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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【最果ての夢】

 
前書き
 大戦でネジはヒナタとナルトを庇い瀕死の重傷を負いますが、辛うじて生きていて無限月読に掛かるという設定です。 

 
「ネジよ、今日こそは見合いの話を受けてもらうぞ!」

「いいや駄目だ兄さん、ネジにはまだ早過ぎる!」


 ──いつの間に、そういう話になっていたのだろう。

ヒアシ伯父上と父ヒザシが、日向家の一室にて顔を突き合わせ押し問答をしている。

「どこが早過ぎるというのだ、ネジの親しい仲間達は次々に婚儀を済ませているのだぞ。それにネジは日向の若き当主だ、早く良縁を見つけ──」

「私の息子はまだ誰にもやるつもりはない!」


 父は勝手にそう断言するが……まぁ俺自身もまだ結婚して身を固める気にはなれないし、以前は従妹のハナビを押し付けようとしてきた伯父上だが、丁重に断っておいた。

同じ日向の家族としては想っているが、俺はハナビに対してそれ以上の気持ちにはなれかった。

ハナビは俺をどう思っていたのかまでは判らない。ただ、複雑な顔をしていたような気もするから、いい迷惑だったんじゃないだろうか。


「ヒザシよ、お前も自分の孫くらい持ちたいだろう」

「いや、ネジが居れば充分だよ私は。それに姪のヒナタが先に、ナルトとの間に二人の子宝に恵まれているじゃないか。私にとっても孫同然だよ」


 ……そうか、ナルトとヒナタは結婚して子供も居るんだったか。その子らの名は──なんと言うんだったか。俺にとっては甥っ子と姪っ子も同然なのに名を忘れるなんて……どうかしてるな。

伯父上と父に聴こうにも、二人はまだ俺の見合い話の押し問答をしている。やれやれ……


「お前はいい加減子離れをしたらどうなんだ、ヒザシ」

「私の可愛い一人息子をそう簡単に手放せる訳ないだろう、ヒアシ兄さん」


 いい歳した息子に可愛いはやめてくれ、父上……

俺は溜め息をついたが、二人は気づかないらしい。


「むぅ……仕方ない。この話はまた折を見てするとしよう」

 伯父上はまだ諦めていないようだが、ひとまずは見合いの話は保留にして俺と父を残し部屋を後にした。


「兄さんには困ったものだ、日向当主の座を早々にネジに譲っておいてその上すぐ世継ぎの子を求めるなんて……駄目だ、ネジにはまだ早過ぎる」

 まだそれを言うか父上……、子供扱いもいい加減にしてほしいものだが。


「──さっきから黙っているが、どうしたんだネジ。具合でも悪いのか?」

 父が不意に俺の額に片手の平を宛がってくるが、その手を強く払わないようにそっと片手で退ける。

「俺は何ともないよ、父上」

「本当か? ……見合い話は嫌だとはっきり言っておかないと、私の兄さんはしつこいぞ」

「そうは言っても、いつも父上が俺の代わりに断固として拒否してくれているじゃないか」


「うむ……まぁ、な。ところでネジ……、父様と、私を呼んでくれないのか?」

 そこでふと、父ヒザシは若干顔を曇らせる。

「え…、父上では、不満なのか?」


「いや、不満というか、堅苦しいというかな……。せめて日向当主としてのお前ではなく、父子二人の時くらいは父様と……いや、父さんでもいいんだぞ?」


「父上、いつまでも俺を子供扱いしようったってそうはいきませんよ。もう少し俺の父として威厳を持って下さい」

 俺は父の広い額をペシッと軽く片手で叩いた。

「むぅ、意地悪な息子だな……一体誰に似たんだ」

 不満げに片手で自分の額をさすりながら述べた父の一言に俺は「あなたに似たんですよ」と言おうとしたがやめておいた。

……大体父上は隙あらば、人目があろうと俺の頭を撫でてこようとする。

未だに息子の俺に世話を焼きたがって、どこへ行くにも付いて来ようとする。

正直日向当主としての俺の立場からして迷惑なんだが……嬉しそうな父を見ると、あまり強くも言えなくなる。

若くして日向当主となった俺の事を誰よりも喜んでくれているのは他でもない、父ヒザシなのだから──


「そうだネジ……、そろそろあの子を放してあげられるんじゃないだろうか」

「あの子……?」

「まさか最近忙しくて忘れたんじゃないだろうな……。ほら、前に怪我をして飛べなくなっていた小鳥を保護したじゃないか」

 そう、だったか……?

よく覚えていないが、父がそう言うならそうなのだろう。

「その子は今、どこに──」

「日向当主として忙しいお前の代わりに、私が世話をしていたからな……。付いておいで、あの子のいる部屋はこっちだ」


 父に言われるままその部屋を訪れると、吊るされた籠の中に、一羽の蒼い小鳥が──

ピィピィ鳴きながら、狭い籠の中をバタバタと飛び回り、時折蒼い羽根がひらりと落ちる。

「随分元気になっただろう、あんなに衰弱していたのに……」


「───。父様、早く……早くこの子を、籠の中から解き放ってあげないと」

 籠の中の鳥を見て、俺は何故かとても胸が締め付けられる思いがした。

「そうだな……、じゃあ鳥籠を持って外へ出よう」


 二人で日向家の庭先へ出て、父ヒザシの持った鳥籠の出入口の鍵の掛かった扉を俺がそっと開けると、蒼い小鳥は一度動きを止めて籠の中から俺をじっと見つめ、一瞬の間の後勢いよく籠から蒼空へ飛び立って行った。

「元気でな、ぴぃちゃん!」

 ぴ、ぴぃちゃん……? 蒼い小鳥に名残惜しそうに呼び掛けた父様に俺はつい吹き出しかけたと同時に、現実に引き戻された。

いや、違う……。“ここ”こそが、現実ではないと、あの小鳥が教えてくれた気がする。


「どうした、ネジ。あの子は再び自由になれたのに、嬉しくないのか?」

 父様は、気難しい表情に見えたらしい俺の顔を覗き見るようにそう言った。


「違う……、俺は、俺も……還らないと」

「はは、何を言っているんだ、ネジ」

 消え入りそうな俺の声に、父ヒザシは愉快げに笑う。


「──ここに、ずっと居ればいいじゃないか。ここに居れば、私はお前の傍に居てやれるし、お前は日向の当主だ。何も案ずる事はない」

 父が優しくそう述べて肩に手を置いてくる。


「なぁネジ……お前は忘れている、というより……まだ知らないんだろう。──知りたくはないか? お前にとって、甥っ子姪っ子同然の子の二人の名を──」


「いや……俺は、自分で見つけに行くよ。だから……父様、悪いけどここで……お別れだ。俺は見届けたいんだよ、大切な仲間の一人であるナルトが火影になるのを……そして、日向を変えてくれるのを。──いや、日向を変える事に至っては、ナルトだけに任せる訳にもいかない。俺は生きて、日向一族を良い方向に変えてゆきたい。それが俺の望みだから。……ここで都合の良い夢を見続けるのは、やめにするよ。例え……父様が俺の傍で生きてくれている世界でも」

 俺は強がって笑顔を見せたつもりだったが、上手く笑えてなかったらしい。……父様の、寂しそうな微笑で判る。

「そうか……。それがお前の意志なら、もう止めはしないよ。──ネジ、お前の思う通りにしなさい」

「はい、父様。……今度、逢う時は──」


 言葉は、それ以上続かなかった。


視界が、霞んでゆく。


今度……また今度、逢えた時は──

幼い頃に戻って、いっぱい甘えさせて下さい、ヒザシ父様……



《終》


 
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