ドリトル先生と和歌山の海と山
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第十幕その十
「やっぱり人間悪いことをしたらね」
「報いがあるよね」
「そうだけれどね」
「豊臣家の天下がなくなったことはね」
「秀吉さん自身のせいなんだね」
「人間酷いことをしたら」
それこそというのです。
「本当に報いがあるよ」
「それは事実だよ」
「しかし。秀吉さんはどうしたんでしょうか」
トミーも襖の間を見つつ悲しいお顔で思いました。
「最初はそんなことする人じゃなかったですよね」
「うん、むしろ無闇な殺生をしないね」
「そのお人柄で人気があったんですよね」
「天下無双の人たらしと呼ばれた位のね」
そこまでの人だったというのです。
「そうした人だったんだ」
「けれどそうした人が」
「うん、天下人になった晩年はね」
それまでの天下無双の人たらしとまで言われたお人柄の人がです。誰からも親しまれ魅了された程の。
「そうしたこともする様になったんだ」
「弟さんがいなくなって」
「その時からね」
「弟さんの存在が大きかったんですね」
「そうなんだ、秀吉さんにとってはね」
まさにというのです。
「そこまでの人だったんだけれどね」
「おられなくなって」
「そうしたこともする様になったんだ」
「そうですか」
「そして王子の言う通りね」
「豊臣家もですね」
「天下人でなくなって滅んだんだ」
大坂の陣においてです。
「そうなってしまったんだ」
「そうですか」
「若しも秀次さんが生きていたら」
「まだ幼い秀頼さんの他にですね」
「豊臣家は残っていたかもね」
「天下人にもですか」
「なり続けていたかも知れないね」
こうもお話した先生でした。
「ひょっとしたらだけれど」
「そう思うとここで、ですね」
「豊臣家が滅んだと言っていいかも知れないね」
「そうですか」
「その悲劇があった部屋なんだ」
「そうした場所も高野山にはあるんですね」
「長い歴史の中でね」
この高野山のです。
「そうしたこともあったんだよ」
「修行やそうしたことばかりじゃないんですね」
「世の常だね、謎もあってね」
「信長さんのお墓みたいに」
「そうしたこともあったんだよ」
「そうですか」
「うん、では悲しいお話はこれで終わって」
先生も悲しいお話は苦手です、それでお話を終わらせたのです。もう目は秀次さんが切腹したお部屋から離れています。
「今度はお茶を飲もうか」
「ああ、寒いしね」
「朝だし余計に冷えるよね」
「だからだね」
「ここは」
「そう、この別殿ではお茶を振舞ってくれるし」
それでというのです。
「ここはね」
「お茶をご馳走になって」
「そうしてだね」
「あったまって」
「それで美味しい思いもする」
「そうしようっていうんだね」
「そうしようね、あとお願いをしてね」
さらにお話をする先生でした。
「十時になったらね」
「ティータイムだね」
「いつもの」
「それを楽しむんだね」
「そうしよう、いつも通りにね」
午前のティータイムをというのです。
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