リング
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
69部分:ニーベルングの血脈その一
ニーベルングの血脈その一
ニーベルングの血脈
今何処までも続く無限の銀河に何十隻かの艦隊があった。彼等はその無限の銀河の中で何かを探していた。
「ブラバント司令から別れて何日になる?」
その中の中心にある一際大きな戦艦の艦橋に立つ赤い髪の男が周りの部下達に尋ねた。
「もう一週間になります」
「そうか」
男は部下の一人のそこ言葉を聞いて頷いた。
「もうそれだけ経つのか」
「はい」
答えた部下がまた答えた。
「早いものだな」
男はそれを聞いてふと呟いた。
「時間が経つのは」
「ただ時間だけ過ぎればいいというものではありませんからな」
「その通りだな」
その言葉に答える男の顔が歪んだ。
「まだ手懸かりは掴めていないな」
「残念ながら」
「何もなしか。あいつ、何処へ行った」
見れば赤いのは髪だけではなかった。目も赤い。髪は立っており、精悍な顔によく合っていた。引き締まった身体をしており、背はそれ程高くはないが目立った印象を受ける。黒いシャツとズボンの上に黄色いジャケットを着ている。彼の名はジークムント=フォン=ヴェルズングという。かってはローエングリン=フォン=ブラバントの下でエースパイロットとして名を馳せていた。
彼はパイロットとして天才的であった。幾多の戦場を潜り抜け、武勲を挙げてきた。部隊を指揮させても鮮やかに勝ち、艦艇の艦長となっても立派に功績をあげてきた。軍人としては天才的であり、ローエングリンにもその才能を認められていた。
バイロイト崩壊後はローエングリンの下に留まり時として戦闘機に乗り、また時には艦艇の指揮を執っていた。そしてある時一人の女の追跡を命じられた。クンドリーという謎の多い女であった。
彼女はニーベルングのスパイだった。クリングゾルと敵対するローエングリンはそれを放置することはなかった。すぐにジークムントとメーロト=フォン=ヴェーゼンドルクに彼女を追わせたのである。
このメーロトはローエングリンの下においてジークムントと並び称されるエースパイロットの一人であった。そして同時にジークムントの親友であった。その二人を差し向けたことでこの追跡は成功に終わると誰もが思った。
だがそうはならなかった。あと一歩というところで突如メーロトの乗る戦闘機がジークムントの乗る戦闘機に攻撃を仕掛けたのである。これで彼は撃墜され、メーロトは何処かへと姿を消した。
ジークムントはかろうじて一命を取り留めた。だが彼の心はその身体の回復よりも早く起き上がっていた。戦友の謎の裏切りに戸惑っていたのは最初だけだった。彼は裏切者への復讐にその心を燃え上がらせたのである。
彼はベッドから起き上がるとすぐにローエングリンのところへ向かった。そしてこう言った。
「メーロトを追わせてくれ」
と。その言葉に迷いはなかった。
「メーロトをか」
「そうだ、あいつは俺を裏切った。こうなったら俺の手でやってやる」
彼は断られても行く気だった。そこには何の迷いもなかった。
ローエングリンはそれをわかっていた。ジークムントの性格は他の誰よりもよくわかっていた。彼はそのうえで決断を下した。どちらにしろ彼が行くのはわかっていたという理由もあった。
ページ上へ戻る