外伝・少年少女の戦極時代
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
デューク&ナックル編
ライダーズ・ロジック ②
しつこく追ってきたネオ・バロンの男たち二人ほどによって、ザックと城乃内は街中の高架下に追い込まれた。
男たちが取り出した物を見て、茫然とした。
――量産型ドライバーと、マツボックリの錠前。
何故。この街でドライバーとロックシードを持つのは限られた一握りの人間だけだ。一握りの彼ら以外のドライバーとロックシードは全て呉島貴虎が処分したはずなのに。
だが現実に、男たちは黒影トルーパーに変身した。
「――残念でした」
「城乃内?」
《 ブドウオーレ 》
迫る黒影トルーパーたちを、背中から紫の光弾が撃ち抜いた。黒影トルーパーたちは呆気なく倒れて、変身が強制解除された。
「へっへーんだ! こういう状況も織り込み済みだっつーの」
『よく言いますよ。これが分かったのは僕と兄さんの追跡調査のおかげなんですけど』
今はもう懐かしい、アーマードライダー龍玄の姿がそこにあった。
「ミッチ!」
『久しぶり、ザック。間に合ってよかった』
変身を解いた呉島光実は、面差しと肩の稜線に精悍さを備えて、会わない間にすっかり男らしくなっていた。
「そうかっ。城乃内が変身しなかったのって」
「俺が黒影に変身したら、ミッチのほうで区別がつかなくなるからな。この場所に逃げたのも、実は俺の巧みな誘導だったのさ」
得意げにメガネをくいっと持ち上げる城乃内。やれやれ、と肩を竦める光実。
そこに、さらなる介入者が、高架の柱の陰から現れた。
「おひさしぶりです、ザックさん。おかえりなさい」
呉島家の末娘であり、光実の妹でもある少女は、ていねいな所作で頭を下げた。
小学生時代から上品だった少女は、中学生になってその上品さに磨きをかけて成長していた。こんな場面なのに、兄の光実と貴虎は気苦労が絶えまい、などと思いを致してしまったほどだ。
「――ただいま。ヘキサ」
「はい。本当はおかえりなさいパーティーを開いてニューヨークでの暮らしぶりなんかを聞きたいとこですけど、今はそうも言ってられませんね」
碧沙は持っていたアタッシュケースを開けてザックに差し出した。
中身は――量産型ドライバーとクルミのロックシード、そして見覚えのないエナジーロックシードだった。
「これは?」
「兄さんたちが行ってた国の、さる“財団”に用意してもらった品です」
「戒斗さんのツテというか、縁、かな。それはマロンのエナジーロックシード。多分、世界で最後のエナジーロックシードだよ。ザックが使って。性能を見るに、クルミアームズと一番相性がいいんじゃないかって、戒斗さんが」
「戒斗が?」
ザックは驚きながら、マロンのエナジーロックシードを持ち上げた。
届けたのが呉島弟妹であっても、用立てたのが戒斗なら、これは戒斗から他ならぬザックへのメッセージだ。自分は手出ししない、お前が守れ、と戒斗は無言で伝えてきたのだ。
「戒斗はネオ・バロンのこと知ってんのか?」
「知ってるんだけど……このベルトとロックシードを準備し始めた時に、急にいなくなっちゃったんだ。てっきり先に帰国したのかと思ったら、いないし。あの人もこんな大事な時に、どこほっつき歩いてるんだか。こうも見かけないと、うっかり落とし穴からヘルヘイムに落ちたんじゃないかって疑いたくなるよ」
駆紋戒斗ならありえそうだから、困る。戒斗の元右腕としての偽らざる心証である。
「けど、お前ら、どうしてここまで」
確かに帰国の報はビートライダーズの全体SNSに書き込んだが、助けてくれとは言わなかった。
それがこうも、皆が呼吸を合わせて、ザック一人を助けてくれた。
「わたし個人としては、シュラって人を放っておけないからでしょうか」
ヘキサにはそぐわない理由だ、という感想は、次の言葉で翻ることとなる。
「だって彼は踊ってません。ダンスしないチームは“ビートライダーズ”とは呼びません。チームバロンは、ビートライダーズでしょう? なら踊らないあの人たちはチームバロンじゃありません」
――は、とザックは笑いを零していた。
何と清々しい全否定か。
今やチームバロンさえも“ビートライダーズ”という大きな枠組みの中の一単位だ。だから城乃内と凰蓮が動き、光実が動いた。
同じビートライダーズだから。
ただそれだけの、キラキラした宝石のような理由。
「ありがとな、お前ら」
ザックはアタッシュケースごと、アーマードライダーへの変身に必要なアイテムを全て受け取り、走り出した。
足の古傷も今は関係ない。ただ、走るだけ。“バロン”の名を貶めたシュラから、その名を正しく取り返すために。
後書き
戒斗不在の理由は物語の終盤にて語ろうかと存じます。
ページ上へ戻る