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恋姫無双
戦国時代に転生するはずが春秋戦国時代だった件(プロローグ)
前書き
あらすじ
「戦国時代に転生してくれ!」そう願った主人公は、恋姫世界の「春秋戦国時代」に転生した。
中国史も恋姫無双も全く知らない主人公は、中華風ファンタジー世界だと、勘違いする。
転生チートを駆使して、やがて歴史をひっかき回す主人公が送る、ちょっと変わった三国志のお話。
「あの政が、まさか皇帝になるとはな。いわゆる始皇帝ってやつかな」
「おお、わが友、田忠いや、心よ。始皇帝とはよい呼び名だな。余は、これより始皇帝と名乗ると致そう」
「せっかく中華を統一したんだ。これからが大変だぞ、始皇帝さん」
「うむ、責任は重いが任せておけ。無論、お主にも手伝ってもらうぞ」
「もちろんだ。お前さんだけに重責を押し付けないさ」
咸陽の巨大な宮殿の豪華な部屋で酒を飲みかわす。それも二人だけで。目の前には偉大な王がいた。
中華を統一した政、始皇帝とため口をたたく自分が、いまでも不思議で、現実感がない。
(うーん、始皇帝って歴史の授業で習ったような気がするんだよね)
普通なら、タイムスリップを疑うところだろう。だが、俺は違うと断定できる。
「ははは、余を口説くつもりかな」
上機嫌に笑う、妙齢の女性。そう、始皇帝こと政は女性なのだ。
だから、中華風ファンタジー世界に俺は生まれたのだろう。
これまで色々あったよな。親友である政と出会ってからも激動の人生だったが、それまでにもいろいろあった。
政には、孤児の自分を拾った僧侶によって、育てられたとしか言っていない。
俺の最大の秘密は、たとえ政にでも打ち明けることはできない。
俺、転生者なんだよね。
◆
「オギャア、オギャア」
赤ん坊の泣き声が響く。土で固められた道の上に、無造作に置かれていた。周囲に人影はない。
(どうしてこうなったんだ……)
さきほどからずっと考えている。思考はぐるぐる回るが、どうしようもない。
なぜなら、俺は生まれたての赤ん坊なのだから。
耳障りな泣き声も、俺のものだ。
(あのクソ神、ぜってえぶっ殺してやる!)
俺の名前は、田中心。つい先ほどまで、高校生だったが車にひかれて死亡した。
その後、神さまっぽい存在に会って、転生しろと言われた。
チートを3つまで貰えると言われたら、喜んで転生するだろ。
で、生まれたあと、すぐに捨てられた。
理由は、俺が銀髪オッドアイだったから。両親のどちらにも似ていない。
不義を疑われることを恐れた母によって、俺は捨てられた。
(神の罠か、それとも自業自得なのか)
生後数時間で、転生生活が終わるなんて、あり得ないだろ!
そりゃ、チートで容姿を指定したのは俺だし、生まれる年代を選べるというから、好きに選んだのだけれども。
今は戦国時代のはずだから、迷信が蔓延っているし、命の値段が現代よりも価格崩壊している。
正直、俺が助かる見込みがないだろう。
グッバイ、俺の二度目の人生。
「―――――?」
あれ、なにか声が聞こえる。
うお、巨人だ! 巨人がいるぞ! って、俺が小さいだけか。
巨人の男が、俺に近づいて、抱きかかえた。
何か、よくわからない言葉をいっているが、とりあえず、俺は助かるのかな?
そう思ったら、急に眠くなってきた。ずっと泣きっぱなしだったからね。
「――――!」
男の声を聞きながら、俺の意識は闇に落ちた。
◆
「父さん、いままでありがとうございました。御仏の教えに従い見聞を広めるために、外の世界へと旅立ちます。どうか、天から見守っていてください」
父の墓の前で、宣言する。
ああ、生まれたあの日からもう30年も経つのか。
おぎゃあと生まれて捨てられた日、拾ってくれたのは、修行僧の父だった。
彼は、俺を寺に連れて帰ると、養子にしてくれた。
銀髪オッドアイの不気味な俺を差別せず、ときに厳しく、それでも愛情を持って育ててくれた。
すくすく育った俺は、修行を積み、精神が鍛えられ、見違えるほど立派になったと父が絶賛してくれた。でも、父に比べれば俺なんかまだまだ未熟。
教えてもらいたいことが、まだいっぱいあったのに。
いかん、涙を流すんじゃない。父がいたら、修行が足りぬと言われるだろう。
御仏は信じるが、神は全く信じていない。や、存在は信じるけれど、敬えない。
だってさ、転生のときの話と全然違うんだもん。
「なんで、中華風ファンタジー世界なんだよ」
俺は確かに「戦国時代に行きたい」っていったのに、どうも言葉も風習も古代中国っぽいんだよね。
けれども、髪が青かったり赤かったりする人間が平然と存在していて、権力者に女性が多いと言われたら、俺のいた世界でタイムスリップしたわけではあるまい。
したがって、中華風ファンタジー世界と結論づけた。
ただ、転生チートだけは、問題なかった。むしろ、強力すぎてびびってる。
まず、鑑定スキル。ファンタジーでは定番だよな。人物鑑定から物品鑑定まで幅広く使える。使いまくって熟練度を上げたら、すげえ便利に化けた。
次に、チートな身体。戦国時代で槍働きをしたかったから頼んだ。驚いたことに、武力だけではなく、知力も上昇していた。これは神に感謝してやらんでもない。
最後に、銀髪オッドアイ。捨てられたトラウマから、あまり好きではない。でも、類まれなるイケメンらしい。あまりうれしくない。髪の色は、中華風ファンタジー世界らしく色とりどりなので、俺の銀髪でも目立たない。両親が銀髪だったら、きっと捨てられなかったのかな、と思うと悲しくなる。
「でもまあ、素晴らしい父に出会えたのだから、帳消しにしてやろう」
転生前の俺の親父は碌なもんじゃなかった。酒浸り、ギャンブル、借金。母は親父のいいなりで、俺が親父に暴力を振るわれても、見て見ぬふりをしていた。
だから、幸せな家庭というのにあこがれていたのかもしれない。今世の父は、俺にとって命の恩人を超えて、尊敬すべき目標だ。
いきなり親に捨てられたことで、すっかり人間不信になっていた俺を、父は優しく見守ってくれていた。少しでも父の役に立ちたくて、武芸と勉学に励んだ。前世では、どちらも大嫌いだったのに。
もちろん、チートな身体を持っていて、上達が早かったのも理由だと思う。
そして、気づいた30年経ち、一昨日父を看取った。
寺と麓の村だけが俺の世界である。父の役に立ちたい一心で、補佐をし続けた。一切の後悔はない。
「にしても、俺は不老なのかな。身体チートのせいなのか、神のいたずらなのか」
父に感謝している理由は、もう一つある。それは、俺の身体が全然成長しないことを気にも留めなかったからだ。
13歳までは普通に育ったのだが、それを境に、全く身長が伸びなくなった。
だから、俺の見た目は少年にしか見えない。
普通なら気味悪がれて、排斥されるだろう。でも、父は違った。今まで通り、俺を育ててくれた。
名も、前世の田中心にあやかって、田忠と名付けてくれた。前世の自分とのつながりも大切だろう、だとさ。
本当に感謝してもしきれない。
あと、真名は心と名付けてくれた。この世界には、真名という風習があって、うっかり呼ぶと斬られるらしい。なんて恐ろしい風習なんだ。
真名を預けられるような人に出会えるといいな。
「よし、出立するか」
袈裟と三度笠と錫杖を手に歩き出す。一度だけ墓を振り返ると、麓の村へと向かった。
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