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バス探偵の秘密

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第一章

               バス探偵の秘密
 如月俊一はバスに乗りつつ事件を解決していくバス探偵として有名だった、その推理ぶりはかなりのもので。
 解決出来ない事件はなかった、だがバスから降りるとすぐに酔う。それで助手の小林さんはいつも彼に薬を出していた。
 小林さんはこの日も酔い止めの薬を出してそれから俊一に言った。
「あの、普通はですよ」
「バスに乗ってる時にだよな」
「酔いますよね」
「そこは体質なんだよ」
 俊一は小林さんに憮然とした顔で答えた。
「人それぞれのな」
「それで、ですか」
「私はそうした体質なんだよ」
 小林さんから薬を飲みつつ言うのだった。
「だからな」
「それで、ですか」
「そうなんだよ、降りるとな」
 それでというのだ。
「私はいつも酔うんだよ」
「そうですか」
「はい、ですが」
「ですが?」
「一つ思うことは」
 それはというと。
「先生の厄介なことの一つですね、助手としては」
「厄介なことは幾つでもあるんだな」
「先生の場合は」
 実際にという返事だった。
「他にも無数にありますけれど」
「無数にか」
「欠陥人間と言っていい位に」
 そこまでだというのだ。
「酷いですよ」
「随分と言ってくれるな」
「正直推理が出来ないと」
 この時はというのだ。
「先生完全な駄目人間ですよ」
「探偵じゃないとか」
「はい、あと先生って呼んでますけれど」
 小林さんは俊一にこのことも言ってきた。
「これは私の師匠であるからで」
「探偵のか」
「だからです」
 それでというのだ。
「そう呼んでいます」
「そうなんだな」
「はい、それで今度のお仕事ですが」
「あの事件の犯人はわかった」
 俊一は即座に答えた。
「あの事件の犯人は顧問弁護士だ」
「あの家の」
「そうだ、あいつが家の財産を狙ってな」
「家の人達を次々と殺していますか」
「証拠も全部掴んでいる」
「何時の間に」
「後はそれを全部突きつけてだ、アリバイも崩しているしな」
 それも全てというのだ。
「後は弁護士自身にその事実を突きつけてな」
「自白させてですか」
「終わりだよ」
 事件の解決はというのだ、俊一は事件のことについてはあっさりと終わらせていた。それは小林さんにしても惚れ惚れとするものだった。
 だが俊一は確かに欠点の多い人間で何かと小林さんのフォローを受けていた。そしてその彼についてだった。
 周りはあることに気付いていた、その気付いていることはというと。
「あの人過去のこと言わないな」
「そうだよな」
「昔の自分のことは」
「子供時代のこととか」
「言うのは探偵になってからで」
「他のことは一切言わないわね」
 彼を知る者は全てこう言っていた、そして実際にだった。 
 俊一は自分の過去のことは一切喋らなかった、もっと言えば彼は過去のことは覚えていなかった。そのことが彼のトラウマにもなっていた。
 それでだ、彼は言うのだった。
「私には仕方のないことなんだよ」
「昔のことはですか」
「そうさ、一切覚えていないんだ」
 小林さんにもこう言うのだった。
「だったらな」
「もう過去のことはですね」
「出来るだけな」
「考えない様にされているんですね」
「そうしているんだよ」
 実際にというのだ。 
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