英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第31話
その後分校内の見回りを終え、宿舎に戻ったリィンは自室で明日の授業に備えて準備をしていた。
~第Ⅱ分校専用宿舎・リィンの私室~
「ふう……こんな所か。(教官としての仕事も何とかこなせるようになってきたな。)」
準備を終えたリィンが一息つくとリィンのお腹から空腹を示す音が鳴った。
「食事を忘れてたな……(8時過ぎ――――エリゼ達に頼むのもちょっと申し訳ないか。宿酒場ならまだやってるだろうしたまには出かけてみるかな?)」
外食をする事を決めたリィンは部屋にかけてあった教官用の制服を身に纏い、宿舎を出て宿酒場に向かった。
~宿酒場”バーニーズ”~
「おや、リィン教官。こんな時間に珍しいですね。」
「はは……今からでも大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。どうぞ座ってください。」
「おっと。お前さんも来てたのか。」
リィンが席に座ろうとしたその時出入り口から現れたランディがリィンに声をかけて近づいた。
「あ、ランディさん、いらっしゃいませー。」
「ランディ……ひょっとして、まだ学院に?」
「ああ、ちょっと野暮用でな。そっちも夕食、まだだったりするか?」
「ああ、色々と片づけていたら食べそびれてしまって。」
「そうか。………そういや、確かお前も成人してたな?折角だし、たまには呑まないか?」
「ああ、俺でよければ喜んで。」
ランディの誘いに乗ったリィンはランディと共に食事をとり始めた。
「そうか……小要塞で個人的な訓練を。」
「ああ、シャーリィに鉄機隊の連中――――”結社”の残党も現れやがったからな。ガチでやり合いたくはねえが、実戦のカンが鈍らねえようにしておこうと思ったんだ。」
「そうか………そう言えばずっと気になっていたが、ランディはやっぱりフィーの事も昔から知っていたのか?西風の旅団と赤い星座の関係は一応知っていたが……」
ランディの話を聞いたリィンはある事が気になり、ランディに訊ねた。
「ま、最強を競い合っていた双璧同士だったからな。妖精か……前に見た時はほんの子供だったが大きくなったモンだぜ。しかも1年半前、クロスベル奪還の為に駆けつけて来る前のお前さん達―――”特務部隊”の指揮下に入ったメンバーである”前のⅦ組”の中にいて、お前さん達と一時期協力関係だった事には驚いたぜ。」
「俺もメンフィル帝国から貰った旧Ⅶ組のメンバーの情報を見た時最初は驚いたよ。あんな年下で小柄の女の子が大陸最強の猟兵団の一員だった事にな。」
「そうか?”殲滅天使”なんていう妖精よりもとんでもない天使が祖国の皇女の一人であるお前さんにとっては”今更”じゃねえか?」
「ハハ、言われてみればそうだな。」
ランディの指摘にリィンは苦笑しながら同意した。
「しかし1年半前か………アリオスのオッサン達に一度負けた俺やロイド達が離れ離れになって、再び集まった時もお前や姫もいつか必ず支援課に戻ってくると信じていたが……まさか、メンフィルとエレボニアの間で起こった戦争をたった一週間で終わらせた挙句エレボニアの内戦まで終結させてから戻ってくるなんて、あの頃の俺達は想像すらもした事がなかったぜ。」
「ハハ、別に俺だけの力で”七日戦役”や内戦を終結させた訳じゃないんだが………戦力面といい、知識の面でいいといい、ベルフェゴール達には世話になりっぱなしだよ。実際メンフィルとエレボニアの戦争を早期に終結させる方法を思いついたのはベルフェゴールだしな。」
苦笑しながら自分を見つめるランディの言葉にリィンも苦笑した後懐かしそうな表情を浮かべた。
「ったく、ロイドといい、お前といい、女どころか協力してくれる異種族まで恵まれすぎだろ!俺に協力してくれる異種族は、あの虎娘と微妙にキャラが被っている”アレ”だぞ?」
「え、えっと……いいのか?今のランディの言葉、間違いなく本人にも聞こえているんじゃないのか?」
疲れた表情で声を上げた後肩を落としたランディの言葉にリィンは冷や汗をかいた後困った表情でランディに訊ね
「エルンストの奴はクールダウン代わりに街道の魔獣を狩って行くとか言って勝手に街道に行きやがったから、今は俺の身体の中にはいねーよ。」
「ハハ…………」
ランディの答えを聞くと再び冷や汗をかき、苦笑していた。
「しかもエレボニアの内戦でお嬢とティオすけのキャラと微妙に被っている女の子達とあのRF(ラインフォルトグループ)の会長の一人娘なんていうお嬢よりもセレブなお嬢様をハーレムに加えた挙句、エレボニアのお姫様まで嫁さんにしやがって………ロイドよりも上に思えるお前のリア充度はマジで一体どうなってやがるんだよ!?」
「いや、そんな事を言われても困るんだが………というかティオと似ている女の子ってもしかしてアルティナの事か?ステラとアリサはともかく、以前にも説明したようにアルティナはそんなつもりで引き取っていないんだが………」
悔しがっている様子のランディに睨まれたリィンは疲れた表情で答えた後困った表情を浮かべた。
「どうかね………ロイドに落とされたティオすけの例を考えると、アルきちもとっくにお前さんに落とされているんじゃねぇのか?」
「いや、それとこれとは話が別だろ……」
アルティナとの関係を怪しがっているランディにリィンは呆れた表情で溜息を吐いて答えたが
「そう言えばお前さんには巨乳フェチの疑いがあったからな。それを考えると今のアルきちだとお前さんにとっては対象外か♪」
「ブッ!?今までの話から何でそんな答えが出てくるんだ!?というかそもそも俺は女性の身体的特徴だけで、エリゼ達と将来を共にする事を決めた訳じゃないぞ!?」
ある事を思い出してからかいの表情を浮かべたランディの推測を聞くと吹き出し、疲れた表情で反論した。
「いや、RF(ラインフォルトグループ)の会長の一人娘は会った事がないから知らないが実際お前のハーレムメンバーは巨乳ばっかりだし、キー坊くらいだった頃の姫には手を出さず、大人になって巨乳キャラに仲間入りした姫には手を出したんだから、そう疑われても仕方ないと思うぜ?」
「何気にエリゼ達やセレーネを邪な目で見るような評価は止めてくれ。大体”成竜”になったセレーネやアリサはともかく、1年半前のエリゼやアルフィン、ステラの胸はそんなに大きくは…………――――あ”。」
(リ、リィン様………思いっきり自爆していますわよ……)
(というか実際リィンは私達と”する”時の事を考えるとランディの推測も強ち間違ってはいないと思うのよね……)
ランディの指摘に顔に青筋を立てて反論した後呆れた表情で話を続けたリィンだったが失言をした事にすぐに気づくと冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、二人の会話をリィンの身体の中や神剣から見守っていたメサイアは呆れ、アイドスは苦笑していた。
「このヤロウ、やっぱり1年半前の時点でベルフェゴール姐さん達だけに飽き足らずエリゼちゃん達ともうらやまけしからん事をやっていやがったな………オラ、遅くなったがロイドやお嬢の時のようにお前にも成人祝いに今日は奢ってやるから、その代わりにエレボニアで増やしたお前の新たなるハーレムメンバーとの馴れ初めを聞かせてもらうぞ!」
ジト目でリィンを見つめたランディは気を取り直して空になったリィンのグラスに追加の酒を注ぎ
「いや、飲み慣れていないからせめて酒は程々にしてくれ………」
追加の酒を注がれたリィンは疲れた表情で答えた。
その後食事や酒を終えたリィンはランディと共に宿舎に戻り、部屋の前でランディと別れて自室に入るとベッドに倒れ込んだ。
~第Ⅱ分校専用宿舎・リィンの私室~
「……ふう……さすがに結構キツイな。アルコールか………支援課の頃は呑めなかったのもあるけど……(けど、楽しかったな………”Ⅶ組”や”特務部隊”が集まった時もそうだが、いつか支援課のメンバー全員とも集まって飲んでみたいな………)」
ベッドに倒れ込んだリィンがⅦ組や特務部隊、そして特務支援課のメンバーとお酒を飲んでいる様子を想像しているとリィンのARCUSⅡから”Ⅶの輪”が起動している音が鳴り始めた。
「あ……」
「やあ、リィン。半年ぶりだな。」
「マキアス……!」
リィンが”Ⅶの輪”を起動すると眼鏡の青年―――――旧Ⅶ組メンバーの一人にして”革新派”の有力人物である帝都知事の息子のマキアス・レーグニッツの顔がARCUSⅡに映った。
「少し遅い時間だが大丈夫だったか……?って、顔が少し赤いみたいだが。」
「ああ……付き合いで飲んでちょうど帰ってきたところさ。」
「そうか……お互い成年だもんな。僕の方も、職場の付き合いでそこそこ機会があってね。今度会ったら一緒に飲もう。当然、他のメンツも合わせて。」
「はは、ちょうど同じことを俺も思っていたところさ。―――仕事、忙しそうだな?よりにもよって”監査院”だもんな。」
「やりがいはあるさ。君の所と同じくらいには。予想通りというか……色々と透けて見え始めてね。やり応え半分、手を出せないジレンマ半分って所かな。」
「それは……大変だな。」
マキアスの現状をしったリィンは同情の視線でARCUSⅡに映るマキアスを見つめた。
「はは、お互い様だろう。」
「―――エリオットから先日のサザ―ラントの件は聞いたよ。結社の動きに、政府の思惑……キナ臭くなり始めるみたいだな?」
「ああ………予想通りと言うべきか。来週には次の地方演習もあるし、何かあれば見極めてみるつもりだ。」
「フフ、それなんだが……―――君達の演習先に僕も出張で行くかもしれない。」
「そうなのか……!?って、俺もどこになるかまだ聞いていないんだが……」
「そうなのか?次の君達の演習先は場所が場所だから既にプリネ皇女殿下達あたりから聞いていると思っていたのだが……」
「マキアスく~ん、いるかーい!?いるんなら付き合いたまえ~!無礼講と行こうじゃないか~っ!」
自分の話を聞いて驚いている様子のリィンを見たマキアスが意外そうな表情を浮かべたその時、通信先から別の男性の声が聞こえてきた。
「ライナー先輩?ちょ、ちょっと待ってください!」
「いいかいマキアスくん!僕はね、僕達はねえっ……!」
「……すまない、また連絡する。」
「はは……明日には演習地もわかるから俺の方から連絡するよ。」
「わかった。―――おやすみ、リィン。」
リィンがマキアスとの通信を終えた瞬間、再び”Ⅶの輪”が起動する音が聞こえ始めた。
「一晩に2回も来るなんて、初めてだな………―――――あ………」
再び”Ⅶの輪”を起動したリィンはARCUSⅡの映像に映った緑髪の女性――――元”特務部隊”の”参謀補佐”を務め、現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルンの側室の一人にしてシルヴァンを守護する親衛隊を率いている3人の将軍―――”皇帝三軍将”の一人でもあり、訓練兵時代のリィンとステラの恩師でもある”魔道軍将”セシリア・シルンが映った。
「―――久しぶりね、リィン。1年ぶりになるかしら?」
「セシリア教官……!はい、お久しぶりです。こうして通信で連絡して頂いた事を考えると、もしかして教官は今ゼムリア大陸のメンフィル帝国領のどこかにいらっしゃるのですか?」
「ええ、今は公務の関係でバリアハートの統括領主の城館に滞在しているわ。」
「そうだったんですか……いつまで、ゼムリア大陸に滞在する予定なんですか?」
「とりあえず”三帝国交流会”を終えるまではゼムリア大陸に滞在する予定よ。」
「!と言う事は教官も”三帝国交流会”に参加なさるのですか………!あ……そう言えばサザ―ラントの演習地でフランツが別れ際、教官やサフィナ閣下がエフラム皇子殿下とエイリーク皇女殿下と共にゼムリア大陸に来訪する公務があるような事を言っていましたが……もしかして、その公務は”三帝国交流会”の事だったんですか?」
「あら、フランツがそんな事を………――――ええ、ご名答よ。”三帝国交流会”が行われる場所は貴方も既に知っているでしょうけどクロスベル帝国の中心地である帝都クロスベル。そして貴方達―――第Ⅱ分校の”次の演習地”でもあるわ。」
「な―――――何故、クロスベルが第Ⅱ分校―――――エレボニアの士官学院の演習地に……!?今のクロスベルは”自治州”だった1年半前の時と違い、帝国――――完全に”他国”なのに、どうして第Ⅱ分校――――それもクロスベルとの国家関係が微妙な状況であるエレボニア帝国の士官学院の演習地に選ばれた―――いえ、そもそもクロスベル帝国政府はクロスベルが第Ⅱ分校の次の演習地になる事を了承しているのでしょうか?」
セシリアの口から語られた驚愕の事実に一瞬絶句したリィンは信じられない表情でセシリアに訊ねた。
「詳しい事情については明日のブリーフィングで説明される事になると思うから今は省くけど………帝都クロスベルが第Ⅱ分校の次の演習地になる事はクロスベル帝国政府も了承済みだから、現地でクロスベル側の関係でトラブルになる事は恐らくないと思うわ。ただ、そのクロスベル帝国政府―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下がこのタイミングで驚きの行動に出たから、それも伝えておくわ。」
「局長―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下は一体どのような行動に出たのでしょうか?」
「―――メンフィル帝国の大使館を通じてレウィニア神権国の王都プレイアにある”神殺し”セリカ・シルフィルに手紙を送ったのよ。」
「な――――セ、セリカ殿に……!?一体何の為……――――!まさか………クロスベルでも結社の動きがあり、その動きが”三帝国交流会”に関係していて”三帝国交流会”に何かあった時にセリカ殿で対抗する為ですか……!?」
更なる驚愕の事実を知って再び絶句したリィンはある事を察し、真剣な表情でセシリアに訊ねた。
「………状況を考えると恐らくはそうでしょうね。特務支援課は解散し、”六銃士”の仲間達もそうだけどクロスベルに所属している旧特務支援課のメンバーの一部も今は広大なクロスベル帝国の領土に散っている状況だから、結社に対抗できる”切り札”を一つでも多く備えておきたいのだと思うわ。」
「それは………―――ですがそれ以前に、セリカ殿は引き受けてくれるのでしょうか?1年半前にセリカ殿がクロスベルに滞在していた一番の理由はセリカ殿にとって恩人に当たるエステルさんの頼みだとの事ですし………ヴァイスハイト皇帝陛下はセリカ殿にとっては”知人”ではあっても、”恩人”ではありませんよね?」
「そうね。まあ、あくまで推測の段階だし今はそこまで気にする必要はないと思うけど………次の演習地でも”何が起こっても”対応できるように、気を引き締め直しておきなさい。」
「はい。ご忠告、ありがとうございます。」
「それともしクロスベルで”要請”が発生したら私とサフィナ元帥も貴方達に加勢するつもりだから、その時はよろしくね。それじゃあ、私はこの後セレーネ達にも今の件を連絡するからこの辺りで失礼するわ。――――お休みなさい、リィン。」
そしてリィンへの忠告を終えたセシリアは通信を切り
「ハハ……セシリア教官とサフィナ閣下が加勢してくれるなんて、とても心強いな……まあ、”要請”が発生するような出来事が起こらない方が一番いいんだけど。……酔いも醒めて来たしシャワーでも浴びて寝るか。ブリーフィングに各方面の要請……明日も忙しそうだからな。」
セシリアとの通信を終えたリィンはシャワーを浴び、明日に備えて休み始めた――――――
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