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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第41話

”幻獣”が現れた場所に到着したリィン達は意外な物を見つけた。



~ウルスラ間道~



「これは………緋色の、花……?」

「綺麗ですが、妙ですね。」

「な、なんかうっすらと光っているような……」

「………………」

クルト達は目の前に咲いている緋色の花を興味ありげな表情で見つめている中ゲルドは真剣な表情を浮かべて花を見つめていた。

「お、お兄様……まさかとは思いますがこの花は………」

「ああ………だけど、”あの花は蒼色のはず”だが……」

一方心当たりがあるセレーネは不安そうな表情でリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは頷いて真剣な表情で花を見つめていた。

「そ、そう言えば独立国の時に似たような花を見かけたかも……!先輩達からも幻獣が現れる場所に”蒼い花”が咲いてたって……!」

するとその時ある事を思い出したユウナは血相を変えて声を上げた。



「そ、そうなのか……!?」

「……言われてみればわたしも見覚えがあります。確か花の名前は”プレロマ草”でしたね。」

「ああ……独立国の誕生と共に現れ、”碧の大樹”とも関係していると推測されていたが……」

「そうそう、それです!……でもこれ、赤いですし、別物かもしれませんけど……」

「わたくしはそうとは思えないのですが………形に関してはあの時の”プレロマ草”と瓜二つですし………」

「――――!みんな、構えて!”来るわ”…………!」

「――――皆様。お気をつけてくださいませ。」

リィン達が目の前の花について話し合っていると”予知能力”で僅か先の未来が見えたゲルドと敵の登場を逸早く察知したシャロンが警告すると、リィン達の背後に幻獣が現れた!



「で、出た……!?」

「”魔煌兵”と同じパターン……!」

「……大きい………!」

「か、亀型じゃないけど……」

「これは――――」

「確かノルド高原で現れた―――――」

「色々疑問はありますが―――来ますわ!」

「ええ――――Ⅶ組総員、戦闘準備!全力をもって撃破するぞ!」

「了解……!」

そしてリィン達は幻獣との戦闘を開始した!



「………………」

戦闘開始時敵は巨大な腕を振り上げてリィン達に先制攻撃をしようとし

「散開してください――――」

「いえ、その必要はありません。行きます――――ノワールクレスト!!」

敵の行動を見たセレーネはリィン達に忠告しようとしたがアルティナが制止して反射の結界を味方全体に付与するブレイブオーダーを発動した。

「!?」

リィン達に先制攻撃をした敵だったが、アルティナのブレイブオーダーによって発生した反射結界によって自身の攻撃でダメージを受けて怯んだ。

「秘技―――裏疾風!斬!!」

「行きますわよ……!――――シャドウステッチ!!」

敵が怯んだ隙にリィンとシャロンはそれぞれ広範囲を攻撃するクラフトで敵の腕や足を攻撃してダメージを与え

「唸れ、大地の力……アースブレイク!!」

「ハァァァァァ……斬り裂け!!」

二人の攻撃が終わるとユウナとクルトがそれぞれ左右から敵に接近してクラフト―――アースブレイクとエアスラッシュで追撃した。



「二人とも離れてください!―――――プリズミックミサイル!!」

「「!!」」

するとその時魔術の詠唱を終えたセレーネが敵に接近しているユウナとクルトに警告し、二人が敵から離れると同時にセレーネは両手から無数の七色の光の魔法の矢を放って敵に命中させた。

「爆ぜよ、銅輝陣――――イオ=ルーン!!」

「!?」

そこにアルティナの魔術が炸裂し、アルティナの魔術によって発生した周囲に起こる爆発を至近距離で受けた敵は怯み

「灼熱の炎よ、竜巻となり、敵を焼き尽くせ―――――フレイムバースト!!」

「―――――!?」

更にゲルドが発動した灼熱の竜巻はゲルドが扱える魔術の中でも相当な威力である事に加えて魔術師としても”達人(マスター)クラス”であるゲルド自身の魔法攻撃力も高かったため、強烈な威力を秘める火炎魔術をその身に受けた敵は悲鳴を上げて大きく怯んだ。

「二の型・改――――裏紅蓮剣!!」

そしてリィンは火属性を付与した魔法剣による剣技(クラフト)で追撃し

「こんなのはいかがですか……?――――絶!!」

シャロンは鋼糸で敵の全身を縛りつけた後ダガーで一閃するクラフト―――カラミティクロスで追撃した。



「―――――――!!」

度重なるダメージを受けた敵は”高揚”状態になった後雄たけび―――ドラグハウルでリィン達にダメージを与えると共に咆哮による衝撃波で後退させ

「―――――!」

続けて口から無数の氷の礫を解き放つクラフト―――アイシクルロアで追撃した。

「くっ………―――みんな、大丈夫か!?」

敵の攻撃が終わるとリィンは仲間達に状況を確認し

「す、すみません、教官……!」

「さっきの攻撃で脚や腕が凍結して、動きが……!」

「すぐに回復する!――――セレーネとゲルドは二人の凍結状態の回復とさっき受けた攻撃のダメージの回復に専念してくれ!」

「わかりましたわ!」

「うん……!」

ユウナとクルトが”凍結”状態に陥っている事を確認するとセレーネとゲルドに指示をし、指示をされた二人はそれぞれ魔術の詠唱を開始し

「アルティナ、シャロンさん!二人が回復に専念している間に俺達は敵の注意を惹きつけます!」

「了解しました。」

「かしこまりましたわ。―――見切れますか?――――ブラッディクロス!!」

リィンの指示にアルティナと共に頷いたシャロンは鋼糸で敵の全身を縛りつけた後縦横無尽に移動しながら敵を切り刻み、最後にダガーと鋼糸による十字(クロス)攻撃を叩き込んだ。



「………………!」

「ハッ!」

凄まじい威力のダメージを与えたシャロンを脅威に感じた敵はシャロン目がけて巨大な腕を振り下ろしたがシャロンは軽やかに回避し

「――――緋空斬!!」

「ブリューナク起動、照射。」

「――――――!」

リィンとアルティナは左右からそれぞれ遠距離攻撃を放って敵に更なるダメージを与えた。

「浄化の光よ、かの者達に浄化の癒しを―――――オーディナリーシェイプ!!」

「聖なる光よ、我等に癒しを―――――ラプレアラ!!」

「ありがとうございます!これはお返しよ……!ヤァァァァァッ!」

「助かりました!―――――黒鷹旋!!」

そしてセレーネとゲルドの治癒魔術で状態異常や傷が回復したユウナとクルトは遠距離による攻撃で敵に反撃をした。



「――――――!」

二人の反撃を受けた敵は再びクラフト―――アイシクルロアで後方にいるセレーネ達に攻撃したが

「させませんわ!――――ハリケーンブリザード!!」

セレーネが前に出て吹雪の結界を発生させて襲い掛かってきた無数の氷の礫を無効化し

「猛き力よ、我等に加護を―――――ハイインパクト!!」

「行くわよ……!―――スマッシュ!!」

「―――見えた!――――斬!!」

セレーネが敵の攻撃を無効化するとゲルドの支援魔術によって物理攻撃力が上昇したユウナは闘気を全身に纏って突撃する(クラフト)―――ブレイブスマッシュで、クルトは敵に向かって突進して双剣による横一文字攻撃を叩き込むクラフト―――ハングスラッシュでダメージを与え

「―――フラガラッハ―――滅!!」

「――――――!」

アルティナはクラウ=ソラスを刃と化させて強烈な一撃を叩き付けるクラフト―――フラガラッハで追撃した。

「!?」

「崩しました!」

「隙あり!燃え盛れ――――滅!!」

クラウ=ソラスが放った強烈な一撃によって敵の態勢が崩れるとアルティナと戦術リンクを結んでいたリィンが更なる追撃として業火を伴う渾身の袈裟斬り――――龍炎撃を叩き込んだ。



「!?……………」

「死線の由来とくとご覧あれ―――――失礼――――ですが、もう逃げられませんわ!」

「―――これで決めます!運命の門、 汝も見るか、高貴なる極光!!」

「邪を払う白き雷よ、全てを浄化せよ―――――」

そして度重なるダメージによって敵が”ブレイク”状態になったその時シャロンは跳躍して無数の鋼糸を放って敵を縛りつけた後縦横無尽に駆けながら敵に何度もダガーで攻撃を叩き込み、その間にセレーネは自身の背後に門を召喚し、ゲルドは両手に白き雷を集束し

「秘技――――死縛葬送!!」

「マジェスティ・ゲイト!!」

「W(ホワイト)プラズマ!!」

「――――――――!!??」

シャロンが止めの一撃に放った敵を縛りつけている無数の鋼糸による斬撃を叩き込んだ瞬間、セレーネは背後の門から無数の聖なる光の奔流を、ゲルドは両手から極太の白き雷のエネルギーを敵に叩き込み、それらを受けてダメージに耐えきれなくなった敵は悲鳴を上げながら消滅した!



「っ………はあはあ………」

「やった……のか……」

「ふう……何とか撃破できましたか……」

「今のが”幻獣”………」

敵の消滅を確認したユウナとクルト、アルティナは疲労と安堵によって息を切らせ、3人と違ってリィン達同様まだ体力に余裕があるゲルドは静かな表情で呟き

「………とりあえず危険は去ったみたいですね。」

「ええ……少なくとも”幻獣”については、でしょうが。」

「―――皆さん、お疲れ様です。よく頑張ってくれましたね。」

武器を収めたリィンとシャロンが話し合っている中セレーネはユウナ達を労った。



「いえ……まだまだです。」

「……改めて自分の体力不足を痛感します。」

「うん、教官達と比べてもだけど――――」

それぞれ謙遜した様子で答えたユウナ達はシャロンとゲルドに視線を向け

「…………………」

「?みんな、私とシャロンさんに何か聞きたい事があるの?」

視線を向けられたシャロンが静かな笑みを浮かべて黙り込んでいる中ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。



「正直……改めて驚きました。―――内戦で旧Ⅶ組を手伝った時の”実力”。あれはまだ片鱗に過ぎなかったんですね?」

「ふふ……それでも全力のサラ様には及びませんが。所詮は”暗殺術”――――正道の武術や、実戦で極められた戦技とは比べるべくもありません。―――勿論ゲルド様のような卓越した魔術もそこに含まれていますわ。」

「あ、暗殺術………」

(……やはり………)

「………………」

リィンの指摘に苦笑しながら答えたシャロンの答えにユウナが驚き、クルトが納得している中ゲルドは静かな表情で黙ってシャロンを見つめた。

「フフ……栓ないことを申し上げてしまいましたね。それよりもわたくしの方こそ、ゲルド様の実力には正直驚きましたわ。卓越した魔術に加えて先程の”幻獣”のような存在との戦いを終えてもまだ余裕のご様子………もしかすればゲルド様はかの”蒼の深淵”をも超える”魔女”なのかもしれませんわね。」

「ええ……それはわたくしも感じましたわ。」

「そうだな……俺の推測だがゲルドの魔術師としての実力はセシリア教官と同格―――いや、ひょっとすればペテレーネ神官長のような”神格者”に迫る程の魔道の使い手かもしれないな。」

「た、確かに……”魔術”の授業を教えてくれるあのレン教官ですらも、魔術師としての単純な戦闘能力ならゲルドは自分を軽く超えているって言っていたし………」

「しかも”幻獣”との戦いを終えても僕達と違って、まだ余裕を見せていたしな……」

「その若さで一体どのようにしてそれ程の実力を手に入れたのでしょうか?」

シャロンの指摘にリィン達や生徒達が頷いている中アルティナはゲルドにある事を訊ねた。

「う~ん……そう言われても魔法――――魔術に関しては私がいた世界で魔術師として有名な人がいて、たまたまその人に魔術を教わる機会があったからで体力に関しては私がこの世界に来るまでは私は一人で世界中を歩いて回っていたから多分その時に自然についたんだと思うわよ?」

「せ、世界中を歩いて回ったって………」

「フフ、わたくしのお姉様のお友達の方はリベール王国の遊撃士ですが、その方の親類はある高名な遊撃士だったのですが……その高名な遊撃士の方はリベールの遊撃士の方達は王国全土の土地勘を覚えると共に体力をつける為に、遊撃士の見習いである”準遊撃士”時代は王国全土を徒歩で回る事を推奨し、実際にリベールの”準遊撃士”の方達は王国全土を徒歩で回っているとの事ですわ。」

ゲルドの答えを聞いたユウナが驚いている中セレーネは微笑みながら答えた。



「それは凄いですね………さすがに、エレボニアでそれを実行するのは厳しいと思われますが……」

「……まあ、1年半前の件で国力が衰退したとはいえエレボニアは大国ですからね。エレボニア全土を徒歩で回れば、少なくてもリベールの数倍の時間はかかるでしょうね。………少なくてもわたしはそのような無謀な事を実行しようとは思いませんが。」

セレーネの答えにそれぞれ冷や汗をかいたクルトは驚きの表情で呟き、アルティナは静かな表情で答えた後ジト目になった。

「ハハ………――――とりあえず、先程の”花”を調べよう。どう考えても何かの関係がありそうだ。」

「は、はいっ!」

「緋色の花、か……」

そしてリィンの指示によってユウナ達は緋色の花に近づいて花の周囲を調べた。



「……結局、咲いているのはこの一輪だけみたいね。」

「ええ、半径50アージュ内には他にありませんでした。」

「……教官、どうします?」

「―――仕方ない。一応、採取はしておこう。まずはARCUSⅡのカメラモードで数点撮影を。その後、直接触れないようにしてサバイバルキットに採取してくれ。」

「はい。」

「それでは撮影を行います。」

リィンの指示に頷いた生徒達はそれぞれ行動を開始した。



「うふふ、皆さん、手慣れていらっしゃいますね。」

「ええ、特務活動もこれで2回目ですから。日頃の授業や訓練が少しでも役立っていたらいいんですが。」

「フフ、きっと役立っていますわよ。特にゼムリア大陸に来たばかりでゼムリア大陸の常識も全く知らなかったゲルドさんも手慣れた様子でARCUSⅡを使いこなしているのですから。」

「ハハ、そうだな。(それにしてもあの色……どこかで見たような気がするな。)」

シャロンやセレーネと共に生徒達の様子を見守っていたリィンは緋色の花を見つめて考え込んでいた。



その後撮影と採取を終えたリィン達が導力バイクを駐輪させている場所に向かっていると、その様子を遠くから一人の亡霊が見つめていた。



「………ふわあぁっ………灰の小僧に聖竜の娘、クルーガー………まあ、悪くはねぇんだが。今は”標的”探しの方に集中しておくか。」

リィン達を見つめていた亡霊はあくびをした後リィン達に背を向け

「めんどくせぇ実験はアイツに任せるとして……仮面どもや”六銃士”が動きだしてくれりゃあちったあ面白くなるんだが。」

やがて亡霊は炎に包まれてその場から転移した。



「先に行けって……何を話してるのかしら?」

「……どうやら内緒の話があるみたいだったな。」

「気になりますが……ユウナさん、安全運転を。」

「って、そうだった……!」

導力バイクに乗って演習地に向かっているユウナは運転しながら背後で走っているリィンとシャロンに視線を向け、クルトは静かな表情で呟き、アルティナはユウナに注意をした。

「えっと………ゲルドさんはユウナさん達のようにお兄様とシャロンさんの様子が気にならないのですか?」

同じようにユウナ達の前を導力バイクを運転して先に進んでいるセレーネはユウナ達の会話が聞こえていたためサイドカーに乗っているゲルドに訊ね

「そうね……確かに気にはなるけど、ユウナ達と違ってそれ程気にしていないわ。ただ私の場合、”別の意味でリィン教官が気になる”けど………」

「そ、それは…………」

ゲルドの答えを聞き、すぐにゲルドの言っている事の意味をすぐに察していたセレーネは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「ふふっ……風が気持ちいいですわね。バイクでリィン様と二人きり……お嬢様に羨ましがられてしまいそうですけど♪」

一方リィンが運転する導力バイクのサイドカーに乗っているシャロンはリィンをからかっていた。

「はは……この程度ならいくらでも。それよりも―――いいですよ、話してもらっても。」

「え………」

「”二人きりで乗りたい”………何か、話があるんでしょう?あの子達に聞かれたくない……いや、”アリサに”聞かれたくない話が。」

「!!ふふっ、本当に……頼もしくなられましたね。ええ――――リィン様の仰る通りです。リィン様に聞いて欲しいことがあってここまで付き合わせて頂きました。」

リィンが自分の真意を悟っていた事に驚いたシャロンはリィンに感心した。

「もしかして……”結社”のことについて?」

「ええ、それもありますが……聞いて欲しいのは、ある娘の過去。”死線”という忌名を与えられたちっぽけな小娘の半生です。」

「あ………」

そしてシャロンはかつての自分について話し始めた。



「―――その娘は”虚ろ”でした。暗黒時代より続いてきた闇の暗殺組織”月光木馬園”。13歳にしてその第二の使い手だったそうです。



―――少女に与えられたのは受け継がれた”死線”という忌名と”クルーガー”という”号”だけ。感情も持たぬ暗殺人形として任務を遂行するだけの日々でしたが……ある時、組織存亡の危機が訪れます。



”身喰らう蛇”――――当時、まだ新興勢力に過ぎなかったかの結社と水面下で全面衝突したのです。ですが劫炎に剣帝、鋼の聖女まで――――圧倒的な強者たちを前に総崩れとなり、”木馬園”は消滅してしまいました。



後に第四柱となる”千の破壊者”とNo.Ⅲとなる”黄金蝶”――――そしてNo.Ⅸとなる”死線”を結社に吸収される形で。



”執行者”となっても少女の日々は変わりませんでした。使徒たちの要請に従い、遂行する幾つもの任務(ミッション)………断るのは自由でしたが、他の生き方を知らない彼女は受け入れる以外はありません。―――ラインフォルト家との関わりもそんな中で生まれたものでした。



当時、第六柱から受けた任務により、娘はエレボニア北東、ルーレ市へ潜入します。目的は”とある人物”との接触……しかし、そこで事故(アクシデント)が発生しました。結果として任務は失敗……娘は瀕死の重傷を負ってしまい、別の方の命も喪われてしまったのです。



―――その人物こそ、イリーナ会長のご主人にしてアリサお嬢様のお父様にあたる方……フランツ・ラインフォルト様でした。」



「…………………」

シャロンのラインフォルト家入りの経緯を知ったリィンはシャロンにかける言葉がなく黙り込み

「ふふ………―――イリーナ様は、元凶の娘を助け、名前まで与えてくださいました。わたくし、それまで”名前”を持っていなかったんです。”クルーガー”というのは受け継いだ”死線”の”号”……”名”は任務に応じて変えるというのが”木馬園”の流儀でした。ですがイリーナ様は、わたくしに”シャロン”という名前を与え……虚ろだった娘に、ラインフォルト家のメイドとしての立場を下さったんです。以来、わたくしは”結社”に属したままラインフォルト家のメイドを続けていました。”執行者”としての権利である”あらゆる自由”を活用する形で―――」

「……そんな事が………どうして俺に……?しかもこのタイミングで……当然……アリサは知らないんですよね?」

シャロンの過去を全て聞き終えるとリィンは複雑そうな表情を浮かべた後シャロンに真意を訊ねた。

「ふふ、良い機会でしたので。―――いつか、必要だとリィン様が判断された場合、どうかお嬢様に教えてあげてください。その時、わたくしがお嬢様の側にいない可能性もあるでしょうから。」

「……!?」

シャロンの説明を聞いたリィンは血相を変えたが

「ふふっ、仮定の話ですわ。わたくしの愛と献身が会長やお嬢様から離れることは絶対にありえません。ああ、もちろんリィン様が正式にお嬢様と結ばれることになれば”旦那様”としてご奉仕を―――」

「いや、それは魅力的ですけど……!」

いつもの様子に戻ってからかってきたシャロンの言葉に脱力した。



「……ありがとう。そんな大切な話を聞かせてくれて。アリサは――――アリサ達旧Ⅶ組は貴女にずっとお世話になっていたのでしょう。日々の寮生活で、内戦の危機で……―――だから、何かあったら遠慮なく頼ってください。旧Ⅶ組もそうですが俺や特務部隊の仲間も、……もちろんアリサだっていくらでも力になりますから。」

「リィン様……ふふっ………本当に頼もしくなられましたね。――――しかし今の仰りよう、年上相手に少々反則ではないかと。これはもう、お嬢様達とは別に”ご主人様”とお呼びするしか―――」

「だ、だから誘惑しないでくださいってば……!」

(実際リィンは自分にとっての年上である私達の心を掴んだから、シャロンの言っている事に一理あるのよね。それよりも、まさかとは思うけどゲルドが見た”未来”にリィンの伴侶の中に彼女(シャロン)も含まれているのかしら……?)

ウインクをして誘惑したシャロンにリィンは疲れた表情で答え、その様子を見守っていたアイドスは苦笑した後ある事に気づいて冷や汗をかいていた―――


 
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