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スキヤキ

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第五章

「日本じゃ大抵ね」
「こうして食うんだな」
「とじた生卵の中に肉とか入れて」
「そしてだな」
「そうだよ、あともっと言えばね」
 さらに言う智一だった。
「お肉も実は違うんだ」
「おいおい、牛肉じゃないのか?」
「ポークやチキンか?」
「マトンかよ」
「豚や鶏のすき焼きもあるよ」
 智一はそうした肉を使うすき焼きの話もした。
「けれどね」
「牛肉か」
「ビーフがメインか」
「そうだよ、ただ日本のすき焼き用の肉はただスライスしたお肉じゃないんだ」
 そこが違うというのだ。
「霜降りだからね」
「あれかよ、脂身が赤身に混ざってる」
「あの肉か」
「あの肉を使うのかよ」
「すき焼きで一番いいのはその肉なんだ」
 霜降り肉、それだというのだ。
「だからそこはね」
「違うか」
「そうなんだな」
「同じすき焼きにしても」
「そこは違うか」
「そうだよ、そこがね」
 どうにもとだ、少し残念そうに言う智一だった。
「完璧じゃないけれど」
「牛肉までそんなのがあるのかよ」
「すき焼きも奥が深いな」
「本当にそうだな」
「どうもな」
 皆智一の言葉に顔を見合わせて話した、しかしだった。
 ここでだ、トーマスがこんなことを言った。
「大谷と一緒ですき焼きも凄いな」
「何でそこで大谷なんだ?」
 ホセはトーマスに問うた、二人共椀の中に牛肉を入れて食べている。
「野球とすき焼きに何の関係があるんだよ」
「いや、智一の話を聞いてるとすき焼きって凄いだろ」
「どうも奥が深いのがわかったぜ、俺もな」
 ホセもこうトーマスに返しはした。
「実際な」
「それで大谷もな」
「凄いか」
「ああ、それで言ったんだよ」
 だからだというのだ。
「そうな」
「それなら納得出来るけれどな」
「大谷な」
「あいつは確かに凄いな」
「桁が違うな」
 皆も大谷のことはこう言ってその通りだと頷いた。
「ピッチャーで一六五キロの速球投げてな」
「あんなのそうそう打てないぜ」
「メジャーでもあそこまで投げる奴いないからな」
「ノーラン=ライアン以上だな」
 三百勝を達成したこの大投手を超えているというのだ。
「しかもバッターでもあるしな」
「そこでもホームラン打つからな」
「冗談抜きで凄いな」
「あれは格が違うぜ」
「本当にベーブ=ルースの記録またやるかもな」
「あいつなら出来るかもな」
 こうした話をするのだった、皆で。そこには中国等他の国の留学生達も入っていた。だが智一だけは。
 大谷の話には微妙な顔になって言うのだった。
「大谷は凄いしメジャーで活躍して嬉しいけれど」
「嬉しいならいいだろ」
「それならな」
「それで何でそんな顔になるんだ?」
「だってね。大谷が阪神にいてくれたら」
 彼が愛するこのチームにというのだ。
「どれだけ嬉しいかって思ってね」
「大谷がいても阪神は優勝出来ないんじゃないか?」
 友人の一人がこんなことを言った。
「阪神は」
「何で?」
「いや、阪神ってな」
 彼はこう言うのだった。 
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