真田十勇士
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巻ノ百三十九 鉄砲騎馬隊その一
巻ノ百三十九 鉄砲騎馬隊
話は遡る、幸村は東に出陣する時に己の妻子を集めていた。そうして妻に文を持たせてそのうえでだった。
妻子達にだ、強い声で言った。
「拙者はこれから出陣する」
「そうしてですね」
「うむ」
妻の竹に答えた。
「もう生きて帰れぬであろう、だからな」
「我々はですか」
「生きていて欲しい」
そう思うからこそというのだ。
「落ち延びてくれるか」
「父上、では」
「我等は」
娘達が言ってきた、大助の妹達だ。
「このままですか」
「大坂から落ち延びて」
「そうしてですか」
「何処かで生きよと」
「東に落ちればな」
行き先もだ、幸村は話した。
「伊達家の軍勢に会う」
「伊達家の」
「あの家の」
「そこに片倉小十郎殿がおられるが」
その彼のことを話すのだった。
「その御仁を頼ればな」
「それで、ですか」
「私共は」
「何があっても大丈夫じゃ、お主もな」
次男も見て言うのだった。
「大丈夫じゃからな」
「だからですか」
「お主も落ち延びよ、そしてな」
傍らにいる大助にもだ、幸村は顔を向けた。
「お主もじゃ」
「いえ、拙者はです」
大助は父の言葉に確かな顔で答えた。
「この場に残りそうして」
「戦うか」
「そのつもりです、父上は死を覚悟されていますが」
「うむ、それでもな」
幸村も大助に確かな声で答えた。
「無論死ぬつもりはない」
「何としてもですな」
「生きる」
絶対にと言うのだった。
「それが真田の武士道じゃ」
「だからですな」
「しかしその為には身を隠すことになろう」
「身を隠すことになれば」
「お主達に苦労をかける、だからな」
「この度はですな」
「皆に落ち延びてもらうつもりであったが」
それでもとだ、大助を見つつ言うのだった。
「お主は残って拙者とか」
「最後の最後まで戦います」
「そのつもりか」
「生きて」
確かな声での返事だった。
「そうさせて頂きます」
「わかった、ではな」
「それでは」
「頼むぞ」
これが幸村の大助への返事だった。
「この度の戦はな、そして次があれば」
「その時もですな」
「宜しくな」
「畏まりました」
「では我等は」
竹は夫に礼儀正しく述べた。
「これより」
「うむ、これまでのこと深く礼を言う」
「有り難きお言葉、それでは」
「片倉殿を頼ってくれ」
「そうさせて頂きます、ただ」
「ただ。何じゃ」
「私の夫はあなただけです」
竹は微笑み幸村にこうも言ったのだった。
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