魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第161話「多勢が無勢」
前書き
ちなみに、一応司が強力な砲撃魔法で守護者の瘴気の大部分を吹き飛ばしています。このおかげで、奏達はあまり瘴気の影響や攻撃を受けなくなっています。
また、クロノが作戦を立てると同時進行で守護者と那美を除く魔導師勢+αを隔離するための結界を張っていたりもします(維持はユーノ)。
=out side=
「『……時間がないから、簡潔に説明する。大門から湧いてくる妖は彼女に任せよう。どうやら妖に詳しいだけでなく、戦力的にも十分なようだからな』」
なのはが奏を助ける直前に、クロノは念話で軽く指示を出していた。
「『わかっていると思うが、奏も長くは保たない。むしろ、持ち堪えているのが驚きなぐらいだ。……それだけの実力差を踏まえた上で動いてくれ』」
念話越しでも、クロノの焦りと恐怖がわかるようだった。
それほどまでに、クロノは大門の守護者の力を恐れている。
「『細かい連携は各自の判断に委ねる。援護や遠距離が得意なものは魔力弾などで牽制。フェイト以外の近接戦ができる者は、非常に危険だが何とか守護者の足止めをしてくれ』」
『クロノ、私は……?』
自分だけハブられたことにどういうことなのかとフェイトは聞き返す。
「『フェイトは初撃を放ったとほぼ同時に奏を離脱させてくれ。それと、司もだ。終われば、中距離でも近距離でもいい。足止めに加わってくれ』」
『……わかった』
もちろん、危険がない訳ではない。
近接戦をする面子と、救出に向かうフェイトは一番危険に晒される。
そのことが理解できるため、全員が恐れを抱いていた。
しかし同時に、そうしなければ為す術なくやられることも分かっていた。
「『……作戦、などとは言えんが、開始だ。……全員、死ぬなよ』」
念話を締め括るクロノの声色には、決死の覚悟が灯っていた。
―――そして作戦は決行され、なのはが奏を助ける場面に繋がる。
「私がシュツルムファルケンで牽制する。巻き込まれずに奏を連れて離脱できるか?」
「大丈夫。……牽制でなくとも、十分攻撃には……」
「ならん。……先ほども神夜を離脱させるために放ったがあっさりと防がれた。隙を突かなければ当てることも難しい」
守護者のいる場所から少し離れた場所で、シグナムとフェイトがそんな会話をしていた。
「……頼むぞ。そして、死ぬな」
「……はい」
会話を切り上げ、シグナムはデバイスを弓に変え、矢を番える。
「翔けよ、隼!!」
―――“Sturmfalken”
「バルディッシュ」
〈“Sonic Form”〉
同時に、フェイトは防御を捨てて速度を上げる。
そして、放たれた矢に並走するように宙を駆け……。
「『なのは!』」
『うん!』
着弾寸前で矢を追い越す。同時になのはに念話で合図を送る。
奏の妨害で守護者の攻撃から逃れたなのはは、魔力弾で牽制しつつ、その場を離れる。
フェイトも魔力弾で牽制し、ザンバーフォームで斬撃を繰り出しつつ、そのスピードを生かして倒れこむ奏を抱えて即座に離脱する。
……そして、矢が着弾する。
「ッ……!」
「……ハッ!!」
―――“Accel slash”
爆風から逃れながら、なのはは斬撃をいくつも放つ。
それらは爆風の中心地へ向かい……。
キィイイイン!
「……やっぱり……」
「防がれてた……」
あっさりと、霊力の障壁に阻まれた。
「フェイトちゃん、早く司さんと奏ちゃんを安全地帯に」
「うん。……頑張って」
「……うん…!」
そのままフェイトは司が倒れている場所に向かう。
なのははその場に残り、念話で合図を送る。
「『……行くよ!』」
「“ケイジングサークル”!!」
「捕らえて!」
「“チェーンバインド”!!」
その合図と共に、ユーノとシャマルが移動を制限する結界魔法を放つ。
同時にアルフが拘束魔法を仕掛けるが、それは躱されてしまう。
「逃がすか!」
「出来れば当てろよクロノ!」
「君もな!」
―――“Stinger Ray”
―――“全投影連続層写”
結界魔法で移動制限を掛けた所で、クロノの魔法と帝の投影魔法による剣の雨が繰り出され、さらに動きに制限を掛ける。
もちろんの事だが、二人ともこれでダメージを与えられるなどとは思っていない。
相手は神降しをした優輝と、ジュエルシードを使った司に勝った相手。
この程度で倒せれば苦労しないとわかっているからだ。
「来よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ!」
―――“Hraesvelgr”
回避ないし防御をさせる事で、守護者の動きを限りなく制限。
そこへ、広範囲に炸裂する魔法を放つ。
それがクロノが即座に組み立てた作戦だ。
作戦通り、はやての魔法が炸裂し、広範囲を巻き込む。
同時に、役目を果たした拘束魔法も消え去る。
「よしこれで……!」
『ヴィータ!すぐに叩き潰せ!』
ダメージが入っただろうと、そう喜ぶ神夜の考えを否定するように、クロノの念話が響き、ヴィータがそれを合図にカートリッジをロードする。
〈“Gigant form”〉
「轟天爆砕!!」
―――“Gigant schlag”
間髪入れずに巨大なハンマーが砲撃魔法の着弾地点を叩き潰す。
明らかに一人に対してはオーバーキルだと思える連携。
しかし、一部の面子はこれで終わらないだろうと思えた。
「っ、嘘、だろ……!?」
―――“剛力神輿-真髄-”
特にそう思ったのは、最後に攻撃を繰り出したヴィータ自身だった。
「『やべぇぞこいつ!!あたしのギガントシュラークを、受け止めてやがる!!』」
「なっ……!?」
ヴィータのその言葉に、思わずクロノが驚く。
防御するならまだしも、“受け止めている”のだ。
「『ダメだ!押しきれねぇ!!』」
「『っ……仕方ない、プランBだ!各自担当を把握し、連携を取れ!ヴィータ、出来る限り抑えておけよ!』」
クロノの念話による指示と共に、各自行動を起こす。
その間、ハンマーで抑え続けるヴィータだが、そんなヴィータだからこそ気づける事があった。
―――“怪力乱神-真髄-”
―――“勇往邁進”
「こ、こいつ……!?」
抑えている守護者が、徐々にハンマーを押しのけてきている事に。
「ロード、カートリッジ!!踏ん張れグラーフアイゼン!!」
〈Jawohl!!〉
グラーフアイゼンに残っているカートリッジを全てロードし、何とか抑え込もうとするヴィータ。しかし、それでも押されてきていた。
「“ディバインスラッシュ”!!」
そこへ、ハンマーと地面の間を薙ぎ払うように斬撃が放たれる。
なのはが、ヴィータの様子に気づいてすぐに攻撃を守護者に放ったのだ。
ッ、ギィイイイイイイイン!!!
「ん、なぁっ!?」
だが、その瞬間。
守護者がハンマーを受け止めていた斧によって、ヴィータのグラーフアイゼンは弾かれてしまい、なのはの斬撃も躱されてしまった。
闇の書の闇の障壁も砕いたハンマーがあっさりと押し返され、ヴィータは思わず驚き、動きを止めてしまう。
「『ヴィータちゃん!!』」
「っ、しまっ……!」
―――“弓技・螺旋-真髄-”
……それを、守護者は逃さない。
すかさず放たれた矢が、ヴィータへと迫る。
「あっっぶねぇ……!!」
「て、てめぇ……!?」
間一髪、帝がヴィータを抱えて躱した。
しかし、それで脅威が去った訳ではない。
「(次が来る……!)」
他の面子の援護や助けは間に合わず、守護者が次の矢を構えていた。
―――“弓技・瞬矢-真髄-”
「“熾天覆う七つの円環”!!」
キィイイイイイイン!!
放たれるいくつもの超速の矢が回避も許さずに迫る。
だが、神夜が“攻撃してくる”と認識した瞬間に行動を起こし、防御が間に合った。
そして、その矢を防ぎきる。
「(予想通り……!霊力の攻撃を防ぎづらい魔力でも、“概念的防御力”があれば防げる!そこから考えれば、Fateの宝具や魔術は十分に通じる……!)」
熾天覆う七つの円環は投擲や飛び道具に強力な防御力を発揮する宝具である。
本来の使い手ではない、貰い物の力であっても、防ぐには十分な効果だった。
「シュート!」
「はぁあああっ!!」
そして、追撃を許さないように、守護者へ向けてなのはの魔力弾が放たれる。
同時に神夜が間合いを詰め、接近戦を仕掛ける。
「はぁっ!!」
「ッ……!」
数瞬遅れて、シグナムが。
同時に魔力弾で牽制を挟みつつなのはが。
神夜と同じように近接戦を仕掛けた。
ギギギギィイン!!
「くっ……!」
三対一。神夜、シグナムは近接戦では相当強い。
以前まで遠距離主体だったなのはも、御神流を習得したため、生半可な強さではない。
その三人がかりでさえも、守護者を押し切れない。
否、むしろ三人が押されていた。
ギ、ギ、ギィイイン!!
「嘘だろ……!?」
一瞬にして、三人の剣が大きく弾かれる。
完全に無防備になってしまった上に、守護者は既に攻撃の体勢。
回避も防御もできず……。
「させない!」
―――“Stinger Ray”
―――“弓技・螺旋”
―――“氷炎螺旋砲”
そこへ、クロノの魔力弾、アリシアの矢、すずかとアリサの霊術が飛んでくる。
三人が近接戦で競り負けると予想していたからこその攻撃が、追撃を阻む。
「赤原を行け、緋の猟犬!!」
―――“赤原猟犬”
さらに、上空から帝によってそこへ矢が放たれる。
それはあっさりと守護者に躱されるが、その矢はそれだけでは終わらない。
地面へと着弾したその矢は、地面を抉りながらも旋回。
再び守護者へと向かう。
「間髪入れるな!はやて、リインフォース、タイミングを見て援護射撃!シャマルとアルフもバインドを頼む!ユーノ!結界の維持と動きの制限、任せるぞ!」
クロノの指示が飛び、その通りに各自が動く。
同時に、体勢を立て直した近接組三人も再び仕掛ける。
ギギィイン!!
「ッ、しまっ……!」
「はぁっ!」
剣を弾かれ、胴が無防備になるシグナム。
そこへ振るわれようとする刀だったが、守護者がすぐに軌道を変え、飛んできた魔力の斬撃を切り裂く。
「あたしらも忘れんじゃねぇぞ!!」
さらに、鉄球による魔力弾も飛んでくる。
魔力の斬撃はフェイト、鉄球はヴィータによるものだ。
「っ、避けて!」
―――“火焔旋風-真髄-”
五対一。そう思った瞬間に守護者が霊術を発動させる。
焔の旋風により、五人は吹き飛ばされる。
寸前で気づけたなのはの警告により、全員が直撃せずに済んだ。
「ぉおおおおっ!!」
―――“射殺す百頭”
唯一防御力が一際高い神夜が、踏み止まって攻撃を繰り出す。
狙いすました高速の九連撃。
一発一発が非常に威力の高い攻撃だが……。
―――“刀極意・先々の先”
「……ぇ?」
……その攻撃全てが、カウンターで返された。
守護者は神夜の斬撃を全て逸らし、その上で一撃一撃の合間に斬撃を叩き込んでいた。
それらは神夜の防御力をあっさりと上回る。
神夜が気づいた時には、既に切り刻まれて一度死んでいた。
「っ、なぁ……!?」
「死なない?ううん、反魂の術みたいなもの?……まぁ、いいや」
即座に十二の試練の効果で蘇生する。
そのことに守護者が疑問を抱くが、別段大した事ではないと判断する。
まず強さが違う。そのため、例え蘇生されてもどうでもいいと思ったのだろう。
また、守護者は……とこよはかつて不死鳥である鳳凰の式姫とも会っている。
“蘇生”程度では、彼女は驚かない。
「させません!」
―――“Jet smasher”
追撃を繰り出そうとする守護者へ、リニスによる砲撃魔法が撃ち込まれる。
さらにそれに追従するように、次々と遠距離組の砲撃魔法、射撃魔法が飛ぶ。
同時に、赤原猟犬も迫る。
―――“旋風地獄-真髄-”
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
キィイイイン!!
「っ……今のも防ぐのね……!」
だが、砲撃魔法は躱され、魔力弾は風の刃に切り裂かれ、矢は障壁に防がれる。
それを遠くから見たプレシアは、思わず歯噛みする。
「(普通の魔力弾や砲撃魔法だと、あっさり躱される……)」
「(例え回避が難しくなったとしても、相殺か防御を簡単にやってくる……)」
「「(……どうするべきか……)」」
指揮を執るクロノと、頭の回転が速いプレシアが同時にそう考える。
ただでさえ個々の実力が足りない事態だというのに、それに拍車を掛けるように守護者の想像以上の厄介さが浮き彫りになってくるのだ。
「(防がれるならともかく、躱されるのはダメね。だったら……)」
再び援護を受けながらなのは達五人が相手をしている内に、プレシアは考える。
「『クロノ執務官、私とフェイト、リニス……後、あの狐の子がいけるかしら?私たちで雷を放つわ。その間の“穴”を埋めておいて頂戴』」
「『雷?しかし、それでは……』」
「『魔法で発生させるとはいえ、それは普段の魔法と違って雷そのものよ。……いくら守護者とはいえ、光の速さを躱せるとは思えないわ』」
「『なるほど……了解した』」
電気変換資質を持つフェイトとプレシア。プレシアの元使い魔だったため、その影響で雷系の魔法が扱えるリニス、そして雷を扱う久遠。
その四人によって、自然の雷と同じ雷を人為的に発生させるのだ。
「『フェイトたちへの伝達は任せるわ。私は先に雷を放っておくから』」
「『任せてもらおう』」
「さて……」
魔力を練り、魔法による雷雲が守護者の上に現れる。
儀式魔法による雷。それをプレシアは放つ。
「(維持するための魔力消費が大きいけど、贅沢は言ってられないわ。何とかして守護者を防御か回避に集中させないと、すぐにでも誰かが死ぬ)」
冷静に動いているように見えて、プレシアは焦っている。
何人でかかっても歯が立たない。
これほどまでの相手は、アンラ・マンユ以来なため、対処法もあまり思いつかない。
そんな相手だからこそ、焦っていた。
「プレシア」
「リニス、頼むわよ」
「わかっています」
リニスもクロノの念話から駆け付け、同じように雷を放つ。
フェイトも離れた所で雷を放っていた。
ピシャァアアン!!
「そこ!」
「はぁっ!」
そして、雷で攻撃を受けている守護者は、プレシアの予想と反して、発生地点を予測することによって、その雷を躱していた。
しかし、効果がない訳ではない。
雷を避けるにあたって、動きが制限されていた。
そこへユーノ達による拘束魔法の妨害。
それらが合わさり、フェイトが抜けた四人でも近接戦を仕掛けられた。
……尤も、それで押せているかと問われれば否となるが。
「もう一発……!」
―――“赤原猟犬”
そこへ、帝が追加で追尾する矢を放つ。
一発目は障壁で防がれた後切り裂かれたため、次を放ったのだ。
「くぅ!」
―――“雷”
さらに、久遠にも雷の戦法について情報が行き渡り、同じように雷を放つ。
計三方向からの雷と、追尾する強力な矢。
それに加わり砲撃魔法や魔力弾も放たれる。
“回避”は困難な状態になる。……“回避”は。
「……凍れ」
―――“氷血地獄-真髄-”
刹那、雷が氷によって遮られる。
「切り裂け」
―――“旋風地獄-真髄-”
そして、魔力弾は風の刃に切り裂かれた。
「シッ!!」
―――“刀技・紅蓮光刃-真髄-”
―――“弓技・閃矢-真髄-”
砲撃魔法はたったの二撃で切り裂かれ、矢はその攻撃のまま避けられる。
避けられた矢は、直後に放たれた矢で撃ち落とされた。
ギギギィイイン!!
「ッ……!」
「(対処が早すぎる!!)」
矢を放つと同時にシグナム、ヴィータ、なのは、神夜が攻撃を仕掛ける。
しかし、守護者は即座に反応してその攻撃を受け止める。
そこへ再び雷が迫るが……。
―――“呪黒剣-真髄-”
「なっ!?」
それは地面から生えた黒い剣が弾いた。
むしろ、弾かれた雷がなのは達へ向かい、不利になる。
「ッッ……!避けてぇえええええ!!」
瞬間、“ソレ”を察知できたアリシアの叫びが響く。
しかし、その叫びも空しく、隙を晒した四人は瘴気の触手で纏めて吹き飛ばされた。
「カハッ!?」
「ぐぅぅっ!?」
「ッ、ぁ……!」
シグナムは木々を倒しながら叩きつけられ、ヴィータも吹き飛ばされて地面を転がる。
なのはは何とか空中で体勢を立て直し、着地して勢いを殺す。
しかし、やはりダメージは大きく、その場に膝を付いた。
「く、そ……!このっ……!」
「………」
唯一耐えきった神夜が切りかかる。
しかし、四人でも抑えられなかった相手に、一人で敵うはずもない。
「これなら、どうだ!」
―――“赤原猟犬”
―――“赤原猟犬”
―――“赤原猟犬”
そこへ、帝が矢を一気に三度放つ。
全てが敵を追尾する強力な矢。
もちろん、負担がない訳じゃなく……。
「ぐっ……!」
〈マスター、これ以上の宝具の投影を連発しては……!〉
「魔力はまだある!出し惜しみしてりゃ、誰かがすぐに死ぬぞ!」
―――“赤原猟犬”
さらにもう一発、追加される。
未熟故に効果と威力を弱めた代わりに、連発数を上げていた。
それは守護者相手には実に効果的で、時間稼ぎなら十分な効果を持っていた。
「………」
「ッ―――!?」
……尤も、そんな事をすれば、目を付けられるのは当然のことだったが。
「(来るっ……!)」
気のせいだと思えるほど、一瞬だけ目が合う。
その瞬間、帝の背筋を悪寒が駆け巡る。
「(チャンスは一度。これを逃せば俺は死ぬ!コンマ一秒の誤差も許されない……!)」
投影した剣と王の財宝からの武器群を一気に守護者へと放つ。
少しでも足止めしつつ、手元に一つの刀を投影する。
「(俺の技量じゃ、接近されれば確実に斬られる。だからと言って、目をつけられた以上接近を防げない。だったら、“憑依経験”で……!)」
投影したのは、“物干し竿”と呼ばれる五尺余りの備中青江の刀。
正式名称は“備前長船長光”といい、かの佐々木小次郎が愛用していた刀である。
そして、その刀を投影する事で、憑依経験で佐々木小次郎の技量を再現する。
「(ここだ……!)」
武器群を切り払いながら守護者は帝に迫る。
そして、間合いに入る瞬間。守護者の攻撃動作が始まると同時に帝も動く。
「秘剣……!」
「っ……!」
それは、三つの斬撃が一振りの元“同時に”繰り出される剣技。
刀を振るい続け、空を飛ぶ燕を斬るために磨かれた剣士の技。
……これは、その劣化版の再現。同時ではなく超速の三連撃。
「“燕返し”!!」
ギギギィイイン!!!
だが、例え劣化版だとしても。
その技は確かに守護者を怯ませた。
帝では絶対に反応しきれなかった攻撃を見事に防ぎ切り、守護者の体勢を崩した。
「これなら、どうだ!!」
―――“射殺す百頭”
そして、地上から神夜が砲撃魔法の如きホーミングレーザーを九発放った。
遠距離技なので、先ほどのように反撃される事はないと踏んだのだろう。
―――“扇技・護法障壁-真髄-”
―――“弓技・瞬矢-真髄-”
ドスッ!
「……ぁ……?」
……そう考えてしまったため、神夜はその一撃を躱せなかった。
守護者は九つのレーザーをできる限り躱し、躱しきれないのは障壁で逸らした。
そして、他の面子から放たれる援護射撃を身を捻りながら躱しつつ、矢を放ったのだ。
本来なら、如何なる攻撃も効かない前提で動く必要があったのだ。
「っ、がぁっ!?」
そして、同時に帝も撃墜された。
神矢と同じように放たれた矢は、咄嗟に張った“熾天覆う七つの円環”で防ぐことができたが、横サイドからの瘴気の触手による一撃を防ぎきれずに叩き落されてしまったのだ。
「ッ……!『気をつけろ!!僕ら全員、捕捉されているぞ!!』」
その時、クロノは大きく跳躍した後に自由落下している守護者を見て戦慄した。
自分たちの位置が今ので把握されたためだ。
急いで念話で警告を発したが、一瞬遅かった。
「遅い」
―――“弓技・矢の雨-真髄-”
矢の雨が放たれた。
それは“雨”と呼ぶにはあまりにも鋭く、狙い澄まされたものだった。
「く、ぅ……!」
「っ、ぁ……!」
矢の雨が収まった時、立っていられたのはほんの僅かだった。
ほとんどが防ぎきれず、躱しきれずに矢が当たり、倒れ伏していた。
幸いとも言えるのは、全員まだ致命傷を負っていなかった事だ。
「皆……!」
「そんな……!」
立っているのは、霊術を扱えた久遠とアリシア達だけだった。
霊術による障壁の分、他の皆よりもダメージが少なく済んだのだ。
しかし、それでもダメージは大きかった。
「この、よくも皆を……!」
神夜もまた、十二の試練の蘇生により立ち直っていた。
しかし、一人だけでは敵うはずもなく、再び返り討ちにされていた。
「っ……!」
そこで、アリシアは守護者と目が合った。
それだけで、体の震えが止まらなくなった。
実戦の恐怖は理解していた。生半可な相手ではないともわかっていた。
それでも、皆を倒した相手に、恐怖に陥られずにはいられなかった。
「ぁああああああああ!!」
―――“弓技・螺旋”
―――“弓技・閃矢”
叫びながらもアリシアは矢を放つ。
火事場の馬鹿力なのか、それらの威力は今まで放ってきたのよりも高い。
ギィイン!ギギィイン!
「アリシア!」
「っ、ぁ……」
しかし、それらはあっさりと守護者の刀によって弾かれてしまう。
そして、そのまま反撃の矢を躱しきれず……。
「く、ぅ……!」
「く、久遠……!」
久遠の薙刀によって、辛うじて逸らすことができた。
しかし、それで大きく体勢を崩す。
これでは、次の攻撃を防ぐ事も躱す事も出来ない。
アリサとすずかも、ダメージが大きくすぐに動く事は出来なかった。
「っ……。……?」
……だが、追撃が襲ってくる事は、なかった。
なぜなら……。
ギィイイン!!
「蓮、さん……?」
各地に散らばっていた式姫達が、ここに集結したからだった。
後書き
Accel slash…原作のアクセルシューターの斬撃バージョン。連続で魔力を纏った刀を振るい、細かい斬撃を一気に飛ばす。ある程度の誘導制御が可能。
勇往邁進…自身の物理含む全属性の攻撃力を短時間上昇させる。通常攻撃を含む攻撃行動を行うと効果時間延長。攻撃すればするほど強さが増す非常に攻撃特化な術。非常に強力故に、数少ない真髄に至っていない術の一つ。
概念的防御力…今回の場合であれば、“投擲及び飛び道具の攻撃に絶対的な防御力を誇る”という概念の事。“こうあるべき”という概念があれば発揮する防御力である。
氷炎螺旋砲…すずかとアリサの合わせ技。霊術による炎と氷を螺旋状に絡ませながら砲撃として放つ。対消滅しないように螺旋状にしたため、非常に長距離まで届く。
赤原猟犬…Fate/hollow ataraxia及びFate/EXTRAでエミヤ(または無銘)が使う宝具の一つ。簡単に言えば追尾型の強力な矢。対象を視界に入れているか、矢が破壊されない限り追い続ける。本来の持ち主、ベオウルフの宝具の方ではない。
儀式魔法による雷…名無しの儀式魔法。魔法によって雷雲を展開し、魔力をトリガーにして雷を発生させる。発生する雷は自然のものと同じなため、それを避ける事は非常に困難。しかも、ある程度雷を制御可能なため、避雷針などを避ける事もできる。
憑依経験…Fate/stay nightで士郎が使う魔術。投影した武器(剣)の担い手の技術を自分に憑依させる。
射殺す百頭…Fateのヘラクレスが使う宝具。武器による攻撃ではなく、“技”なため、様々な武具で放つ事が可能。本編では、近接用の九つの斬撃と遠距離用の九つのホーミングレーザーの両方を使った。
後書きで解説する用語・技名は、オリ技と解説が必要だと判断したものだけです。有名どころ(熾天覆う七つの円環)などは解説不要と判断して載せていません(超絶今更)。赤原猟犬の方はFGOでベオウルフが出たので一応載せていますけど。
帝が投影できるのは、王の財宝にある宝具と、エミヤが投影できるものです(一応帝本人が見た刀剣類も可能)。宝具ではない+エミヤが見たことがない刀は投影できないので、宮本武蔵とかの技量は憑依経験で再現できません(出来たらもうちょっと善戦できたかも)。
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