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天体の観測者 - 凍結 -

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幕話の物語
  本気で天界は駄目だと思う この頃

 
前書き
息抜きです
ではどうぞ 

 
 此処は放課後のオカルト研究部。
 いつも通りウィスは室内でくつろいでいる。

 今、リアス達はここ最近駒王町を騒がせている問題に取り掛かるべく、深夜の町へと繰り出している。
 ウィスはオカルト研究部に所属はしているが彼女達の部活動には参加していない。

 そういう口約束だ。
 無論、緊急事態に陥った場合は協力を申し出る所存であるが、余程のことが無い限りそれはありえないだろう。

「おー。おー…?」
「にゃー、にゃー。んにゃっ…!?」

 オーフィスは猫に変身した黒歌と戯れている。
 黒歌と繰り返すは猫パンチの押収だ。
 ヤバイ、可愛い。

 ウィスは天上を見上げながら、自身の腹の上で遊びに興じる彼女達を時折見据える。
 
 本日もリアス達が部活動を終えた後にウィスは自身の別荘である惑星へと帰還するつもりであったが、今日はどうやら直ぐには帰れないようだ。







「…人探し?」

「そ、ウィスは以前、この町に潜伏していたコカビエルとその仲間達を即座に見つけていたじゃない?だから今日、私達が探している人物も直ぐに発見することができるのではないかと思って。」

 現在、リアス達はオカルト研究部へ教会から派遣された人物であるイリナを引き連れ、帰還していた。

「…それで、その件の人物とは?」

「今、駒王町をうろついているある下着泥棒をウィスに探して欲しいのよ。」

……下着泥棒?

 思わず首をウィスは傾げてしまう。
 これはまた意外な人探しときたものだ。

「教会ではその男の捕縛命令が出ているの。でも全くと言って良い程手掛かりがなくて…。」

 成程、それで自分の下を訪れたというわけか。
 しかし、期待を裏切るようで悪いが…

「悪いが他を当たってくれ。」

 あほくさ。
 教会から下着泥棒が出るとは世も末だ。
 天界勢力は一度滅んだ方がいい。
 天界の連中は本当に碌な事をしていない。

 ウィスはリアス達から背を背け、寝返りを打つ。
 正直やってらんないです。
 警察にでも被害届を出した方が無難だ。



「…朱乃、例のモノを。」

「分かりましたわ、部長。」

 リアスの一言と共に朱乃が背後で何かを取りだし始める。
 振り返れば駒王町でも有名な名店舗で作られている期間限定のパフェが置かれていた。

「ウィス、これを対価としてお願いしますわ。」

 周囲に漂う芳ばしい香り。

「…。」

 ウィスは沈黙を貫く。

「ウィスが食べないのならば私が食べます…。」

 小猫は身を乗り出し始める。

「…。」

「さあ、どうするのかしら、ウィス?」

 リアスは小悪魔的な笑みを浮かべている。

「…。」










「しょうがない で すね…。今回 だけです よ…。」

 伝説の賢者、伝説の賢者、ウィスは件の人物を早速調べ始める。
 口へとパフェを運びながらであるが。

 無論、隣にちょこんと座る小猫もパフェを食している。
 見れば小猫の膝の上には黒歌が座り、小猫からお裾分けを貰っている。
 残るオーフィスはウィスの膝の上で口周りをクリームだらけに口を動かす。

 ふーむ、どれどれ、伝説の賢者、伝説の賢者。
 ウィスは宙から杖を取りだし、水晶を見るようにその深奥を覗き込む。
 駒王町の何処かに隠れ住むその賢者の居場所を突き止めるべく。

「…ふむ、この老人ですね。見つけましたよ。」

 ウィスは杖をオカルト研究部の地面へと軽く打ち付け、映像を映し出す。

「この人物で合っていますか?」 
 
 ホログラムの先には大量の下着に触れる初老の老人の姿が。
 何かしらの研究を下着と共に行っている。

「…。」

 ウィスは言葉を眼前の余りの騒然とした光景に失ってしまう。

ナニコレ?

「そうよ、この人物で合っているわ!」

 紫藤イリナが肯定の意を示す。
 それにしても彼女は教会の信仰者から下着泥棒を捕まえる警察にでもジョブチェンジしたのだろうか。

 ウィスは彼女に対して疑問を持たずには得られない。

「それにしても何故教会が伝説の賢者とも呼ばれた男を探しているの?」
「教会も随分と暇なんだな?」
「まさか、そんなわけがないだろ。な、イリナ?」
「うぇ…!?そ…それは…。」

 ゼノヴィアの指摘にイリナは頬を赤らめたと思いきや、即座に尻すぼみになっていく。
 はて、これはどういうことだろうか。

 杖を宙から引き戻したウィスはその疑問を解消すべく、片目を閉じながら杖の深奥を覗き込む。
 そして時間を更に過去へと巻き戻す。

 そして、理解した。
 何故彼女、紫藤イリナがそこまで今回の下着泥棒に執着するのかを。

「……成程、そういうことですか。この黒の下着はイ…」

 下着の持ち主を暴露しようとするウィスの口をイリナが慌てた様子で押さえつける。

「わー、わー、わー!?ウィスさんは黙っていてください!」

 非常に慌てた様子でイリナは羽交い締めにする要領で背後からウィスの口を塞ぐ。
 必然的に彼女のふくよかな肢体が直に伝わってくる。

 フード越しとは言え、あのボディースーツは服の意味を成していない。
 というかあのボディースーツは教会に属する者としてかなり破廉恥ではないだろうか。
 このスーツをデザインした者の色欲の深さが知れるというものだ。 

「…先ずはアーシアの下着を綺麗な状態にしておきましょう。」

 イリナの手をどかし、ウィスは泥だらけの下着を持つアーシアへと向き直った。
 そして杖を一振り。

 波紋状の光がアーシアの下着を下から包み込み、綺麗な状態へと早変わりする。

「…わっ!本当です!ありがとうございます!」

 お礼を述べたアーシアはそそくさとトイレへと駆け込んでいく。

「とにかくあいつは女性の敵なの!」

 頬を染めながらイリナは下着泥棒の捕縛を強く望み、当人を非難する。 
 ウィスの首を引っ掴みながら。

「…いや、あの私も行くのですか?」

 もう自分の役割は終わったはずなのだが。

「勿論よ。私はウィスに伝説の賢者の人探し(・・・)を依頼したのだから。私達と一緒に行くのは当然でしょ?」

 何ともまあ、それは言葉の曲解としか言いようがない。

「や、それ屁理屈だろ。」
「はいはい、ウィスも一緒に行きますよ。」
「往生際が悪いわよ、ウィス?」

 リアスと朱乃の2人がウィスの背中を強く押し、イリナと共にウィスをこの場から連れ出そうとする。

「…それにウィスの移動手段なら簡単に伝説の賢者の下へ行けるでしょ?」
「それが狙いか…。」
「さあ、それはどうかしらね。」

 おちゃめなウインクをかますリアス。
 ウィスは自分を取り巻くこのどうしようもない状況を理解する。

「はぁ…。…これから夜の町の散策に出掛けるのですが、ロスヴァイセさんも一緒に行きますか?」

 外に出るのならロスヴァイセさんも誘おう。
 彼女は極東に置き去りにされて以降、気落ちしてしまっている。
 これを機に何とか立ち直ってもらいたい。

「行きます!」

 彼女はウィスの誘いに即答する。
 彼女は現在、駒王町に存在するウィスの別荘とも呼ぶべき家に在住している身である。
 以前までウィスは駒王町に家を有していなかったが、リアスからあの結婚騒動が収束して以降、お礼の一環として頂いていた。

 故に彼女が極東に置き去りにされて以降、ウィスがその家を提供した。
 今はそこが彼女の家であり、帰る場所だ。
 あくまでウィスの実家は宇宙であるため、丁度良かったのである。
 
 彼女は今、ジャージ姿でオカルト研究部の部室内で趣味に没頭している。
 100円ショップが好きなのだとのこと。
 やはりロスヴァイセという女性はマリーと同じく残念美人であるのだとウィスはしみじみと実感していた。
  









「これは深夜デートと言うものでしょうか!いえ、決してそんなことを期待しているわけではありませんが!それに、皆さんもいるのですよ!」

 聞こえていますよ、ロスヴァイセさん。
 私にも、勿論、この場の皆にも。
 やはり彼女はどこか抜けている。 

 ウィスは彼女が将来、どこぞの悪い男に引っ掛かってしまうのではないかと心配してしまう。






 その後、ウィスはリアス達を引き連れ、旧校舎の屋上から深夜の空へと飛び立っていった。
 白銀の光を周囲に迸らせ、下着泥棒の下へと。







▽△▽△▽△▽△







 時は少し遡る。

 この記憶はロスヴァイセがオカルト研究部へと赴き、日本にその身を置く契機となった記録である。

 天使・悪魔・堕天使陣営の三大勢力主催の下、催された和平会議。

 此度の会議には将来の世界の安定と平和を願い、北欧からは主神であるオーディンも日本へと赴いていた。 
 北欧の主神の付添人として戦乙女(ヴァルキリー)であるロスヴァイセも参加していた。
 そんな彼女は今や極東の日本、オカルト研究部に取り残され、絶賛泣き崩れている最中であった。

「酷い!オーディン様の為にここまで尽くしてきた私をこんな極東の地に置いていくなんて!」

 先程から彼女は同じ様な言葉を繰り返し、泣き叫んでしまっている。
 このままではゲシュタルト崩壊してしまいそうだ。

「どうせ私は仕事ができない女ですよ!彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 戦乙女(ヴァルキリー)としての実力も文句の付けようはなく、真面目で、しっかり者。ただ、少しばかり残念な美人であるロスヴァイセ。
 腰まで垂れ下がるは絹の様に綺麗できめ細かな銀髪。
 容姿も非常に整っており、スタイルも抜群だ。
 とても魅力的な女性である。

 しかし、不運な星の下に生まれた彼女は何処まで行っても不運な人生を歩んでいた。
 現状もその惨状に打ちひしがれ、オカルト研究部で崩れ落ちている。

「ぅぅぅ…、何で私ばかり…こんな目に…。」

 罪悪感が半端ない。
 彼女がこの極東の地に置き去りにされた原因は間接的にはウィスも関わっているのだ。
 
 彼女は無き崩し的に退職。
 主神は北欧に帰還し、彼女は異邦の地である日本に取り残されてしまう始末。
 何ということだろうか。

「…ロスヴァイセさん、私です、ウィスです。」

 先ずはロスヴァイセさんを慰め、立ち直らせなければ。
 ウィスは義務感と同情、そして良心に後押しされ悲壮感溢れる彼女へと声を掛ける。

「…うぅぅ…、ウィスさん?」

 スーツ姿の彼女は実に弱々しい様子でウィスの方へと向き直り、涙を流しながら端正な顏を歪ませていた。

「はい、ウィスです。ただ今到着しました。」

 これはヤバイ、重症だ。
 かなり追い詰められてしまっている。

「ぅぅぅ…、ウィスさん…。私捨てられちゃいましたぁ…。」

すまない、本当にすまない…
間接的にロスヴァイセさんをリストラさせる原因を作ってしまいすまない…

「ええ、聞き及んでいます。私がこの場に赴いたのもロスヴァイセさんを少しでも手助けできればと思い来たのですから。」

だから泣き止んでください、お願いします
罪悪感が尋常じゃない

「うぅぅぅ──!」

 彼女は泣きながらウィスへと飛びついてくる。
 彼女は周囲の目を憚ることなく、ウィスの胸へと泣きついた。

さあ、来い!

 ウィスに彼女を拒む理由などあるはずもなく、彼女を優しく抱擁する。

「ぅぅ…、ぐすっ…!」

「傷は深いですよ、しっかりしてください。」

 彼女が在住する家は自身の家を割り当てれば良い。
 幸いにもリアスから貰ったあの別荘は未だ未使用だ。

 彼女の護衛を引き受けた手前、彼女を見捨てるようなことは決してするつもりはないが。



「…ねえ、ロスヴァイセさん、あなた私の眷属にならないかしら?」

 そんな中、リアスは傷心中の彼女へとつけ込む。

「私の眷属になれば様々な特典が付いてくるわ。」

 正に悪魔的な勧誘の仕方だ。

「…。」

 ウィスはリアスへと近付き、彼女の額に自身の掌を乗せる。
 瞬く間に両者の距離はゼロとなり、後一歩でも足を踏み出せば顔と顏がくっ付いてしまいそうだ。

「え…っと、ウィス…?」

 リアスは頬を赤く染め、ウィスの顏を見上げる。

「どうしました、リアス?」

「あ…の、顏が近い…。」

 リアスの問いにウィスに何も応えることなく、聖母のように清々しい微笑を浮かべた。
 そして彼女の額に乗せた掌の中指を折り曲げ、親指の腹で抑えた後、蓄積した力を放出した。





「そういった眷属の勧誘は感心ませんよ、リアス?」

 次の瞬間、ウィスのデコピンがリアスに炸裂した。
 周囲に波紋状の衝撃波が波及し、リアスの脳を大きく揺らす。
 言わずもがな途轍もない威力である。










─人が傷心している最中に悪魔への勧誘ダメ 絶対─
 
 

 
後書き
正直な話、人が傷心している最中に様々な特典を付け、眷属勧誘を行うのは卑劣だと思います、はい

幕話の物語です
感想・評価待ってまーす(^^)/ 
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