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第三章

 夕暮れの光に照らされたお城はとても奇麗だった、そのお城を見ていると私とは別の観光客の人達が言ってきた。
「まだ寒いけれどね」
「春先なのにね」
「夕暮れは冷えるわ」
「かなりね」
 このことは私と同じだった、私も春先でこの寒さとは思ってもいなかった。
 けれどその人達はこうも言った。
「けれど夕暮れ奇麗よね」
「お城を照らしてくれてね」
「こんな奇麗なのってないわよね」
「そうよね」
 私もそう思った、それでだった。
 庭園の方も歩いた、夕暮れ時の庭園もとても奇麗だった。
 それでどちらも満喫してから旅館に帰ってそうして休んだけれどだ。
 温泉の中でくつろいでいると小さな女の子がお母さんに言われていた。
「いい場所でしょ」
「うん、奇麗な街よね」
 この金沢の話をしていた。
「古いお家が一杯あって」
「お城もよかったでしょ」
「凄くね」
 小さな娘らしい声だった。
「恰好よかったわ」
「そうでしょ。そう思ってね」
「お父さんとお兄ちゃんと一緒に来たのね」
「そうよ。それでお風呂の後はね」
「ご馳走よね」
「清子ちゃんお魚大好きでしょ」
「うん、大好き」
 私は聞いていて思わず笑顔になった、子供の頃私も今はすっかりお婆さんになった母にこう言っていたことを思い出して。
「焼いても煮てもね」
「天婦羅にしてもよね」
「お鍋もお刺身もね」
「お刺身出るわ。あとお鍋もね」
「お鍋もなの」
「蟹よ」
 北陸名物のそれだった。
「蟹が出るから」
「そうなの」
「だから蟹も楽しんでね」
「うん、そうするね」
 お湯の中にいる私に笑顔で言ってきた。
「私も」
「そうしてね。あとね」
「あと?」
「一緒にお風呂の中に入りましょう」
「うん、じゃあね」
 女の子はお母さんの言葉に笑顔で頷いてだった。
 お風呂に入った、私はお湯の中にゆっくりと入ってだった。
 一回水風呂に入って身体を冷やしてまたお湯の中に入った、そうして温泉をじっくりと楽しんでだった。
 それから浴衣に着替えて部屋に入るとだった。
 私の夕食もお刺身だった、そのお刺身を食べながら旅館に人に注文した。
「お酒ありますか?」
「はい、日本酒の地酒でしょうか」
「それをお願いします」
 実は日本酒派だ、それでそちらをお願いした。
 それでお刺身に天婦羅、酢のものと一緒に楽しんだ。気付けば一升空けていてもうかなり酔っていた。
 それで食事を下げる時にだ、旅館の仲居さんに言われた。
「あの、朝もです」
「朝も?」
「お風呂ありますよ」
「そうなんですね」
「当館は二十四時間入られます」
 温泉がというのだ。
「そうです」
「そうですか。それじゃあ」
「お客様が朝お酒が残っていましたら」
 要するに二日酔いだったらというのだ。
「如何でしょうか。サウナもありますし」
「そうでしたね」
 さっきは入っていなかったけれどサウナもあった。
「それじゃあ」
「はい、サウナも入られて」
「すっきりします」 
 二日酔いになっていた時はとだ、私はお店の人に答えた。翌朝は二日酔いになっている自信があったからだ。 
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