とある3年4組の卑怯者
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143 飛騨娘
前書き
小学生のスケートの全国大会の舞台である盛岡に到着した藤木。その翌日、藤木は大会前の調整として早速大会の会場となるスケート場へ滑りに行くのだった!!
藤木は全国大会を催すスケート場へ練習の為に向かった。ただでさえ緊張しているのにこの練習で上手くできるか確かめておかなければ本番は絶対に良い評価はされないだろうと思った。
(応援してくれる皆への感謝を演技で示すんだ!!)
藤木はそう考えていた。
スケート場へ到着した。他の出場者も親と共に来ている姿が見えた。
「それじゃ、茂、行ってこい」
「うん」
藤木は両親と別れ、スケートリンクへと向かい、両親はギャラリーへと向かった。藤木は準備体操をしてスケート靴を履き、リンクに入った。
(よし、始めるぞ!!)
藤木は滑り出した。ステップをし、ルッツやアクセルといったジャンプ、シットやキャメルなどのスピンをこなした。一演技終わった後、藤木は今の調子を顧みた。
(ふう、特にこれといった不安はないな。本番ではもっとかっこよく決めるぞ!!)
その時、誰かが藤木に話しかけた。
「おーい、君、藤木君かい?」
「え?」
藤木は振り返ると一人の男子がいた。
「あ、君は確か中部大会で銅を獲った吉岡君だったね」
藤木はその吉岡肇という男子を中部大会の時に見ているので記憶にはあった。
「あの時は君や佐野君に及ばなかったけど、今度こそは君達に勝てるように今までの何倍も練習してきたんだ。絶対に君らより上に立ってメダルは頂くよ」
「ああ、こっちも望むところさ。僕だって世界大会に出るという目標があるからね」
藤木と吉岡はお互い目標に燃える表情で顔を合わせていた。そして吉岡は藤木の後ろにいる何かを見て「あ」と言った。
「どうしたんだい?」
「ああ、銀賞の佐野君がいるよ」
「え?」
藤木は後ろを振り返った。確かにそこには中部大会の銀賞受賞者・佐野武政がいた。
「藤木君、吉岡君・・・」
「やあ、佐野君、久しぶりだね」
「今度はお前達よりも凄い演技を見せてやる。楽しみにしてろよ」
「ああ・・・」
藤木は佐野の気迫の物凄さを感じていた。佐野はリンクに入り、滑り始めた。
(佐野武政、そしてこの吉岡肇・・・。この二人も中部大会よりも手強くなってるんだろうな・・・。)
藤木は以前地区大会の時に因縁を持ち、中部大会で姿を消した和島俊という男子の事を思い出した。和島も地区大会の時と中部大会の時と雰囲気が異なっていたように、吉岡や佐野も以前と異なるのだろうと予想していた。
「僕も君以上の演技を見せなければ賞は無理だと思っているよ。負けないさ!」
吉岡も藤木を威嚇した。その時、多くの驚きの声があがった。
「ん?もしかして佐野君が凄い演技を見せているのか?」
藤木と吉岡はリンクを見た。しかし、多くの人物が魅了していたのは佐野ではなかった。佐野も魅了されていた側であり、また別の少年がステップやジャンプを披露していたのだった。特にジャンプはかなり高く、藤木の身長を上回る程の高さを跳んでいただろう。
「す、凄い・・・!!誰なんだ!?」
藤木はその少年に驚いた。その少年が滑り終わると、藤木はその少年に思わず話しかけてしまった。
「君、凄いよ!あんなに高くジャンプできるなんて!それだけじゃない、スピンとかも凄いよ!」
「え?ああ、おおきに。まあ、このくらいはお得意様や。で、君は誰なん?」
「あ、失礼。僕は藤木。静岡県の入江小の藤木茂だよ。中部大会で金賞獲ったんだ!」
「そうか、金賞か。わいは大阪の天王寺小の瓜原かけるや。わいも近畿大会で金賞やで」
「そうか、僕、君を超えるような演技を見せないと勝てそうにないかも・・・」
「何今から弱気になっとんねん。やってみなきゃわからんで」
「そ、そうだね」
藤木と瓜原はお互い笑いあった。
「よし、じゃあ、僕のジャンプやスピンを見ててくれよ!」
藤木はリンクに入った。そしてジャンプを綺麗に決め、スピンも上手くかつ良い姿勢で10回転以上こなした。
「いや、君もすごいわな。わいの方こそ圧倒されてもうた」
「へへ、まあ、僕はスケート以外何も取り柄はないけどね・・・」
その時、二人の元に一人の男性が現れた。
「ほほう、早速仲良くやってるみたいだな」
二人は声の方向を振り向いた。それは地区大会の時も中部大会の時も藤木の演技を見ていたあの片山次男だった。
「片山さん!!」
「やあ、藤木君、瓜原君。君達の技術は素晴らしいものだ。この大会の男子はきっと君達で金賞を獲り合う事になるかもしれないな。楽しみにしているよ」
「え?片山さん、この瓜原君に会った事があるんですか?」
藤木は片山が瓜原の名を知っている事に驚いた。
「ああ、一度彼のスケート姿を大阪で見たことがあるのだよ。瓜原君も藤木君と同様にスケートが非常に得意だ。お互い手強いライバルになると私は予想しているよ。それでは、二人の健闘を祈ろう」
片山はそう言って二人から離れて行った。
「藤木君、あの片山さんって人と知り合いなん?」
「うん、そうだよ。あの人はスケートの元オリンピック選手なんだ」
「え、そうだったんか!だからどこかで聞いたような名前やなと思うとったんやな」
「僕もあの人に大会に出る事を勧められたんだ。おかげでここまで来たんだよ」
「へえ、そうか、わいも兄ちゃんや姉ちゃんもスケートが得意でわいもやってみようと思うとるんや。そしたら地区大会も近畿大会も金賞でな、ここまで来れたんよ」
「そうか、じゃあ瓜原君と僕はお互いライバルになれそうだね」
「そうやな。君の演技も楽しみや。それじゃ、わいは休憩させてもらうわ」
「うん、僕はまた練習を始めるよ」
藤木はリンクに入り、瓜原はベンチに座った。
藤木は滑り続ける。そしてジャンプやスピンを何度も繰り返した。特にジャンプではトリプルがシングルやダブルになるというミスに気を付けた。そうでないと本番では減点となってしまうからである。藤木は少し疲れて休もうと思いリンクを出た。その時・・・。
「ねえ君」
不意に誰かに声を掛けられた。一人の女子が近づいていた。年は藤木よりも年上に見えた。
「君もしかして飛騨高山のスケート場で滑ってなかった?」
「え?うん、一度あるよ。見てたのかい?」
「ええ、おりもそこにいてな、あの片山さんから才能認められたんでしょ?見てたのよ」
「あ、そうだったんですか」
「まさか君も大会に出てたなんてな。おりは古宮美鈴。岐阜県の五年生で女子スケートの中部大会の金賞獲った飛騨娘よ」
「そうだったんですか!僕は静岡県の三年生の藤木茂と言います!」
「へえ、じゃああの時は旅行に来てたんだ。じゃあ、一緒にいた子とかは友達なの?」
「はい、たまたま一緒に滑る事になってたので・・・」
「そうか、それに藤木君は背が高いな。もうちょっと年が上かと思ったよ。片山さんに認められたその実力本番で見せてもらうよ」
「はい、古宮さんも片山さんの事を知ってるんですか?」
「うん、あの人がオリンピックの選手だった事も知ってるよ。それにおりも片山さんに認められようと必死にここまで来たからな。賞獲って世界大会に行こうって考えてるよ」
「はい、お互い頑張りましょう!」
「うん、じゃあおりはまた練習してくるな」
古宮美鈴はそう言ってリンクで滑り出した。彼女の演技もなかなかのものだと藤木は思った。特に凄いと思うのがトウループやサルコウだった。点数が低いこれらジャンプが美しく、ルッツやアクセル並みの点数を付けてもいいくらいのできだったからである。
(すごいな・・・。男子にも佐野君や吉岡君、瓜原君も凄いけど、大会は男女別とはいえ女子にも圧倒する人はいるんだな・・・。あの古宮さん、絶対に賞獲るだろうな・・・。もしかして一緒に世界大会に出る事になるかも・・・)
藤木は古宮が金賞候補になると予想していた。その時、とある女子の声を小耳に挟んだ。どうやら一人の女子が別の女子に話しかけたようだった。
「ねゑ、貴方、桂川美葡さんでしょ。久しぶり」
「あ、貴方は確か関東大会で銀賞を獲った・・・」
「ゑゑ、そうよ、黄花蜜代よ。あの時は貴方に負けちゃったけど、今度は貴方を超ゑて見せるわ!じゃあ、本番でね!」
「うん・・・」
黄花蜜代と名乗った女子はリンクに向かい、滑り出した。藤木は二人の会話を聞いて桂川美葡という名前にある事を思い出し、その女子に話しかける事にした。
「ねえ、君がもしかして桂川美葡ちゃんかい!?」
「・・・え?」
後書き
次回:「誓約」
堀の転校前の友達と言う桂川美葡との対面を果たした藤木。二人はお互いに世界大会への切符を勝ち取る事を約束し合う。そして大会の演技の順番が決定される・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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