べでは、ミュッケンベルガー元帥に次ぐ将星が居ないのが問題になるだろう」

「つまりは、帝国は後任人事で揉める可能性が大きいと」
ウランフの言葉にシトレは頷く。
「そうなると推測している」

「しかし、市民の今こそ帝国を倒せと言う熱病のような叫びは参りましたな」
ボロディンがふとそんな事を言うと、ビュコックが返答する。
「勝利は熱病と一緒じゃよ、勝てば勝ったで更なる勝利を求めてしまう」

その話を黙って聞いていたアップルトンが意見してきた。
「閣下、今がチャンスなのではありませんか?敵が混乱している間にイゼルローン要塞を叩く」
「そうは言っても、市民感情を元に軍を動かしても碌な事にならんぞ」
ビュコックが窘めるように話す。

「確かにそうですが・・・・・・」
口つぐむアップルトン。

まあ貴官たちも暫く休むように、ご苦労だった。
シトレが話を仕切って終了させたが、アップルトン、アル・サレムは納得がいかない風であった。


その後リーファ達が本部長室へと呼ばれた。
「ワイドボーン以下入ります」
「入りたまえ」
「失礼します」

シトレ本部長が皆を迎え入れる、先ほどまでの厳つい顔ではなく校長時代の穏やかな顔で。

「アッテンボロー大佐、ロボス元帥は災難だったね」
「父もあそこでやられるとは思っていなかったでしょう」
「うむ、暫くは大規模戦闘もできないから、宇宙艦隊の総指揮はコーネフ中将に任せようと思うが」

「守勢であれば、大丈夫でしょう」
このワイドボーンの一言を皆が失言だったと感じるまでに半年あまりの時間が掛かったのである。
「これはまだオフレコだが、今回の戦果でコーネフ、ビュッコク、ウランフ、ボロディン、セレブレッゼ提督が大将に昇進する」

シトレの言葉にワイドボーンが質問する。
「グリーンヒル、アップルトン、アル・サレム、カールセン提督の昇進はなしですか?」
「グリーンヒル、カールセンは昇進したばかりだから、今回は見合わせられた、アップルトン、アル・サレムは戦果を上げてないからな、国防委員会の許可が出ないのだよ」

「なるほど、しかし不満に思わないのですかね」
「グリーンヒル、カールセンは納得済みだ、しかしあの2人がどう出るかだな」
「まあ、次にがんばるぞですかね」

ラップの言葉に皆が笑うが、笑っている場合じゃなかったと知るのは半年後のことであった。

所で貴官達の処遇だが、ワイドボーン、アッテンボロー、ヤン大佐は准将に昇進、促成栽培だが6月1日を持って軍大学への入校を命じる、そこで半年間、将官としての全てを勉強してくること」
いきなりの事に驚く3人であった。

「「「我々がですか?」」」
「そうだ、これだけの大戦果だ、心太のように将校が押し出されてくるのでな」
「「「私たちは心太ですか」」」

本部長室に笑いが起こる。

「それとフィッシャー大佐も昇進でクラスメイトだ」
皆の頭に、学生服を来たフィッシャー大佐の姿が浮かびまたまた笑いが起こる。

「キャゼルヌ、ビロライネン、リューネブルク准将は少将へラップ中佐は大佐へドールトン少佐は中佐に昇進だ、そのほかにも昇進ラッシュだな」


宇宙暦794年5月29日

■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 

数人の男達が集まり会議をしている。
「それで、代行は乗り気なのか?」
「ああ、ここで戦果を上げて総参謀長或いは宇宙艦隊司令長官を狙うと」
「我々だってヴァンフリートで活躍したのに関わらず、昇進したのは奴らだけだ」

「これからの戦果で、大将への道が開かれるのだ」
「所でこの作戦案は誰が作ったのだ」
「第五にいるホーランド大佐だ」

「大丈夫か、あの男?」
「性格に問題はあるが、作戦は完璧だ」
「なるほど、やつも今回昇進できなかったからな」

「代行が総司令部へ6月1日に移動させるそうだ」
「4人が抜けるからだな」
「6人だな」

「軍大学が4人、病気治療が1人、産休が1人だ」
「代行も動きやすい人物を入れるそうだからな」
「ロボスとグリーンヒルのいない間の我が世の春か」

「それだからこそ、我々の作戦が通りやすいのだがな」
そう言う彼らの目の前には【第6次イゼルローン要塞攻略】の文字が書かれた作戦書が置かれているのである。

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イブリン産休、ラップ再入院です
 
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